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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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学祭当日って素敵やん

文化祭当日。

 まずは馬術クラブメンバーと軽い打ち合わせ。

 お互いの警備ルートと緊急時の連絡方法を確認する。

 各ブロックごとに風紀委員がローテションで番をしているので、彼らに定期連絡をし横の情報共有もできるようになっているのでその辺の手筈も確認する。

 まあ、何事もなければそれに越した事はないのだが、念には念をってやつだ。

 ちなみに、本日の屋内運動場ですがケイトモ&劇団アルスちゃんによるミュージカルが催されるため、かなりの人手が予想されますという事で、魔法ギルドから精神鎮静化の法具が貸し出されたのだった。

 こっちの世界にきてそこそこ経つけど、魔法ギルドは初めて関わるね。

 魔法関係の管理を一手にしている、高位魔法使いが所属するギルドだそうで、この世界での魔法と言うのは前世界での銃でありガソリンでもある。

 威力の強いものになれば、爆弾やミサイル、それこそ未来兵器の領域まで入ってくるもんだから、それなりの管理はしないといけないわけだ。

 かくいう我々も冒険者ギルド経由で、魔法ギルドへもカードデータが共有されると言う説明はされていた。

 まあ、そうだろうね。

 前世界でも原子爆弾の製造開発知識を有する者や、軍隊経験者など国から動向を管理されている人もいただろう。

 もっと身近な所だと、危険物取扱者は国家資格だったし更に言えば運転免許なんてのもそうだ。

 容易く人の命を奪える物にはやはり管理が必要だろう。

 その辺りの認識はどこの世界でも変わらないだろう。

 そうして馬術クラブメンバーとのミーティングを終えた俺は職員室に向かった。

 職員室での朝礼を済ませ、先生方が各々自分の担当クラブやクラスに向かう中、俺は理事長と副理事長に引き留められ本日の警備について注意点や馬術クラブの動きについて質問された。

 注意点については以前の説明会であげられたものをベースに、トラブル発生時の対応は我々の警備以外に風紀委員による所定箇所での番を設け、情報の共有をする事などを説明する。

 

 「わかりました。ありがとうございます。今日は職員室に私か副理事長、どちらかが必ずいるようにします。何かあればこちらまでお願いします。では、良い学園祭を。」


 「はい、良い学園祭を。」


 隣にいる副理事長もさすがに少し緊張しているようで表情が若干固かった。

 副理事長も、学園祭を問題なく開催したいという気持ちに変わりはないのだろう。

 俺は、ふたりに一礼し職員室を出たのだった。

 開始直前の学園内を見回る。

 もうすぐ実際に学外の人々がやってきて各人の出し物の実戦が始まるわけだ。

 慌ただしく動き回る生徒、声を掛け合い士気を高めている生徒、椅子に座り目を閉じ集中力を高めている生徒、緊張してか顔を青くしている生徒にはそれを励ましている生徒が付き添っている。

 割と落ち着いて、他の生徒にアドバイスをしたり、淡々と準備している生徒たちもいる。

きっと、バイトなりをしてすでに社会で実戦に参加しているのだろう。

 

 「慌てずにな!。」

 「落ち着いていけよ。」

 「大丈夫だぞ、良く準備されてるじゃないか。」

 「お互いに服装をチェックしてな。笑顔が大事だぞ。」

 「今日は頼むな。初めての連中のサポートをしてやってくれな。」


 俺はそうした生徒たちに声を掛けて回る。

 

 「ドン!ドン!ドン!。」


 学園祭開始の合図だ。

 魔法クラブによる音だけ花火、いわゆる号砲花火のような効果を持つ魔法による合図だ。

 これがあると、俺なんかは、始まったって感じがするね。

 まあ、この世界でも式典開始の合図などで良く使われるんだけどね。

 子供のころ、朝、この合図の数で運動会が中止かどうか知らせたりしてね。

 一家で聞きそびれて中止なのに運動会スタイルで登校しちゃう子がいたりしたのは良い思い出だ。

 なんて感慨にふけっている場合ではない。

 さて、段取り通りならばまずはこの時間、フライリフとスニーは学園入り口の門で歓迎のあいさつをする集団と一緒に、来場する皆さんを出迎えているはずだ。

 歓迎のあいさつ集団とは、朝、開店するデパートの入り口みたいに最初の来場者を出迎える集団で、生徒会長と副会長、生徒会風紀委員長と副委員長を筆頭に各クラブの部長がならんでいる。

