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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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賑やかすぎるって素敵やん

 確かに、フライリフが自慢するだけのことはあってとても美味しいポトフだった。

 いや、ポトフだけじゃないよ、出てきた料理はすべて、しっかり丁寧に作ってあることが良く分かるものだった。

 まったく、フライリフの奴は思わぬ特技を持ってるものだな、俺とアルスちゃんはしっかりと堪能させてもらったのだった。

 子供たちの賑やかな声は、昔の事務所での食事を思い起こされて楽しくなる。

 最近じゃ、ケインたちもすっかりお兄さんお姉さんになってきたからなあ、しかも、食堂は集合住宅内に併設されたものときてるから、以前のような狭いながらも楽しい我が家感は薄れてしまったもんね。

 まあ、それは仕方のないことなんだけどね。

 何かを得れば何かを失う、それはモノの道理ってやつだ。

 子供たちは確かにシスターが言っていたように、自分のことは自分でやるし、年上のものが小さい子の面倒をよく見ていて、俺とアルスちゃんは大したものだと感心してしまった。

 子供たちが食器をかたずけていると、アルスちゃんが何やら感じ取ったようで俺に話しかけてきた。


「トモトモ、何者かが敷地内に侵入してきたようです。」


「了解、見に行こう。」


 俺は、アルスちゃんの声の調子に余計な質問はせずに従った。

 なるべく音を立てずにアルスちゃんについて外に出る。

 外に出ると、何人かの男が集まって教会の庭を掘っている。

 アルスちゃんを見ると俺を見てうなづいている。

 わかった、行くか。

 俺とアルスちゃんは同時に出る。

 俺はアルスちゃんが目で示した二人のうち、後に見た方の男、背の高い細身の男に帯電させた水弾をぶつける。

 直後に細身の男の隣にいた恰幅の良い男の腹にパンチを入れる。

 向き直るとアルスちゃんは3人を地面に沈めてたところだった、やっぱ敵わないねーアルスちゃんには。

 残りは4人。


「な、な、なんだ!。」


 声を出した男はどこかで見覚えがある。

 誰だっけっかと思ってたら、庭を掘ってた男が懐から単一電池くらいの大きさの何かを取り出し、俺に向かって投げてきた。

 俺は咄嗟に得意の空気弾で撃ち落とす。


「いけない!トモトモ!。」


 アルスちゃんの声がする。

 ありゃ、ヤバかったか?

 撃ち落とした何かは砕けて煙が立ち、煙はすぐ消えたのだが妙にウネウネした巨木が突然現れた。


「ドリフィドです!気を付けて!。」


 現れたうねる巨木はツタを出すと周りにいた男どもを捕らえて持ち上げた。


「あぎゃぎゃぎゃ、なんで私を!。」


 今も声を上げた男、思い出したよ。

 昼間来てたちょび髭男だ!


「トモトモ!火を使うと爆発します!気を付けて下さい!。」


「ありがと!。」


 俺は風魔法で圧縮した空気カッターを連発し、男たちを捕らえていたツタを切断した。

 同時に土魔法で精製した硬度の高い鉱物を散弾のようにドリフィドに放つ。

 ドリフィドの幹に大きな穴が穿たれるが、再生していく。

 あらら、どうやら再生速度がお早い様子。

 火をつけると爆発するって言うし、さてとどうしたものか。

 俺は前世界で聞いた話を思い出していた。

 配送の仕事をしていた時の同僚の話を。

 その人は大手農薬メーカーで勤めていたのだが、わけあって退職し何故か食品配送なんてやっていたのだが、その人から聞いた話では、当時、環境保護の観点から農薬を使わない、環境に負荷をかけない除草というのが研究されていて、その人は電気を当てることでの除草を研究していたのだとか。

 適度な電流を流すことで発火しない程度の熱を加え植物の根まで枯死させると言うのだ。

 その人は真面目過ぎて飛んじゃっているような所があったので、他の社員達からはちょっとあれな人扱いされていたのだが、俺は、映画や小説や音楽の話で重なる所があったもんで、良く話をしていたのだった。

 その人が話していた事が実際に商品化されニュースになったのは、それから随分経ってからで俺はもう別の仕事をしていた時だった。

 これならいけるだろ!俺は心の中でその時の同僚に感謝した。


「食らえ!。」


 俺はドリフィドに向けて断続的に威力調整をした雷を食らわした。

 威力を抑えたものを何度も何度も。

 空気が帯電しバチバチと音を立てる。

 頼むぜマジで。

 アルスちゃんはツタに拘束された男たちを新たなツタが届かない所に寄せている。


「いっけーーーー!!。」


 俺は体内で錬成した魔法の気をフル回転し、断続的に電流を流し続ける。

 これは結構、地味にキツイですよ。

 なんつーの?もう飲めませんって位、酔いが回った状態からチビチビとウイスキー飲んでるみたいな?吐きそうなの堪えながらみたいな?

