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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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講義と調査とって素敵やん

 男子寮につくと寮の入り口付近にはテントが張られ長机が備え付けられており、インフォメーションセンターと書かれた看板が幾つか置かれていた。


 「おお、今朝まで何もなかったのに」


 「端にカバーがかかった資材が置いてあったでしょ?気が付かなかったの?」


 「そういや、なんかあったような気がしないでもないな」


 「これだもんなあ、やになっちゃうよ」


 ストームが目元に手を当てて俺に言った。ごめんね、ちゃらんぽらんで。


 「おいっす、おつかれちゃ~ん」


 寮の入り口付近で忙しそうに働いている男子生徒に向かってストームは軽い声をかける。いつものストームの調子だ。


 「あ!お前なあ、お疲れちゃんじゃねーっての!こないだのあの店なんだよ!全然ダメじゃねーか!」


 ひとりの生徒が手を止めてストームに喰ってかかった。


 「おかしいーなー?今一番熱いスポットって評判なのになあ?君の声のかけ方がダメなんじゃないのー?どんなやり方してるのよー?」


 「そりゃお前、先輩から教わったとっときのやり方でさ」


 生徒の声のトーンが弱くなる。


 「どんなやり方よ?」


 「そりゃお前、こう相手の目をジッと見つめるだろ?そんで相手もこっちを見返して来たらよう、こうやってペロリと唇なめんのよ」


 生徒はそう言って舌なめずりをして見せる。


 「そうすりゃイチコロだって言ってたのに、全然ダメだったんだぞ?やっぱあの店、そういう店じゃなかったんだろー?」


 「バッカだなあ、そんなやり方誰に教わったのよ?そんなのダメにきまってるじゃないか。ねえ?君もそう思うだろ?」


 ストームが俺に話を振って来る。


 「女の子に声をかけるのを目的にしてるのなら、それはないな」


 俺は答えてやる。


 「だっ、だったらどんなやり方がいいってんだよっ!」


 男子生徒の口調が荒くなる。


 「仕方がないねえ、本当なら別料金なんだけど今回は特別サービスだ。ガールハントの神様と呼ばれたクルース大先生のアドバイスをお聞かせしよう。さあ、先生、ひとつ教えてやってください!」


 「え?お前があのクルース?売店のディアナちゃんからホフス先生まで果てしなく広い層をターゲットに、ファルブリングの新五大女王のうち三人まで手中に収めたと言われる、あのクルースか!」


 ストームが適当な事を言い、男子生徒が俺の事を恐れおののいて見始める。なんなんだよそれ?勘弁してくれよ!


 「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな話は初耳だ、誰かと勘違いしてんじゃないのか?」


 「ケイトモ創設者で精霊お助け隊で歴史研究会のクルースじゃないのか?」


 男子生徒が俺に迫って言う。


 「それはそうだけど、ちょっとわけがわかんない事ばかりなんですけど、大体、新五大女王ってなんすか?」


 ホントにわけがわからなすぎる!ストームは俺が恋の魔法薬でも使ってるような事を言いやがるし、この男子生徒に至っては俺がディアナからマスターホフスまでターゲットにしてるとか、新五大女王の三人を手中に収めたとかなにそれ?新って旧があったの?誰がそのメンツに含まれんの?

謎が謎を呼び過ぎて俺はのけぞってそう言うのがやっとだった。


 「まあまあラージ君、噂ってのは尾ひれがつきがちなもんだよ」


 ストームがそう言って男子生徒を俺から引き離してくれる。ふぅ~助かった。


 「それじゃあ、ガールハントの神様ってのは?」


 ラージと呼ばれた生徒がストームに聞く。


 「それはホントさ、ただし彼は特定の女性とは深く付き合わない主義でね。噂になった女性たちの心は虜にしても誓って指一本触れてはいないからね。その事はご承知下さいませ」


 ストームはそう言って華麗に一礼して見せる。こいつは何を言ってんだ?