 一応、何かあった時のために、武術クラブは部長と部員数名を出してもらっている。

 最初が肝心だからね。

 まあ、フライリフはブラッドニードルズの連中は朝早い時間から動きはしないと言うけどね。

 俺は、校内を巡回し生徒に声を掛ける。


 「よーし!来場者がきますよー!みんな!張り切っていきましょー!。」

 「準備はいいですかー!。」

 「はーい!始まりましたよー!。」


 俺の声掛けでみんな、臨戦態勢に入る。


 「固くならないでな!ほら!笑顔笑顔!。」


 気負いすぎてる生徒に笑顔を忘れないよう声を掛ける。

 今頃、エイヘッズとネージュは校舎の外、校庭や屋内運動場、寮周辺を巡回しているはずだ。

 俺は今いる校舎三階から、一通りくまなく一階入り口まで巡回する。

 三階を回り二階に降りると来場者がチラホラ見受けられるので挨拶をする。

 いよいよ活気づいてきましたよ。

 やはり朝いちばんという事で、飲食をやってる所に入る人が多いね。

 

 「いらっしゃいませー!。」

 「ようこそ!おいで下さいました!。」

 「ありがとうございまーす!。」

 「コーヒーとトーストセット入りまーす!。」


 いいねー!コーヒーの香りや、焼いたパンの香りが漂って朝の商店街のような雰囲気がしてくる。

 あの、人々が一日の始まりに動き出す独特の活気を感じる。

 起き抜けの怠さを払拭する感じね。

 そんな朝のひと時を肌で感じながらも巡回を続けていく。

 一階に降り周回し校舎内の巡回は完了、外に出るとちょうどエイヘッズとネージュがこちらに向かって来る所だった。

 

 「お疲れっす。異常なしっす!。」


 元気よく言うエイヘッズ。

 

 「こっちも異常なしだ。引き続き巡回する。一巡したらフライリフたちと交代してくれ。」


 「了解っす。」


 門での歓迎挨拶を終えたらフライリフたちは休憩の予定だ。

 休憩場所は校舎三階の待機風紀委員に伝えておく手筈になっている。

 俺は基本的にはこうして学園内を見回り続ける予定になっている。

 とは言え途中途中で飯を食ったりちょっと休憩したりはさせてもらう予定ですけどな。

 俺は、寮の周辺を見回り、馬小屋を見回る。

 キットやナーハン、パシュートに挨拶をする。

 ついでにエイヘッズたちの馬にも声を掛けていく。

 馬って賢いからね、声を掛けると反応するんだよね。

 しかも、それぞれ違う反応だから面白いよ。

 ナーハンなんて、シエンちゃんに似てるもんね、声を掛けると、おう、ご苦労、てな感じだよ。

 ネージュの馬、ケイピーなんかはまったくネージュの馬らしくて妙に愛想がいいんだよな。

 不思議なのがエイヘッズの馬、アーリマーだよ。

 凛として静謐な佇まいをしてるのね。

 きっと、エイヘッズの本質ってのはそうしたモノなのかも知れないな。

 特に異常もないので馬小屋を後にして、屋内運動場周辺を巡回する。

 

