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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
1105/1112

新兵器と秘密道具って素敵やん

 ケイトと共に学園に戻るとどういう訳かボンパドゥ商会連合研究主任のフーカさんに真っ先に捕まった。


 「まったく、じっとしてられないんですかあなたは?」


 なぜか不機嫌なフーカさん。


 「いや、こっちも色々と忙しいんですよ。てか今日はどうしたんです?」


 「新製品を持って来たんですよ。ほら、前にジミーさんが言ってた奴ですよ!楽しみにしてると思って朝一番に持って来たのに、もうっ!」


 「そりゃ申し訳なかったです」


 俺はとりあえず謝っておいた。しかし、俺が前に言ってた奴ってなんじゃ?結構、色々、口から出まかせで喋ってるから見当がつかないぞ。


 「ほら、来て下さい!早く乗って感想を聞かせて下さい!」


 「乗る?」


 もしかして!俺は以前にフーカさんに喋った事の中でも実現したら最高だなってやつを思い出していた。


 「早く!早く!」


 フーカさんに引っ張られるようにして中庭に来た俺の目に入ったのは、ちょっとした人だかりだった。


 「お?やっと来たか。早く運転して見てくれたまえよ」


 集まっていた人達の中、パニッツが俺を見つけて声をかけて来た。


 「お!クルース!やっと来た!」

 「早く乗って見せてくれって!」

 「早く早く!」


 集まってたフェロウズやルグロ達、オッテツやフィールドが熱く俺に言いながら道を開けた。


 「おおおお!こりゃあ!」


 「どうです?ジミーさんに聞いた話からここまで仕上げてみたんですが、違ってましたか?」


 「いやいやいやいやいや!こりゃいいよー!サイコーっしょ!」


 目の前にあったのは俺が以前に話した馬無しの馬車、魔導機関のみのパワーで走る車だった。素材はなるべく軽くそれでいてある程度の剛性としなりをもつ物で、形は空気抵抗を考えクサビ形で四輪にはサスペンションを備えてと色々と注文を付けたのだが、こりゃあ、すげえ。上品なグレーカラーに丸みを帯びた流線形ボディ、ぶっといタイヤにグラマラスに盛り上がったフェンダーは前世のスーパーカーにも引けを取らないカッコの良さだぜ!

 

 「これって馬無しで走るんだろ?やって見せてくれよっ!」

 

 オッテツが言い他の連中も好奇心で目を光らせながらうんうん頷く。どこの世界でも男の子ってこういうの好きよね。まあ、俺も大好きなんですけど。


 「運転の仕方は以前にジミーさんと話し合った通りにしてあります。こちらが封印解除の手袋になります」


 そう言ってフーカさんは俺に手袋を寄こした。魔導二輪の時もそうだけど、ああしたアイテムは一応、魔道具な訳で使用者以外がやたらと使えないように封印をしておくのが習わしとなっている。セキュリティ的にも安全安心でありがたい。

 

 「よし、んじゃいっちょやって見るか」


 俺はフーカさんから受け取った手袋をはめて魔導車に乗り込んだ。

 ハンドルを握るとインパネに明かりがともる。薄緑の明かりが近未来的で非常に良い。俺の案通りシートベルトは四点式になっているな。俺はしっかりとシートベルトを締める。

 クラッチを切りギアを一速にいれアクセルを踏み込む。


 「ゴルゴルゴルゴルゴルッ!!」


 「「きゃあっ!」」


 タイヤが勢いよく空転し辺りに土ぼこりが舞い上がり、見に来ていたブランシェットとルブランが悲鳴を上げた。


 「ゴメンゴメン!力加減を誤っちまった!いやあ、これかなりパワー出てるなあ!」


 「そりゃあそうですよ、なんせ小型魔導飛行船の機関を元にしてますからね!魔導二輪の機関とは出自が違いますよ!」


 フーカさんが胸を張って言う。


 「そう言う事は早く言って貰いたかったよ」


 俺は独り言ちながら丁寧な動作で二速へギアを上げる。

 魔導車はスルスルと滑らかな挙動で走り出す。

 ハンドルを右に切りっぱなしにして円を描くように走らせる。

 うんうん、足回りもしっとりとしていて良い乗り味だ。

 惜しむらくはエンジン音がほぼしない事だ。これは魔導二輪の時も言ってた事だが、ある程度のエンジン音がしないとこっちとしては些か盛り上がりに欠けるのだが、こちらの世界の人の感覚としては音などしないに越した事なかろうという訳で俺の案はなかんか通らなかったりする。魔導二輪の時は車体の小ささから人の間を走る時の安全性を考慮しとかなんとか言って無理矢理アクセル連動型の音発生装置を付けて貰ったが、車ではその理屈は通らなかったか。

