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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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七って素敵やん

 「まずはひとつ目、入り口入ってすぐに受付あるでしょ?あの受付の二番窓口の上には凝ったレリーフが飾ってあったの気が付いたかい?」


 おばちゃんは意味深な笑みを浮かべる。


 「ええ、確か海に浮かぶ船のレリーフだったと思いますが」


 ストームが答える。ちゅーかおばちゃん、地下の話からじゃないんかーーい!


 「そうそう、あのレリーフってね先々代の医院長の作品でね…」


 暇を持て余した患者のおばちゃんたちが聞かせてくれたのは、前世の俺からすればまあありきたりと言える話だった。

 まず一階窓口上のレリーフ、この下で仕事をした看護師は玉の輿に乗れるという噂。別に怖くもなんともねーし。

 んで次が二階の資材置き場、ここは誰もいないのに口笛が聞えると言う噂。近くの部屋で誰かが吹いとるんちゃうん?

 続きまして三階男子トイレ、個室に入ったはずの人がいつの間にか消えていると言う噂。ずっと見張ってたんかい。

 四階資料室、出しっぱなしにしていた資料がいつの間にか元に戻されていると言う噂。親切な人が戻してるんじゃろ。

 五階掃除用具置き場、しまったはずの掃除道具が必ず外に出されていると言う噂。今度はルーズな人がいるだけじゃねーの?

 六階リネン室、誰もいないのに女の子の笑い声が聞えると言う噂。誰もいないのに系ふたつめ、子供のいたずらやろ。

 そして屋上、カラッと晴れた日なのに干した洗濯物がしっとり濡れているという噂。続子供のいたずらやろ物件。


 「…それでね、最後がまた怖いのよ。人が消える地下室って言ってね、地下室に行った人が消えちゃうのよ、怖いでしょ~」


 おばちゃんが嬉しそうに言う。


 「あの~幾つか質問があるんですがよろしいですか?」


 ストームが人懐こい笑みを浮かべる。


 「いいよ~、何ぃ~?」


 「まず、これでは七不思議じゃなくて八不思議ですよね?」

 

 ストームが言うとおばちゃん達は互いに顔を見合わせて指を折っていく。

 ああ、俺も今言われて初めて気づいたけど確かにそうだ。


 「言われて見ればそうだねえ、なんで今まで気が付かなかったんだろう」

 「まったくだまったくだ」

 

 おばちゃん達は頷き合う。


 「この噂って昔から八個だったんでしょうか?最近ひとつ増えたんじゃありませんか?」


 ストームはにっこり笑って言う。また怪しい顔しやがって、何かに気付いたのか?俺は目でストームに問いかけるがやっこさんは知らんぷりして笑顔を崩さない。


 「そういやあ、三階男子トイレの話って前からあったっけ?」

 「言われて見れば、前はなかったような」

 「いや、そうだよ、なかったなかった!ここ最近の話だよ」


 うんうん頷き合うおばちゃん達。ストームは一瞬、当てが外れたような顔をしたがすぐに何かに合点がいったのか元の笑顔に戻った。


 「いやあ、楽しいお話しありがとうございました」


 「なんだい?もう行っちゃうのかい?」


 「ええ、そろそろ友達が戻って来ているかもしれないんで」


 「そうかい?お兄ちゃんまた来なよ?私らいつでもここにいるから」


 愛想よくそう言ってくれるおばちゃん達に会釈をし俺達は食堂を後にする。


 「おいストーム、何かわかったのかよ?」

 

 何かを考えるようにゆっくりと歩くストームに俺は尋ねる。


 「うん、まだはっきりとしたことはわからないけどね」


 ストームは顎の下に手をやり肩眉を上げる。


 「カッコつけてないで教えてくれよ?気になって仕方ねーっちゅーの」


 「七不思議って良く言うでしょ?七は幸運の数字だとか七って数字は特別視されがちでしょ?なんでだかわかる?」


 ストームは俺の顔を見て問いかける。


 「そりゃ、あれだろ?神様が世界を七日で作ったとか、神の側近の七賢者とかモミバトス教で七を神聖視するからじゃないのか?」


 俺は授業で習った事を言う。


 「確かにモミバトス教では七という数字を大切にしているよね。人が身に着けるべき七つの特質とか避けるべき七つの罪とか。でもねこの七を特別視するっていうのはモミバトス教以外にも見られるものでね、古代宗教や各地に伝わる神話、民間伝承でも七に関わるエピソードは数多くあるんだよ。例えば精霊信仰では人体の中には魔力を取り入れ強化する七つのポイントがあるとしているし、古代ナラパイヤ教では世界は七層にわかれており我々が暮らすこの世界はそのうちのひとつに過ぎないと説いている。現代魔学の父と言われるルーゼス・ファン・ボーリアンはこう言ってるよ。一から十までの数字を考える時、七は非常な特異性を持っている。均等に割る事も倍にする事も出来ないのは七のみである。つまり七という数字は孤高でありどのグループにも属する事のない特別な数字なのである。世界中の多くの民族が七を特別視するのは決して偶然ではなくそうした特異性を無意識のうちに感じ取っての事ではなかろうか、とね」


 ストームは教え子を諭すようにゆっくり丁寧に俺に語った。


 「それは面白い話しだけど、つまりはどういう事なんだよ?」


 「つまりね、こうした場所での不思議話ってのは自然と七つになるものなんだよ。普通はひとつ増えればひとつ減るのさ、さっき言ったように色々な理由により人は七を好むからね。それが減らずに語られている事に僕は不自然さを感じるんだよ、そう何か人為的な物をね」


