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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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ひとりじゃないからって素敵やん

 「すいません、取り逃がしました」


 なんとか消火できた俺達の元にすっ飛んで帰って来たスリングさんが申し訳なさそうな声でそう言った。


 「仕方あるまい。これよりパイカル領まで帰還する、魔導車は我々がけん引するので周囲の警戒を怠るな」


 「イエッサー!!」


 スリングさんは敬礼をすると俺とケイトに向かってウインクをして魔導二輪を走らせて行った。

 相変わらずだなスリングさんは。

 そうして俺達は魔導化中隊の兵隊さん達にけん引されながらパイカル領に向かう事になったのだった。

 

 「話は伺っています。ひとまず、おふたり共ご苦労様でした」


 魔導二輪で並走するモルツ中尉が俺とケイトに声をかける。


 「改めて感謝します。それで、これの事なんですが、如何致しますか?」


 ケイトはトランクを持ち上げて見せる。そう言えばケイトはずっとあのトランクを片手で押さえていたな。つくずくたいしたやっちゃで。


 「邪神の石は極大魔法を越える破壊力を持つ兵器として各種の条約で厳しく制限されています。ですので扱いは高度な政治的判断が求められるものとなります」

 

 「では、お任せしてよろしいのですね?」


 ケイトが尋ねる。


 「ええ、そうして頂けると我々としては助かりますが、クルース君もそれでよろしいですか?」


 モルツ中尉が俺に尋ねた。


 「いや、勿論、そうして貰いたいですけど、なぜそんな事を聞くのです?」


 「これは非常に繊細な問題ですので、我々はおふたりの祖国から所有権を求められる可能性も考慮せねばならないのです。邪神の石は使いようによっては一国の国際的立場を変えてしまうほどの物質だという事なのです」


 モルツ中尉が真面目な口調で言う。


 「バッグゼッドとしてはこれをどう扱うつもりなのですか?」


 「我が国としては他国とのパワーバランスに現状不満はない状態です。むしろ、現在の状況を崩しかねないような物質については国際法や各種条約に伴った処置を取りたいと考えています」


 「その処置とは?」


 「永久封印です」


 モルツ中尉が言う。


 「邪神の石の力とはそれほどの物なのですか」


 ケイトがモルツ中尉に尋ねる。


 「実はここだけの話ですが、バッグゼッド帝国は過去に邪神の石使用兵器の実験を行った事があるのです。その結果、周辺地域は水が毒され植物も育たぬ不毛の地となり魔物も住めない状況が現在も続いています」


 「その実験はいつ行われたものなのですか?」


 ケイトは尚も質問する。


 「およそ二百年程前との事です」


 「二百年も毒が残るのですか…なんと恐ろしい」


 ケイトは噛み締めるように言いトランクを睨んだ。


 「それはある意味、バッグゼッド帝国内で見つかってラッキーだったと言えるのかもしれないな」


 俺が言うとケイトが頷いた。

 バッグゼッドにとって邪神の石のような過剰な兵器は自国も含めてどこにも存在して欲しくない状況であり、実際にそれを使用するとどういう事になるのか自国の土地において強く実感もしているという訳だ。

 この手の兵器が実戦使用されるとどういう事になるか、俺は前世の歴史でよーく知っている。

せめてこの世界では、こんな兵器が実戦使用されてほしくはないもんな。

 永久封印大賛成だよ俺としても。

 

 「そう言って頂けると我々としてはありがたいです」


 モルツ中尉が俺達を見て言う。


 「ひとつお伺いしたいのですが、奴らについてそちらで何か情報はないのですか?」


 ケイトがモルツ中尉を見る。そうだ、あいつら、あの間抜けな悪の組織について、バッグゼッド帝国は何か情報を持ってるのだろうか?


 「ハンドラーですね。彼らは人族魔族どの種族にも属さず、世界の各地で破壊や恐喝などありとあらゆる犯罪活動を行っている組織です。ひとりの首領と複数人の幹部により運営されている事がわかっていますが、それがどこの誰なのかは長らく謎となっていました。今回、おふたりの活躍によって幾人かのメンバーを特定する事ができましたので、彼らの全容を掴むのもそう遠くない事と思います」


 「あのザクフォードって男は幹部なんですか?なんだかスプレーン達は部下だなんて言ってましたけど」


 俺はモルツ中尉に聞く。


 「マッセル・ザクフォードと言いましたか。ファクセンタム王国の商会主で同じ名前の者が現在我が国に来ているようですので現在確認中です。パイカル領の詰め所に到着する頃には何か情報も入っているかもしれません」


