謎解きと鎮圧って素敵やん
「こっちよ、こっち!近づいてるわ!何か大人が騒いでるみたい!。」
ネージュに従って獣道を歩く。
獣道は途中幾つも分岐していたが、ネージュがこっち!これは、こっち!と威勢よく案内してくれたのだった。
方角は分かっているし音も近づいているのだが、真っ直ぐ進めるわけではないので中々距離が縮まらない。
それでも、焦らず地道に進んでいく。
若者たちも焦る気持ちをねじ伏せてよく耐えている。
鬱蒼と茂った木々と時に肩ほどの高さにまで成長した藪の間にできた獣道。
その中をズイズイと進んでいくと、サウンドコレクションを使わなくても薄っすら聞こえてくる声がする。
「・・・って!・・から!。」
「だから!おめさん方の・・・。」
「聞こえてきたね。」
スニーが先頭を歩くネージュに話しかける。
「なにか、揉めてるみたいね。さっきから、何人かの男が盛んに訴えかけてるわ。ちょっと訛りがきついけど、お前らのために言ってるんだ、とか。村は危険だ、とか。」
「どういう事だネージュ?。」
「だから、そのままよ。もっと知りたければ、本人に聞いたらビンちゃん。」
「そうだな。」
かなり声が聞こえる所まで来ると、獣道は途切れ開けた土地になっていた。
開けた先には山肌に洞窟があり、その入り口には格子が嵌められ中にいる者が外で見張りをしている者へ盛んに訴えている。
「うんだら、まんず、なまら言うちゃってる!こげなトコ閉じ込めて!。」
「んだんだ!さわわっぱを食っちゃなんね!食っちゃなんねーぞ!。」
「おめさのためごつ、言うてにゃるがね!!アホながー、命がおしないんけーが!!。」
「とにかく!さわわっぱじゃ!さわわっぱにゃ触れちゃなんねーが!!。」
「うるせー!静かにしろ!なに言ってんだかわかんねーんだよ!まったく。」
「お前ら、自分たちの置かれた状況わかってねーのか?。お前らはな、これから、売られんだよ。外国によ奴隷として売られんの?わかったらちっとは大人しくしろよ。」
洞窟の外で見張りをしている男二人が、中にいる者たちへ返答している。
「右奥に弓持った奴と槍持った奴。計ふたり。俺が始末する。」
藪の中からフライリフが顔を出して言う。
「左に剣もったやつ3人。こっちは俺がやる。」
今度はエイヘッズだ。
「オッケー。じゃあ、正面のふたりは私とネージュね。先生、バックアップお願いします。」
「わかった。任せろ。」
フライリフとエイヘッズは藪の中に消えていき、スニーとネージュは洞窟に向かって歩いて行く。
「すいませぇ~ん。なんか~、道に迷っちゃって~。」
「この辺ってどの辺りなんですか~?教えて欲しいな~なんて。」
ネージュはわかるがスニーまで、色仕掛けかいな?