 ストームは廊下を歩きながらそう噛み締めるように言った。


 「じゃあストームは最新の噂は人為的に付け足されたと、そう言うんだな?」


 「僕にはそう思えて仕方がないんだよ」


 「その理由については思い当たるフシがあるぜ?あの七不思議聞いたろう?地下室から屋上まですべてのフロアを網羅してたろう?逆に言えば旧七不思議は三階だけ飛ばしてたんだよ。こりゃあ誰だって付け足したくなるっちゅーもんじゃないか?」

 

 俺はゆっくりと歩くストームにそう問いかける。

 ストームは俺の話しを聞いて何かを考えるように頷くと、急に立ち止まり俺の方を振り向いた。


 「僕はね、最初、人為的に付け足されたのは地下室の噂じゃないかと思ったんだ。なぜかと言うと、まず噂のネタが被ってるでしょ?人が消えるってやつ」


 「他にも被ってるのなかったっけ?誰もいないのに何か聞えるとか」


 「人がいないのに物が動く、声が聞えるってのはこの手の噂話の定番中の定番だからね。そのどちらも現実的な説明は可能でしょ?建物の構造上の問題でまったく別の場所の音があたかも近くの場所からしている様に聞えるとか、本当は人が動かしたのだが何かの理由で名乗り出ないとかね」


 「それじゃ、人が消えるってのは?それもありがちな噂と言えるんじゃないか?」


 前世でも客の消えるブティックの噂話ってのはその手の話好きの間じゃ有名なエピソードで、亜流の都市伝説も多く出回っていたもんだ。


 「確かに噂話としてはよく耳にする類ではあるけどね、その場合、噂にのぼる場所ってのは非常に限定されているんだよ。トイレはその中でも非常に人が消える噂が立ちやすい場所なんだ。これには幾つかの理由があってね、例えばトイレってのはあまり人に出入りしている所を見られたくない場所だよね?だから多くの人は出入りするのに目立った行動はとらないようにするものだ。だから、さっき人が入ったと思って自分も入るとそこには誰もいない、なんて事が良く起こる。多くの人にとってトイレは人が消えてもおかしくない場所として認識されがちって訳」


 「おもしれ―話だな。他にどんな理由が?」


 俺が尋ねるとストームはゆっくりと歩き出した。


 「他にも古くから伝わる民間伝承でトイレは死者の世界と密接に繋がっているというものがあってね。僕はトイレの閉鎖的な空間や利用時にどうしても無防備になるところなんかが、無意識に人の心に恐怖心を与えているのではないかと考えるけどね。また、昔のトイレはくみ取り式で子供なんかは良く落っこちたらしいね。そんな事もトイレで人が消える噂の元になった可能性はあるよね」


 「なるほどなあ。だけどよう、ちょっと気になるのはお前はトイレの噂が後付けされたと言われておかしな顔をしてたよな?ありゃなぜだ?」


 「ああ、あれね、よく見てるねクルース君も。僕の推理はこうだったんだ、テリー君がおかしくなった理由は地下室にあるんじゃないかと仮定して、地下室で何かが行われているのが新しい噂の原因ではないのかってね」

 

 「つまり新しく付け足されたのは噂は地下室の噂のはずだった、と」


 「そう考えてんだけどね。でもよく考えると男子トイレの噂が既にあったと考える方が理にかなっていると気づいてね。ほら三階は小児病棟だろ?トイレの噂は子供の集まる場所で起こりやすい傾向があってね。さっき言ったように子供が落っこちやすかった過去の影響もあるだろうけど、一番の理由はやっぱり子供は大人よりも利用回数が多いからじゃないかと僕は考察するね。それに子供は不思議な話が大好きだしね」


 「そうなると、どうなるんだ?」


 面白そうに言うストームに俺は質問する。


 「つまりこういう事さ、地下室の噂は既にあった。しかし、地下室を使っている何者かは地下室で人が消えるなんて噂がたってほしくなかった。そこで人が消える系の噂をもうひとつたてて目くらましにする事にした。そう考えると自然じゃない?」


 ストームは楽しそうにそう言った。こいつ、よくよくこういう事が好きなんだなあ、ルーマーディーラーここにあり!ってなもんか。


 「確かにそう考える事もできるかもしれんが。実際に地下室に行ったが何もなかっただろう?」


 「でもどこか奇妙なものは感じたでしょ?」


 「俺はあまり感じなかったけどなあ」


 「僕は感じたもんね」


 ストームは笑顔でそう言うと歩みを早めた。


 「おい、そんなに急いでどこに行くんだ?」


 俺は速足で先を歩くストームについて行きながら質問する。


 「彼に話を聞こうと思ってね」


 ストームが指さす先にはゴミを積んだカーゴを足早に押している痩せた中年男性の姿が見える。


 「忙しそうじゃんか。わざわざ追っかけてまで話を聞く理由があんのか?」


 「僕たちの話を聞いて急に速足になったのさ。これは何かあるっしょ」


 ストームはニヤリと笑ってゴミ掃除のオジサンを追いかける。

 ただ単に仕事を急いでるだけじゃねーのか?

 あんま働いてる人の邪魔をしちゃあ悪いけども、今回の件についてはこいつの方が得意分野のようだしなあ。

 オジサンゴメン!ちょっと話を聞かせてちょーだい!

 俺はストームの後に足早に続くのだった。


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