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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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好んで泥沼にって素敵やん

 その後、レイモンさんは依頼に来る事もなく、オルガさんの話しでは母上との話し合いは上手くいき学校は辞めなくて良くなったとの事だった。

 俺は一安心するとともにラザインの告知教会の事が気になりだしたので、個人的に調べてみる事にした。

 まずはストームに噂の収集を昼めし三日分の報酬で依頼し、俺は俺でどういう思想を持つ団体なのか調査する事にした。

 そのためには信者の集まる場所に行き学ばせてくれと頼むのが一番手っ取り早いそうだが、さすがにそれをするのは抵抗があった。

 それで、彼らの経典みたいなものは手に入らないかストームに尋ねると、彼らは盛んにあちこちに配布しているので学園の図書室にも寄贈されていたはずだと教えてくれたので俺は図書室に行く事にした。

 図書室に行くとパニッツ図書クラブ部長が俺を見つけ近くにやって来た。


 「これはクルース君、図書室に来るとは珍しいね。ホフス先生のクラブ活動の一環かい?」


 相変わらず力のあるギョロっとした目で俺を見るパニッツ。


 「まあ、そんな感じだね…」


 俺はお助け隊の依頼で関わったラザインの告知教会について調べに来た旨をざっくりと説明する。


 「ふぅ~、君はいつも面倒な事に首を突っ込むな。その趣味なんとかしないと身が持たんぞ?ん?」


 パニッツは強引にオールバックにしているくせっ毛を撫でつけながら言う。


 「なんだい?詳しそうな口ぶりだな部長」


 「まあ、な。今、資料を持って来るからそこに座って少々待ちたまえ」


 「悪いな」


 俺はパニッツに言われたように手近な席に座って待った。


 「待たせたね」


 パニッツは両手にいっぱいの書籍をドンとテーブルの上に置いた。


 「うおっ!こんなにあるのかよ?」


 「まだまだあるぞい、適当に置いてくれたまえ」


 パニッツが言うと後ろにいた女生徒が手に持っていた大きな書籍をバサリとテーブルに置いた。


 「彼女はうちの部員で会計をやっているミケルセン君だ。こちらがいつも話しているクルース君だ」


 「よろしくお願いします」


 ショートカットの少女ミケルセンさんは切れ長の涼しい目で挨拶をする。


 「こちらこそ、スイマセンなんかご面倒おかけして」


 「いいんですよ、部長からいつも聞いていますから」


 ミケルセンさんはそう言って上品な笑みを浮かべた。

 

 「またパニッツの事だからある事ない事言ってるんでしょう?あんまり信じないようにして下さいねえ」


 俺は軽い調子で言う。


 「何を言うか。私は本当の事しか言わぬ男だぞ?」


 パニッツが頬を膨らませて抗議する。


 「ホントかよ?で、どんな事を聞いてるんです?」


 軽くパニッツに突っ込んだ後ミケルセンさんを見る。


 「隣国の侵攻撃退から購買部の新製品まで、何かが起きればその傍に必ずいる人物だと聞いてますよ」


 ミケルセンさんは涼しい顔でそんな事を言った。


 「そりゃちょっと大げさですよ。近くにいたってだけなら他にもいますし」


 「新製品には絡んでいるだろ?今やってるミルクフェスティバルだってコラス君の依頼で君が仕掛けたと聞いてるよ?」


 「いや、あれは飴とミルプレートの案を出しただけで…」


 俺は大げさに言うパニッツに説明する。ミルプレートと言うのは俺が提唱した粉ミルクと練乳を混ぜて焼く菓子にディアナがつけた名前だ。


 「謙遜せずとも良い!それに今日は武勇伝を聞かせに来たわけではあるまい」


 俺の背中を叩いて豪快に言うパニッツ。


 「ぶほっ、そりゃ、そうだが」


 「本題に入ろう。ミケルセン君頼む」


 パニッツは俺の隣りの席に座りミケルセンさんに声をかけた。


 「はい。まずはこちらの書籍ですがラザインの告知教会が出している物になります。この立派な装丁の物はモミバトス経典ですが解釈の違いにより細部の描写などが何点か変更されているもので告知教会編集の経典となっています」


