守り人の思想って素敵やん
ラダメブランカで社を発見した俺達はその社の処置について相談をするためにパヤプサさんの所に急行した。
「あらあら、早速お友達を連れてきてくれたのねえ。どうぞいらっしゃい」
「いやあ、連日すまんな。こいつはボンパドゥの研究主任フーカだ。フーカよ仮面を取って挨拶せんか」
「ああ、いや、これは失礼しました!フウ・フーカです!」
ニコニコと嬉しそうに出迎えてくれるパヤプサさんにプロテクトスーツのフェイスガードを収納して挨拶をするフーカさん。
パヤプサさんは二日連続の訪問にもかかわらず快く出迎え歓待してくれた。
「また来てくれて嬉しいわあ」
お茶とお菓子を持って来たパヤプサさんは嬉しそうに微笑んで言った。
「いやあ、スマンな。今日寄らせて貰ったのには理由があってな」
「もしかして昨日持って行って貰ったものが何かあったのかしら?」
「それもあるんだが、まあ、あれだ、フーカ、説明してやれ」
上品な仕草で首をかしげるパヤプサさんを見てキーケちゃんは少々面映ゆそうな表情をしフーカさんに話しを振った。
パヤプサさんの上品でどこか浮世離れした所に俺は山中で出会ったニュートさんをだぶらせ不思議な気持ちになっていたけど、キーケちゃんはキーケちゃんでパヤプサさんに対してやはり何か感じるものがあるんだろうか?
珍しく照れ臭そうにしているキーケちゃんを俺はついまじまじと見てしまう。
「なんだトモよ?あたしの顔に何かついているか?」
「ああ、いや、なんでもないよ。さ、フーカさん、よろしくね」
鋭く視線に気づいたキーケちゃんだったが、俺はすっとぼけてフーカさんを促す。
「え、ええ。それでは…」
フーカさんは気をとりなすとこれまでの事を話しだした。
パヤプサさんから預かったシャルドウトーラスらせんのミニチュアみたいな物に記録されていた事を、そしてラダメブランカ山中で発見したお社の事を。
「…そんな訳でこれはパヤプサさんに伝えねばと思い取り急ぎお邪魔させて頂いたのです」
「あらあら、それはそれはご丁寧にありがとうございます」
フーカさんの説明を聞いたパヤプサさんは落ち着いた様子でそう言ってお茶を飲んだ。
ありゃ?それだけ?あんまりパヤプサさんのリアクションがあっさりしているものだから俺は拍子抜けしてしまう。その思いはフーカさんも同じようで虚をつかれたように目を丸くしている。
「っと、あの、何と申しますかですね、まずこの事がパヤプサさんにとって当然大きな意味を持っていると思いましてですね、その…」
「あらあら、色々と気を使わせてしまったみたいねえ。こんな若い子に気を使わせちゃうなんて私って駄目ねえ」
パヤプサさんとは初対面だってのもあるだろうし、パヤプサさんのどこか浮世離れした超然とした雰囲気に押されたってのもあるのだろう、フーカさんの調子はいつもとちょっと違ったがパヤプサさんは変わらぬ調子で柔和な笑顔を浮かべてそう言う。
「きっひっひ、フーカの奴はな、ぬしから預かったものの内容と山で見つけた社がな、ぬしの生活を乱す事になりはせんかと心配しとるんだ。そういう事にはならんと教えてやれい」
キーケちゃんが笑って言いフーカさんは表情を硬くして背筋を伸ばした。
「ああ、そういう事ね、だったら心配はご無用よ。私のお山での仕事は終わったの。それは確かな事だから昔のお社が見つかったからといって私がそれを管理しなければいけないという事はないのよ」
「…そうなんですね。それは良かったです」
フーカさんは少し間をおいてそう言って笑顔を浮かべた。
「ですがその社はパヤプサさんのご先祖様が守られてきたものですよね?パヤプサさんとしてはどうしたいとか希望はありませんか?」
俺は尋ねる。
「う~ん、特にないわねえ~。タモちゃんに預けた物で子孫に託すとかメッセージがあれば考えるけど、そう言った事がなければ伝え聞いてもいなかったものだしねえ~。発見した人の好きにすればいいと思うけど」
パヤプサさんは顎の下に手を当てて少し考える仕草をしてからそう言った。
え~?そんなんでいいんですか~?俺は何かを守る一族とかなった事がないからわからないけど、前世で観たエンタメ作品に出て来たその手の人はそういう物を神聖視していたけどなあ。
「好きにしてと言っても、やっぱり壊されたり移動されたりするのは気持ち良い物ではないですよね?」
フーカさんがパヤプサさんに聞く。
「う~ん、確かにぞんざいに扱われるのを見るのは嫌ですけど、例えばいったん解体して別の場所に移し替えて、昔はお山の神様をこうして祀っていたって事を多くの人に見て貰うなんて事になったら素敵かもねえ」
「えっ?いいんですか?解体して移動しても?」
「全然構わないわよ~。大切なのはお山の神様を大切に思う気持ちで物じゃないからねえ」
パヤプサさんの答えにフーカさんは目を丸くする。俺も内心、驚いたしとても好感の持てる考え方だとも思った。
何かを信仰するってのは悪い事じゃないし時に人を強くする事だとも思うが、前世でもこっちに来てもその思想ではなく解釈に重きを置きすぎて本末転倒になっているような団体をよく見かけたもんだ。
本来大切にすべきは信仰対象への愛情であり、それによって心の平安を得て人格が磨かれるようになるはずが解釈に終始するあまり禁止事項を熟知する事や勧誘活動へ熱を入れる事、そして信仰対象がその団体そのものになるような教育ばかりしだすケースがとても多かった。
そうなってくると心の平安を得るのとは真逆な事になってくる。
