燃える学園祭って素敵やん
「ふわぁ~あ、どうしたもんかねえ」
俺は所在なく学園の廊下をぶらついていた。
「おいクルース!何を暇そうにしてんだよ!」
「なんだよフェロウズご挨拶だな。忙中閑ありってやつだよ」
「じゃあ暇なんじゃねーか!だったらこれ運ぶの手伝ってくれよ!」
フェロウズはそう言って地面に置いた段ボール箱を叩いた。
「お前、これひとりでここまで運んできたの?」
段ボール箱は三箱、これを重ねて持ったら前が見えなくなるサイズだ。
「おうよ!」
フェロウズはそう言って腕を曲げて力こぶを作って見せる。
ホフス先生んとこで鍛えられたからかちょいとばかり二の腕が太くなっている様に見える。この年頃の子はすぐに体つきが変わるなあ。
「良く前が見えたなあ、ちゅーか良く俺を発見したな」
「そりゃ、顔は横に出して歩いてたからな」
ぶち上げたロケットカウル付けた族車運転してんじゃねーんだから。
「しょーがねーなあ、無理して一気に運ばず分けて運べよ」
俺は言いながら二箱持ってやる。これでも前が見ずらいよ。
「バカ言ってんな。まだまだまだあんだよついて来い!」
フェロウズはそう言って残りの箱を持ち上げるとトコトコ歩き出す。
「どこに持ってくんだよ?」
「外に出すんだよ。後で馬車で取りに来るからさ」
「どっかに持ってくのか?これ?」
「おいおいおい?お前、学園祭の事、何も知らんのか?」
フェロウズが呆れたように言う。
「ああ、そういやなんも知らないわ」
「お前ねえ、ったく、色々忙しいのは聞いてるけどさあ、一応、学祭の打ち合わせにも顔出してるんだろ?」
「お、おう。まあ、出したな」
「だったらよう、もうちょっとさあ、なんてーの?関心持って貰いたいもんだよなあ」
「あいスイマセン」
なんだか風向きが悪くなってきやがったぞ。ここは素直に謝っとくか。
「そう素直になられちゃこっちとしてもこれ以上は言い辛いなあ。まあ、お前はお前で色々とやる事があるんだろうし、暇な時にちょっと手伝って貰えればこっちとしちゃあ特に文句はないわなあ」
「へい、手伝わせて頂きやすです」
「おう、良い心がけじゃ」
フェロウズは大物気取りでそう言って笑った。まったく憎めないやっちゃで。
「それで、学園祭の準備はどうなってるん?」
「三日間に分けてやるのは知ってるよな?」
「うんにゃ、知らん」
「お前なあ、打ち合わせに行ったんじゃねーのかよ」
フェロウズが呆れたように言うが色々あったんだもんよ、しょーがねーべさ。文句があるならスプレーンに言ってくれって。
「いやあ、あんま聞いてなかったみたいでなあ」
なんて結局はとぼけるしかなかったりする。
「しょーがないやっちゃなあ。なにしろ文化際の日程は三日なんだよ、んでもって初日がうちの学園、二日目が向こうさん、三日目が向こうとうちの中間地点にあるボルグスクの円形競技場でやるわけ。この荷物は三日目用でボルグスク行きの荷物って訳よ」
「ふえ~、そりゃあ手間がかかってるなあ。って事はさあ、初日は向こうの生徒がこっちに来るってことか?そりゃあ、エライ事になりそうだなあ」
ファルブリングは敷地も広いし普段使用してない教室も沢山あるとは言え、フルールドポアリエカレッジだってかなりの生徒数を誇る学園だ。それがみんな来るとなるとさすがに凄い事になるんじゃないか?その上、近隣の住人だって招待するんだからなあ。そうなると、もう、通勤時間帯の駅みたいになっちまううじゃないのかね?
