恩を返すって素敵やん
フライリフに連れられて俺とアルスちゃんが行ったのは、古ぼけた教会だった。
敷地も建物もそこそこ大きいが、どうにも古ぼけた雰囲気がするのはなんでだ?
うーん、過度な装飾品がないからか?
「ほら、先生!入って入って!。」
フライリフに促されて中に入ると、広い礼拝堂があり奥の祭壇で初老のシスターが何やら教えているのだろうか?身振り手振りを交えて、話しをしている。
「ですからね、みんなももう少し大きくなったらチルデイマ学園に行って、立派にお勉強をして、あら?フライリフ?フライリフが来たよ、みんな。今日の授業はここまでにしましょう。よく来たね、フライリフ。また、危ない事をしてないだろうね?。」
「してないって。今日は学園の先生も一緒なんだ。こちら、俺っちの担任、あっ!副担任だった。その副担任のトモトモちゃん先生とアルス先生。先生、こちらはシスターラスウェイブ、俺っちとスニーはここ出身でね、いわばラスウェイブ先生は俺たちの親代わりって訳。みんなは元気にしてたかー!。」
「わーー!フラ兄ちゃん!。」
「フラちゃんお帰りー!今日はスニー姉ぇはー?。」
「アニキぃーお帰りー!。」
まあ、礼拝堂のイスから子供たちがワラワラとやって来てフライリフに抱きついたり、手を引っ張ったりしている。
「どうも、ラスウェイブ先生、フライリフ君のクラスの副担任をしてますクルースです。」
「こんにちは、わたしもチルデイマ学園で教師をさせてもらっています、アルスです。よろしく。」
「あらあら、どうもご丁寧に、私はラスウェイブです。この教会で司教をしています。と言っても、司祭も助祭もいないのですけどね。おほほほほほほ。」
「あら、ではおひとりでこの子達の面倒を見てらっしゃるのですか?それは、なんとご立派ですわー。」
アルスちゃんが親戚のおばちゃんみたいな口調で感心している。
たまにあるんだよね、おばちゃんモードに入る事。
「いえいえ、この子達には自分の事は自分でするように言っておりますし、年長の子が年少の子の面倒をよく見てますから、私がする事なんてたかが知れてますよ。フライリフほど手のかかる子もいませんしねえ。」
「あらあら、まあまあ。うふふふ。そうでしょうねえ、フライリフ君たら、本当にやんちゃですからねえ。でも、学園じゃあみんなから頼りにされてるんですよ。リーダー気質ですよねえ。」
「あらあ、そうですかー。それはそれは、嬉しいですよう。本当にねえ、あの子とスニーはヤンチャでヤンチャでねー。あんまりヤンチャなものだから、二人合わせてヤンチャーズだなんて言ってたんですよ、本当に。」
どうにもこうにも親戚のおばちゃんが集まってしまったようだぞ、これは。
「先生よー、ちょっと買い物行って来るからー、誰かついて来てくれない?。」
「おう、じゃあ、俺が一緒に行くわ!。」
「トモちゃん先生来てくれんの?んじゃ、アルス先生、子供たちの相手頼んでいいかい?。」
「はいはい、任せて下さいなー。」
「じゃあ、行こうか先生。」
「買い物ってどこに行くんだ?。」
「ああ、服屋と食料品店ね。あいつら、成長速いからねー。」
「お前、良くこうしてるのか?。」
「ああ、まあ、そうね。バイト代入った時なんかにね。」
「お前、偉いな。」
「よしてくれって、そんなんじゃねーしさ。俺っちもそうして貰ってきた訳だしさ。返してるだけよ、ホント。」
軽妙な調子でそんな事をフライリフは言うが、こいつは、本当に漢気のあるやっちゃな。
「よし、それじゃ、食料品は俺が買うよ。手土産ひとつ持たないで来たからなあ。」
「いいの?悪いねえ、お礼のつもりで呼んだんだけどねえ、まあ、飯くらいは食べてってよね。俺っちの作る飯、結構評判なのよ。」
「お前が作るのか?おいおい、大丈夫だろうなー。」
「あれ?疑っちゃってる?こう見えても俺っちのポトフは人気メニューなのよ、マジで。」
「ほー、そいつは楽しみだ。」
「心がこもってないねー。ま、食べればわかるさ。」
2人で話しながら歩き服屋に着く。
フライリフはひょいひょいと選んでごっそり買った。
「結構な量だなあ。」
「でしょ?だから手助けが欲しかったのよ。先生がいてくれて助かるよホントに。」
「そうか?ならよかったけれど。さて次はどこに行く?。」
「次は食料品店ね、すぐこの先さ。」