 それでも、ジリジリと、いつかは終わりが来るんだと信じて進む。


「ありがとう、トモトモ。良くやってくれましたね。」


 アルスちゃんはそう言うと、ゆっくりとドリフィドに手を添えた。

 アルスちゃんの手が一瞬光ると、ドリフィドはくすんだ色になり、カサカサと崩れ去った。


「なんだ!え?先生!。」


 フライリフが駆けつけてきたようだ。

 まったく、どういうことかはちょび髭氏にゆっくり聞こうではないか。

 俺たちはツタに絡まれた男たちを教会へと運び込んだ。


「で?何をしていたのかな?。」


 俺はちょび髭氏聞くが、ちょいとばかりしんどい目にあったもんで少しばかり気が立っており口調も強くなってしまうがそこは勘弁してもらいたいと思う。


「黙ってたらわからないじゃないの!ええ?あなた!昼間来てたでしょ?お金なら耳をそろえて返しましたよね。物騒なものまで持ち込んで、一体全体何のつもりですか?。」


「せんせーい、まったく、人がいいったらないなー。怒ってるのにそれですかい?何のつもりですか、なんて悠長だなあ。」


 フライリフに言われちまった。


「うふふふ。そこもトモトモのいいところなんですから、ね?。」


「およよよ、やっぱりアルス先生って。」


「うふふ、その先はお静かに。ね?。」


「おうふっ。スンマセンした。やっぱ一番おっかねーのってアルス先生かも。トモちゃん先生、お気を付けてね。」


「何言ってんだフライリフ。アルスちゃんはうちらパーティーの良心なんだから。」


「やっぱりトモちゃん先生、並みじゃないっすね。でも、悪党相手にするにはちょいと甘いかな。おい。ちょび髭のおっさんよ。そう言えば、昼間も些か強引な話の進め方だったよな。どういう事なのかねえ。衛兵さん呼ぶのが先かな。それとも、あれか、ハナディッチさん呼んで損害の賠償請求した方が良いかな?。」


 ちょび髭男の顔色が変わる。


「お、おい、何を。ハナディッチのバックに誰がついてんのか知ってて言ってるのか?。」


「さあ、どうかな。」


 手を頭の後ろに組んで余裕の態度のフライリフ。


「・・・、わかった。わかりましたよ。すべて話します。」


 ちょび髭男が首をうなだれて言うにはこういう事だった。

 ある男が借金のかたに語った話、それは3年前のウルイザ邸強盗事件の事だった。

 複数犯で行われたその犯罪、その男の担当は逃亡の手助けと盗んだ金品を隠すことだった。

 ところが計画がおかしくなったのは逃亡後の事で、疑心暗鬼に駆られた実行犯の連中は互いに争い結局連絡がつくものは一人もいなくなってしまった。

 恐ろしくなった男は盗んだ金品を独り占めにすることもできず、今日まで胸の内にしまい続けてきたのだと言う。

 しかし、過去のそうした事実に押しつぶされ、日々の生活は乱れ、ギャンブル、酒、といった具合に金遣いは荒くなり借金が増え首が回らなくなった末、こうしてすべてをぶちまける事になったのだった。


「それで、その隠し場所ってのが?。」


「はい、こちらの教会の庭だったわけです。この教会はホーク団の初代リーダーの出身地ですので、よく出入りしてますし、今日もいましたから念のため荒事が得意なものを集めて、更に念には念を入れて邪法具も持参してきたのですが。」


「危うく自分たちも魔獣の餌食になるところだったって訳かい?。」


「はい。申し訳ありません。」


「なるほどね、返済を迫るのがやけに性急だと思ったら、そんな理由があったわけね。とっとと立ち退かせてゆっくりとお宝を掘り出したかったわけね。さて、どうしたものかね?どう思う、先生?。」


「そりゃ、非合法なお金だからねえ。とりあえず、衛兵さんを呼んだ方が良いでしょ。」


 俺はフライリフに答えた。


「やっぱり?んじゃ、ちょっくら行ってくるから、先生たちはこいつら見張っててもらっていいっすか?。」


「おう、任せとけ!。」


 てなわけで、フライリフが衛兵さんを連れて来て、教会の庭を掘り返すといかにも宝箱って感じの木箱が発見され、開けると中には金銀財宝が入っていたのだった。

 衛兵さんは、ちょび髭男たちを連行しこの財宝はウルイザ氏に確認してもらい、確かに3年前の事件の品物だと判明したならば、それなりの褒賞があることでしょう、またなにかあったら詰め所にご足労願うこともあるかもしれません、その時はよろしくお願いします、と言い帰っていったのだった。


「まったく、先生たちといると退屈しないねー。」


 フライリフがいたずらっぽく言う。


「いやいや、これはフライリフ絡みのドタバタだろうに。まあ、誰も怪我がなくてよかったけどね。」


「へへ、まったくだ。ホント、先生たちには色々と世話になっちまったな。」


「うふふ、そんな大したことはしてませんよ。ご馳走してもらったお返しになれば幸いですよ。」


「そうそう、まあ、気にするなって。」


 アルスちゃんと俺はフライリフに言った。


「ホント、ありがとうね、先生。」


 感謝するフライリフを眺めるラスウェイブさんの目は、成長した子を見て安心する親の目だった。

 うんうん、いいね、こういうのって。

 これにて一件落着!


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