まったく先生は感心しないなー。なにかあったら、速攻で出るからな。
そんな俺の思いをよそに、見張り番のふたりは下卑た笑みを浮かべてお互い見合わせた。
「へっへっへ。なんだいお姉ちゃん達。迷子かい?。」
「そうかいそうかい。そりゃちょうどよかった。親切なおじさんに会えてお姉ちゃん達は幸運だったなあ。」
「そうでしょ~?わたし~、ラッキーガール的な?。」
「うんうん、わ~た~し~も~!。」
ヘラヘラしながら近づいてくる番の男ふたりに、ネージュとスニーもヘラヘラしながら近づいていく。
「そーかそーか、じゃあ、ねーちゃん!こっちに来な!。」
「ほらっ!捕まえたぞ!。」
ふたりの男はそれぞれ示し合わせたかのようにスニーとネージュにつかみかかった。
あちゃー、そりゃ悪手だよ。
無防備に突っ込みすぎだわ。
鶏でも捕まえる気分なのかも知れないけど、相手をよく見なきゃな。
こりゃ俺が出るまでもないな。
まあ、若い女の子二人と思って油断したんだろうけどさ。
こんなところに突然現れて、どう考えても怪しい自分たちに気さくに話しかけて来るギャルふたりなんて、怪しいにもほどがあるだろ。
これが色仕掛けの恐ろしさか。
案の定、無策で突っ込んでいった男たちは、ネージュのきれいなハイキックとスニーのきれいな一本背負いを受けて、これまたきれいに気を失った。
「はい、いっちょ上がりっと。」
「まったく歯ごたえないわ、だらしないんだから。」
スニーとネージュが言う。
ネージュはちょっと調子に乗りすぎかな。
「こっちも完了だぜ。」
「ちぇっフラちゃんのが先だったか!。」
「いや、ヘッズの方がひとり多かったろーに。」
フライリフとエイヘッズも戻ってきた。
俺は深呼吸をして周囲を気で探った。
洞窟の中以外で人の気配がするのはみんなが倒した武装集団だけだ。
「周囲に敵の気配なし。大丈夫だ。」
俺も藪から出てみんなに伝える。
「ウシ!じゃあ、ちょいと洞窟の中の皆さんに事情聴衆と行きますか。」
そう言ってエイヘッズが洞窟を塞いでいた柵のカギを開ける。
「なんだよヘッズ、そのカギはどうしたん?。」
「へへへー、そこに転がってるオッサンのポッケから頂きました。」
「ったく、手がはえーったらねーなー。気が付かなかったぜ。レースで一杯食わされて以来、お前の動向にゃ目を光らせてんだけどなー。」
「マジ?気を付けよー。」
笑いながらエイヘッズは答え、そして柵のカギを開けた。
「あんたがた!さわわっぱ食っちゃいないだろーな!。」
中の人は出てこようとしなかった。
「さわわっぱ食ってないか?聞いとんのよ?。」
「なんかわかんないっすけど、この村に来てから俺たちみんな何も食べてないっす。」
エイヘッズが言う。
「ほうだか。だったらば良かったなっし。さわわっぱを食べ取ったら、えらい事だったにゃっし。」
「なだなっし!だなっし!よかったにゃっし!。」
彼らの話を腰を据えてじっくり聞いてみると、彼らはダマホーク村の人たちだった。
村長さんを含め、すべての村人がここに集められて監禁されていたのだと言う。
元はと言えば連続神隠しが事の発端だった。
ひと月に3人の神隠しは、この村に長く住む者の目から見ても多すぎた。
村長は冒険者ギルドへ依頼を出し、村人は村人で捜索にあたったのだがミイラ取りがミイラになるとはこの事で、捜索に行った者たちも戻ってこなくなり、しまいには行った数の方が残った村民の数より多くなる始末。
どうしたものかと残されたもので相談をしていると、山から複数人の賊たちが現れてこの有様だと言う。
最初に神隠しにあった3人もここに監禁されていたとの事で、神隠しの正体見たり人さらい、ってなものだった。
そりゃおかしな点が多いはずだよ、今、村にいるのはその時の賊だってんだからな。
