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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
1108/1114

逃げるが勝ちなのか?って素敵やん

 「ぐおっ!」


 俺が思い切り蹴り飛ばしたトビラの向こうで大男が弾き飛ばされて唸り声を上げる。


 「いたぞ!撃て撃て!」


 廊下の向こうから声がして直後、バシバシと石つぶてや氷の矢が飛んで来る。


 「ちっ!やっぱりあいつらは好き放題ってわけか」


 「あいつらって、ほぼ観客全員ですよ」


 姿勢を低くして拳銃型術式具を撃ち返す俺に冷静に答えるケイト。


 「ほぼだろ、ほぼ。全員が全員、武闘派ってわけでもないだろ」


 俺は言いながら通路向こうに向かって空気弾を連射する。

 相手の射撃が途絶える。


 「ついて来て下さい!」


 ケイトが短く言い向かいのトビラを蹴破り中に飛び込む。

 俺もケイトの後に続く。

 

 「舞台裏に続くようですね」


 そこはむき出しになった骨組みのような足場が続いていた。


 「こっちにいるぞ!」


 叫び声がして石の槍や氷の矢がバチバチ飛んで来る。


 「高級劇場だってのに容赦ねーなあいつら!」


 俺は拳銃型術式具を撃ち返しながら言う。


 「こんな事ができるなんて、彼らは何者なんでしょうか?」


 撃ち返しながらケイトが俺に問う。


 「わかんねーけど、スプレーンが関わってるんならろくな連中じゃあないと思うぜ」


 俺はそう言いながら敵が潜んでいる頭上の資材棚の支柱に向かって空気弾を連射する。


 「ぬおあっ!!」


 俺の撃った弾がヒットし支柱が崩れ追撃者たちが悲鳴を上げる。


 「せっかくここまで来たんです。正体ぐらいはつかんで帰りたいですよね?」


 「おいおい、変な色気出すなよ?」


 俺は入って来たトビラの前にそこらにあった資材を積みながら走り出すケイトに声をかける。

 あいつちょっと笑ってやがった。さては、この状況を楽しんでるな?まったく根っからこういう荒事が好きなんだなケイトは。


 「傲慢な敵を中から食い破る、ロマンじゃないですか」


 先を走るケイトは敵を撃ち倒しながら涼しい顔で言う。


 「威張った奴は嫌いだぜってか?命を大事にだぞケイト」


 まったく魔球でも投げようってのか?あんまりアクションが派手だとボークになるぞ?

 

 「ふふ、奴らが招いたパーティーです。派手なショーにして差し上げましょう」


 「パーティーなのかショーなのか統一してくれよ」


 俺達は敵の攻撃をかいくぐり撃ち倒ししながら舞台裏へと進み舞台上の照明器具設置場所に出た。


 「まだ捕らえられんのか」


 「はい、今、追跡中です」


 「ここは我らの庭のようなもの、外に出さなければ時間の問題か。追跡の手を緩めるな」


 「はっ!」


 眼下に見えたのは舞台上で我らを名指しした黒づくめの男が部下らしき男に指示を出している所だった。

 部下らしき男が去り黒づくめの男はゆっくりと歩き出す。


 「ジミーさん、ヤツがここの指揮官のようです。私が後をつけますので、あなたには陽動をお願いしたいのですが」


 ケイトが俺に顔を寄せ小さな声で言った。


 「構わねーけど、どうやって後をつけるんだよ?」


 「こうやってですよ」


 ケイトはそう言うと羽を動かし鱗粉によるステルス迷彩を発動させた。


 「おまえ、ここは魔力放出が阻害されているはずじゃあ」


 「これは魔力によらず我らの身体的特徴を使った技ですので使用できます」


 「マジか、便利な特徴だな。それはいいとして、後をつけてからどうする?」


 「隙を見て捕らえます。捕えたら奴を人質にしてゆっくり逃げましょう、帰りの運転はお任せしますよ」


 「ああ、わかった。くれぐれも気を付けろよ?」


 「そちらこそ、あまり無茶はしないように」


 「了解」


 俺はケイトに軽く手を上げ照明上を駆け抜け先にあるトビラの中に入る。

 トビラの向こうは舞台演出のための機材室のようだった。

 

