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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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院内レジスタンスって素敵やん

 アンチモミバトス、邪神崇拝者。

 ライさんは真面目な顔でそう言った。

 モミバトス教は俺の知っている限りこの世界では最大の宗教組織だ。

 それだけの組織だから当然政治的にも大きな力を持っているし、なんなら武力組織も抱えているって話だ。

 そんな組織に向かって反対組織が生まれるのも仕方ない事だろう、大体にしてモミバトス教経典にもそうした存在が台頭すると書かれてあったりする。

 前世でもそうした団体の話は聞いた事があるが、実物は反対する宗教が抱える問題点に大きく異を唱える事が目的だったりして、エンタメ作品に出てくるようなおどろおどろしい悪魔崇拝者ってのはほとんどいなかったりするのが実情だったりした。

 むしろ、いもしない悪魔崇拝者の影に怯えて魔女狩りを始め、罪を捏造し、いや酷い時は聞き取りをする子供達の記憶を捏造してまで犯人を作りあげるような愚行が80年代に嵐のように巻き起こっていた事実すらある。

 勿論、少数の自称悪魔崇拝者が残虐な事件を起こした事もあるにはあるが、それを言うなら自称神の使いが起こした残虐事件の方が余程多かったりする。

 これは良く言う旧約聖書中で悪魔が殺した人数が二桁程度である事に比べ、神の方は七桁に昇るという話にも通じて興味深い。

 更に言うなら、現在きちんとした組織として存在する悪魔崇拝集団のひとつが標榜する事は、既存の大手宗教が数限りない規則や制限を定めて人の心を不自由にしている事に対するアンチテーゼである。俺に言わせればそれはまさに人の業を肯定するものであり、素晴らしい思想だと思う。

 要するに本当にその意味を考えるのであれば目先の事に反対する、つまり向こうが殺すなと言えば殺す、盗むなと言えば盗むみたいな薄っぺらい表面的な事ではなく、対象の根っこ、優勢思想や選民思想による差別主義、終末思想からくる厭世主義権利など人の尊厳を傷つけ踏みにじる思想に対して断固ノーと答える事こそがアンチの精神じゃないか、と思ったりするのだが。

 

 「ライさん達は邪神崇拝者団体に対抗する組織であると、そう言う事ですか?」


 ストームが尋ねる。


 「対抗と言えるほど、相手の事はわかっていないけどね。病院内に蔓延しないように目に見えない病気と闘っている組織。カッコつけて言うならそんな所かしら」


 ライさんは言いゲイリーさんは小刻みに頷いた。


 「ゲイリーさん、お仕事に戻って頂いて結構ですよ」


 「しかし、彼らを信用するのはまだ早いのでは?」


 ライさんに言われたゲイリーさんは少し焦った様に言い、俺達をチラチラと見る。ライさんに警告せねばならないという気持ちと俺達への恐怖がこちゃまぜになってる感じだな。

 別に俺らなんてそんなに恐れるような相手でもねーだろーよ?ただの学生よ?

 俺はゲイリーさんの警戒心を解くべくとびきりのスマイルを浮かべる。


 「クルース君、ゲイリーさんが怯えるから」


 俺の顔を見たストームがベストスマイルを止めるよう手を上げる。なんだいなんだい、僕ちんの友好の証をばかにすんない!

 

 「大丈夫ですよ。彼らは自分の身分も目的も明かしています。ここはその誠意を受け取りましょうよ。それに、院内には仲間が多数いますからね。心配はありませんよ」


 「そうですか?くれぐれも気を付けて」


 ゲイリーさんは不服そうにそう言いゴミカーゴを持ちトビラを開け院内に戻って行った。


 「この先に職員用の休憩所があります。そこで話をしましょうか」


 「構いませんが、大丈夫なのですか?」


 ストームがライさんに聞く。そこでの会話は邪神崇拝者に聞かれる恐れはないのか?と問うているのだろう。


 「ええ、そこはうちの人間が主に利用する場所ですし、今は丁度、早番と遅番の交代時間ですから利用する人事体いないはずです」


 ライさんはそう言って建屋の外をつかつかと歩く。俺とストームもその後に続くと屋根がこしらえてある休憩スペースに辿り着く。

 

 「どうぞ、お座りになって下さい」


 俺達はライさんの近くのイスに座る。


 「タバコは?」


 「いえ、結構です」


 ライさんはポケットから紙巻きタバコを出しこちらに進めるが、ストームは断り俺も首を振った。


 「吸っても構わない?」


 「「どうぞどうぞ」」


 俺とストームは手を出し口をそろえる。ベテランコメディアンの名作芸みたいになっちまったな。

 

 「では遠慮なく。ふぅ~、どこまで話したかな?」


 ライさんは美味そうにタバコを吹かすとフレンドリーな感じで言った。


 「えーと、あなた方は病院内に邪神崇拝が蔓延しないように活動している組織である、とそこまでですかね」


 ストームが答える。


 「そうだったわね。この病院と邪神崇拝者の歴史は実は深くてね…」


 ライさんは話を続ける。声のトーンが一段低くなる。なんだか怪談話でも始めるようで薄気味悪い。

 

「病院が建設される前、この土地はハスの畑だったらしいわ。知ってる?ハスの根っこって食べれるのよ?」


ハスの根ってレンコンの事だよな?俺は頷きストームは首をひねった。


「あら、君は知らなかったの?無理もないわね、最近じゃあまり見ないものね。他に美味しいものが沢山あるから仕方ないか」


ライさんは肩をすくめる。そう言えばこっちに来てレンコン料理って見た事ないな。存在するのなら探してケイトモで売り出すかな、シャキシャキした食感を活かした料理も良いし、すりおろしても良い。俺はカレーに入れるのが好きだった。

 

 「あっと話が反れたわね。ハス畑だったこの土地を初代の院長ロナルド・アルグストが買い取って施設を立てたのが事の始まりでね。この病院は外観はきれいだけど中身はその時からのものが多くて実はかなり老朽化が進んでるのよね。元々、ハス畑だっただけに地盤は緩く水分を含んでいてね。寒暖差のある朝などは一面に霧が立ち込めてね、それはそれは不気味なんだから」


 ライさんはいたずらっぽい表情で俺達に言う。ますますお化け話じみてきたな、レンコンの霊魂だなんて言わないだろうな?