さて、本当の問題は村人たちが盛んに訴えていたさわわっぱの正体だった。
さわわっぱとは、水車小屋に通じている沢に生息している貝のことで、これが大変に美味なのだが生で食べるなんてのは論外、火を通すにしても通りが甘いとてきめんでやられるのだそうだ。
どうやられるのか、と言うと狂暴になって誰彼構わず暴力をふるうのだそうで、散々暴れた挙句に最後は自分自身を傷つけて下手すりゃ死んでしまうのだとか。
そんなわけで、万が一にでも発症した日には村がパニックになるので村民はこの貝を決して食さないし触ることもしないそうだ。
ウーム、こりゃ原因は寄生虫なんだろうけど症状が凶悪すぎる、なにみざわ症候群だと問いたくなる。
「先生よー、こりゃ村がヤバくないかい?。」
気を失った賊どもを木にロープで括りつけながらエイヘッズが言う。
「ああ、早いとこ行ったほうがいいな。だが、村人を連れて行くのは危険だ。」
「だよね、しかも、括ったこいつらだって食べてるかもしれないし、食べて錯乱した賊がここに来るかもしれないし、うーん、どうしたらいいの?。」
ネージュが困った顔をして言う。
「よし、俺と先生で村に行く。フラちゃん、ネージュ、スニーはここで村人たちを守ってくれないか?ネージュはサウンドコレクションで周囲を警戒していてくれよ。頼めるか?。」
「おう、任せろ。」
「うん!がんばるわ!。」
「ふたりとも、気を付けてよ!。」
「了解!じゃ、行こうか先生。」
「よし、急ぐぞ。」
俺が言うまでもなくエイヘッズは素早い動きで獣道に入っていく。
獣道の分岐点を迷うことなく選び、進んでいくエイヘッズ。
「もしかして、エイヘッズ。お前、道を覚えているのか?。」
「へへー、まあね先生。俺、仕事柄、一度通った道は忘れないのさ。」
まったく芸達者なやっちゃで。
幼少時から遺跡発掘業を独立してやっており腕前は一流だってのは伊達じゃないな。
俺はサウンドコレクションを使い周囲の音を拾っていく。
すぐ先に水の流れる音、獣のたてるかすかな移動音、それに交じって人の声のようなものがかすかに聞こえる。
俺たちは沢に出る。
沢沿いに来た道を戻る。
人の叫び声なのか、金切り声みたいなものが徐々に耳に入ってくる。
「エイヘッズ、どうやらお祭りが始まってるようだぞ。警戒していけよ。」
「マジっすか。了解っす。」
俺たちはゴツゴツした岩場の道を飛ぶように走る。
エイヘッズもゲイルを使えるようだ。
と言っても、覚えたての頃の俺くらいの腕前かな?。
継続しての飛行はできないようだが、瞬間的な跳躍は得意のようだ。
着地時のショックをやわらげるのも上手にできている。
来るときは迂回した滝も俺たち二人はゲイルで飛び越えてショートカットする。
ここまでくれば、村はもうすぐだ。
「ごあぁぁぁ!!じねぃぃぃぃーー!!。」
「あぎゃぁーー!。」
「ぐっだらぁ!。」
「うわー、派手にやってますなー。」
俺たちが最初に見たのは破壊された水車小屋だった。
さらに村に入っていくと、殴り合う男、木材をやたら滅多振り回している女、頭から血を流しながら走り回っては何かに激突してる男、大声でわめきながら獲物を探しまわる男、その男を追いかけながら建築物見かけるたびに血だらけの拳で殴る女、血だらけでぶっ倒れている男や女、もう、バイオレンスパーティー全開の様子だった。
「片っ端から気を失わせるぞ。」
「よしきた!。」
俺とエイヘッズは片っ端から目に入った人間の意識を刈り取っていった。
あからさまに重症な奴は優先的に気絶させていく。
俺は低威力に帯電させた空気弾を当てて気絶させていく。
エイヘッズは土魔法で石つぶてをぶつけて意識を刈っているが、相手は屈強な武装集団の者どもでしかも錯乱してるもんだから一発で気絶しない奴もいる。
「先生の技、いいじゃん!それ、どーやるの?。」