 まあ、一般に出回り出せば俺の案も受け入れられる事になるだろうが、アクセル連動型で盛り上がる音って訳にはいかんだろうなあ。


 「おーーい!クルースよう!もっと派手な動きはできねーのかよ!そんなんじゃあ馬車の方がましだぜ?」


 オッテツが挑戦的な事を言う。


 「よーしわかった!見せてやろうじゃねーか、帝国の白い悪魔の性能を!あぶねーから下がって見てろよ!」


 俺はオッテツ達に大きな声で言う。


 「白くなくね?」


 「気分でしょ?気分」


 「気分で色が変わるのかい?良くわからないなあ」


 フェロウズが疑問を口にしルグロが答えウェンサムが首をひねる。

 いいからいいから見てろって。

 俺は徐々にアクセルを踏み込みギアを三速へ入れる。

 速度がそこそこ乗って来たところでハンドルを切りサイドブレーキをちょいと当てる。

 

 「ズササッ!」


 後輪が滑り始めるのでアクセルをさらに踏み込む。

 車の頭が曲がる方向のイン側に向こうとしハンドルが進行方向を保とうと回転するのをいいタイミングでグッと抑えアクセルを微妙に調整する。

 身体に重力がかかるが四点式シートベルトでしっかり固定されているので身体がずり落ちることは無い。四点の強度もバッチリだな。

 俺の運転する魔導車はスピンするのをギリギリで耐えるように横を向いたまま、タイヤを滑らせてスライド走行をする。

 

 「ヒャッホー――!!どうでい!!!」


 俺はギャラリーニ向かって大きな声で叫ぶ。


 「うおーー!!なんだそりゃあ!!」

 「なんかわかんねーけどカッコイイ!!」

 

 オッテツとフェロウズが叫ぶ。

 ふっふっふ、驚いたか!俺が若い頃前世じゃ走り屋全盛期だったのさ。まあ俺はやってなかったけど、そういう作品を見るのは大変好きだったし、そういうゲームをやるのも好きだったもんだ。

 こうしたタイヤを横滑りさせながら走行する技術をドリフトといい、オジサンが若かった時は若者の間で大流行したのじゃが、こちらへ来る頃にはすっかり廃れてしまい車に興味を持つ若者もすっかり消えてしまったんじゃ。

 二酸化炭素の排出問題や不景気、原油価格高騰なんかもありそうした若者が好むような車はほぼ生産されなくなってしまったのじゃよ、悲しい事じゃ。

って心の中のジジイが嘆いちゃいるが、まさかこっちの世界に来てこんなスーパーカーみたいな車に乗れるたぁ夢にも思わなんだ!


「どうよ!見てくれたかね!」


俺はギャラリーの前に魔導車を停め、どや顔をしながら降りた。


「おぉー!なんかわかんねーけどすげーよこれ!」


「ホントホント!俺、興奮しちゃったよ!これっていつ売り出すの?ね?ね?」


 オッテツとフェロウズが興奮して俺に駆け寄って来た。


「まだ市販化にはちょっとクリアしなきゃならない問題が幾つかのありまして、時間はかかると思います」


「「ちぇ、なんだよ~」」


フーカさんの言葉にがっかりするオッテツとフェロウズ。


「二輪の方でしたら既に一般販売されていますので、よろしくどうぞー」


「マジで?買うっきゃねー!」


 「今日行く!今日欲しい!」


 「毎度どーもー」


 オッテツ達が興奮してうんうん頷き合いフーカさんがホクホク顔をする。


 「いやー、売り上げの一部がうちの研究資金に回ってきますんで」


 俺の視線に気づいたフーカさんが頭を掻く。


 「だ、男子って、こ、こういうの好きなんだ」


 ルブランが興味深そうに魔導車を見て言う。こいつはあれか?新作は車ものか?配達で鍛えた腕で走り屋共をバッタバッタとなぎ倒したりしちゃうか?型遅れのチューニングカーに豆腐屋って書いちゃうか?俺の妄想は膨らむがまだまだ市販化されてないんじゃ物語にするのは難しかろう。最初は魔導二輪からいくといいだろうさ。