「お前、マジでなーんにも知らんのなあ。ちょっと驚いちゃうよ俺は」
建屋の外に出たフェロウズは持っていた箱を置いて言った。
「なんだよ?もったいぶらないでおせーてくれよ?」
俺もフェロウズに倣って箱を地面に置きながら言う。
「基本的に学園でも三日間やるんだって。ほれ、まだ荷物はあるんだから行くぞ!」
「どーいうこと??」
俺はきびきびと校舎の中に戻って行くフェロウズについて行きながら尋ねる。
「もうめんどくせーなー。つまりだな、初日は向こうから選ばれた生徒がこっちに来て一緒にやる訳、二日目はその逆。で、三日目は二日間で選ばれなかった生徒が集まって合同でやるっちゅー訳さ」
「ややこしいなあ」
「俺もそう思うけど、みんなで参加できるようにって考えたみたいよ」
「だったら三日間ボルグスクでやりゃあいいんじゃないか?」
「うるっせーなー、だったら企画段階から参加してたんだからお前が提案したら良かっただろ?ったく、いるんだよなあーー、一番かったるいとこはやらなかった癖に出来上がってから文句バッカ言う奴」
「別に文句じゃねーけども」
「だったら口より先に手を動かす!おーい、助っ人連れて来たぞー!」
フェロウズは俺に説教をしながら教室のトビラを開く。
「なんだジミーか」
「どうせなら、もう少し役に立つ人を連れてきてくださいよ」
「ちぇ、ご挨拶だな」
トビラを開けて早々、ため息交じりでキツイ事を言ってきたのはリッツとアーチャーのコンビだった。
ふたり共、忙しそうに荷物の箱詰めをやっている。
「ごめんごめん、みんな忙しくってさ。手が空いてるのはこんなのしかいないんだよ」
「こんなので悪かったな。今日はコラス達はいないのか?」
フェロウズに文句をってから俺はリッツとアーチャーに尋ねた。
「エドさんと部長は先に会場のセッティングに、ヒューズはクラスの女子達の手伝いをしてますよ」
アーチャーが教えてくれる。
「何しろ今日中にここにある荷物を全部移動しなきゃいけねーんだからな!ウカウカしてる暇はねーぞクルース!ちゃっちゃとやるぞ!」
「頼りにしてるぞアンドレ」
「大船に乗ったつもりでドンと任してちょーだい!」
リッツに言われてだらしない表情で胸を叩くフェロウズ。仲がよろしくて結構です事。
「……ってどうするどうする??」
「いやよー中止なんてぇー!」
「中止になてならないわよ!泣かないでよスー!」
眩い青春の光に目を細めていると廊下の向こうから騒がしい声が近付いて来た。
「大丈夫ですよみんな、まだそうと決まったわけではありませんから」
そう言いながら教室に入って来たのはヒューズだった。
ヒューズは半べそかいている女子達に優しい声をかけなだめている。
「あ、ジミーさん丁度良い所に」
俺の事を見つけたヒューズはホッとしたようにそう言ってこちらに近付いて来た。
「どうしたんだよ?何があったんだ?」
不安そうな顔をしている女子達を見て俺はフェロウズに尋ねる。
「それがですね、先ほど彼女達と文化際の準備の件で職員室に行った時の事なんですがね…」
ヒューズは神妙な面持ちで話し出す。その内容はこうだ、どうやら俺達クラスは三日目にボルグスク円形闘技場で開催される合同祭に参加するする事になっているようで、その打ち合わせのために職員室へ行く女子達にヒューズは付き添いでついて行ったのだと言う。
そうして打ち合わせをしていた所、ひとりの先生が慌てた様子でやって来て他の先生たちに何やら報告すると職員室は急に不穏な空気になり、先生たちはざわつき始めたそうだ。
打ち合わせをしていた先生たちは様子を聞いて来ると言って中座し、その間、ヒューズと女子生徒達は待たされていた訳なのだが、先生たちの声はどうしても耳に入ってしまう。
