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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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謎多き村って素敵やん

 「あーあ。せっかくの初依頼なのに、なんか拍子抜けしちゃうわー。」


「ネージュ、お前、金がかからないと勘が鈍るのな。」


「どういう事よフラちゃん?。」


「怪しいだろ、どう考えても。」


 村長宅を出て水車小屋へ向かう道、ネージュのボヤキにフライリフが反応した。

 そうだ、確かに怪しい。

 フライリフとエイヘッズは気づいているだろう。


「どこが?。」


「やだ、ネージュ。あんた、狙った男の気持ちを読むのは凄いのに。あの村長の訛り、どう考えてもおかしーよ。」


「そうだった?気付かなかったー。」


「ネージュは関心ない異性にゃ、とことん関心ないからなー。でもよ、冒険者やりたいなら、その癖、治さなきゃだぜ。」


「むーー。ビンちゃんにそんな事言われるなんてー。ぶぅーー。でも私だって違和感は感じたわよ。」


「へー、その違和感ってな、なんだい?。」


 フライリフがネージュに質問する。


「あの家よ。確かに室内はお金がかかっていたわ。でも、そのかけ方が不自然なのよね。」


「へー、どこが?。」


 スニーも興味深そうに聞く。


「いや、室内にあった装飾品なんだけど、小物が一切なかったでしょ?普通、応接室ってハッタリ効かせるでしょ?あの手の装飾をする人が小物でハッタリ効かせないのって相当不自然だと思うわ。でもねー。」