 「その噂、マジだったのかよ?身体に触れずして心の鍵を開ける、恋の大怪盗トモ・クルースってな、あんただったのか!頼む!俺にそのテクニックを是非教えてくれ!」


 ラージは俺の手を取り頭を下げる。俺は何に巻き込まれてんだ?何そのキャッチフレーズ?人をかの名高き怪盗を祖父に持つ神出鬼没の大泥棒原作版みたいに言わんといて欲しいんですけど?

 俺は混乱し言葉を発する事ができなかった。


 「クルース君、これも捜査のためだから、ね?」


 耳元でストームが囁く。


 「そんかわりお前、妙な噂流すなよ」


 「何言ってんの、僕は噂の火消ししてんのよ?じゃなきゃ、複数の女性の名前に傷がつくからね」


 「勘弁してくれ、元の噂が怖いよ」


 「いいから早く、伝授してやってよ」


 「頼む!師匠!」


 ストームの言葉に被せるようにラージが熱く言った。


 「はぁ~、仕方ないなあ。んじゃあ、基本的な事だけな?」


 「ありがとうございます!師匠!」


 ラージは俺の手を放し背筋を伸ばし頭を下げた。


 「そんじゃあまずね、女子への声かけの成功率は低いと心得よ!」


 俺は語気を強めてラージに言う。


 「え~、それなんすか?夢も希望もないじゃないっすか~」


 「バカモン!その代わり女子に声をかける事で失うものなど何もないのだぞ?それに対して得られるリターンは多くあるのだ!その事を良く考えてみよ!」


 師匠と呼ばれて俺もなんだか乗って来ちまった。

 ラージの目に希望と欲望の火が灯る。

 

「ふふふ、その目だよラージ君。その目が見たかったんだよ。君にも理解できたようだね。声かけの成功率は低い、だがリスクは低く成功すればリターンは大きい。成功を思い描き、失敗を乗り越えるのだ」


「はい!師匠!」


ラージも乗って来たようだ。話題が話題だけに成功ってのが別の意味に取られないか些か心配ではあるが話を続けるとするか。


「それだけ声かけの道は険しいものと心得よ。どんなに顔が良い男でも見知らぬ男に声をかけられてついて行く女性など滅多におらぬ、そもそも、声をかけられること自体嫌う女性も少なくない。つまりハンサムな男でも声かけの成功率は低いという事だ!わかったか?」


「「はい!」」


ラージと一緒にストームまでもが返事をする。お前はいいっちゅーの。


「師匠!成功率が低いとおっしゃられますが、具体的にどの位低いと考えれば良いのでしょうか?だいたいで良いので教えては頂けませんでしょうか?」


突然、そばにいた別の男子生徒が俺に質問してくる。


「ふむ、初心者ならばだいたい二十人程に声をかければひとりからは連絡先を聞ける、その程度と考えて欲しい」


「ううっ、それは低すぎはしませんか師匠?」


ラージが泣きそうな顔で言う。


「何を言っとる。二十人にひとりは連絡先を聞ける、そう考えてみい。一日に百人に声をかければ五人の連絡先を得る事ができる。それを十日続ければ五十人の連絡先を得る事ができるのだぞ?しかも、連絡先を聞けた相手と深い関係になれなかったとしても良い友人になる事ができればその友達を紹介して貰える可能性もあるのじゃ!そうやって考えれば、これは決して低いとは言えんじゃろ?」


「師匠!確かにそれはそう思いますが、慣れる事以外に勝率を上げるテクニックみたいなものはございませんでしょうか?あるのなら是非、ご教授下さい!」


「「「「「おおー!それは知りたい!」」」」」


先ほどとは別の生徒が質問し、ギャラリーが沸く。


「ふむ、それは良い質問じゃ。ではステップ2、声かけでの勝率を上げる方法を話すとしよう。まず覚えておいて欲しいのは声かけするにあたり決して忘れてはいけないのが礼儀なのだ」


