表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
12/1108

新聞紙って素敵やん

 オカシスの街はとにかく大きかった。

 元々都会があまり好きではない俺は街に入った瞬間ウンザリしてしまった。

 人が多い!とにかく人と馬車が行きかっている。ハティちゃんはビックリして興奮していた。


「いや、凄い人ですね、こりゃ」


「ウム、人の集まり具合は王都に匹敵するのである!だが、街の大きさは王都の方が上である!」


 うひゃー。まいっちんぐ。馬車が渋滞起こしてノロノロ運転だ。


「ちょっと失礼するである!」


 そうスーちゃんが言って馬車を降りる。トイレにでも行くのかなと思ったら手に新聞を持って帰ってきた。


「買ってきたのである」


「おー、さすが新聞記者。どう?なんか面白い記事載ってる?」


「少し待つのである。ふむ。ネズミの大量発生による水質汚染の浄化作戦で見られた衛兵隊と冒険者の共同作業成功のカギとは?ふむふむ、デンバー商会会長に尋ねる、これからの商会の在り方とは?ふーむ、特に目を引くものはないのである」


「もしもし、失礼ですがオゴタイのスウォン記者御一行様でしょうか?」


 馬に乗った衛兵さんに突然声を掛けられる。


「そうである」


「お話は伺っております。よろしければ詰め所までご案内いたします」


「ありがたいのである。まずは教会に寄りたいのであるがよろしいだろうか?」


「ええ、勿論です。教会は詰め所のすぐ近くです、ご案内いたします」


 というわけで衛兵さんに教会まで先導してもらうことになった。

 教会と詰め所は本当に近くにありどちらも街の中心部だった。


「では、御用がお済みになったら詰め所までおいで下さい」


 そう言うと馬に乗った衛兵さんは去って行った。


「しかし、道が混んじゃってまいっちゃうね」


「大きな都はどこもこうしたものである。さあ、教会へ入ろう」


 馬車を停めてみんなで教会に入ると入口にシスターがおり、オウンジ氏が要件を告げると奥の部屋へと通された。

 奥の部屋には司祭らしき初老の男がおり、彼がこの教会の責任者であるとの事で話が進められた。

 明日の夕方、予定通り王都西大聖堂にて首座司教が直接会ってくれるという事、そして今晩はネムハマ湖畔の街ネムツマの教会に宿泊できるように段取りをつけてある事が告げられた。

 我々は感謝を述べて教会を出て詰め所へと向かった。

 詰め所は教会から目と鼻の先程の近さにあるので馬車はそのままで歩いて向かった。

 詰め所でもやはりそこの責任者に話を聞かせてもらったのだが、海岸で釘まみれの舟が打ち捨てられているのが発見されたくらいで特に進捗はないようだった。

 現在は診療所や医療品販売所に聞き込み捜査をしているとの事だった。また今後の動きとしてモミバトス教上層部からの情報提供などもあり、近々ビエイナにあるモミトスの発見者教団本部にがさ入れできる可能性が高まっている、あと一押しとなる証拠や情報があれば。との事だった。

 スーちゃんが、そういう事ならばこれは自分が追っていた教団資金の流れについてまとめたものなのでお役に立つようならばと言ってメモ帳を衛兵さんに渡していた。

 そうして我々は詰め所から出るとオウンジ氏とハティちゃんを荷台に乗せて運転は俺、助手席にスーちゃんの布陣で出発となった。街中は混んでいるので馬車にはリッキーも入れた二頭立てでのセットとした。馬車引き用のベルトはリッキーのサドルバッグにいつも入れてるのだそうで、ジーフサ川大橋を即席ウォーワゴンで渡った時もそれを使って二頭立てにしたのだとか。