「でも、なんだい?。」


「いや、フラちゃんさー、それもない事じゃあないからねー。お金に困ったら真っ先に現金化するのも小物だからね。あの村長もその手かも知れないしねー。」


「なるほどな。さすがネージュだな。伊達に金持ちを観察してねーってわけか。」


「観察ってかなんつーの?調査っつーの?俺が発掘の仕事してん時と同じ目してやがるもんなー。たまんねーよ実際。」


「なによー!せっかくフラちゃんが褒めてくれてんのに!バカビン!。」


「えー?フラちゃんのも褒めてるか微妙なんですけどー。」


 スニーがジト目で突っ込んだ。


「ままま、他にもおかしな点はあったのさ。今から行くデンゾってやつが受け取ったカゴな。あれ、野菜だけじゃなかったな入ってたの。」


「おっ、さすがフラちゃん気づいてたか。明らかに金だよな。」


「ああ、むき出しの現金だったな。野菜の下に入れてあったがカゴの隙間からチラチラ見えてたよ。」


「ちょっと、どういう事よ?村長が私たちを案内してきたお礼に現金を渡したっての?随分と太っ腹じゃない。」


「さて、果たしてそうかな?。」


 ネージュの話に意味ありげな笑みを浮かべるエイヘッズ。


「もーっ!みんなは何がどーなってるか分かってるっていう訳?だったら教えてよー!。」


「まてまてネージュ。俺たちだって、訳が分からないさ。でもよ。」


「でもなによ?ビンちゃん。」


「分からないから面白いってこったよ、な?。」


「ちげーねー。」


 エイヘッズの問いかけにフライリフが楽しそうに答える。


「そーよね。単純な依頼じゃつまんないもの。」


「やだ、スニーったら冒険者みたいな事言っちゃって。」


「みたいじゃなくて冒険者ですもの。」


「うふふ、そうね。私も冒険者だったわ。だったら、この展開は楽しまなきゃ損ね。」


「そーそー。やっとネージュらしい顔つきになってきたぜ。そーじゃなきゃ、よ。」


「みんな、水車小屋が見えてきたぞ。さあ、デンゾさんに話を聞きますか。」


 俺はみんなに声をかけ、水車小屋の扉を叩き挨拶をする。


「こんにちはー。デンゾさんいらっしゃいますか?村長に言われて話を聞きに来たんですけどー。」


 嘘はついていない。

 ついていないのだが、故意に村長の指示っぽく聞こえるように言ったのは確かだ。

 フライリフとエイヘッズはニヤニヤしながら俺を見てるよ。


「はいはい、どうぞどうぞ。カギはしてないから入ってきなっせ。」


 扉の中からカタコンカタコンと水車を使って何かを動かす音がしている。

 俺たちは挨拶をして扉を開け中に入った。


「失礼します。」


「どうも、ご苦労さんだね。で?なんの用だいね?。」


 デンゾさんはカタンカタンと音を立てて上下している木製の杵の近くで椅子に座り、パイプを吹かしていた。


「村長から伺ったんですけど、デンゾさんも神隠しの被害者だったとか。いったい何があったのか、お教え願えませんか?。」


 エイヘッズからの呼びかけにデンゾさんは一瞬こっちを見た。

 石みたいな、なにも感情が読み取れない目だった。


「なんだ、村長はそんな事まで話したのかね?後は誰が神隠しにあったかも、話しちまったのかね?。」


「ええ、ラニーリご夫妻だと伺いました。」


 続けてエイヘッズが答える。


「そうかい。村長も口の軽いこった。まあ、いいけどな。どうせ何も覚えちゃいないんだ。ラリーニの奴も同じさ。」


 デンゾさんが吐き捨てるように言う。


「そうですか。しかし、なにも覚えてないと言っても過去を一切合切忘れたわけでもないでしょう。覚えている最後の記憶はどうですか?何のために山に入ったのか、どのルートを使ったのか?お聞かせ願えますか?。」


 エイヘッズが丁寧に質問を重ねた。

 うんうん、上出来。さすがエイヘッズ。


「あー、そうなー。あの日は良く晴れた日でなあ。山には山菜を取りに入った。そう、今はいい季節だからな。この、水車小屋のすぐ裏から沢を伝って入ったな。沢沿いにしばらく登って行くと小さな滝がある。それを迂回したまでは覚えとるんよ。その後の記憶がぷっつりとない。気づいたら、水車小屋の中にいて、今みたいにパイプを吹かしていたのさ。」


 デンゾさんは目を細めて美味そうにパイプを吹かし、ゆっくりと長く煙を吐いた。


「はー、そうですか。ちなみに気づいた時に何か変化はありませんでしたか?服装が変わってたとか、髭が伸びてたとか。」


「ああ、髭は伸びてたな。なんせひと月近く山にいたんだろ?そりゃ髭も伸びるだろ。」


「ありがとうございました。最後にひとつだけ。先ほど、村長からカゴに入った野菜を貰ってましたけど、良く村長から物を貰ったりすることがあるのですか?。」


「いや、あれは俺がこしらえた餅の代金を貰ったんさね。野菜はオマケさ。この水車でついた餅は美味いって評判なのさ。」


「へー、そりゃ凄い。しかし、餅米仕入れるの大変でしょう?この辺りには水田もないようですし。」


「あ、ああ、餅と言ってもわらび餅さ。今がちょうど時期だからなあ。」


「へー、そうなんですねー。ありがとうございました。最後の質問と言っておいて申し訳ないんですが、ラリーニ夫妻のお宅を伺っても?。」


 最後の質問と言って申し訳ない、とエイヘッズが言った時、デンゾさんは凄く嫌な顔をした。

 しかし、その質問の内容がラリーニ宅の場所だと知ると一瞬にして表情を戻した。

 どうにも、怪しいことだ。

 ラリーニ宅の場所を聞いた我々は丁寧に感謝を述べて、水車小屋を後にした。


「どう思う?。」


 エイヘッズがみんなに聞く。


「いや、完全に怪しいわよ。」


 スニーが即答した。


「なぜ?なぜそう思った?。」


 エイヘッズがスニーに尋ねる。


「いや、だってさ、わらび餅作るのについたりしないからね。わらび粉を少しづつ溶かして濾して火にかけて混ぜるんだから。私、教会で作った事あるもん。」


「そーいや、作ってたっけなー。でもよー、スニー。わらび粉作るのはどうだ?ついたりしないのか?。」


 フライリフが聞く。


  「フラちゃん一緒に作らなかったっけ?あー、わらびの根を取ってきてくれたのかー。あの根っこをね、すり鉢ですりおろして水を加えて3日ほど置いとくのよ。すりつぶすのが結構手間なのよ。さっきの水車の仕組みじゃ無理ね。あれは碾き臼を回転させるタイプじゃなかったでしょ、杵を上下させるタイプだった。あれは、精米か獣皮のなめしなんかに使ってんのよ普段。」


「ほう、ってことは?。」


 フライリフがさらに尋ねる。


「デンゾさんは普段あの水車を使ってないって事だと思う。」


「なるほどな。こりゃ益々面白い。」


 フライリフが言う。


「ああ、面白くなってきやがった。」


 エイヘッズも同意する。


「面白がってばかりいないで、どういう事か考えてよね!。」


 ネージュはいつも通りの調子。


 俺たちはラリーニ宅に向かいながら、各々考えるのだった。

 いったいこの村で何が起こっているのか。

 神隠しの正体は何なのか。


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