「礼儀ですか?それはまたなんで?」


ラージがキョトンとした顔で俺に尋ねる。


「おや?君はもしかして、見知らぬ女性に声をかける行為自体が礼儀知らずな行為だと思ってはいないか?」


「だって、そうじゃないっすか。普通はしませんもん」


ラージが笑って言う。


「そこを皆には改めて貰いたい。見知らぬ女性に声をかける行為は軽薄な者やならず者がやる事だと一般には思われがちで、場所によっては声かけしているだけで衛兵から注意される場所もある。あ、これは余談だが、声かけする場所は吟味した方が良いぞ、場所によっては夜のお店の働き手を得るために女性に声かけしてる本職さんがいるところもある。そんな場所で声かけすれば本職さんにこっぴどく怒られる事になるからな。話を戻すが、声かけをする際に相手が断っているのにしつこく声をかけ続けたり、身体に触ったり、断られた際に暴言を吐いたりする輩も中にはいるが、そんな事は決して行ってはならないぞ。なぜならば、それは必ず自分に返ってくるからだ」


「どういう事っすか師匠?」


ラージが俺に尋ねる。


 「そんな事をすれば、あそこで声かけしてくる男は乱暴で礼儀知らずだって評判が立ってしまい、声かけの成功率が著しく低下してしまう。下手をすれば衛兵の手が入りそこでの声かけは禁止されてしまうかもしれない。つまり、礼儀知らずな行為というのは自分で釣り場を荒らす行為に他ならないという事なのだ。声かけができる場所と言うのは貴重な釣り場だ。マナーを守り、皆で大切に使うのじゃ。なんだったら、帰る時に声かけ場に落ちているゴミを拾うとか、困っている人を見かけたら助けてあげるとか、そうした良い行いをする事も後々の成功率を高める事に繋がるかもしれんぞい…」


 集まった皆がうんうんと頷き、中にはメモをとっている者さえ見受けられた。そんな姿を見ちまうと俺としてもエンジンがかかって来るってなもんで、ナンパ心得について滔々と語ってしまう。


 「…という訳で身だしなみと笑顔、そして礼儀正しさ、これは誰にでもできる事でありながら非常に効果的に印象を良くする技なのであります。ご清聴ありがとうございました」


 「「「「「「「「「「パチパチパチパチパチ」」」」」」」」」」


 話し終わって頭を下げる俺に、いつの間にか沢山集まった男子生徒達が拍手をしてくれる。


 「いやー、勉強になりました!」

 「また、やって下さい!必ず聞きに来ますから!」

 「今日にでも実践してみます!」

 「ありがとうございました!」


 口々にそう言って去って行く生徒達に手を振り、時には握手をする俺。知らんうちに講演会のようになっちまった。

 

 「という訳で、僕の情報が間違っていた訳ではなかった事はご理解頂けましたかな?」


 「わかったわかった、十分わかった。俺のやり方がまずかったよ、次は師匠の教えに従って行くさ。ところでストーム、わざわざこんなとこに顔出すって何か俺に聞きたい事でもあったんじゃないのか?」


 ラージはスッキリした顔でストームに尋ねた。


 「そうそう、ちょっとラージに聞きたい事があってね。最近、男子寮で変わった事ってなかったかい?何でもいいんだ、あったら教えてくれないか?」


 「変わった事ねえ、変わった事と言えば202のザイルスくらいかね」


 ラージは少し考えてそう答えた。


 「どんな事だい?」


 「いやね、たいしたこっちゃないんだけどさ。あいつ、真面目な奴だったんだけどさ、ここんとこどういう訳か三時限目が終わると必ずふけちゃうようになってさ。いつも帰って来るのは夜遅くでね。女でもできたのかと思ったけど、その割にはいつも冴えない面してあか抜けないし。そうそう、それこそ師匠が言ってた逆ね!笑顔がない、清潔感がない、おまけにたまにあっても挨拶もしないから礼儀もダメ。確かにあれじゃ女もできないか」


