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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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セレブなディナーって素敵やん

 「先ほどのお話し、大変興味深いものでしたよ。我が父も似たような事を言ってました。お金は仲間を求める常に仲間を増やしてやれ、と良く言っていたものです」


 大手金融商会の会長ロザムンド・シュクロウ氏は力強い目で俺に語りかける。

 

 「本日はお招きに預かり感謝いたします。私がトモ・クルースで、こちらは友人の」


 「モスマン族のケイトです」


 俺の言葉に間髪入れずにケイトが続きキレイに一礼した。


 「お噂はかねがね伺っていますよ、あの高潔で気高い部族として知られるモスマン族の近衛兵団儀仗隊隊長の御息女で文武両道、ファルブリングのアマリリスと名高い方とお知り合いになれて光栄です」


 ロザムンド氏はそう言ってケイトの手を取り手の甲に軽いキスをした。

 おおーっ!めちゃ紳士!もうほぼ王子様やんけ!


 「いえ、こちらこそお招きに預かっていないのに不躾な訪問、失礼いたします」


 ケイトは凛とした態度のままそう答えた。ううむ、さすがええとこのお嬢さんや、こんなんスルッと出てこないでー。俺は二人のやり取りに内心ポカーンとしてしまう。


 「それでは改めてお招きさせて頂きます。どうぞ、おふたりともこちらへお続き下さい」


 ロザムンド氏に促されて俺とケイトは屋敷の中を歩き、これまたただっぴろい空間にポンと長いテーブルが置かれた応接間に案内された。

 

 「どうぞ、お座りください。今、料理をお持ちします」


 ジェンティーリ氏に言われて俺は指し示された席に座る。

 ロザムンド氏は上座へ座った。


 「アペリティフにポンドメールをどうぞ。ポンド地方のワインにハーブなどのフレーバーを加えたものです」


 ジェンティーリ氏がテーブルにワイングラスを置き、ワインを注いでくれる。

 

 「それでは、今宵の良い出会いに」


 ロザムンド氏がグラスを掲げるので俺とケイトもそれに倣う。

 掲げたグラスを戻し俺はワインを一口飲む。

 おっ!こりゃあ、すっきりして美味いぞ。俺はワインってのはあんまり得意じゃなかったんだが、これはイケる。

 ハーブが入ってるって言ってたから正確にはフレーバードワインってやつになるのかね。

 なんにしても美味いよこりゃ。


 「ジミーさん、食前酒なんですからそんなに一気に飲み干してはいけませんよ」


 「いやー、つい美味しくって」


 ケイトにたしなめられて俺は頭を掻く。


 「格式張った物ではないので構いませんよ。ジェンティーリ」


 ロザムンド氏が柔和な声で言い、ジェンティーリが頷き俺の開いたグラスにワインを追加で注いでくれる。


 「こちらアミューズグールでございます」


 給仕さんが透明なガラスの小鉢と白い小皿を目の前に置いてくれる。


 「小鉢がフォアグラのコンフィで小皿の方がドライプラムのベーコン巻きとなっております」


 ジェンティーリ氏が説明してくれる。

 これもまた美味い!絶妙に食欲をそそるぜ!若かったらこれだけ沢山食いたいと思った事だろうが、中身はオッサンだからそんな事は言わない。


 「ケイトモさんはワットモウ王国の、それも特区に支店をお持ちだそうですな。ただでさえワットモウは色々と規則が厳しい所なのに、さらに制限がある特区に店を構えるとはなかなか出来る事ではありませんよ。とっくに構える条件のひとつに常駐スタッフは特区に居住して三年以上の者に限られるというのがありましたが、それはどうクリアされたのですか?」


 ロザムンド氏が尋ねるので俺はワットモウ支部立ち上げの経緯を話して聞かせた。ロザムンド氏はその話に大層興味を持ち、自分の所も地元でくすぶっている若者を積極的に雇用しているのだがどうも根がやんちゃで時に暴走してしまい困っている、なんて話を聞かせてくれた。

 まあ、お金を貸すって仕事はきれいごとだけじゃあないからなあ、やんちゃな人材も時には必要になってくるだろう。なにせ前世でも、借りる時は神様仏様でも返す時は鬼悪魔扱いされるのが金貸しだ、なんて話もあるからなあ。

 

 「債権の回収には特別なスキルが必要ですからねえ。国によってはそうしたノウハウを知るためにロザムンド氏のような商会に人材教育をお願いしている、なんて話も聞きますしロザムンド氏の商会にもそのうちそうした依頼が舞い込んでくるかもしれませんね」


 「それは実に興味深い。我々はどうしても世間様からは不当な利益を得ていると思われがちですのでね、お国から協力を要請されるようになるなんて夢のような話しですよ」


 ロザムンド氏が嬉しそうに言う。


 「いやあながち夢でもないと思いますよ。バッグゼッドのように高度文明を持つ社会では国もその資産を運用しますからね。そうなれば当然、債権の回収も必要になってくるでしょう。貴族あいてならば国もやりようはあるでしょうが、相手が海千山千のやり手だったらこれは回収するのにかなりの手間とコストがかかりますよ。人材育成では時間がかかりますからね、最初は国の代理での債権回収依頼が自然の流れかもしれませんね。今からでも根回しされたら如何ですか?」