「あら、トモトモ、お疲れ様です。警備巡回ですか?。」


「お疲れーアルスちゃん。巡回中だよ。異常なしであります!。」


俺はアルスちゃんに敬礼をして見せた。


「うふふ、ご苦労様です。今日の歌劇は観に来てくれますか?。」


「うん、警備しながらだから後ろからになるけど、必ず観るよ!楽しみにしてるんだよー。」


「あらあら、嬉しい。今回もエイヘッズ君が脚本と演出を手伝ってくれたんですよ。」


「あいつも多才なやっちゃなー。多分、あいつ、演技の才能もあると思うよ。」


「うふふふ、実際に演出で演技指導してますけど、なかなかなものでしたよ。彼、いつも明るくしてますけどそれも演じているフシがありますものね。」


「アルスちゃんも気づいた?あいつ、たまにすごく孤独な目をする時があるんだよね。なんか、ほっとけないんだよね。」


「それはきっと、トモトモに似ているからですよ。」


「えっ?・・・そう?。」


「はい。それに彼の事をほっとけなく思っている人はたくさんいますよ。ネージュもそのひとりですしね。」


「ああ、そうだねあいつモテるからなー。でも、ネージュとやりあってる時が一番生き生きしてるんだよな。」


「はい。」


アルスちゃんがお母さんのような笑みで答える。

この笑顔、なんかすごくホッとする。


「アルスちゃんの笑顔に癒されたし、巡回を続けるよ。」


「あらあら、もう、トモトモったらお上手ですこと。頑張ってくださいね。」


「あいよー。」


アルスちゃんは屋内運動場の中に戻っていった。

もしかしたら、俺の気配を感じ取ってわざわざ出てきてくれたのかもね。

仲間ってのはありがたいですねー。

屋内運動場の周囲を回ったら次は校庭だ。

おっと、朝一番から釣り堀にお客さんがいるぞ。

釣りクラブの子達が忙しそうにしてるよ。

アウロさんも道具を並べたりするのを手伝いながら、クラブ員といろいろ話をしている。

どうやら、早い客入り状況にビジネスとしてイケると見てもらえたのか、熱心に話をしてくれている。

こちらも、本当にありがたいよ。

釣りクラブ部員たちには、この学園祭を通して是非、成功体験を味わってもらいたい。

そうして、校庭の巡回をし学園入り口の門へと歩みを進める。

入り口近くは模擬店の店舗を出すにも好立地なため、小規模屋台で複数出店している。

来場早々のお客さんが並ぶ屋台を巡回していると、怒声が聞こえてきた。

あちゃー、早速トラブル発生ですか。

見ると、クラス出店のクレープ屋台の前で大柄な男が二人、がなり立てている。


「お代を払ってください!。」


「うるせー!こんな不味いもん食わせて金を払えってなどういう了見じゃ!。」


「こっちが慰謝料貰いたいぐらいだぞ!おうっ!。」


「失礼、私はこの学園の教師をしています、クルースというものですが。どうされました?。」


「あっ!先生!助けて下さい!この人達がお代を払ってくれないんです!。」


「それは困りましたね。物を買ったら対価を払う、これは常識ですよ。なぜ、支払わないんですか?。」


ひとまず俺は丁寧に尋ねてみた。


「このヤロー!常識だぁ?不味ければ払わないのも常識だろうが!。」


「そうだ!こんなもんに金が払えるか!!。」


この二人は幾つくらいなのかね、ティーンエイジャーだと思うけどね。

イキリ倒しちゃいるが、声に幼さが残ってる。


「いや、このクレープは評判いいんですけどねー。どれを頼まれました?。」


「俺はイチゴ生クリームだ!。」


「俺もだぞ!。」


またカワイイもの食べたなー。 


「それは、一番評判がいいものなんですけどねー。ちょっと、俺にも同じもの一ついい?。」


俺は屋台の男子生徒にお金を渡してイチゴ生クリームを作って貰う。


「はい、どうぞ。」


「ありがとう、それじゃあ、と。」


俺は少し先の屋台から母親らしき人物に手を引かれて、遠巻きにこちらを見ている小さな女の子に近づいて行った。


「今日はよく来てくれたね。ありがとうね。ちょっと、怖い思いさせちゃたかな?」


「ううん!大丈夫!パパのお店にもっと怖い人たち来るもん!。」


「こら、キャミー。すいません、居酒屋をやってるもので、荒っぽいお客さんが多くて。でも、皆さんいい人たちなんですよ。」


ふふふ、お母さんたら多くの人が注目してるもんだから、照れて良く解らない言い訳してますがな。