 「みんながみんな、あのふたりみたいじゃないけどね」


 ルグロがポツリと言う。


 「そ、そうなの?なんで?」


 ルブランが聞き、フーカさんも興味深そうに耳を傾ける。


 「いや、便利だとは思うけど、さっきみたいなのは怖いじゃない」


 「僕もそう思うな。ほとんどの人はそう思うんじゃないかな」


 ルグロが言いウェンサムが同意する。


 「なるほどなるほど、市販化する時は安全性と利便性を追求した方が良さそうですね」


 「どっちも作ってくれるとありがたいけどね」


 うんうん頷くフーカさんに俺は言う。


 「いやー面白かった」

 「魔導二輪買いに行こうぜ!」

 「し、新作のネタになったかも」

 

 集まっていた連中は三々五々散っていく。

 俺、ケイト、フーカさん以外で残ったのはパニッツ、ミケルセンの新聞クラブ組とブランシェット、フィールドの図書クラブ組だった。

 

 「それでクルース君、今追いかけているのは例の件と関係しているのかね?」


 パニッツが俺に尋ねる。


 「いや、まだそれはわからんのだが…」


 俺は今回の件についてザックリと話して聞かせる。


 「…そんな訳で今晩その劇場に俺とケイトで行ってみるつもりなんだ」


 「ふうむ、それはそれで由々しき事態だな」


 「怪しい事、この上ありませんね」


 フィールドが言いミケルセンさんも同意する。


 「しかし、レイトロプラチナムマイヤー劇場か。これはちと厄介かもしれんぞ」


 パニッツが顎に手をかけて難しい顔をした。


 「何がだよ?金持ちの集まりだから俺じゃあ浮いちまうってか?確かにそりゃあ心配しちゃあいるけども」


 俺は思ってた事をパニッツに言う。実はそこんとこは不安だったんだよね、俺ってやっぱ前世でずーーっとワーキングプアだったから、そういうのが根っこの所にしみ込んじまって抜け落ちないんだよなあ。だからこっちの世界に来てお金持ちや権力者の集まる場所に顔を出した事はあるけど、どうにもこうにも浮いちゃって浮いちゃってなあ。


 「そんな事は心配しとらんよ、衣装でどうとでもなるからな。心配なのはあそこのセキュリティレベルだ。あそこは要人も来るような施設だからな、耐術式素材で作られとるんだ」


 「耐術式素材?」


 俺はパニッツに尋ねる。


 「魔素遮断と放出の疎外をする素材さ、つまり中では魔法も術式具も使用できないという事だ」


 「取り入れる事と放つ事ができないって事は身体強化は出来るんだな?」


 「それは出来るが、場合によっては丸腰で敵と相対する事になるんだぞ?」


 「だが、敵さんも使えないなら条件は同じじゃないか?」


 「ところが必ずしもそうとは言えんのだよ、一部の特権階級の者とその護衛に限り耐術式素材の影響を遮断する魔石が劇場側から渡されるのだ。もしも相手がその特権階級だったらどうする?」


 「むう」


 まるでコピーガード破りガード破りみたいな話だが、確かにそんな状況は厳しい。

 パニッツに言われて俺とケイトは顔を見合わせる。

俺もケイトも中遠距離攻撃を得意とする戦闘スタイルだ、近接もできない事は無いが敵は遠距離攻撃も平気でやってくると想定すると些か自信がない。ケイトの顔を見るに彼女も俺と同じ感想のようだ。

 

