早速のちょっかいって素敵やん
そして、依頼当日。
うちのフルメンバーが付き添ってくれると知った馬術クラブメンバーは浮足立っていた。
「いやー!今日はよろしくお願いします!。」
「今日は付き添いスンマセンっす!勉強させて下さい。」
軽―い感じで挨拶するエイヘッズとは対照的に真面目なフライリフだった。
「先生たちが一緒なら大丈夫ね!私、シエン先生に魔法の消し方教わろー!。」
「そうね!私、キーケ先生から格闘教えてもーらおうっと!。」
こちらはこちらでお気楽なんだか前向きなんだかのスニーとネージュなのだった。
「おう!ドーンと任せとけ!。」
「きっひひひ、この依頼を完了した時、お前らは冒険者として一回り大きくなっている事だろうて。」
「皆さん、怪我をしないように注意してくださいねー。」
こちらはこちらで、うちのメンバーらしい挨拶でした。
今日はうちのパーティーメンバー4人と馬術クラブメンバー4人、総勢8人の大所帯だ。
アルスちゃんの言うように怪我無く行きたいものである。
まずはチルデイマ冒険者ギルドからプテターン領のトゥマスクの街まで、ワイバーン便を出してくれるという事で我々はギルドへ向かった。
ギルドに着くとワイバーン6頭につながれた大きなゴンドラが我々を待っていた。
「うわー、ワイバーンだ!乗るの初めてだぜ!。」
「なんだよフラちゃん初めてかい?俺は何回かあるぜ。」
「うっそ!ビンちゃんいつも高いからダメだって言うくせに!。」
「こいつじゃねーと行けないトコもあるんだって。それに、時間の短縮が金に換えられない事態ってのもあるわけよ。」
「へー、さすがヘッズ君ね。ネージュは初めてなの?。」
「うん、初めて!カワイイねワイバーン!。」
「本日は依頼受託ありがとうございます。トゥマスクまでワイバーンで二時間半程になります。皆さま、よろしくお願い致します。」
ワイバーン操縦を担当される衛兵さんが俺たちに挨拶をする。
「こちらこそ、お願い致します。」
俺は挨拶をしてゴンドラに乗った。
みんなもそれに続いてゴンドラに乗る。
以前に乗ったものより倍くらい大きなゴンドラだ。
8人プラス操縦士さんが乗ってもまだ余裕がある、やっぱりワイバーン、9人乗っても大丈夫!。
「それでは出発しまーす!みなさん、上昇しますのでお気を付けくださーい!。」
操縦士さんが大きな声で言う。
「わー!上がった上がった!。」
「ホント!結構静かなのね!。」
「下は凄い有様だけどな。」
フライリフが言ってスニーとネージュが下を見る。
もうもうと土煙が舞い上がり見ただけで強い風の発生を感じさせる、まるでヘリコプターの離着陸だ。
「わー、凄い!なんで私たちには風の影響がないのかしら?。」
スニーが素朴な疑問を口にする。
「ふふふ、それはこの魔道具のおかげなんですよ。」
操縦士さんが説明してくれる。
「これはシールドの魔道具です。ゴンドラの周辺に張られたシールドの効果で強い風はブロックされます。シールドの強さはさほどありませんので、万が一、空を飛ぶ魔物の攻撃に会ったりすればひとたまりもありませんが、まあ、ワイバーンにケンカを売ろうなんて魔物はそうそういませんからご安心ください。それでも、攻撃を仕掛けて来るものがあれば、撃退用の魔道具もありますし、私も攻撃魔法は使えます。それに、今日は悪殺の団の皆さんもいらっしゃいますからね。」
また出たよ、その名前。
俺は頭を押さえて遠くを見ることにする。
そんな俺を見てキーケちゃんとアルスちゃんは笑ってる。
シエンちゃんはその呼び名をまんざらでもなく思っているようで、そうだ任せろ!と胸を張っている。
まいったね、こりゃどうも。
「ワイバーン1頭で何人くらいの人を持ち上げて運べるんですか?。」
頭を押さえる俺を見かねたのかフライリフが話題を変えた。
空気の読める男だぜ。