 「そんな事もあってか当初から病院で色々な怪異が目撃されてね。そのほとんどは地盤の問題だったりするんだけど、実はそれ以外にも大きな理由があってね…」


 更に声をひそめるライさん。俺達は前のめりになって耳を澄ます。


 「…当時の副院長だったのがアルグスト院長の親戚であるラザネス・アルグストでね。彼は元々モミバトス神秘学者でもあったのよ」


 「モミバトス神秘学者のラザネス・アルグストと言えば緋色の海最果ての明星団創設者のひとりですよね?」


 「あら、良く知ってるわねえ」


 ストームの言葉にライさんが感心する。


 「ちょっとゴメン。緋色のなんとかって、それ、なんです?」


 俺は初めて聞く単語にとまどい質問する。


 「緋色の海最果ての明星団ね。近代魔学とモミバトス教の教えに真っ向から異を唱え、独自の学術理論を体系立てそれに従いその普及に努めた団体さ。創設者は五人いてそれぞれ資産家、貴族などの有力者であったが皆、ハンプトンクラブの一員だった事でも知られてる」


 「ハンプトンクラブか…」


 久しぶりに聞く名前だ。

ハンプトンクラブと言えば元々は精霊学や神智学の探求者団体だったのが徐々に反モミバトス色が強くなり、しまいにはジョサイエフ家が後ろ盾になりえげつないやり方で勢力を拡大した事で知られる団体だ。

 表向きはモミバトス教の実行組織である神弟の剣協力団が動き解散した事になっているが、現在では地下組織として元気に活動を続けてる厄介な団体だ。エルスフィアではエライ世話になったもんだ。


 「そう、その中でもラザネス・アルグストは邪神崇拝に熱心だったと言われてるの。当時、病院内で医師、患者問わずに勧誘しまくり最盛期には院内にいる人の八割がラザネス信奉者だったと記録に残ってるわ。更にラザネスはこの病院の設計にも関わっており、病院内に秘密の部屋や通路を多数作ったと言う話もあるのよ。そしてそのうちのひとつは地下にあると言われているの」


 「やっぱりね、あの場所には何かあると思ってたんだよ」


 ライさんの話しを聞いたストームがしたり顔で俺を見た。俺は顔をしかめてやる。


 「私達もあの場所には何かがあると睨んでいるんだけど、今のところは何も発見できないでいるのよね。もし、君達がその秘密を暴けるのなら暴いて貰っても構わないのよ?」


 「是非とも我らにお任せください」


 ストームはにっこり笑ってもみ手しながら返事をする。怪しい営業かお前は、屋根の塗り替え進めてるんじゃないんだぞ?


 「話しは一応、理解できたんですけどね。秘密を暴くにもヒントが少なすぎるんですよねえ。ライさん達の持っている情報、もう少し聞かせちゃあ貰えませんかねえ?ここでレジスタンス活動をしてるって事はそれなりに情報も持ってらっしゃるんでしょう?」


 俺はライさんの目を見る。ライさんは俺の話しを聞いて楽しそうに目を三日月形にした。


 「それはそうだけど、私達もそれなりに苦労して集めてるのよ。情報によっては我々個人の安全が危ぶまれる可能性もあるわけ。これでも精一杯なの、わかるでしょ?」


 これは何らかの駆け引きを楽しんでいる人の目だな。


 「そうですねえ、それではこう言うのは如何です?邪神崇拝者と直接のかかわりがあるかどうかは不明ですが、昨今巷を騒がせている詐欺団体と少しばかり絡んだ事がありましてね。病院内に入る可能性のある病と考えれば知っておいて損はないと思いますが」


 俺はライさんに言う。ストームがチラリと俺を見る。俺がハンドラーの件を言い出すのではと思って牽制したんだろう。さすがにハンドラーの事を言う気はない、あれは国防軍も追ってる件で一般に出すには支障がある。

 だが、ストームの一瞬の動きをライさんは見逃さなかった。


 「面白そうな話だけど、それだけじゃあ足りないわね。もっと、他にもあるんじゃなくって?面白そうな話が?」


 ライさんはニンマリと笑って俺とストームを見る。目ざとい人だよ。


 「ではこんな話はどうですかね…」


 俺はラザインの告知教会の事を話して聞かせる。今まで実際に絡んだ事件について、それに伴い自分で調べた又はミケルセンさん達に教えて貰った教団の成り立ちや背景について、俺はざっくりとライさんに話して聞かせた。


 「なるほど、それは非常に興味深い話しだわ。邪神崇拝者にも通じるものがある、案外、根は一緒なのかも知れないわね…」

 

 ライさんは腕組みをして目を細める。


 「…でも、そんな情報を先に話してしまって良かったのかしら?こちらの情報を引き出すための武器になったのに」


 「いやあ、前金みたいなもんですよ。それにまだ詐欺集団のネタもありますしね」


 俺は言ってやる。


 「…うん、やっぱり君達は信用できる人達だったみたいね。そんな団体に対して憤りを感じるのは私達と同じ感性だわ。今度は私が誠意を示す番ね…」


 ライさんは何かに納得したように頷き俺達を見た。

 俺とストームはそれに応えるように力強く頷き返すのだった。


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