「こいつは、調整した雷魔法と風魔法の空気弾の複合技さ。帰ったらアルスちゃんから教わるといいぞ。」
「いやー、合わせ技はちょっと難しーやなー。でも雷なら習ったからさ、威力は弱いけど出来るから、そっちでいきますわ。」
エイヘッズは両手両足に帯電させ、弱電格闘に切り替えた。
これは、なかなかよろしくて速さ重視の軽い蹴りやパンチで暴れている奴らが面白いように気絶していく。
やっぱりあれかね、暴徒の鎮圧には弱電かね。
前世界の電撃銃は発射された電極の刺さり具合なんかで、意図せぬ大きなダメージを与えてしまう事があったようだが、俺やエイヘッズのやり方はスタンガンや家畜追いのための電撃棒なんかが近いのかもね。
俺たちは襲い掛かってくる暴徒や自傷行為、破壊行為に勤しんでいる暴徒を、コツコツと気絶させていく。
「おるるるるぅぅぅぅーー!ごあぁぁぁぁ!!。」
ほぼすべての暴徒を鎮圧したころ、村長宅からケダモノのような雄叫びが聞こえてきた。
「村長宅だな。」
「行きましょう!。」
俺とエイヘッズは村長宅に向かって走った。
村長宅に着くと、屋敷は半壊しており大きな柱を振り回す偽村長の姿とその周囲に転がる人影が見えた。
「おうごっ!!ごっ!ごっ!。」
「がうぃぃぃ!ギャウ!ギャウ!。」
「グスグスグス!ガチガチ!ガチガチ!。」
転がっているのは人だけじゃなかった。
ブラックドッグだ。
しかも、まだ生きてるブラックドッグ数匹が偽村長と戦っているようだ。
「どうやら、あいつが賊の頭っすね。」
「そうだろうな。とっとと大人しくさせよう。」
「うぃっす!。」
エイヘッズは偽村長に向かっていったので、俺はブラックドッグの相手をする。
数は5匹。
人に当てたのより多少威力を強めた雷空弾をお見舞いする。
5匹全部に当たるが、どいつもこいつも俺に敵意をむき出しにするばかりで逃げる気配がない。
どうやら、偽村長との闘いで興奮マックスのようだ。
しょうがないなあ、俺は一斉に襲い掛かってくる黒犬に更に威力を高めた雷空弾を連射する。
とびかかってきた黒犬たちは先ほどより強められた雷撃にはじけ飛んだ。
「ギャイン!ギャンギャン!!。」
シッポ巻いて逃げていったのは4匹。
1匹、他の個体より体の大きい奴、恐らくは黒犬のリーダー格か、そいつはまだ元気に俺に対して牙をむき出しにしてうなっている。
「よしとけよしとけ。部下は逃げたぞ。もう見てる奴はいない。お前のメンツも立つだろ。この辺でお開きにしよう。」
俺はうなる黒犬のボスに話しかける。
呼吸を整え、少しずつ気を練り黒犬のボスに当てていく。
悪意ではない、交戦の意思のない、そうした気持ちを乗せて気を当てる。
黒犬のボスは少しずつうなりを止めていき俺の目を見たままゆっくり後ずさった。
「そうだ、それでいい。山にお帰り。お前は賢い奴だ、わかってくれるよな。」
俺はボスから目線を外さずに言う。
黒犬のボスは俺を一瞥するとクルリと体勢を変え山へ帰って行った。
「すげーな先生。魔獣と話せるの?説得した?。」
どうやらエイヘッズの方も片が付いたようだ。
偽村長は振り回していた柱を抱いて倒れていた。
「いや、話せるわけじゃーないんだけどな。あいつも部下の手前メンツもあったろうなと思ってさ。基本的に賢い生き物はむやみに命のやり取りはしないもんだ。あいつも賢い生き物だったって訳だよ。」
「ふーん、そういうもんかねー。じゃ、俺はフラちゃん達を連れてきますわ。先生、こっちお願いしていいっすか?。」
「おう、大丈夫だ。そっちはよろしくな。」
「うぃっす、行ってきます。」
エイヘッズは言うが早いか水車小屋の裏へと走っていった。
さてと、倒れてる賊たちを集めて縛り上げなきゃだな。
結構な人数いたからなあ。
こりゃ、面倒くさいぞ。