 「しばらく人はいなかったようだな」


 俺は眼鏡のスイッチを入れサーモグラフィ画像で部屋の中を見るがイスにも機材にも熱反応はなかった。


 「誰か、この機材の使い方わかる人いるか?」


 「大体ならわかるけど、どうするの?」」


 通信機の向こうでブランシェットが心細そうな声を上げる。


 「いっちょ派手に演出してやろうと思ってね」


 「わかった!それじゃあまず一番左の赤いスイッチを入れて隣りのつまみを目いっぱいひねって…」


 こちらの意図をつかんだブランシェットは元気を取り戻し説明してくれる。俺は言われた通りに沢山あるつまみやスイッチをいじくった。


 「なんだ!何事だ!」

 「誰かが制御室に潜り込んだぞ!」

 

 通信機越しに音声が届く。


 「おい、今のは?」


 「ケイトさんの方の音です。どうやら、今ので劇場内が騒ぎになったようです」


 フーカさんが答えてくれる。


 「ケイト側の音も入って来るのか。こりゃ便利だな、こっちの音は向こうに届くのか?」


 「ケイトさんの指示で音量レベルは下げていますが届きますよ」


 「さすがフーカさん、たいした魔道具だぜこりゃあ」


 「お褒めに預かり光栄ですが、聞いた通りグズグズしてると敵がそこに殺到しますよ」


 「わかってるって」


 俺は身を低くしそっとトビラを開け部屋の外に出る。

 

 「ホントは火でもつけてやりたいとこだが」


 「やめて下さい!芸術的価値の高い建造物です!それに奴らだけのものではないのですから」


 「わかってるって。どっちにしても火を着ける手段がないしな」


 「頼みますよ、もう」


 通信機の向こうでフーカさんのため息が聞える。

 俺は絨毯敷の廊下を走りかち合った敵を空気弾で撃っていく。

 しっかしこんな凄い施設を貸し切っちまうなんて本当にどんな連中なんだ?そんでもって、この後始末はどうするつもりなんだ?

 ケイトが無事に黒づくめを捕縛できたら奴に聞いてみるか。


 「こっちにいるぞ!」

 「こっちだこっちだ!」


 複数人の声が聞えてくる。どうやら包囲網はじりじりと狭まっているようだ。ケイトの奴、まだ捕縛できないのか?こうなってくると、時間との勝負だぞ?

 俺は廊下を駆け抜けて敵の少ない方へと移動する。

 声がする方を避け、トビラをくぐりボックス席の外側を手すり伝いに移動する。

 

 『バシャーーーッ!!』


 「きゃっ!」


 大量の水がかけられるような音に続きケイトの悲鳴が通信機から聞こえてくる。


 「どうした!何があった!」


 「敵を追跡中のケイトさんが突然水をかけられたようです」


 フーカさんの声がする。


 「ふっふっふ、面白い技を使いますね、さすがモスマン族と言った所ですか。ですが、我々もあなた方の事は少しばかり調べさせて頂きましたのでね。さあ、手に持った武器を下に降ろしなさい」


 「いつから気付いていたのですか?」


 「君達が舞台上の照明にいた時からだよ。さてと、もうひとりの彼に呼び出しをかけるとしようか。クルース君、トモ・クルース君。お連れ様がお待ちです、最寄りの案内所までお越しください。クルース君、トモ・クルース君…」


 通信機からの声に被せて館内放送が流れてくる。

 

 「どうするトモ君!衛兵さんを呼ぶ?」


 通信機の向こうでブランシェットが焦った声を出す。


 「いや、まだいい。敵さんはすぐにどうこうするつもりはなさそうだ」


 「じゃあ、どうするんだね」


 今度はパニッツが緊張した声を出す。


 「そんなにこわばった声を出すなって。こうなりゃ向こうさんのパーティーにお呼ばれしてくるさ、話せばわかる相手かも知れないしな」


 「むう、気を付け給えよ」


 「おう、ピンチの時はそう言うからそれまでは衛兵呼んだりしないでくれよ?場合によっちゃマジで俺達の命にかかわるからよ」


 「わかった、決して先走りはしない。だがクルース君、状況判断は見誤るなよ?」


 「任しとけって、それからケイトにこれから行くから心配するなと言っといてくれ」


 「それはもう伝わってるわね通信される絵が縦に揺れているもの」


 ブランシェットが説明してくれる。


 「そっか、わかった。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」


 俺は声のする方に向かって歩き出し、最初に目に入った敵の前で両手を上げて見せた。


 「どーも、なんか迷子になっちゃったみたいで」


 俺は愛想笑いして見せる。


 「りょ、両手を頭の後ろで組んで跪け!」


 敵の男は手に持った術式具を俺に向け大きな声を上げるのでその通りにする。


 「よし!大人しくしてろよ、妙な事はすんなよ」


 「ちょっと警戒しすぎじゃない?わざわざ自分から出て来たんだよ?」


 俺は両手を後ろに縛り付けられながら男に言う。


 「うるさい!静かにしろ!よし立って歩け!妙な事はするなよ!」


 「はいはい、大人しくしますから、そんなに蹴らないで下さいよ旦那」


 「うるさい!妙な声を出すな!」


 下手に出たのに更に怒りだしたよ。まったく、どうなってるんだだかこのお人は。ちょっとビビり過ぎじゃない?