 俺はロザムンド氏に言う。美味しい食事と美味しいお酒が舌を滑らかにさせているようだ。


 「ううむ、確かにそうした話が上がる前からアプローチをかければこちらの先見の明に強い印象を与える事ができますね。いやあ、今日は実に実りある会食となりましたよクルースさん」


 ロザムンド氏はそう言ってグラスのワインを飲み干した。


 「時にロザムンドさん、今日、我々をお呼びになられたのはこうした話をするためではありませんよね?本当の用事は何なのですか?もう、場も十分温まったと思います、どうぞ本題にお入りください」


 俺はなるべく言い方がきつくならないように気を付けロザムンド氏に言う。

 ケイトがチラリと俺を見る。何があるかわからないから備えろと目で語りかけている。

 俺は体内で気を練り周囲の気配を探るが特に殺意は感じられない。

 ケイトに軽く頷き大丈夫であるとアピールする。


 「先ほど申し上げたようにこうした話も十分に益があるものでしたが、そうですね、そこまでおっしゃるのなら本題に移らせて頂きましょうか」


 ロザムンド氏の表情が厳しいものになり周囲の空気がシンと張り詰める。


 「まずは息子の不始末についてこの通り謝罪する」


 いきなりロザムンド氏は頭を下げた。

 予想外の出来事に俺は混乱する。ケイトを見ると彼女もこれは予想していなかったようで俺を見て目をぱちくりさせていた。


 「頭をお上げ下さい。あの件でしたらすべて決着はつきましたので」


 俺はなんとかそう言った。


 「クルースさんが手を回してくれたおかげで大事にならずに済み感謝しています。息子から事情を聴き、付きまとっていた女性の元にも謝罪をしに行ったのですが、自分にも隙があったからとなかなか謝罪の品を受け取って貰えませんでしたよ。クルースさんの商会から防犯グッズを購入するとの事でしたので、その足しにして欲しいと言ってやっと受け取って貰えたほどです。息子にも頭を下げさせてもう二度とこのような事はしないと約束させました。まったく監督不行き届きでなさけないですよ」


 「いやいや、彼には彼の良さもあるでしょうし今回はそれがたまたま悪い方に回ってしまったという事で」


 俺は再び頭を下げるロザムンド氏に恐縮してそう言った。

 

 「そう言って頂けるとありがたい。ヘルファストは上のふたりと違い勉強はできる方ではなかったが、人に迷惑をかけるような子ではなかったんです。それがなぜ急にそんな暴走をしたのか不思議に思って問いただしたところ、妙な事を言いましてね。実は本日お呼び立てしたもうひとつの理由はそれについての調査を依頼したいと思ってなのですよ」


 ロザムンド氏は姿勢を正して俺に言った。


 「その妙な事とは、どのような事なのですか?」


 「ヘルファストが言うにはですね…」


 ヘルファスト君はなんとと言うかやっぱりと言うかルブランたちが書いているような本が大好きなのだそうで、そのグッズを大量に購入したりそれ関係のお店に入り浸ったりしていたそうだ。

 そして、そうした趣味の人が集まる喫茶店、つまりブランシェットたちのお店であるシッピングルーにも良く行くようになったのだが。


 「…そのお店には誰が何を書いても良いノートがあるそうなんですが、息子はそこに自分の近況や自分で考えた物語なんかを書いていたそうなのです。するとその書いた事にコメントがつくようになったと言うんです。そのコメントは作った話への評価やもっとこうした方が良いという注文なんかもあり、息子はそのコメントとやりとりするのが生きがいになっていたようです。ある日、息子は好きな子がいる事をそのノートに書いたそうです。それに対するコメント内容は、息子を煽るものばかりだったようです。彼女は確実に息子に気があるが内気なのでそれが表せないだけだ、とか、そうしたタイプの女性は強引に押されるのに弱いのだ、とかですね非常に無責任に煽るようなコメントばかりがされるようになり息子はそれに触発されてあのような暴挙に及んでしまったとそう言うのです。しかし、実際に顔も知らないどこの何者なのかも知らないような相手の言う事に、それほど振り回されるものなのでしょうか?私にはどうにも納得できませんでしてね。今の若い人は、どこの誰とも知れぬ顔も知らない人間の発言にも強い影響を受けるのでしょうか?」


 ロザムンド氏は困り果てたようにな顔をし首を横に振った。

 なるほどこいつは妙な事と感じても致し方ないな、この世界の人にとっては。

 しかし、俺はこの手の話しは前世で食傷気味になるほど見聞きしてきたから、その手のものの怖さ影響力はよくよく心得ている。

 しかも、その話の舞台はクラスメイトのやっている店だと言うじゃないか。

 こいつは益々見過ごせなくなってきたぞ。


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