自信があれば何でもできるって素敵やん
「失礼します」
ノックの後、声をかけながら学長室に入るとウェッパー学長とマスターホフス、そしてケイトとストームが待っていた。
「よく来てくれました。まずはそちらに座りなさい」
「はい、失礼します」
ウェッパー学長に言われて俺は一礼し応接ソファーに座った。
テーブルを挟んで対面にウェッパー学長とマスターホフス、俺の隣りはケイトとストームが並んで座っている。
「本日あなた方を呼んだのは学園から依頼したい事があるからです」
ウェッパー学長は真面目な顔をして俺達を見た。
「依頼と言われましたがストームはお助け隊ではないと思うのですが」
「こやつはスペシャルアドバイザーとして籍を置いとるから、まあ、クラブの一員みたいなもんじゃ」
「どうぞよろしく」
俺の疑問にマスターホフスが答えストームがニヤリと笑いながら会釈をする。どうぞよろしくじゃねーっつーの、そんな事、一言も言ってなかったじゃねーか。
「すでに聞いている人も居るかも知れませんが、今日の朝、学長室にこんなものが届きました」
ウェッパー学長はそう言って一枚の手紙をテーブルに置いた。
その手紙には新聞の文字を切り貼りしてこう書いてあった。
『学園祭を即刻中止しないと学園は火の海に包まれるだろう これがイタズラではない証拠に小手調べとして屋内運動場の備品全てを盗み出してある 確認ができたら学園祭の中止を発表せよ』
「確認した所、屋内運動場にしまってある折りたたみ椅子のすべてがなくなっていました」
ウェッパー学長は表情を変えずに言う。
「中止になさるおつもりですか?」
ケイトが尋ねる。
「現在の所、イタズラの範疇を出てはいませんので判断に困る所ではありますが、教職員を集めて会議を行った結果、時間稼ぎをして犯人を特定する方向でいこうという事になったのです。そこで、あなた方に依頼です」
「犯人捜しを手伝えと?」
「その通り、さすが我が弟子」
マスターホフスが俺に言う。
「いや、ここまで来れば誰でもそう思うでしょマスター」
「いや、ぬしは手伝いと言うたろう?教職員も犯人捜しを行っている事前提で考えとるのだろう?」
「まあ、そうですけど。やってないんですか?」
俺は尋ねる。
「勿論、やっておる。しかし、教職員だけでは限界がある、生徒は教員の前では少なからず猫を被るものだ」
「ホフス先生は犯人が生徒だとお思いですか?」
ケイトが尋ねる。
「会議の結果、その可能性が高いのではないかと考えている。屋内運動場の備品について最後に所在が確認されたのは二日前との事だった。という事はあれだけの数のイスをほぼ一日で移動して見せたという事になる。こんな事ができるのは学園祭の準備に紛れて行動できる生徒である可能性が高い。更に言うなら、夜間に行ったとするならば、通いではなく寄宿舎の生徒の可能性が高いと考えている」
「それだけでそう決めつけるのは危険なのでは?」
ケイトが尚も言う。
「勿論、他の可能性についても捨ててはいない。むしろ、ほとんどの教職員には別の可能性を追って貰っている。我らなどは教職員の動きを見ているほどだ」
「なるほど、では依頼内容は寄宿舎の生徒たちについて調べる、という事ですね?」
腕組みをし右手で顎のあたりを押えたストームが頷きながらそう言う。なにその名探偵が犯人追い詰める時みたいな仕草。俺は笑いそうになるのを堪える。
「ええ、そうなります。現在、一部の先生方には屋内運動場の中で備品確認作業にあたって貰っています。屋内運動場の外にはその旨を記した張り紙も出してありますので時間稼ぎにはなるでしょう」
「なるほど、犯人は確認ができたら発表しろとそう書いてきましたからね。賢い選択ですな」
ストームはありもしない顎髭を整えるような仕草をして言う。お前は安楽椅子探偵かっちゅーの。そのうちイスを揺らしてパイプでも吹かし始めるんじゃねーのか?