 過剰に警戒する男に連れられて俺は支配人室と書かれた部屋に案内された。


 「ようこそクルース君、やっと会えたね」


 部屋に入るとケイトが追跡していた男がそう言って俺を出迎えた。男は銀髪でそこそこの年齢に見える。


 「こんな乱暴な事しなくても、普通に誘ってくれたら飯くらいいつでも付き合ったのに」


 俺は後ろ手に縛られたまま案内した男に乱暴にイスに座らされる。


 「酷い目にあっちゃいないな?」


 「ええ、水をかけられた以外は」


 同じく後ろ手に縛られイスに座らされたケイトが俺に言う。ケイトの奴、精一杯平静を保ってはいるが声に悔しさがにじみ出ちゃってるぞ。

 

 「それは仕方がないさ、誰だってプライベートをのぞき見されるのは嫌だろう?さて、まずは自己紹介からさせて貰おうか、私はマッセル・ザクフォード以後お見知りおきを」


 銀髪初老の男はそう言って優雅に一礼した。


 「君達には色々と世話になったね。いつかご挨拶をしなければと思っていたんだよ」


 「別にお世話したつもりはないんだけど、なあケイト?」


 「ええ、特に心当たりはありませんね」


 「ラザインの告知教会は知っているよね?あそこはある意味うちの下部組織でねえ」


 ザクフォードは嫌らしい冷たい笑みを浮かべてそう言った。


 「そう言えばスプレーン達の姿があったなあ。彼女達はあなたの部下って訳ですか?」


 「まあ、そうなるね」


 ザクフォードは苦々しげに言う。


 「部下の失敗の責任は上司がとるのが仕事ってもんですよ」


 「うちの組織では現場が責任をとるようになっていてね、彼女達には責任をとって貰ったよ」


 「どんな形で?」


 「上納金の増額と組織内での権限の制限と言った所だね。クルース君も商会を立ち上げているのだからわかるよね?その辺りの事情はどこも同じじゃあないかね?」


 「いやあ、うちはちょっと違いますね。現場や末端にいちいち責任取らせてペナルティを与えてちゃうちみたいな零細は仕事になりゃせんですから。お宅さんとこは羽振りがよさそうで結構な事ですなあ」


 俺はザクフォードに嫌味を言ってやる。現場や末端に責任を押し付けて上がほっかむりってな俺にはどうにも許容できねえんだよな。前世でも色々な組織団体でそうした場面に出くわしたが、そういう場面に出くわすと俺は一気に萎えちまうんだよな。


 「君は随分と青臭い事を言うんだねえ」


 「まあ、まだまだ子供ですんで」


 ちっ、これも前世で良く言われた事だ。管理する立場になったら末端の気持ちは捨てろ、所属する団体の運営側の気持ちに切り替えろ、それが大人なのだ、と。

 だが俺はそれができなかった。だからずーっとワーキングプアのままだったのだが、だからこそ親のハマってたカルト団体に染まらずに済んだとも言えるからなあ。その傾向はまだまだ俺の中に大きく残ってるんだよな。

 でも、そのままで行って今の俺があるんだから俺としちゃあ良しってとこなんだが、目の前の男にゃそれは許容できぬ事なんだろうな。


 「子供だったら子供らしく大人のやる事には口出ししないで貰いたいものだね」


 「別に口出しした覚えはないけどね」


 「ふふっ、口は出さないけど手が出ちゃうんですよね」


 肩をすくめて俺が言うとケイトがクスクスと笑った。


 「結構、君達は余裕の態度を崩さないが、それは無知だからに他ならない。君達はまだ我々の事を良く知らないのだ」


 立っていたザクフォードはそう言って支配人用の椅子に座った。


 「改めて君達に聞かせよう、我々の組織の事を」


 ザクフォードは酷薄な笑みを浮かべて机の上に腕組みした。

 よくよく芝居じみた演出がお好きなようだなこのお方は。


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