「大体大人7人くらいは運べますよ。ただ、これは運ぶためのゴンドラの重さは勘定に入れてませんからね、上に二人乗って5人はロープで直に結んでならの話ですよ。でも、力ありますよー。速度も一人乗りならかなり出ますしね。その上、口から強力な火炎を吐きますから、空でワイバーンに挑もうなんて魔物はそうそういませんよ。」
今度は操縦士さんが胸を張って答える。
「へえ、そいつは安心だけど操縦士さん、あの前方にみえる黒い影みたいの、あれはなんすか?。」
エイヘッズが前方を指さしながら操縦士さんに聞く。
確かに前方に広がった黒い影みたいなものが、こちらに近づいている。
「まずいな、あれはキラースカラベの群れだな。」
「まさか。確かにこの辺りの山に生息はしていますがこんなに群れになってしかもこんな高度に。山火事でもあったのでしょうか?。」
操縦士さんが言うが、どうも山火事になっている様子もない。
「そうではないようだな。なにか山にあって追い出されたのは確かだろうが、それが何かはちょいとわからぬな。」
「確かキラースカラベはこの時期は産卵期でしたよね。大群で移動するようなことは無いはずです。かわいそうに、産卵のための力をこんな事で。」
「ええ、これだけ上空にきてしまっては気流に乗って力尽きるまで飛ぶだけでしょう。その間に我々のような空中移動している者にかち合えば惨事です。なんとかしないと。」
操縦士さんが言う。
「私とシエンさんとトモトモであの子たちの上に出ます。そして下へ向けた風魔法で群れを山に戻したいと思います。こちらに残った方々は、向かってくる子達を迎撃してください。ひどい役割をお願いすることになってしまって申し訳ありません。」
アルスちゃんがみんなを見て言う。
「いえ、こちらこそ危険な目にあわせてしまい申し訳ないです。こちらは何とか致しますので、お願いします。」
操縦士さんが答える。
「うむ、良いぞ。こちらは任せろ。アルスよ、シエンよ、トモよ。怪我をせぬように気をつけろよ。」
「ウイッス!気を付けます!。」
「おう!任せろ!。」
「あら、わたしのセリフでしたね。うふふ。気をつけますね。」
俺たちは顔を見合わせお互いを気遣い笑うとゲイルを使ってゴンドラの外に躍り出た。
「どーも怪しいな。」
シエンちゃんが俺たち二人に語りかけた。
「なにがよ?シエンちゃん?。」
「なにがってトモちゃん。我らが行く先にたまたま偶然だと思うか?人買いの件からの追加依頼を受けてその本丸に切り込もうかと言う時だぞ。」
「するとシエンさんは、これは人為的なモノだと?。」
アルスちゃんの言葉に冷たいものが混じる。
「おいおい、アルスよ、そんなに殺気をまき散らすな。逆に尋ねるが繁殖期のあいつらを山火事以外でここまでにさせるってのは何が考えられるよ?。」
「そうですね。彼らが嫌う魔物の大量発生、もしくは強大な魔物の発生ですか。」
「そうだな、そんな所であろうよ。どちらも邪法具を使えば可能ではないか?。」
「早く彼らを山に戻して、そちらを探りましょう。」
「よしきた!。」
「おし!じゃ、行くよ!。」
俺たちは前方に広がる黒い影、キラースカラベの大群の上に飛び互いに間隔をあける。
俺は下に向けてシンプルな風魔法を放つ。
広範囲に一方向へ強い風を起こす。
なかなか、こんな事をする機会はなかったので範囲や強さを調整するのに少し手こずる。
だがやっている行為は至ってシンプル、すぐにコツをつかむ。
これはあれだな、固形物で押すイメージが近いな。
俺は上から下へ、ブンブンと硬質な羽音を立てて飛ぶキラースカラベたちを風で押していく。
ある程度押すと山へ落ちていくが、それで空いたスカラベの穴は瞬時に他のスカラベが埋めていく。
モタモタしてるとワイバーン便と接触しちまう。
俺はとにかくペースアップする。
同じ工程をなるべく早く、無駄を削って繰り返していく。
考えろ、どんどん無駄をなくせ!。
より効率よく!。
それでいて範囲や精度を落とさずに!。
俺は呼吸を整え手数を減らせるだけ減らし、後は無我夢中で反復する。
下へ下へ、山にお帰り。
ふと我に返るとかなりスカラベの群れの厚さが薄くなっていた。
よし!もう一息!
