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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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狭い場所で縮まる距離って素敵やん

 嬉しそうに小走りするロジちゃんを追って水脈沿いを進むと、徐々に川幅が狭くなり水音は大きくなってきた。

 川幅が半分ほどになった時、前方に滝が見えて来た。

 滝の高さは十メートル程か、周囲は滝つぼに落ちる水の細かいしぶきが立ち込め清涼な雰囲気を醸し出している。


 「こいつは、凄いね」


 「大型魔物が外に出られない要因のひとつかもね」


 ロジちゃんはそう言ってゲイルで飛び滝の上流へと向かうので俺も飛んで後に続く。

 滝の上は横幅二メートル程高さ一メートル程の洞窟になっており、そこからかなりの勢いで水が流れ出していた。

 

 「かなり水の流れが激しめだけど、ここを進む気?」

 

 俺はロジちゃんに尋ねる。


 「当たり前でしょ?他に進む道なんてある?」


 ロジちゃんはゲイルの術式で宙に浮いたまま横になり器用に頭から洞窟に入って行った。

 

 「うわぁ、俺、狭い所苦手なんだよなあ」


 ロジちゃんに従い俺も地面にうつぶせになるような姿勢で洞窟の中へと侵入する。

 高速飛行する時もこの姿勢をとるけど、これって首が慣れるまで痛いんだよなあ。


 「ぶつくさ言ってないでちゃんと着いて来なさいよ。この先、まだなにがあるかわからないんだから」


 「お?なによロジちゃん、俺の事、頼りにしちゃってる感じ?」


 「その様子ならもう少しペースアップしても大丈夫みたいね」


 そう言って移動速度を上げるロジちゃん。


 「待ってよ~、おいてかないでよ~」


 俺は軽くおどけて後を追う。



 「あなたこういう状況、初めてじゃないの?なんだか余裕があるみたいだけど?」


 「こういう状況って、美人と二人きりって事?」


 俺は聞き返す。


 「バカねえ。ホントに余裕があるみたいで助かるけど普通はね、出れるかどうかわからない地下ってだけで精神が削られる所を、こんな狭くて薄暗い空間を通る事になれば不安になってパニックを起こしてもおかしくはないわ。私のような仕事をしてればそうした訓練も受けるけど、あなたは同業ではないでしょ?それとも冒険者稼業で身に着けたのかしら?」


 前を行くロジちゃんは俺に話しかける。ロジちゃんの言う通り、確かにこの状況は精神を削るわな。ロジちゃんも俺の事を気にしてくれて会話を続けてくれてるんだろうな。これはありがたく乗らせて貰うか。


 「まあ、そうだね。以前に冒険者依頼で似たような経験はしてるよ…」


 俺はレインザーのジーフサ大海樹地下から海まで続く長大な地下水脈を辿った時の話をする。

 破壊工作を行った集団を追って巨大な森林地帯の地下にある水脈を延々と船で進んだのだが、その地下水脈はもしかしたら遠い昔に存在した世界樹かそれに類する巨大な樹木が倒れ、その上に溶岩が流れた時に出来た溶岩樹型ではないかという話でキーケちゃん達と盛り上がったのだった。

 

 「…てなわけでさ、二日がかりで進んだその地下水脈は、結局、遠く離れたクブロスカ領トゲウオの街の海岸まで続いてたわけ」


 「なるほどね、確かにそんな経験をしていれば耐性が付いていてもおかしくはないわね。しかし、あなた達もおかしいわねえ。国に対して破壊工作を行った重罪人よりも地下水脈の成り立ちについての方が関心事なんて。なんだか、君って人間がどういう人なのか少しわかった気がするわ」


 ロジちゃんの言葉には少しばかり暖かいものが混じっている様に俺には感じられた。


 「今度はロジちゃんの事を知りたいねえ」


 俺は先を行くロジちゃんにそう声をかける。


 「女性の事を知りたいならそれなりの状況を作らないとダメよ。エイティーフレーバーズのディナーでのお楽しみって事でね」


 「もう決定事項なのかいな」


 俺はちょっと嬉しそうに言うロジちゃんに軽くツッコむ。


 「普通は喜ぶ所よここ」


 「わーい、嬉しいなあ」


 「ふぅ、もう少し自然に喜べないのかしら」


 ロジちゃんがため息交じりに言う。

 

