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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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はしご酒って素敵やん

 俺達が地下から脱出した場所から一番近くに見えた明かりは当然と言うか何と言うかフルールドポアリエカレッジ外の城郭街のものであった。

 俺達はひとまず目についた居酒屋に入る事にした。


 「はひゃぁー、大変だったねえー、ひとまずお疲れさんという事で」


 俺は店員さんが持って来てくれたビールジョッキを受け取りロジちゃんの持つジョッキに軽く合わせてそう言う。


 「お疲れ様と言いたい所だけど、あなたこれからどうするつもり?戻ってジェニファー・スプレーンと対決するの?」


 ロジちゃんはそう言って俺を見てからジョッキのビールを飲む。


 「んぐんぐんぐ、ぷはぁぁぁぁぁ!う~ん、このために生きてるって感じ!」


 俺はビールをグイグイと煽ってからジョッキをテーブルに置き、口に着いた泡を拭う。


 「殴り込みなら私は協力できないわよ?」


 「殴り込みなんてしないよ」


 挑発するような目でこっちを見るロジちゃんに俺は軽い口調で言う。


 「無事出られたらこのお返しはするって息巻いてなかった?」


 「あの時は腹が立ってそう言ったけど、のど元過ぎれば熱さ忘れるってね。今はとにかくちべた~いのを喉に流し込みたいね。あ、お姉さん、お代わりすいませーん!ロジちゃんも頼む?」


 俺はジョッキのビールを飲み干して言う。


 「私はまだいいわ。って、あなたねえ?じゃあ、どうするの?普通に何もなかったような顔をして戻る訳?」


 「やけに俺の事、気にしてくれるじゃない?もしかして惚れちゃった?」


 「バカね、あなた惚れられるような事したの?地下の魔物相手にあわあわしてただけじゃないの」


 ロジちゃんは呆れたような口調でそう言うとジョッキの中身を飲み干し、店員さんにお代わりを注文する。くぅ~、おっとこまえすぎる。


 「ちぇ、それを言っちゃあお終いよー。でも正直、これからどうしたらいいのかわかんないんだよねえ。このまま戻れば仲間に迷惑がかかりそうな気がするし、かといってこのまま帰っても仲間に心配かけるような気がするし。どうしたらよいと思う?」


 俺はロジちゃんに尋ねる。


 「ふぅ、少しは考えてるみたいだけどやっぱりあなたジェニファー・スプレーンの事を知らなすぎるわね。彼女はかなりの切れ者でね、色々な団体で上級職に就いているのは伊達じゃないのよ。幾つかの団体では派閥争いで彼女のライバル勢力から死者が出て、それは全て事故として扱われているとも聞くわ」


 「まじで?」


 おっかない話しをしだしたロジちゃんに俺は恐る恐る聞く。


 「本当の話よ。彼女が裏で何と呼ばれているか知ってる?謀略公スプレーンよ」


 ロジちゃんは真面目な顔をして俺を見た。

 謀略公って、後々小説の主人公のモデルになったりしそうだなあ。

 俺はうんざりする。


 「そんな抜け目のない人物ですもの、君がいなくなる事で他の生徒達が騒ぎ出すような手は打たないに決まってると思わない?」


 「確かにそうだ。仲間には用事が出来て先に帰ったとかなんとか言ってそうだ」


 俺はジョッキのビールを飲んで言う。


 「私もそう思うわ。だから、仲間に心配かけるって事は考えなくてもいいと思うわよ」


 「もし俺が戻ったら、スプレーンはどう出ると思う?」


 「そうねえ、あなたに余計な事を言わせないようにしなきゃいけないわよねえ。でも、戻って来た時点でこちらが伝えた事とは齟齬が生じるからねえ。あなたもお仲間も一緒に口封じするってのが一番手っ取り早いけど、あなたの話じゃ今回の顔合わせには手練れが何人もいるんでしょ?」


 「ああ、他所の国の留学生もいるから強引な手を使えば騒ぎは国内だけじゃ済まなくなるよ」


 「それは別にスプレーンにとっては大きな問題ではないんじゃない?彼女ってバッグゼッドの弱体化をビジネスにしているくらいでしょ?」


 「ああ、そっか。んじゃあ国際問題なんて怖くはないか」


 「まあ、色んな所に所属して色んな事に関わってるみたいだから勝手にそんな大きな火種を作るのは望むところではないとは思うけどね」


 そういやスプレーンもある程度の地位に就いちゃうと新しい事をするのが難しくなったりするもんだなんて言ってたな。

 そんじゃあ奴もそこまで強引な事は出来ないって事か。

 

 「てことはここはやっぱり戻った方がいいのかね?」


 「あのねえ、あなた話し聞いてなかったの?彼女にとっては君達はゴキブリみたいな物なのよ。なるべくなら周囲が汚れないように始末したいけど、あんまり鬱陶しいなら掃除の手間がかかるけどここで始末しちゃおうかしらってなものなのよ。それにスプレーンほどの謀略家ならば、もっと効率の良いやり方をとってくるかもしれないわ」