 ラージが腕組みをしてうんうんと唸る。


 「ザイルス君がどこにいるかわかるかい?」


 「今日もいつもと同じ時間に出て行ったぜ。前に東口から乗合馬車に乗り込むところを見たって奴がいたから今日も馬車に乗って行っちまったんじゃないかな」


 「わかった、ありがとう」


 「こっちこそ、ありがとうよ。成果があったら報告するよ師匠!」


 明るい顔で言うラージに手を振って俺とストームは歩き出す。


 「東口の馬車乗り場か、行ってみよう」


 「ああ」


 俺達は学園を出て東口馬車乗り場に向かった。


 「すいませーん、着かぬ事をお伺いしますけどファルブリングの生徒でいつも同じ時間にここから馬車に乗る生徒ってご存じありませんか?」


 ストームは待っている御者さんに声をかける。


 「いいや、覚えないなあ」


 「ありがとうございます」


 ストームは感謝の言葉を述べる。


 「どうする気だストーム?まさか来る馬車来る馬車、こうやって聞いていく気か?」


 「そうするつもりだけど?」


 「そりゃ、お前、ちょっと気が遠くなるってなもんだぞ?」


 「でも他にやりようがなくない?」


 「少しでも勝率上げるやり方をしないとな」


 「なんかそればっかりだね今日は」


 肩をすくめるストームをよそに俺は今一度乗合馬車の御者さんに声をかける事にする。


 「すいませんね、ちょっとお伺いしたいんですが…」


 俺が御者さんに尋ねたのは、三時限目の終了時間近辺にここに居る御者さんの動きだった。


 「それならベネの奴だな。なら今の時間はアッペ中継所にある事務所で待機中だな。この馬車はそこまで行くがどうする?乗ってくかい?」


 「お願いします」


 ってな訳で俺とストームは乗合馬車でベネさんを訪ねに行く事にする。

 アッペ中継所ってのは市街地行きと別の街行きの馬車ターミナルが重なる中継点で、そこにはこの乗合馬車を運営している商会の事務所があるのだそうだ。

 アッペ中継所で降りた俺とストームは事務所を訪ねベネさんを呼んでもらった。


 「俺がベネだが、あんたらは?」


 髭モジャのもっさりした男性が出てきて俺達を訝しそうに見た。

 

 「僕たちはファルブリングカレッジの生徒なんですけど、うちの生徒の馬車利用状況を調べていまして。親切な御者さんランキングでベネさんが上位に入りましたのでこうしてお話しを伺いに来ました」


 ストームは優等生のような面をしてペコリと頭を下げた。こいつこそナンパの達人になれんじゃねーのか?

 

 「なんだ、そうなの?参ったなあ、照れちまうなあ」


 ベネさんはそう言って恥ずかしそうに頭を掻いた。

 そこからはストームの独壇場で、褒めたりおだてたりベネさんを十分気持ち良くさせてから本題に入り、見事ザイルス君らしき生徒がいつもどこまで乗っているか確認する事ができたのだった。


 「アルグスト病院前か。行くしかないよねこれは」


 事務所を出るとストームが俺を見て言う。


 「そりゃそうだろ、今更何言ってんだよ」


 俺はストームに言う。


 「それじゃあ、ケイトさんへの伝言は君がお願いね」


 「あ!」


 すっかり忘れてた。このまま外で調査をしてたら昼に食堂で待ち合わせの約束は果たせなくなる。


 「じゃ、そっちは頼むよ。僕はアルグスト病院行きの馬車を確かめてくるから、よろしくねー」


 言うが早いかストームは俺に手を振り小走りで中継所に向かって行った。

 ちぇ、面倒ごとを押し付けてったな。

 やれやれ、果たしてディアナが素直に聞いてくれるかな?

 俺はうんざりしながら通信機のある場所を探すのだった。


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