多すぎる禁止事項で人の弱さを知り謙虚になるならば良いが、たいていの場合はそれに縛られ心は不自由になり守れない事に罪悪感を抱くか、守って心地よくない自分に対して楽しそうにしている人を断罪しはじめる。
多くの人は他者に対して厳しい目を向ける方を選ぶものだ。人ってのはそんなに強い生き物じゃあないからな。
そんな状況で熱を入れるのは勧誘活動と組織崇拝ばかりとなれば人格を磨くどころの話しではなくなってくるのも仕方なしだろう。
パヤプサさんの考え方、それはきっとその一族が代々受け継いできた考え方なんだろうが何かを信仰する事の本質に迫った考え方であるような気がするな。
「フーカよ、そう言う事だからお社をどうしたいのかきちんと説明してやれい」
「あっ、そうですね、すいません。ちょっと面喰ってしまいまして…」
キーケちゃんに促されてフーカさんは社についての考察をパヤプサさんに説明した。
俺が見た事と社との関係性、例えば過去にあった事を見せる機能が社にあるのではないか説や、俺がタイムスリップした説、これはちょっと、いやかなり突飛な考えではあるがフーカさんは俺が異なる世界からやって来た事は知っているし、彼女の仕事自体がこの世界の理とは違う物や現象に対応する事だからそうした事は十分あり得る事と認識しているのでフーカさんはタイムスリップ説を押し気味に説明する。
「…という訳でですね、私としてはあのお社を研究所に持ち帰って調べたいと思っているのです」
「うふふ、それは面白いわねえ。私もクルース君が大昔の世界に行ってご先祖様を助けてくれたんじゃないかと思うわあ。タモちゃんがクルース君を連れてきてくれたのも、一族に伝わるものを預かってくれたのも、きっと何か意味があると思うもの」
「それでは、移動させても構わないのですか?」
フーカさんは嬉しそうに笑うパヤプサさんに尋ねる。
「ええ、そう言う目的ならどうぞ移動させてお調べくださいな。そのままそこに置いておいたら、また別の人が遭難した時に同じ力が働いてその人がご先祖様の所に行って今度は失敗しちゃうかも知れないでしょ?そうなったら困っちゃうもの」
「そうなると預かった記録の内容も変わってしまうのか?調べるにしても気を付けなければならんなあフーカよ」
「ええ、これは非常に興味深い話しですね。実際に検証してみたいところですが大きな力の動きには大きな危険も伴いますからね。記録を見ながら慎重に行いたいと思います」
パヤプサさんの意見にキーケちゃんとフーカさんがそう話し合う。うわっ、タイムパラドクス的な事に足を突っ込むと頭が痛くなってくるから俺は口を挟まんとこ。
未来は決まっていないところがいいところ、ぐらいの認識が俺には一番だ。
そんなこんなでパヤプサさんとの話し合いは友好的かつ穏やかに済んだのだった。
フーカさんはすぐに帰ってお社移動の準備をすると言い飛んで行ったので俺とキーケちゃんは学園に帰る事にした。
「そうだトモよ。お使いの駄賃をフーカから受け取っとるから渡さねばなあ」
空中移動中にキーケちゃんが俺を見てそう言った。
「それじゃあさ、そのお金で帰りに一杯やってかない?キーケちゃん、どこか美味い店知らない?」
「ふふふ、そうだな、だったら肉料理の美味い店があるぞ」
「いいねえ~、なんだかんだで結構動いたからねえ。腹も減ってるし」
「そりゃ腹も減るだろうよ、なんせ今日の食事はフーカの出した妙なゼリーだけだからなあ」
「そうだった!腹減る訳だ!早く行こう!」
「きっひっひ、そうするか」
俺とキーケちゃんはペースアップして飛びキーケちゃんお勧めの肉料理の美味い店に行ったのだった。
肉料理の美味い店でキーケちゃんとふたりでお使い物の打ち上げをしていると、シエンちゃんとマスターホフスがやって来て合流し一気ににぎやかになったと思っていたら、ほどなくしてアルスちゃんと生徒会メンバーまでやってきてちょっとした宴会みたいな規模になってしまった。
まあ、大勢でワイワイ飲むの好きだから大歓迎ってな所だけどな。
「おいリーダー」
飲んでいる俺にマスターホフスが声をかけてくる。
「もうリーダーじゃないっすよ」
「何を言っとる、おまえは終身名誉リーダーという事で決まっている」
「げげっ!終身って死ぬまでって事っすか?」
「そう言う事になるのう」
「くぅ~、参りましたねえ~。参ったからカンパ~イ!」
結構酔いが回ってきている俺は持っているジョッキをマスターホフスのジョッキに当てて飲み干す。
「くっくっく、いい飲みっぷりだがいつまでそんな調子でいられるのかのう?」
マスターホフスがまるで悪役みたいなセリフを言う。
「え?なんすかそれ?どういう意味っすか?」
「くっくっく、聞きたいか?」
「もったいぶらないで下さいよ~。あっ!これお代わりおなしゃーーす!マスターもお代わりいります?」
「ああ貰おうか、っておいおぬしなあ?」
マスターホフスがジト目で俺を見るのでお代わりふたつを頼んで背筋を伸ばす。
「いやあ、すんませんすんません。それで、なんでしたっけ?」
「まったく、おぬしは調子に乗る時はとことん乗るからのう。まあ、そういう所は嫌いじゃあないがな。まあ良い、おぬしちょいとうるさい所から目をつけられとるぞ」
マスターホフスがニヤリと嬉しそうな笑みを浮かべる。
え?なに?うるさい所?誰?なんで?そしてなぜマスターホフスはそんなに嬉しそうなの?
様々な疑問が頭の中を回り俺は酔いが覚めていくのだった。