「わかりました。そう言う事でしたら我々に依頼したのは正解です。男女問わず人望が厚いケイト君、人の警戒心を緩める顔のクルース君、そして情報に通じ分析と推理に長けたこのストームが揃えば犯人を捜す事など造作もないでしょう。大船に乗った気持ちでお待ちになられて下さい。ケイト君、クルース君、それでは早速向かおうか」
ストームはそう言って席を立った。
「え?あ、はい、失礼します」
俺は良くわからないままストームの勢いに押されて席を立ち、学長とマスターホフスに挨拶をする。
ケイトも静かに立ち上がり、テーブルの上に置いてある脅迫状を畳んで制服の内ポケットにしまい一礼すると俺達の後に続いた。
「おいおいストームよう。お前、随分威勢の良い事言っちゃったけど、ホントに大丈夫なのかよ?」
廊下を歩くストームに俺は縋りつくように言う。
「場合によっては文化祭の中止に関わる事案ですよ?責任重大ですが」
「いつも冷静なケイト君が珍しいね」
ストームはあくまで余裕を崩さぬ姿勢で言う。
「みなさんがどれだけ情熱を傾けているか見ていますからね。ストーム君は随分自信がおありの様子ですが、勝算はあるのですか?」
ケイトはカツカツと廊下を歩きながらストームに言った。
「すでに容疑者は絞ってあるよケイト君」
ストームはケイトに負けず胸を張り颯爽と歩きながらそう言った。
「マジかよ?どういう理屈よ?聞かせておくれよ」
俺は小走りでふたりに並ぶとそう聞いた。
「ふふ、簡単な事さ。犯人はなぜ中止にしたいのか?それは中止にしたい理由があるからさ」
「そりゃそうだろ。何を当たり前の事を…」
「つまりストーム君はその理由がありそうな生徒を何人か知っていると、そう言う事ですか?」
俺の言葉を遮るようにケイトがストームに尋ねた。
「そーゆーことっ!さあ、今から一人目の容疑者に会いに行こう!」
ストームはタクトを振るように人差し指を揺らし言う。いちいちやる事が芝居じみてんな~。大丈夫かね?こういう自信満々な奴の推理ってエンタメ作品だと外れる事が多いけど?最終的に気絶したストームの影に隠れて俺が声マネして推理するような事にならなきゃいいけど。あれれ?おかしーぞ?
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ストームの奴は確信に満ちた足取りで音楽室へと入って行った。
「こんにちは~、お忙しい所、失礼します。ナルルミンさんはいらっしゃいますか?」
教室に入ったストームは軽い調子でそう言うとひとりの女生徒が手を上げた。
「どーもどーも、私はストームと言います彼女はケイト君、こちらの地味な顔はクルース君。精霊お助け隊のものです、よろしくお願いします」
「あ!知ってる知ってる!便利屋さんでしょ?今日は手伝いに来てくれたの?だったら良かった~」
ナルルミンと言う名の女生徒はそう言って屈託無さそうな笑顔を見せた。
ほんとにこんな娘が学園祭の中止を望んでいるのか?
「今日はナルルミンさんに少しお話を伺いたくて来たんですよ。そこのイスに座ってもよろしいですか?」
ストームは芝居じみた態度でナルルミンさんに尋ねる。
「ええ、構いませんが」
「ありがとうございます」
ストームは軽く頭を下げてイスに座ったので、俺とケイトも後に続く。
「私に話って何ですか?」
ナルルミンさんも近くのイスに座りストームに尋ねる。さっきまで明るかったナルルミンさんの表情が若干曇る。
「ナルルミンさん、あなた文化祭が中止になれば良いとあちこちで言ってらっしゃるそうですね?よろしければ理由をお聞かせいただけますか?」
こいつ随分単刀直入に聞いたな。ナルルミンさんはそれを聞くと一瞬怒ったような表情になった。
「確かに言いましたけど、それがどうかしたんですか?」
ニュートラルな表情になったナルルミンさんが逆に聞いてくる。ニュートラルな表情ってのは実は人は自然にはあまりしないもんだ。力が抜けていたり、若干怒っているようだったり、普段の顔ってのは人それぞれだが何かしらの表情をしているもんだ。それをこの娘は一瞬怒ったような顔になった後、ニュートラルな表情に戻した。つまり今の表情は作っている表情だって事だ。
「今回生徒会から我々に対してなされた依頼、それは、すべての生徒に学園祭を楽しんで貰えるようにする、というものです。これはなかなか難しい依頼でしてね、全ての生徒の心の中までは覗けないですからね。しかし、不満を漏らしている生徒を知る事はできる。不満を口にしているという事は楽しめていないという事ですからね」
ストームは淀みなくそんな事を言った。こいつ、詐欺師になれるんじゃねーの?