そうして到着した食料品店、俺はこの際だから遠慮せずにどんどん買えと伝えると、じゃあ、あいつら食べ盛りだから遠慮なく、と本当に遠慮なかったけど子供たちの喜ぶ姿を思い浮かべりゃ安いものだよ。
大荷物を抱えて俺とフライリフは教会に戻った。
「・・何度も言ってるが、これ以上待てないんだよ。今日、やらせてもらうからな。」
「そんな、利息分はお払いしました!。」
「もう、利息分だけじゃ元金減らないでしょ?いつまでもそれじゃ困る訳よ。これも以前から伝えていたはずですよ。」
教会の方から声が聞こえる。
「やべっ、先生!急ぐよ!。」
俺は走るフライリフに続く。
教会が見えると、ラスウェイブさんとアルスちゃんが男たちに詰め寄られている所だった。
「おーいおいおい、ちょっと待ってくれよ。約束通りに金は返してるはずだよな?。」
「ちっ、面倒なのが来ましたねえ。フライリフ君、もう利息だけじゃ追い付かないんですよ。一生、利息だけを返し続ける気ですか?それにね、我々も仕事なんですよ。今日はそれなりの結果を持って帰らないとね、会長にどやされるんですよ。」
「それなりの結果ってな、具体的にどんななの?。」
「あんた、誰だい?。」
フライリフと話していたちょび髭の男が鋭い目で俺に言う。
「俺はクルース。フライリフの先生だ。で?さっきの答えは?。」
「具体的な額は、5万レインだな。」
「そりゃ、ボリすぎだろ!借りたのは3万レインだったはずだろ!。」
フライリフが言う。
「ごめんね、フライリフ。確かにそういう約束はしていたのよ。でも、無理を言って引き延ばしていたのよ。」
ラスウェイブさんが言う。
「あのね、こっちも仕事なのね。3万借りて5万返す、そういう契約なの。でも期日までに返せないって言うから利息を払って貰ってたわけだけど、それもいつまでもって訳にはいかない。今日中に返せないなら土地と家屋を頂く。我々としては十分に譲歩した結果だからね。」
「それは、そうなんですけど、でも、急すぎます。もう少しだけ待ってもらえませんか?。」
「もう少しもう少しって、いつまで待てばいいんですか?。」
「ああ、ちょっといい?5万でいいの?じゃあ、ちょっと、近くのギルドまでご一緒願えますか?一括でお返しするから。」
「駄目です、そんな事をして貰う訳にはいきません。今日、お会いしたばかりなのに!。」
「そうだよ先生!そんな訳にはいかねーよ!。」
ラスウェイブさんとフライリフが俺に言う。
まあ、そうだろう。
ただで貰うなんてのは、彼らのような人には耐えられないだろうよ。
だから俺は言う。
「ふたりとも、なにもただでってんじゃないよ。条件がある。」
「なんですか、その条件って?。」
「ちょっと、先生、どういう事だい?。」
「教会の子供たちね、彼らが年頃になったらチルデイマ学園に入学してもらう事、それとオッドウェイに近く建設されるケイトモ事務所の工房、そちらへの労働力の提供。これが条件だ。」
「いや、でも、それは、元々・・。」
「わかったよ先生!その条件、呑ませてもらう。」
ラスウェイブさんの言葉を遮ってフライリフが言う。
まったく、物わかりの良い奴だぜ。
「じゃあ、契約成立だな。では、皆さん、御足労願いますよ。」
俺は集まった男たちに言い、手近なギルドに行き冒険者カードを使って5万レイン用意し、ラスウェイブさんの金銭消費貸借契約書と引き換えにした。
そうして教会に戻る。
「本当に、なんとお礼をしたら良いのか。」
契約書を渡すとラスウェイブさんが、祈るように俺の手を取り言う。
「いやいや、そんな。」
「うふふ、トモトモもフライリフ君も役者ですねえ。」
「いや、アルスちゃん、そうは言うけど、俺としちゃ結構マジな話しなんだよね。学園はこれからもドンドン成長してもらいたい、それには何と言っても生徒がいなくちゃ話しにならない。それと、工房の件もね。これから結構な需要が見込まれるから労働力の確保は急務だったのさ。デンバー会長からも頼まれてたしね。俺にとっても渡りに船って事。」
「トモちゃん先生よう、ありがとうございました!。」
フライリフが深く頭を下げて感謝を示した。
「何言ってんだよ、俺の得になる話なんだからさ。勿論、工房を手伝ってもらえれば給金は出すよ。」
「へへ、まったくありがてーよ。あいつらに聞かせたらきっと喜ぶよ。さあ、飯の支度しちゃうからさ、あいつらと一緒に待っててよ。」
そんな訳で俺とアルスちゃんは、フライリフご自慢の料理を御馳走になる事になったのだった。