「…どうやら、学園に脅迫状が届いたようなんですよ。学園祭を中止にしないと学園に火を放つと」
ヒューズは落ち着いた口調で言った。
「マジか!そんで、どうなったんだ?」
フェロウズが驚いてヒューズに聞いた。
「緊急会議が開かれるとの事で私達は帰されたのですが、先生たちも困惑されている様子でしたよ」
「マジかよ…」
フェロウズが絶句する。
「ねえ、どうなっちゃうの?」
「私、嫌よ」
「私だって嫌よ、こんなに頑張ってるのに!」
「せっかく、みんなで一緒にここまでやったのに…クスンクスン」
「大丈夫、きっと大丈夫さ」
不安な様子を見せる女子達の肩に手を当てヒューズが言う。
「ど、どうすりゃいいんだよクルース!!お前、こういうの得意だろ!なんとかしてくれよ!お助けクラブだろ?頼むよクルース!」
フェロウズが俺にすがるような目を向ける。
「ううむ、現時点の情報だけじゃ何とも言えないが、ひとまずこの件はあまり広めない方がいいだろうな」
「んな事、言ったってよう。もし中止になるなら早いとこ皆に知らせてやらないとかわいそうじゃねーか!」
フェロウズらしい心遣いだが、中止というワードを聞いた女子達が泣くから勘弁してくれ。
「まだ、どうなるかわからないからな。ヒューズも準備をストップしろとは言われてないんだろ?」
「ええ、ただ会議になるから戻るよう言われただけです」
「それじゃあ、俺達に出来る事はこれまで通り準備を進める事だな」
ヒューズの言葉を聞いて俺はみんなに言う。先生たちも突然の事に判断がつかない状態なんだろう。準備をストップするようにすぐ指示が出されるかも知れないが、それならそれでせめてそれまでの間くらいは文化祭気分を味わってもいいじゃないか。
「いいのかそれで?これ以上、準備を進めりゃあ進める程、出来なかった時のダメージが大きいんじゃないか?」
フェロウズが泣きそうな顔で俺に言う。
「お前は優しいなあ。でもな、俺達は学生だ、大きな出来事の決定や責任は大人に任せたっていいんだぜ?今回くらいはよ大人に甘えちゃえよ。それに準備だって学園祭だ、ひとまず学園祭を存分に楽しもうぜ?」
「そうですね、ジミーさんの言う通りだと思います。我々は今出来る事に全力で取り組んで、全力で楽しみましょう」
アーチャーがみんなに言うと、さっきまで半べそだった女子達の顔に明るいものが戻って来た。
「ちぇ、なんだよ、お前なんかさっきまで学祭の事、なんにも知らなかった癖によ。こんな時ばっかりカッコいい事言っちゃってさ。こいつ学祭の日程さえ知らなかったんだぜ?ついさっき俺が教えたんだもん」
「それはちょっと酷いですねジミーさん」
フェロウズに続いてヒューズが言い女子達が笑う。やっぱこういう時に周囲を明るくするのはフェロウズだな。
『ピンポンパンポーン』
館内放送のチャイムが鳴り響く。
「トモ・クルース君、トモ・クルース君、至急学長室まで来て下さい。トモ・クルース君、トモ・クルース君、至急、学長室まで来て下さい。繰り返します…」
「おい」
放送を聞いたフェロウズが俺に声をかけ、教室の皆が一斉に俺の方を見る。
「ああ、ちょっと行ってくるよ」
不安そうにこちらを見るフェロウズに声をかけ俺は教室の外へ向かった。
「大丈夫だよなクルース」
トビラを開け外に出ようとする俺にフェロウズが声をかける。振り返ると泣きそうな顔のフェロウズが見える。
「お前がそんなでどうするんだよ。お前の元気はみんなに伝わるんだぞ?そこんとこ自覚しろよ」
「お、おう。わかったぜ」
フェロウズの表情に力強さが戻って来る。そうそう、お前はそうじゃなきゃだぜ。
元気があれば何でもできるってなもんだ。
俺は軽く手を振って教室を後にする。
なんか最近学長室に呼び出されてばっかりだな俺。