「ええ、わかりますよ。私もそうしたお店にはいきますからね。キャミーって言うのかい?。」


「うん!キャミーもねー、もう少し大きくなったらここに通うの!その時はよろしくね!。」


「そうかそうか!その時はよろしくね。ちょっと、お騒がせしちゃったから、これをあげるね。食べてみて。」


そう言って俺はキャミーにイチゴ生クリームクレープをあげた。


「いいの?。」


「はい、どうぞ。」


キャミーは母親も了解したのを確認するとクレープを受け取った。


「どうだい?美味しいかい?。」


クレープをほおばったキャミーは満面の笑みを見せた。


「美味しいーーー!すっごく美味しいよっ!ママも一口食べて!。」


「どうれ、あら本当!美味しいですよ!。」


「それは良かった!ありがとうございました。」


俺はそういってポカンとしてるイチャモン二人組の所に戻った。


「今の見ました?。」


「見たけど何だってんだ!。」


「いや、だったら美味しいって事がわかって頂けたかと。」


「だったらなんだってんだよ!。」


ありゃ、開き直りましたか。


「センセー。ダメだってこの手の輩は。言ったってわかんねーって。」


おっと、エイヘッズがイキリ二人組の後ろからヒョコっと顔を出した。


「お代はもう頂いたから。迷惑料込で。」


そういってエイヘッズは手に持った巾着を屋台の生徒に投げ渡した。


「あっ!テメー!そりゃ、俺の!盗みやがったな!。」


「そんな、人聞きの悪い。お代を頂いただけでしょうに。」


肩をすくめて言うエイヘッズ。


周囲で見ていた人たちの間からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

顔を真っ赤にした二人組が大きな声を出す。


「テメー、もう許さねー!。」


「調子に乗りすぎたなー!学生の分際でよーっ!。」


ありゃ、巾着を取られた若者はエイヘッズに、もう一人は俺に向かってきましたよ。

しかし、多少はケンカ慣れしてるようだが基礎体力がなっちゃいない。

俺は殴りかかってきた若者のパンチを手で受けてからひねり上げた。


「いててて、離しやがれ!。」


いかにもチンピラといった感じの受け答えだなあ。

エイヘッズの方はと見ると、既に相手のバックを取って肩に手を置いている所だった。

肩に手を置かれた男は体をビクンと硬直させてそのまま倒れこんでしまった。


「はい、いっちょあがり、と。」


どうやら、雷魔法で気絶させたようだ。

器用なやっちゃで。


「おーい、エイヘッズ。さすがに全財産はやりすぎだぞ。物の破損もないし、適正料金を頂いて後はお返ししなさいよ。さてと、じゃあこいつらは段取り通りキーケちゃんとこ連れて行こうか。」


「へーい、しょうがねーなー。じゃ、代金取ったら巾着かえしてちょ!。」


エイヘッズがまた、おどけた感じで屋台の生徒に言い、生徒は巾着から代金分を取り、エイヘッズに巾着を返した。


 「はい、センセ。これでいいっしょ?。」


 巾着を倒れてる男の腰に付けるエイヘッズ。

 しかし、馬レースの時にフライリフに一杯食わせたあの手口といい、こいつの手先の器用さはプロのスリレベルか?

 まあ、こいつは結構義侠心のあるやつだから、えげつない悪用はしないと思うが。

 さてと、先ほどエイヘッズと言ってた段取りってのは、こうした狼藉者が現れた時に衛兵さんに引き渡すほどでもない場合の処置なのだが、キーケちゃん率いる武術クラブの本日の出し物、組手、演武をやっている中庭の会場にて確保して、部員と共に汗を流すことで心を入れ替えて貰おうという、素晴らしい段取りの事なのだった。

 この話をキーケちゃんにした所、それは良い案だ、そういう奴らは力が有り余っておるものだから、きっと楽しい事になる、と大乗り気だった。


 「よし、じゃあ武術クラブの会場に連行するとしようか。ほれ、キリキリ歩け。」


 「いって!なんなんだよ!どうしよーってんだよー!。」


 相方が気を失って不安になったか、ちょいと泣きが入ってきたな。


 「きひひひ、ちみ達みたいに力が有り余っている若者を歓迎する場所に行くんだよー、きひひひ。」


 エイヘッズがキーケちゃんの笑い声を真似て言う。

 よーし、本日最初の新兵訓練ですよ。

 キーケちゃんが喜ぶぞー。


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