 「え?内容を変更しちゃってるんですか?それってモミバトス教会的に大丈夫なんですかね?」


 「現在モミバトス教会は公式には何も言っておりませんが、帝国モミバトス教会の上層部では偽預言書ではないかと疑問視する声も出始めていると聞きます」


 「それじゃあ、放っておいてもいずれ何らかの規制がかかる可能性が高いんじゃないの?」


 帝国内においてもモミバトス教会の力は強い、そこの上層部に睨まれているのなら俺がやきもきする事もないのかな。スプレーンさんお疲れさんってとこか。


 「ところがそう簡単には話が進まないんだ。こっちの説明を頼むよミケルセン君」


 パニッツはそう言ってミケルセンさんが持って来た大きな書籍をポンポンと叩いた。


 「はい部長。これは今年に入ってからの各社の新聞をまとめたものです。まずはこちらをご覧ください」


 ミケルセンさんは慣れた手つきでまとめられた新聞をペラペラめくる。


 「こちらの記事をご覧ください」


 ミケルセンさんが指さしたのは小さな囲み記事だった。

 ポートギグ鉱山採掘権がベータウィン商会に渡る。ベータウィン商会大躍進!という見出しで書かれたこの記事はベータウィン商会と言う名の新しい商会がここ最近目覚ましい動きを見せている事を説明していた。

 手に入れた鉱山はポートギグで三つ目、他にも大手金融商会や武器商会への大口出資など莫大な資金はどこから出ているのか?と記事では疑問を呈していた。


 「続いてこちらをご覧ください」


 更にパラパラと新聞をめくり目に飛び込んできたのは煽情的な赤い見出しだった。

 新聞名はギルスラポスト、ロジちゃんの仮の姿ポインター記者の勤め先でいわゆるゴシップ紙って奴だ。

 目立つ見出しにはこう書いてあった、帝国歌劇団のディーバ熱愛発覚!お相手は新進気鋭商会の会長か?


 「現在絶賛公演中のバッグゼッドの太陽で主役を演じる帝国歌劇団トップディーバのマリルーネ・サウザンジェンだが、公私共に充実している姿が目撃された。ってこんなゴシップ記事に何か関係があるんですか?」


 「いいから先を読み進めたまえ」


 「ホントに関係してんのかね、えーと何々…」


 パニッツに促されて渋々続きを読む俺。病院の待合室じゃないんだからなんだってこんなゴシップを読まなあかんねん?


 「…気になるお相手は、なんと噂のあの人!現在飛ぶ鳥を落とす勢いで知られる新進気鋭の大商会ベータウィン商会の会長カエドグシル・ベータウィンその人である!ふんふん、まあ、よくある事なんじゃないの?」


 俺はパニッツを見る。


 「それでは次にこちらをご覧ください」


 新聞を閉じ次にミケルセンさんが手に取ったのはラザインの告知教会が出している書籍だった。

 その書籍のタイトルは真理の歩み。

 まーた大きく出たねえ。この手の団体って大風呂敷広げるからなあ。


 「これはラザインの告知教会の活動が記録されたもので、各地での信者獲得や施設建設の様子が記録されています。ここを見て下さい」


 ミケルセンさんが開いてくれたページを見ると、新施設建設協力者の名前が載せられておりそこにカエドグシル・ベータウィンの名前が書かれている。


 「次のここにも、その次にも、必ず名前が載せられています。そして、極めつけがこれです」


 そう言ってミケルセンさんが開いたページには新執行役員ベータウィン氏一問一答と表題が付き、インタビュー形式の談話が載せられていた。


 「ベータウィン商会はラザインの告知教会の金庫番って事なのか?」


 「金庫番と言うよりもラザインの告知教会が資金の洗浄や流用のために設立した商会の可能性が高いな。つまり何が言いたいかと言うと、彼らはとんでもない額の資産を持っているって事なんだ。昔から人の集まる所に鐘は生まれ、金の集まる所に力が生まれると言うだろ?彼らは今や帝国モミバトス教会にも強いパイプを持っているのだよ。まあ、続きを説明してやってくれたまえミケルセン君」


 「わかりました。では次にこちらの記事をご覧ください」


 ミケルセンさんは再び新聞記事をめくり始める。

 どうやらこれは、かなり面倒な所に首を突っ込んでしまったようだ。

 だが、乗りかけた舟だ、ここで降りるって手はないだろう。

 俺は気合を入れて二人の説明を聞く事にしたのだった。


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