ラストスパートだ!
わっせわっせとリズムを決めて風魔法でスカラベを山に返していると、声が聞こえる。
「トモトモ!シエンさん!後はお任せします!わたしは山に入ります!。」
アルスちゃんはそう俺たちに言うと、元々スカラベたちが住んでいたであろうやや前方の山の中へと猛スピードで飛んでった。
「アルスのやつ怒ってたからなー。仕掛けた奴、逃げてくれればいいんだけど捕まったらただじゃすまないぞー。」
シエンちゃんがおっかない事を言う。
「うひゃー。アルスちゃんに無益な殺生をさせないためにも急ごう!。」
「くふふふ、元々無益な殺生を始めたのは向こうだが、まあ良い。急ぐか。」
俺とシエンちゃんはペースを乱さず作業を続け、ほとんどのスカラベを山に返したがワイバーン便がやってきてタイムリミットとなった。
「なんだ、我らの仕事はほとんどないぞ。ワイバーンも反応しないほど減らしたか。これなら、殲滅せずともなんとかなるわ。」
「アルスちゃんがなにかかぎつけたっぽい!俺も後を追うから!ゴメンよろしく!。」
「おうおう!行ってこい!後は我に任せよ!。」
「よろしくーー!。」
シエンちゃんの声を後ろに俺はアルスちゃんの後を追った。
アルスちゃんが潜入した辺りの山林に入ると生臭さに襲われた。
まるで犬猫などの中型哺乳類の腐乱死体と漁港の濃い磯臭さがミックスされたような臭いにクラクラする。
すぐに鼻が慣れるが前に進むにつれ更に臭いはきつくなる。
しばらく進むと草木が枯れた場所に出て、そこをさらに進むと大木を倒したような巨大な黒い円筒形のモノが目に入り、どうやらこれが臭いの元らしかった。
キツイ生臭さに目が染みる。
あまりにもきついので自分の周りに風を発生させてちょっとしたエアカーテンをこしらえる。
巨大な黒い円筒形は表面に鱗があり、辿っていくと大きな蛇の頭があった。
頭にはこれまた大きな氷の槍が深々と刺さっており、この大蛇はこいつで地面に縫い付けられて絶命したようだった。
「あら、上はもう済みましたか?。」
デカイ黒蛇を見ているとアルスちゃんから声を掛けられた。
「ああ、ほぼ済んだから後は任せて来たんだけど、これ、なに?すっごいデカイけど。」
「これは、オオクロクチナワですよ。本来はもっと南に生息する生き物です。この蛇の強い臭いはある種の昆虫類に高い忌避性を発揮し、防虫効果の高い素材として知られています。そして、これを見て下さい。」
アルスちゃんがそう言って出したのは、禍々しい雰囲気のする香炉みたいな形状をしたものだった。
「それって、もしかして邪法具?。」
「ですね。バトマデルーイでペイルンが使った物と似てますね。あちらは不特定多数の魔物を発生させる物でしたがこちらは恐らく、特定の魔物を発生させる物なのでしょう。」
「フーム、我々の行動を邪魔する目的か。」
「猪口才な!真っ正面から来い!。」
いつの間にかキーケちゃんとシエンちゃんもワイバーン便から降りてきたようだ。
「上は大丈夫ですか?。」
「おう!アルス、ご苦労さんだったな!しっかしくっさい蛇だなあー!。」
「きひひひ、だが高値が付くぞ。ここに捨てていくわけにもいくまいて。」
キーケちゃんが笑いながら言う。
そんなわけで俺たちはワイバーン便の操縦士さんからロープを貰い、とにかく大きいオオクロクチナワに結び付け俺たち4人とワイバーンで力を合わせてプテターン領トゥマスクの街まで運んだのだった。




