うちの子を叱ってくれてありがとうって素敵やん
子供達が人に聞かれたくない話をするときはここでするんだと言うので、リネン室に入って俺達はユーリから詳しい話しを聞く事にした。
ユーリの話しによると、一時期、入院中の悪ガキの間で度胸試しが流行り、みな、どれだけ無茶ができるか競い出した事があったそうだ。ネクトとティピーはあほらしくて参加していなかったようだが、悪童たちの間で無茶はエスカレートしその時から看護師長さんが厳しくなったそうな。
ったくいい迷惑だな。
そんな中でユーリがチャレンジしたのが院長室へ忍び込む事だった。
先ほどの話し通り、院長室のガードは固く実際に侵入を試みて捕まった物もいる程であり悪童たちの間でもさすがに侵入は無理だろうと思われていた行為だった。
それができればヒーローだ、という訳で虎視眈々と機会を伺っていたユーリだったがその機会は偶然訪れた。
いつものように暇を持て余していたユーリは見た事のない制服を着た男達が病院内を移動しているのを発見した。
近くをついて歩くと看護師長とその男達の会話から、彼らが内装業者であり院長室の改装に来たことがわかった。
これはチャンスと思ったユーリは隙を見て彼らが押している大きな資材入れのカートの中に忍び込んだ。
「あんた無茶するわねえ」
「だろ?俺って無茶する男なんだよ」
呆れるように言うネクトに自慢げに言うユーリ。うーむ、この年頃の子はやはり圧倒的に女の子のほうが大人だな、ネクトが呆れてるのにユーリはまったく気付いてないぞ。
ネクトの話しは続く。
荷物満載のカートに隠れたユーリは無事に院長室に忍び込むことに成功したが、院長は机に座り退出しない。
カートからは資材が次々に持ち出され、ユーリはいつ見つかるのかドキドキしながら息を殺して小さくなっていた。
すると内装工事の男が、壁紙の張替えのため接着剤を使用するので室外に出て行って欲しいと院長に言うのがユーリの耳に入った。
院長は工事の男にいつ頃まで出ていればよいのか尋ねる。
工事の男はお昼過ぎまでと答えると、院長はならば丁度良いから昼食をとって来ると言い部屋を出た。
「…絶好の機会到来ってわけさ!」
ユーリが顔を赤くして言う。
「でも、工事の人がいる訳でしょ?それに接着剤って身体に悪いんじゃないの?」
「出て行けって言ったのは窓を開けるから寒くなるからって理由だったから平気さ。問題は工事の人だけどそこは俺の秘密探偵テクニックで見つからないように外に出た訳」
「ふ~ん、すごいじゃない」
「へっへっへ」
感心するネクトに自慢げなユーリ。うんうん、ようやく報われたか。
隙を見てカートから出たユーリは素早く院長先生の机の下に隠れた。
「…見せたかったよ、俺の華麗な隠れ術。かくれんぼで散々鍛えた甲斐があったってもんさ!」
「何言ってんの、かくれんぼはほぼインチキだったじゃないの」
「あれだって、テクがいるんだよ。上手くやらないと大人に見つかれば騒ぎになるだろ?それに、ティピーは独り言が多いからわかりやすいけど、他の奴ん時は誰かが入って来た事を敏感に感じ取る力が必要なわけよ」
「な~に言っちゃって。下の隙間から覗いてただけじゃない。覗きのテクニックって言うなら認めたげてもいいけど」
「ひっ、人聞き悪い事言うなよ。それじゃ俺が変態みたいだろ!」
「あ!変態知ってる!子供を攫う人でしょ?気を付けなきゃいけないって良くお母さんが言ってた」
ネクトに不満を言うユーリだったがティピーにとんちんかんな事を言われてバカヤローと怒った。
結局、院長先生の机の下から動く事ができなかったユーリだったが机の下に落としものを発見する。
「…それがあの色眼鏡って訳さ」