 ううむ、さすがは悪の秘密結社ってところか、そう簡単には尻尾をつかませないようだ。

 バイク部隊にけん引されたままパイカル領の衛兵詰め所に到着すると、そこではフーカさんやパニッツ達が待っていた。


 「大丈夫かね?怪我はないかねブラボーボーツー」


 フィールドが俺達に声をかける。


 「ケイトが水かけられたぐらいだが、つーかそのコードネームまったく意味なかったな。フーカさんゴメン、魔導車壊しちゃったよ」


 「いえ、それは構わないんです。そもそも後部ハッチの術式放出装置の防御が薄かったのが原因ですから。改善点を見つけるのは実戦使用が一番ですよ。ただ、修理するのにしばらく預かる必要がありますね」


 フーカさんが言う。


 「申し訳ない。しっかし、みんなめっちゃ早いなあ、どうやってここまで来たのさ?」


 「フーカさんが飛行船出してくれたの」


 ブランシェットが教えてくれる。


 「おお、マジか。何から何まで申し訳ないフーカさん」


 「いいんですよ、秘密道具も役に立ったようで何よりです」


 「本当に助かりましたよ」


 ケイトが懐中時計をくるりと回して見せた。


 「それでは皆さん、改めまして詳しい話をお聞かせください」


 俺達はモルツ中尉に言われて詰め所内に案内されてそれぞれ事情聴取となった。まあ、事情聴取と言っても我々は被害者だ、飲み物を用意して貰ったし質問も丁寧で不快感は感じないものだったが。

 同じものを見聞きしていたのにそれぞれ注目していたポイントは違うもので、みんなの話を総合する事で現場で起きた事が更に詳しくわかるようになってきた。

 舞台上の男が俺達に狩りの始まりを告げた時、パニックを起こして逃げ惑う人々の姿があった事。この事から少なくとも、集まった全員が事情を理解していた訳ではない事がわかった。

 チケットの購入者の洗い出しと共に、当日あの演目を観に行く予定だと周囲に漏らしていた人物の特定にも力を入れるとの事だった。

 また俺がザクフォードに詐欺行為への加担をほのめかした時、奴は否定しなかった事から例の投資詐欺事件も背後ではハンドラーが糸を引いていたであろう事。

 これにより投資詐欺グループへの捜査の手も一層厳しいものになるだろうとはモルツ中尉の言葉だった。

 それに伴い、ノートの書き込み主であるメリンへの捜査も厳しくなるだろうが、こちらの特定は難しいだろうとモルツ中尉は悔しそうに言う。

 匿名性が売りのシステムだからなあ、向こうもそうした特性を理解して動いていたのだろうからそれは仕方ないだろう。

 そして、一番気になっていたザクフォードについてだが、逗留していたホテルに服などは置いたまま本人は姿を消したとの事だった。

 ファクセンタム王国に問い合わせた所、該当する商会は存在しないことがわかっており、こちらもまたそれ以上の事はわからぬ闇の中に入ってしまった。

  

 「思った以上に尻尾をつかませない連中のようです」


 帰り際にモルツ中尉が苦い表情と共にこぼした言葉が俺達に相手の強大さを改めて感じさせたのだった。

 

「いずれにしても、現時点では我々学生に出来る事はこれ以上何もないだろう。メリンの件も詐欺の件も後は専門家に任せて我らはそれぞれ本来の仕事に戻ろうではないか」


 帰りの魔導飛行船でパニッツが言う。


「確かにそうだな。相手は世界的に活動するような連中だ、我々がどうこうできる相手ではないだろう。だが、気がかりなのはふたりがあのザクフォードという男に気に入られていた事だ」


「しっかり調べられていたみたいでしたし、今後接触をしてくる可能性は高いですよね」


 「それはどうだろうな、こちらが国防軍と接触しているのは向こうもわかっただろう。なのにまた接触を図ろうなど自殺行為ではないか?」


 「それくらいの事は平気でやってきそうな連中でしたけど」


 「ううむ…」


 フィールドとミケルセンさんは難しい顔をして腕組みする。


 「まあ、今回の件で向こうさんも少しは自重するだろうさ。それでもちょっかいをかけてくってのなら」


 「なら?」


 俺の言葉にパニッツが聞き返す。

 

 「相手になって差し上げるまでです」


 ケイトがきっぱりと言い切った。


 「なんだよ~、俺が言いたかったのに~」


 俺の情けない声にパニッツ達が笑う。


 「うちもバックアップしますからね!新しい便利道具をまた持ってきますよ!」


 「またぶっ壊しちゃうかもよ?」


 俺はフーカさんに言う。


 「できるだけハードな実戦使用をお願いします!」


 フーカさんは元気良く言ってくれる。妙な相手から熱烈アプローチを受けている事実に心がモヤついていたが、みんなが笑顔で協力してくれるんならどうとでもなるか。

 俺はみんなを見て少し心が軽くなるのだった。


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