 「そう言う事でしたらお力になれるかも知れませんよ」


 フーカさんはそう言って不敵な笑みを浮かべた。


 「以前にジミーさんから伺った話からこの車にちょっと仕掛けを施してありましてね」


 フーカさんはツカツカと魔導車に歩み寄りドアを開け、助手席の前にあるダッシュボードを押す。

 ダッシュボードは昔のCDイジェクターの様にスッとスライドして出てくる。


 「これはそのうちのひとつ、秘密道具です」


 スライドした板には前世の拳銃に似た術式具がふたつ備え付けられていた。


 「おお!こんなのも作ってたの?」


 「どうぞ握って見て下さい」


 俺はフーカさんから手渡された拳銃型術式具を握る。

 全身黒で全長は十五センチほどの小型術式具はグリップと引き金、そして銃身があり俺の伝えたイメージに凄く近い物となっていた。


 「さっすが天才研究主任!最高の出来だぜ」


 俺は拳銃型術式具をしっかり握って狙いを定めてみる。


 「暴発防止装置が付いてますのでそれを解除しないと作動はしませんので気を付けて下さいね。セレクターにより鉄の玉と空気の玉を使い分ける事が可能ですが、今回のような魔素遮断放出疎外ですと鉄玉の発生は疎外されてしまうので使用できるのはその場に存在する空気のみとなります」


 「スッゲーじゃん!試してみていい?」


 「どうぞどうぞ」


 俺は十五メートル程離れた場所に土魔法で肩程の高さの台を作り、その上にその辺に転がっていた石を乗せたやつを四つこしらえ元の場所に戻る。


 「土魔法と風魔法の切り替えは暴発防止の反対にあるセレクターで行えます」


 「了解」


 安全装置は握って左側、親指で切り替えられる位置にあり、魔法切り替えはその逆についている。俺は風と記された方にセレクターを動かし、先ほど作った的へ狙いを定め引き金を絞る。


 「ポンッポンッポンッポンッ」


 発砲ワインの蓋を開ける時のような音がして圧縮した空気弾が連続して放たれる。

 乗せた石はふたつだけ弾け飛んだ。


 「思ってたよりちょっと反動があるね」


 「それでも抑えた方なんですよ。従来のスティック型よりも手首にかかる力はどうしても増えてしまいますからね」


 俺の感想にフーカさんが答えてくれる。


 「ふうむ、これは新しい術式武具という訳か。石弓を握りだけにしたような形で狙いを定めるのには良さそうだが、これでは近接戦闘で鈍器として扱い辛かろう」


 パニッツがなかなか鋭い事を言う。


 「キーケ師範の提唱する、放出系魔法での近距離戦闘術を最近習っていますので私は大丈夫です。勿論、ジミーさんも大丈夫ですよね?」


 「え?ああ、まあ、うん、大丈夫、かな」


 俺は曖昧に返事をする。ううむ、飛び道具的魔法を使った近接戦闘はキーケちゃんやサーヴィングのおとっつぁんみたいな超手練れが好んで使う戦闘スタイルなんで、俺もふたりから一応の手ほどきはうけちゃあいるんだがなあ。

 なんせ、俺のやり方って前世で観たエンタメ由来だからどうしても彼らのような実戦的なやつじゃなくって外連味がでちゃうのよ。

 ふたりからは詰めが甘い、スマートじゃないって怒られどうしだったけど、しかたないじゃん、だってやっぱガンカタ最高だもんよ!


 「私も使ってみて良いですか」


 「勿論、どうぞ」


 フーカさんの了承を得たケイトは拳銃型術式具を手に取り何度か握り直すと、俺が撃ち漏らした石に向かって何度か引き金を引いた。

 パスパスとくぐもった発射音が続き、残った二つの石は弾け飛び、弾け飛んだ空中で空気弾を当てられ更に弾けて飛んだ。


 「おおぉー!ケイト君お見事!」

 「わぁーかっこいいー!」


 パニッツとミケルセンさんが驚きの声を上げ皆が拍手をした。


 「いえ、まあ、たいしたものではございません」


 ケイトは少し顔を赤くして言う。ありゃりゃ、少し照れてますのかいな?

ちぇ!カッコよくて良ぉおますな!わしなんて考案者でいつも似たような術使って得意なはずなのに半分外してますんやで?くぅ~!もっと練習しなきゃ!

 やんややんやと喝采を受けるケイトを見て俺は醜く嫉妬に打ち震えるのだった。


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