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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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やはり依頼を完遂するのって素敵やん

 まったく、案の定めんどくさいったらないよ。

 まずは、半壊した村長宅にお邪魔させてもらって丈夫そうなロープをお借りする。

 そいつでもって、偽村長を縛ってから村の中央の広場っぽい空き地に生えた木に括りつける。

 後は、その繰り返し。

 そこらに転がってるやつを縛っては括り付け、出血がひどい奴は布をあてがいきつく縛る。

 たまに目を覚まし暴れる奴もいるが、雷空弾を食らわして再び寝かせて縛り付ける。

 縛ってる最中に暴れる奴もいるし、本当に落ち着きのない奴らだよ。縛った奴も意識が戻ると体をひねってよじって暴れる有様だ。

 そうして、コツコツと地道にやっていると、エイヘッズがみんなを連れてきてくれたんで分担して作業を続けることにした。

 村人に聞くとこの症状にかかった人は3~4日絶食をして水をたくさん飲ませると、おしっこが真っ黒になるんだそうだ、それが元の色に戻ったら治った印なんだってさ。

 こりゃ、益々、原因は寄生虫ってところだな。

 人さらいの皆さんはまずは断食ですな。

 俺たちは山から連れてきた見張り連中も含めて、すべての賊を縛りあげた。


「さてと、ここから一番近い衛兵詰め所はどこでしょねえ?。」


 スニーが本物の村長さんに尋ねた。


「にゃったら、でーだ、ハイデル山のふもとに分所があるっしょな。わーが、いっちゃん近からったろう。」


「私、段々この村の言葉、わかるようになってきちゃったわ。」


 ネージュがみんなを見て言う。


「本当ね。じゃあ、私が呼びに行ってくるわ。」


「まてまてスニー、俺も行く。またブラックドッグが出るかもしれないからな。」


 フライリフが言う。


「怪しいお爺さんもね。」


「いや、ネージュ。怪しい爺さんなら、ほら。」


 エイヘッズが指さした先で縛られて寝ていたのは、あの怪しげな爺さんだった。


「なによー、やっぱりグルだったのね!。」


「ふふふ、俺たちの推理も満更でもなかったって訳だな。」


 エイヘッズが言う。


「んじゃ、行ってくるわ。」


 自分とスニーの馬を連れたフライリフが言う。


「ああ、頼むよ。気をつけてな。」


 俺は馬に乗るフライリフとスニーに声をかけた。


「わかりました。そっちもお願いします。」


 フライリフはそう言ってスニーと共に馬を走らせたのだった。

 残された俺たちは賊どもが暴れて壊した物の残骸や、食い散らかした沢わっぱの貝殻を集めて燃やしたりした。

 村の人たちは賊が使った食器類を集めて、でかい鍋でぐつぐつと煮だした。

 沢わっぱが触れた物はこうすると良いとの事で、まあ煮沸消毒ですな。

 長くここで暮らしている人々の知恵ですわな。

 村人の言う事には、食べなければ何事もないのだと言う。

 沢わっぱのいる沢の水を飲んでも、水浴びをしても、それだけでは症状が出る事は決してないのだと言う。

 その辺は前世界の有名寄生虫、住血吸虫類とは違うようだ。

 前世界で地方病とまで言われた住血吸虫症は、その地区に生息する寄生虫により起こされた感染症で、中間宿主が淡水貝である所は今回の話と一緒なのだが、住血吸虫は成長すると中間宿主の貝の体から出て最終宿主の哺乳類の皮膚に取り付き体内に入って症状を引き起こすものだった。

 その症状も腹部に水がたまり死に至るというものだった。

 しかし、宿主を狂暴にさせるなんてのは聞いたことがないね。

 この世界に来る前に、トキソプラズマという寄生虫が宿主の行動に影響を与えているという話を聞いたことがあった。

 中間宿主であるネズミなどの小動物の体内に潜伏している時に、最終宿主である猫に早いとこ食べられるように、中間宿主が猫を恐れないようにさせると言うのだ。

 更にはトキソプラズマは人にも寄生する。

 寄生した人のドーパミンなどを増加させ行動的で攻撃的にさせるという話もあった。

 どこかの大学の研究結果で起業家に感染者が多かった、なんて話も聞いたことがあった。

 今回の、この沢わっぱもこの世界版のそうした寄生虫なのだろう。

 元々血の気の多い連中だったのだろう、そのため寄生虫の働きかけでさらにパワーアップしたバイオレンスの宴を繰り広げたわけだな。

 まあ、沢わっぱと呼ばれる貝が中間宿主ならば、これを全て排除してしまえばこの病も排除することはできよう。

 しかし、地元の人たちはその危険性を知り上手に避けているわけだし、その貝にも生態系の一部としての何らかの役割があるわけで、うかつに全滅にしてはもっと厄介なことになるかも知れず、結局は今のままが一番良いのだろうと、俺はそう思うのだった。

 そんな話を前世界の事は抜いて、エイヘッズとネージュに話していると、馬のいななきと蹄の音が聞こえてきた。

 どうやら、フライリフたちが衛兵をつれてきてくれたようだ。


「ゴゼファード領衛兵隊ハイデル分所のターニモーです。村長はいますか?。」


 馬から降りて先頭を歩く衛兵さんが大きな声で周囲に尋ねた。


「はいはい、わたしが村長だにゃ。」


「ああ、村長、無事でしたか!良かった。他に怪我をした方はいらっしゃいませんか?。」


「うんにゃあ、村のもんにゃいないっぺ。山賊連中は逆に無傷じゃっどんもうはにゃかんべーさ。それもこれも、若い冒険者さんたっちゃうの、おかげにゃっしっで。」


「いやいや、それは良かったですよ。」


 どうやらハイデル分所の衛兵さんは村長さんと顔なじみらしい。

 言葉もわかるようで普通にやり取りしている。

 村長さんは自分たちのあった事について衛兵さんに説明しだした。

 俺たちが聞いたものと同じ内容である。


「ほーでな。しょっからはこの冒険者さんどーも、きたらよかっしょーよ。」


 どうやら、ここからは我々が説明してくれと、そういう事らしい。

 エイヘッズが村人を助けて村に戻ってからの事を説明する。


「あららー、そいつは災難でしたなー。本当にご苦労様でした。こいつらですけどね。」


 衛兵さんが縛られてる偽村長を指さす。


「こいつは賞金がかかってますからね、今回の依頼料金と一緒に受け取ってください。ギルドにはこちらからも報告しておきます。こいつらは、以前ノダハで捕縛されたバンミドル組の後釜最有力候補と言われていたハイドエルとその一味ですな。ギリヤド山中で行方をくらまして以来、消息がつかめなかったのですが、どうやら、この様子では人身売買グループと繋がって活動をしていたようですね。早急に尋問し他に被害者がいるようならば救出せねばなりますまい。ご協力を感謝します。」


 衛兵さんが敬礼をする。


「いやいや、我々は職務を果たしただけですから。」


 また、エイヘッズが調子のよい事を言う。

「ああ、その通り。お役に立てたなら何よりです。」


 フライリフはいつも通りなんのてらいもなく言う。


「人買いなんて悪い奴、野放しにしとけませんよ。捕まってよかったです!。」


「ホントホント!さらわれた人を救出する依頼があったらまた協力させてください!。」


 スニーに続いて義憤に駆られたネージュが力説する。


「ええ、その時はお願いします。重ねてお礼申し上げます!。」


 ビシっと敬礼する衛兵さんに礼をし、俺たちはチルデイマに帰ることにした。


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