追加依頼って素敵やん
「トモちゃん先生さー、他にもさらわれた人っていると思う?。」
馬を走らせながらネージュが聞く。
「さあ、どうだろうなあ。きっと、これから尋問されて判明するんだろうけどねえ。」
「そー言えばさー、さっき衛兵さんが言ってたバンミドル組ってさ、トモちゃん先生が壊滅させた組でしょ?その時ってどうだったの?尋問で素直に吐いたりすんの?あーした連中って?。」
エイヘッズが俺に聞く。
「確かに、それなんだよな。この国って拷問を禁じてるだろ?それって、良い事だと俺は思うんだ。やってないのに拷問がきつくてやりましたって偽りの証言をしてしまう事って結構あると思うんだよね。そうならないためにも拷問の禁止ってのは意味ある決まり事だと思う。思うんだが、彼らのような連中を尋問する時にはそれが足かせにもなるんだよね。バンミドル組の連中もそうだった。犯行の動機やなんかは自供したけど、アジトに関しては吐かなかったんだよ。」
「へー、それでトモちゃん先生はどーしたの?。」
スニーが屈託なく聞く。
「本当は衛兵さんに任せるべきだったんだけどね。あの時は事務所の子達が狙われてたから、俺も焦っていたのもあってね。尋問させてもらったんだよ。」
「へー、それでバッチバチに締め上げたって訳だ。」
ネージュがうんうん理解しましたって顔で俺に言う。
「いや、衛兵隊の隊長さんの立ち合いで、手を出すことは固く禁じられた上での尋問だからね。それに、俺は基本的には法を順守するからね、それに暴力だって好まないんだから、そこんとこヨロシクね。」
「えー、それじゃあ、どうやって吐かせたのー?。」
ネージュが不満げに言う。
「前に言わなかったっけっか?俺は幻術が得意だって話。それで吐かせたって訳。」
「ああ、聞いた聞いた!歌姫ハティー救出作戦の時ね!一般市民のフリをして襲いかかろうとした悪党を幻術でやっつけたやつね!。」
ネージュが納得したように言う。
「そう言えば、トモちゃん先生の幻術って大掛かりなセッティングがいらないんだっけっか。凄いよなー。今度俺にも教えてよ?。」
エイヘッズが言う。
「いやー、この技なんだけどさー。シエンちゃんもキーケちゃんも、アルスちゃんですら完全には真似できなかったんだよね。言葉に魔力を乗せて、弱気な相手を怯えさせたり酩酊している相手を眠らせたりはできるんだけどさ、薬も大掛かりなセッティングも使わずに人の意思を動かすってのは結構難しいらしいよ。俺も、戦闘中に頭に血が上った人間なんかにはやっても効き目ないしね。」
「はえー、マジっすかー。あのアルス先生でもできないってですか。そりゃ、ちょいと難しいっすね。」
さすがのエイヘッズも諦め口調だ。
「アルスちゃんが言うには、心の底の方で俺がそうなるって信じているからそうなるのではないかってさ。例えば生まれたての赤ん坊の前で俺がこの技を使って見せる。それを成長するまで続ければ、その赤ん坊にとってそれは普通の事になるだろうから、そうなればその赤ん坊は使えるんじゃないかってさ。」
「心の底で信じる力っすか。なんか、わかるような気―するっすよ。実際の戦いってそこが薄かったり折れたりするとまず負けますからね、逆に言うと、相手のそういう力を折る戦い方もありますからね。」
また、フライリフがおっかない事を言うよ。
「なるほどね。ふたつ納得したよ。」
「ふたつってなによ?ビンちゃん?。」
「ひとつは思いの強さが具体的な強さと密接につながってるって事。」
「もうひとつは?。」
「フラちゃんがなんでゲヘナバウンサーなんて呼ばれてたかって事。」
「うふふふ。それわかっちゃったの?ヘッズ君。でもヘッズ君そのフラちゃんから一本取ってるからね、言っとくけど。」
スニーがいたずらっぽく言う。
「え?入学式の事か?ありゃ、良く言って引き分け、俺は負けたと思ってるしな。」
「違う違う!街道レースのことよ!。」
「あー、あれかー。」
「ありゃ確かに一本取られたな。しかも、きれいによー。」
フライリフが笑いながら言う。
「今度からはゲヘナバウンサーから一本取った男と名乗りなさいよビンちゃん。」
「なげーよ!でも、その筋の方々避けにゃちょうどいいかもしれんなー。」
「おいおいヘッズよー。そんな効力はねーぞー。」