「何よ、それじゃたまたまラッキーで忍び込んだはいいけど机の下から動く事もできず、そこでまたたまたまラッキーで拾ったのがあの眼鏡って事でしょ?な~んだ、たいしたことないじゃない」
「ふざけんなよー!大人だって忍び込めない鉄壁のガードなんだぞ!そこに忍び込んで手に入れたんだから十分スゲーだろーが!」
いちいちクールなネクトになんとか抵抗するユーリだったが些か分が悪いか。
色眼鏡を手に入れたユーリは、工事の男達の隙を見て廃材を積んだカートに再び忍び込み無事に院長室から脱出する事に成功する。
そして、またもや隙を見てカートから脱出したユーリはすぐに色眼鏡をつけて見た。
「そしたらどうなったの?」
「何が見えたの?ねえ?ねえ?」
ティピーとネクトが興味津々な顔をするのでユーリは少し自信を取り戻したようだ。
「ふふん、そりゃあ凄かったんだから」
自慢げに言うユーリ。
「「どうなったの?」」
ネクトとティピーの声がハモる。
「教えたげよーか?」
ユーリが勿体ぶる。
「「うんうん」」
ネクトとティピーは好奇心に目を輝かせ頷く。
「字や絵がいっぱい見えたのさ、それこそそこいらじゅうにね」
「どんな字が見えたんだい?」
胸を反らせて言うユーリにストームが尋ねる。
「だから字だって」
「字って言っても色々あるだろ?どんな事が書いてあったんだい?」
「うー、えーと、なんだったけな」
「忘れちゃったの?まったく、ユーリらしいわ」
考え込むユーリに飽きれるネクト。
「でも、色々書いてあったんだって!確か、捨てるなとか見ろとか、もうそこいらじゅうに」
ユーリは手をいっぱいに広げて言う。
捨てるな、見ろ?ふうむ、ゴミを捨てるなとか前を見ろとか風紀を正すような事が書いてあったのか?
「へえ、凄いねえ。それじゃ絵はどうだった?どんな絵が描いてあったか覚えてるかい?」
ストームは辛抱強く尋ねる。
「それは覚えてる。なんか人とか牛とかウサギとか。あと、建物の絵もあった」
「ふ~む、これはやはり…」
「ああ、メイムさんの言ってたので間違いあるまい」
俺はストームに答える。
「兄ちゃん、これまた見つけたら俺にくれよ、なあ?いいだろー?」
ユーリがストームの服をつかんで言った。
「ああ、見つけたらね」
「絶対だよ」
「約束するよ」
ストームはユーリの頭を撫でながら言う。いいお兄ちゃんだなこいつは。
「じゃあ、もういっこ秘密を教えたげるよ。これは俺だけが知ってるやつなんだけど…」
ユーリは頭を撫でられながら照れ臭そうに言う。
「…場所はね屋上なんだけどね、屋上に出てすぐ右向いて手すりのあるとこまでまっすぐ行くんだ。そこの床の板が外れるからそれを外すと近くの板が動くんだ。きっとこれなんかの秘密で間違いないと思う」
「へえ、それは凄い秘密だねえ。一緒に来て教えてくれるかい?」
「「「無理無理無理無理!」」」
子供達は揃って首を振る。
「なんで無理なのかな?」
ストームが尋ねる。
「今日は恐怖のオババがいるから無理!いないときなら付き合ってあげるけど、いる時行くと頭ガジガジされっから。そんじゃあ、頼んだぜ兄ちゃん達!」
「「頼んだぜ兄ちゃん達!」」
そう言うと子供達は手を上げリネン室から走り出て行った。
「忙しい連中だなあ」
「無邪気でいいよね」
俺の言葉にストームが答える。
「恐怖のオババってメイムさんの事だろうな」
「それで間違いないだろうね。しかし、ユーリ君の言ってた秘密の板ってメイムさんは知ってるのかな?」
「どうだろうな、とりあえず本人に聞いてみようぜ」
「そうしようか」
そうして俺とストームは再び屋上に向かう事となったのだった。
まったくいったりきたりだなあ。