 「いや、マジで喜んでますって」


 俺はそう答え、ロジちゃんは笑った。

 心なしかロジちゃんとの距離が縮まったような気がする。


 「出口が見えて来たわよ」


 「マジで?」


 ロジちゃんのその言葉に俺の声も思わず弾んでしまう。

 なんだかんだ言ってもせまっ苦しい場所をほぼ腹ばいのような姿勢で進むのは精神的に疲れる。

 

 「くぅぅぅぅぅぅぅう!」


ロジちゃんに続いて広い空間に出た時に思わず伸びをしてそう声に出してしまう俺。


 「ふう、スッキリするわね。でも、この場所はどう見る?」


 さすがのロジちゃんも疲れたのか伸びをしながら俺にそう問う。

 狭い水脈から出た先、俺達が建っている場所は浅い水が広範囲にわたってある湿地帯のような場所だった。

 ただし地上にある湿地帯のように植物や泥などは見受けられず、岩や石がメインの湿地帯である。

 まるで渓流がそのまま大きくなったような場所だ。

 天井は高く、所々亀裂でも入ってるのか薄い光が差し込んでいるようだ。

 

 「こりゃあ、地上の光が差し込んでるっぽいねえ。外に出られる場所も近いんじゃない?」


 「私もそう思うわ。行きましょう」


 ロジちゃんはそう言って湿地帯をバシャバシャと進む。

 ちょっと水位があるような場所でもお構いなしに進むロジちゃん。

 俺は靴の中が水浸しで気持ち悪くなる。

 靴の中の水は気にならないのだろうかと思ってよく見れば、ロジちゃんの履いているのは膝下まであるブーツであった。

 そりゃ、ちょっとの水なんか気にしないわなあ。

 俺はボチョボチョと音を立ててロジちゃんの後に続く。

 水の中には小魚や小さなカニがおり、俺の足を避けて逃げて行く姿がときおり見える。

 

 「あれを見て」


 ロジちゃんが足を止め天井を指差すと、そこにはポッカリと空いた丸い穴が見えた。


 「人がこしらえた穴かな?」


 「多分そうね。出られるかもしれないから見てみましょう」


 言うが早いかロジちゃんは颯爽とゲイルの術式で飛び去ってしまう。

 

 「おいおい、天井付近はまたゲイル防止の奴があるかも知れないのにチャレンジャーだな」


 俺はゲイルでロジちゃんの後をおっかなびっくり追いかける。


 「さすがにこんな所までゲイル疎外の術式を施しているとは思えないわ。もし施してあったら大したものだけど………ほら、大丈夫でしょ?」


 ロジちゃんは天井付近まで飛んで笑顔で俺の方を見る。


 「ああ、大丈夫みたいね。んでこの穴は」


 俺は天井にポッカリ空いた穴を覗き込む。そこからは薄闇に包まれた空が見えた。


 「しっかり外に繋がってるわね。さっさと出ましょう」


 ロジちゃんはそう言うと穴をくぐって外へ出て行く。

 俺も後に続いて外へ出るとそこは鬱蒼とした林の中であった。


 「どうやら打ち捨てられた井戸みたいね」


 ロジちゃんに言われて今出て来た場所を見れば果たしてそこは荒れ果てた井戸であった。

 

 「昔はこの下にもっと水があったって事なのかな?」


 俺は今まで俺達がいた井戸の底を見てロジちゃんに言う。この底は結構広い空間だった、あの空間が水で満たされていたなんてなかなか想像できない。


 「ここから水をすくえるくらいの水位はあったのかもね。地形の変化なんかもあったのかも知れないけど、その辺りを推測するのはまた今度にしましょう。今はひとまず街に出て一息つきましょうよ」


 「ああ、そうしましょったらそうしましょ」


 俺は一も二もなくロジちゃんの意見に同意する。喉も乾いたし腹も減った、とにかく一息つきたい。

 そんなわけで俺達は街へ出るためゲイルで空へ浮かび現在地を確かめると、明かりがともる方向へ向けて急ぎ移動を始めるのだった。


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