 「もっと効率の良いやり方?」


 「例えばだけど、なんらかの策略を用いて君やお仲間を罪人として捕縛するとかね」


 「どうやって?」


 「それはわからないけど、城壁の向こうは彼女のフィールドでしょ?何かしらのやりようはあるんじゃないの?」


 「むう」


 俺は考えこんでしまう。確かにスプレーンがロジちゃんの言うように人を陥れる事に長けた稀代の謀略家であったのなら、それ位の事はやってのけそうな気がする。

 俺と実際に顔を合わせて話したのも、俺がどう動こうが好きに料理できるという自信からとも考えられる。

 

 「まあ、最後はあなたの気が済むか済まないかの話しになっちゃうんでしょうけど、私としては大人しく自分の家に帰る事をお勧めしたいわね」


 ロジちゃんはそう言うとテーブルに運ばれてきた料理をパクパクと食べだしたので、俺も暗い気持ちになってばかりはいられないと食いに走るのだった。

 そうして腹いっぱい料理を食べそこそこ飲んで、お疲れさん会はお開きになる。


 「ロジちゃんの事、全然話してくれなかったじゃん」


 俺は会計を済ませて店の外に出てロジちゃんに言う。


 「エイティーフレーバーズのディナーが条件だったはずでしょ?この程度じゃ私の事は話せないわよ。それよりもね、もう一度だけ言っとくけど大人しく家に帰りなさいよ?それは仲間のためでもあるんだからね?」


 「ああ、わかってるって」


 「ならいいんだけど。じゃあ、またね」


 ロジちゃんはクルリと後ろを向いて歩き出す。


 「今日は世話になったな。次こそは高級レストランのディナー奢るからさ」


 「期待しないで待ってるわ」


 ロジちゃんはこちらを振り返らずに片手を上げてそう言った。

 マジで今日は世話になりました。

 俺は一礼してロジちゃんを見送った。

 

 「さてと、どうしたもんかな。このまま帰ってもいいんだけどまだ時間も早いしなあ、もう一件寄ってから帰るかな」


 俺は周囲を見渡す。城壁に沿って並ぶ店は煌々と明かりがつき、行き交う人々は誰も彼もがご機嫌な様子であり夜はまだまだこれからだと言う気分にさせてくれる。

 ほろ酔い気分で繁華街を歩くのって嫌いじゃないね。

 俺は立ち並ぶ店やそこから出てくる酔っ払い達を見ながら街を歩いた。


 「……出せ。大人しく言ってるうちに出した方が利口だぜ?」


 路地裏から物騒な声が聞えてくる。

 俺は薄汚れた路地に入り声の主を探した。


 「おい兄ちゃん、早く金を出さねーとそのキレーな面を切り刻むぞ?」

 「おい、こいつ攫ってその手の趣味の奴に売った方が金になるんじゃねーか?」

 「そうすっか」


 路地を進むと壁際に黒い服を着た少年が立ち、彼を囲むように男達が三人、下卑た笑いを浮かべて立っていた。

 ありゃ?あの一見華奢な体系、爽やかサラサラヘアーに女の子のようなキレイな顔立ちは。


 「おや?クルース君、探しましたよ?」


 こちらを見てニィっと笑みを浮かべたのはクランケルだった。


 「こんなとこでなにしてんだよ?」


 「それはこっちのセリフですよ」


 クランケルは俺にそう返す。

 まあ、そりゃそうか。


 「よし、お前らもう行っていいぞ」


 俺はクランケルに絡んでた男達に近寄りそう声をかけ手を振った。


 「なんだと?ふざけやがって」

 「こいつの仲間か?だったらお前も金を置いていけや」

 「それとも一緒に痛い目に合うか?おう?」


 三人組は俺の方を向いて凄み始める。

 めんどくせーなー、こっちは散々な目に遭ってやっと一息ついたばかりだってのによう。

 

 「彼の言う事は聞いておいた方が利口ですよ。なにしろ彼はとても強いですからね」


 「ほう?おもしれーじゃねーかよ?」

 「それじゃあその強いとこ見せて貰おうじゃねーか」

 「おう?こら?おう?」


 クランケルが煽るような事を言うと三人組はまんまとそれに乗せられ、それぞれ手に短刀を構えるとそれを俺に向けてイキリ散らした。


 「クランケルよう、余計な事を言うなって」


 飯も食ったしほろ酔い気分だしで俺はこんな揉め事に関わるような気分じゃあないんだ。

 面倒な気分になっていた俺は風魔法で圧縮した空気を放つ術、空気弾を放ち彼らの短刀を破壊する。

 

 「ぐわっ!」

 「いでぇ、いでぇーよー」

 「なっ!なんだっ!」


三人組は短刀を握っていた手を反対側の手で押さえそれぞれ叫んだ。

 

 「ほら、早くお逃げなさい、さあ」


 クランケルは優しい声でそう言いパチンと手を叩いた。

 男達はそれで目が覚めたかのように一気に路地裏から飛び出していく。


 「さてと、それではクルース君、何があったのか聞かせて貰いますよ?」


 クランケルはニンマリと怖い笑みを浮かべて俺を見る。

 

 「俺も聞きたい事があるんだ。どこか店に入ってお互いの情報を教え合おうぜ、な?」


 俺はクランケルにそう言って来た道を戻る。


 「まったく、何かと理由をつけては飲みたがりますね君は」


 「そう言うなって。酒は憂いを払う(たま)(ぼうき)ってな。さ、行くべ行くべ」


 「困った人ですよあなたは」


 ぶつくさ言いながらついて来るクランケルを引きつれ俺は適当なお店を探すのだった。


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