「で、お助けクラブの皆さんは何をしてくれるって言うんですか?」
ナルルミンさんは眉間に若干のしわをよせて俺達を見た。
「出来る事をさせて貰いますよ」
ストームは笑顔で言った。
「出来る事ですか?」
「ええ、出来る事です。こう見えて我々は色々な事をしてきました。出来る事は少なくないと自負しています」
「…だったらミシャ先輩を連れてきてください」
ナルルミンさんは下を向くと、小さな声でそう言った。
「ミシャさんと申されますと?」
「ミシアン・クロイセン先輩です」
「ああ、音楽クラブのクロイセンさんですか。確か、この間のお休みに帰省して怪我をされたと聞いてますが」
ストームは少し考える風に上を向くとそう言った。つーか、こいつの情報網はどうなっとんねん。
「落馬して足の骨を折ってしまったんです。今年は最後の学園祭だし他校と合同でやるんだからってあんなに気合入れて練習してたのに…」
ナルルミンさんは下を向いたまま声を震わせてそう言った。
「足の骨折ですか、それは大変でしたね。しかし、こう言ってはなんですが足の骨折程度でしたらサポートをしてあげれば来れるのではないですか?クロイセンさんの故郷はどちらです?」
「スリーカッター領のサンプトンという街です」
「魔導列車の駅が無い街ですね。それでも馬車で駅がある街まで行って列車に乗れば学園まで来られない事もないでしょう。我々が迎えに行きましょうか?」
「ストームさんはミシャ先輩を見た事ありますか?」
ナルルミンさんは顔を上げストームに言う。
「いいえ、ありませんが、何か問題が?」
ストームは優しい声で聞き返す。
「なんて言うか、その、とても大柄な先輩なんです。だから、車いすもとても大きく頑丈にできてるから乗合馬車も列車も載せる事ができないって断られちゃったんです。それに、サポートするにも女性ではなかなか難しくって」
「では我々がサポートしますよ。こう見えて彼はなかなかの力持ちなんですよ」
ストームが俺を手のひらで示して言う。
「あの、こんな事言い辛いんですけど、男の人だとほら、困るでしょ?トイレに行きたい時に」
「ああ、これはこれは気付きませんで失礼しました」
ストームが謝罪する。
「そう言う事でしたら私が力になりましょう。私でしたら力には多少自信がありますから」
ケイトが言う。
「それは、嬉しいんですけど、馬車も列車も断られてしまっているんです。どうやって学園まで来るんですか?」
「それなら考えがあります。今、お時間ありますか?」
「ええ、ありますけど」
「でしたら、その手段についてお見せしたいと思います。ついて来て下さい」
ケイトはそう言って席を立つ。ナルルミンさんは嬉しそうな顔をしてケイトについて教室を出て行く。
「ケイト君の言う手段って何だろうか?」
ストームが俺を見て言う。
「わかんねーけど、あいつは適当な事言う奴じゃないし、ついてけばわかるだろ」
「それもそうか」
ストームは納得したような顔をして俺に続いた。
教室を出るとケイトがスタスタと廊下を歩いているのが見える。ナルルミンさんの足取りは軽く見える。
ケイトはしっかりした足取りで廊下を歩き、中庭に出た。
中庭をしばらく歩くとシートをかけた大きな物体が置かれた場所で足を止めた。
「これがその手段です」
ケイトはそう言ってシートを引っぺがした。
そこにあったのは魔導車だったが以前のものとは全く違うタイプのものだった。
以前のものは車高が低いバリバリのスポーツカータイプだったが、今、目の前にある物はタイヤも車体も大きく武骨な形をしたバリバリのオフロードモデルだった。
「これ、どうしたんだよ?」
俺はケイトに尋ねる。
「以前のタイプは機動性重視でしたがその分、防御力が低く不整地に弱いのが難点でした。これはその弱点をカバーした新モデルになります。以前のモデルよりも俊敏さには欠けますが、その代わりに装甲を厚く車高は高く荒れ地に強くしてあります。後部の荷室を大きくとる事で道なき道を使って冒険する際に必要な荷物を沢山詰め込めるようにしてあるのですが、今回はその荷室の広さがお役に立てると思いますよ」
ケイトがすました顔で言う。
「本当にこれを使って先輩を迎えに行ってくれるんですか?」
「ええ、よろしかったら今からでも。今すぐに出れば日が沈む前には帰って来られるでしょう」
「だったらお願いできますか!私、先輩に連絡入れておきますから!」
ナルルミンさんはぱぁーっと花が咲いたように表情を明るくしてケイトに言った。
「ええ、では今から行ってきますが、先輩が学園に来られてからはあなたが面倒を見る事になりますが大丈夫ですか?」
ケイトは喜んでいるナルルミンさんに念を押した。そりゃそうだよな、連れて来るまではいいとしても、がくえんでの彼女のサポートにナルルミンさんが協力的じゃなきゃいかんともしがたいからな。
「勿論、それは大丈夫です!今まで散々お世話になった先輩ですもん!それぐらいなんて事ありません!クラブの仲間も絶対協力してくれます!」
「では今から行ってきますが、よろしいですかね?」
ケイトが俺とストームを見る。
「ああ、勿論だとも。すぐに行ってあげたまえ。な?クルース君」
ストームは俺を見る。
「おう、気を付けて行って来いよ」
「では、また後程」
ケイトはそう言って新型魔導車に颯爽と乗り込み、走り去って行った。
「お助けクラブの皆さんありがとうございます!本当にありがとうございます!」
ナルルミンさんは頭を下げると元気いっぱいに走り去って行った。
「いやあ一件落着だねえクルース君」
「落着はいいけどストームよう。頼りになる仲間がひとり抜けちまったぞ?不満を持ってる生徒はあと何人いるんだよ?」
「あと三人だね」
「俺とお前だけで大丈夫なのか?ちょっと不安なんだけど」
「なーに、僕たちふたりがいれば大抵の事はなんとかなるさ!さ!次行こ!次!」
ストームは景気の良い事を言って校舎の中へと歩いて行く。
本当に大丈夫なのか?