 馬車を運転しながら俺はスーちゃんに言った。


「いいの?メモ帳。商売道具じゃないの?」


「いいのである。すでに本社へは送っている情報なのである。それに全て頭に入っているのである!」


「凄いなスーちゃんは。しかし本社へ送るっていつの間によ?」


「ふふふ、新聞社には必ず伝書鳩がいるのである。ちょっとした隙間に何時でも送れるのである!」


「へー、でも伝書鳩なんてどこにいるのよ?」


「呼べば近くにいるやつがすぐにくるのである。呼んで見せるであるか?」


「おっ!やってみてよ!」


「よろしい。キューーーーイ!」


 スーちゃんが口をイーっとやって甲高い口笛を吹いた。リッキーちゃんを呼んだ時の指笛とは違うものだった。


「おーーーっ!」


 上空を回っていた鳥がこちらに降りてくるのが見える。

 ファサッファサッ。

 静かな羽音を立てて俺の肩に鳩が止まる。俺は思わずビックリしてのけぞってしまう。


「プスッ」


 微かな音がして何かが鳩に当たる。

 鳩が俺の肩から落ちて細かく痙攣している。

 俺はとっさに馬車を道のわきに寄せて停めた。


「ちょっと、これを見てくれよ」


 俺は鳩に刺さった針をスーちゃんに見せた。丸めた布に刺さった針。


「ムムム。これは、吹き矢である。鳩のほうは、呼吸はしているようである。眠り薬か麻痺薬かその辺りであろう」


「しかし、こんなもん、さほど飛距離はないでしょ。いったい誰が?」


「わからぬ。すれ違う人か露店の人か。これだけで済むとも思えぬのである」


「まあ、そうだろうな。街を出るまでが勝負だな」


「さて、どうされるクルース殿」


「うむ」


 ひとまず俺はオウンジ氏に事情を話し、ハティちゃんと一緒に布を被って荷台で姿勢を低くしてもらうことにする。

 荷台四方には幌セット用のポールを立てるための金属製の筒がある。

 荷台前方左右にポールを立てて敷き布を張る事で後方からの攻撃を防ぐ。


「さてと、スーちゃん新聞貰うぜ」


 俺はスーちゃんから新聞を受け取るとクルクル丸めて筒状にした。ハエなんかを叩く時に作るあれだ。こいつで飛んでくる吹き矢を叩き落とす寸法だ。


「スーちゃん。こっからはスーちゃんの協力が必要だ」


「吾輩であるか?」


「そうだ、スーちゃんの風魔法。あれをお願いしたい」


「サウンドコレクションであるか」


「そう、それよそれ。ここから街の出口まで前方に向かってその能力を維持してもらいたい。そして発射音がしたらその方向を教えてもらいたい」


「ムムム。そうなるとかなり広範囲であるな」


「そうだな、でも距離的にはそんなに広げなくてよいよ」


「わかった。やってみるのである」


「よし。では皆さん用意はいいですね。出発しますよ」


 そうして俺はノロノロ運転の馬車の列に再び加わったのであった。


「右である!」

「あいよっ!」


「右!」

「ういっ!」


「左!」

「おうっ!」


 右か左か言ってもらえるだけで随分違うもんだ。俺は順調に吹き矢を叩き落とす。

 段々と吹き矢の筒を下ろす人の姿も確認できるようになってくる。

 おっかねーのは吹き終えた筒を下ろした人が何食わぬ顔で日常に戻っている事だ。

 道を進む我々が襲撃を受けているだなんて我々と加害者しか気づいていないのではなかろうか。

 下手をすれば加害者自身も気づいていない可能性もあるな。

 指導者的な立場の者から道具を渡されて、我々を見かけたらこれを向けて吹きなさいと、それだけを言われ何も考えずそれに従っているのであれば、なんの加害者意識も罪悪感も感じないで日常に戻っている姿も多少は理解できる。まあ、多少だが。


「右からふたつ!」

「左前方!」


 丸めた新聞も段々ザクザクになってきた。

 前方に露店の切れ目とその先に街の出口が見えるのだが、いかんせんノロノロ運転が続き焦れったいったらないわ。

 スーちゃんの指示に従い吹き矢を叩き落としていく。

 そうしてやっと露店も途切れ、道に人もいなくなってくる。

 さてと、ひと安心かな。スーちゃんにお疲れさんと声をかけようとしたその時。


「前方馬車!」


 前からくる馬車の御者が筒を構えていた。

 発射された吹き矢をボロボロになった新聞で叩き落とす。


「ふいーーーっ!。スーちゃんお疲れっ!いい仕事だったぜっ!」


「フーーっ。しんどかったのである」


 そうして俺たちは何とか無事に街を出ることができたのだった。

 街を出て少し走ってから馬車を道の脇に停める。


「後ろのおふたりさん、お疲れ様です。街を出ましたからひと安心ですよ。ただ周りに吹き矢が転がってるので注意して下さいね」


 俺はふたりの被っている布をそっとはずした。布の上には吹き矢が幾本か転がっている。


「大丈夫でしたか?刺さってませんか?」


「ええ、私もハティも大丈夫です。まあ、ハティは寝てしまいましたが」


 寝息を立てているハティちゃん。うん、大物になるな。


「ただ、ハティが少し気になる事を言ってまして」


「なんて言ってたのですか?」


 俺は荷台の上に散らばる吹き矢を集めながら聞いた。


「ええ、急いでもっと急いで、と」


「ふーむ。スーちゃん聞いてたぁー?」


「聞こえていたのである」


 御者台後ろに張ってあった敷き布を外しながらスーちゃんが言う。


「どう思う?」


「ウム。何とも言えないが、念の為にリッキーはこのままにして二頭立てで進むのが良いと思うのである」


「そうしてもらえるとありがたいな。オウンジさんもそれでよろしいですか?」


「ええ、お願いします」


「さてと、スーちゃん、これはどうしたものかね?」


 俺は回収した吹き矢を見て言った。


「このまま放置するのは危ないのである。穴を掘って埋めるのである」


 という事で俺とスーちゃんで穴を掘って吹き矢を埋めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