「いやー、そう言えばいつだかオッドウェイでフライリフの仕事手伝った事あったけど、その時にあった地元の顔役はゲヘナバウンサーの事知ってたっけな。悪党だったら押さえとけ、無知は罪だぞってあん時逃げてた女に言ってたっけな。」
「先生たちの事も言ってたっしょーよ!でも、あの時はアルス先生とのデート邪魔しちゃってすんませんした。」
「なに?トモちゃん先生、アルス先生とデートしてたの?うっそ!本命はアルス先生なの?いやー、こりゃ血の雨降らなきゃいいけど!。」
物騒な事を楽しそうに言うネージュ。
「なに言ってんだネージュは。フライリフもあれはデートじゃないって何回も言ったろうに。アルスちゃんもシエンちゃんもキーケちゃんも、俺の大切な仲間、相方、なの。本当にねー、そこんとこヨロシクね。」
「なんだ、つまんないの。ちなみに、そこんとこヨロシクって、トモちゃん先生の中で流行ってるの?なんかオジサン臭いんだけど。」
「オジサンであってますからねー。」
俺はキットの速度を上げた。
キットも走りやすい街道に出て喜んでいるようだ、待ってましたとばかりに走り出した。
「おっ!先生!チルデイマまで競争しますか!。」
フライリフが嬉しそうに言う。
「今度は負けないからね!。」
まだやるとも言ってないのにネージュがノリノリで言うもんだから、勝手にレースが始まってしまった。
そんなんで後ろから猛然と4頭の馬が迫ってくるもんだからキットは心得たとばかりに速度を上げる。
仕方ない、こうなればチルデイマまでの街道レースの始まりだ。
始まったからには俺だって負ける気はないぜ。
我が愛馬キットよ、見せてやれ!
そんなわけでチルデイマの冒険者ギルドに到着したのは予定よりだいぶ早かった。
そして、俺がチルデイマに到着したのはビリでした。
まったく若い奴らは無茶するからなー、街道を行きかう人の邪魔にならぬよう、むやみに驚かさぬよう重々言って聞かせたのだがやはりそこは若者。
勝負ごとに熱くなると頭に血が上ってしまうもんだ。
俺は、猛スピードで抜かされて興奮した馬車馬をなだめたり、驚いて荷物をぶちまけた商人さんに謝罪し一緒に拾い上げたりしてたらビリっけつになってしまった。
キットは不服そうだが、俺は一応教師だからなほっとくわけにもいかないってなもんだ。
「お前ら、勝負ごとに熱くなりすぎだぞ。市民の皆様に迷惑かけちゃあいかんよ。」
「すんませんしたー。」
「ごめーん!。」
「熱くなっちゃって。」
「俺としたことが面目ないです。」
みんな、シュンとしてるので勘弁してやりギルドに入る。
代表してフライリフが受付嬢に依頼完了を知らせる。
「はい、ご苦労様でした。衛兵隊ハイデル分所長より連絡は頂いておりますが、一応念のためカードを見せて頂いてもよろしいですか?。」
「はい、お願いします。」
フライリフは冒険者カードを出した。
我々もそれに続いて提出する。
依頼完了時に衛兵隊長さんが冒険者カードに任務遂行完了を認める印を記録してくれたのだ。
「はい、結構です。皆さんお疲れさまでした。今回は依頼完了報酬の他にお尋ね者の盗賊団捕縛にご協力して頂いたのでそちらの賞金が支払われます。一括してどちら様かに支払いますか?それとも均等割りになさいますか?。」
「均等割り!勿論、均等割りよ!。」
ネージュが乗り出して言う。
「はい、それでは現金払いとカードとどちらになさいますか?。」
これは、みんなカードに課金してもらう事にした。
「ご苦労様でした。それでは、これからは任意の依頼となります。今、完了された依頼に伴って出された新しい依頼です。前依頼完了者に優先的に知らされることになっております。お時間よろしければ奥のお部屋で詳しい話をさせていただきたいのですが。」
おっと、追加依頼の発生だ。
たまにこんな事もあるのだ。
「先生、どうしたら良い?。」
フライリフが俺に尋ねる。
「別に話を聞くだけでもいいんだ。受けるか受けないかはこちらに選択権がある。聞くだけ聞いてみたらいいんじゃないかね。」
「それじゃ、みんな、話だけでも聞いてみようと思うんだが?どうだい?。」
フライリフがみんなに尋ねるが、みんなにも異論はなく奥のお部屋で追加依頼の詳細を聞いてみようという運びになった。
フライリフたちにとって初めての追加依頼だろう。
できれば、完遂させてあげたいものだ。




