新兵器登場って素敵やん
結局、ビジターの宿泊所などはなく俺とキーケちゃんは従業員用の宿泊場所に泊まったのだった。
そして翌日の朝、俺は元気いっぱいのフーカさんに叩き起こされるのだった。
「さあ!準備は万端ですよー!行きましょう!すぐに行きましょう!」
「なっ、なんすか?その格好は?」
押しかけて来たフーカさんの姿に俺は思わずたじろいで聞いてしまう。
彼女が着ているのはひらひらしたエメラルドグリーンのドレスに見えるが、メタリックな輝きは明らかに生地が布ではないし、むやみに膨らんだ装飾はまるで羽のようにも見え何と言うのかドレスと言うよりも空を飛んで戦う美少女アニメものの装備みたいだ。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!これぞ徹夜で改良した複数術式内蔵試作型プロテクトスーツ、名付けてグリーンモンスター!グリモンと呼んでください!」
どや顔で言うフーカさん。
「グリモンですか?」
なんかやたらと速そうな名前だったのに急にファニーになってしまったなあ。
「そうです!かわいい名前と可憐な見た目に惑わされると痛い目見ちゃいますよ!」
ポーズを決めて俺を指差すフーカさん。何かに変わってお仕置きされそうな勢いだよ。
「朝からテンション高いのう。そいつがあればラダメブランカでも活動できるのか?」
騒ぎを聞きつけたのかキーケちゃんが顔を出して笑って言う。
「ふふふ、活動できるどころじゃあありませんよ!これはあらゆる環境に耐えるべく作られた自立支援型プロテクトスーツですからね!空中移動だって皆さんに後れを取るものじゃあございません!!」
「ほう?そいつは大したもんだがそんな立派な装備をつけたまま朝食は摂れるのかい?」
「よくぞ聞いてくれました!あらゆる環境とは水や食料がない場所も含まれていますからね!これをどうぞ!」
フーカさんはそう言うとグリモンの腰部分が音もなく開き、中から歯磨き粉のチューブみたいなものをふたつ取り俺とキーケちゃんに手渡した。
「なんすかこれ?」
「今日の朝食です。こうやって摂取します」
フーカさんはそう言うと同じものをもうひとつ取り出し、先端部分をひねって開けると口にくわえチューチューと吸いだした。
エネルギーゼリーみたいなもんか。
俺も真似をしてチューブを加え吸ってみる。
レモン水みたいな味がほのかにする。
う~ん、美味からずマズからずだ。
チューブを咥えたキーケちゃんも微妙な表情をしている所を見ると俺と同じ感想のようだ。
「ボンパドゥ特製簡易食です!飽きの来ないレモンフレーバーにしてあります!」
「確かに飽きはせんがなあ」
「もっと美味しい味にして貰いたいよねえ」
自信満々に言うフーカさんにキーケちゃんと俺は答える。
「だったら次は味見役で協力して下さい!さあ!そんな事より今は早く出発せねばですよ!さあさあ!」
「うう、起き抜けだってのに」
「この勢いでは止まりそうもないな。仕方ない出るか」
俺とキーケちゃんはフーカさんの勢いに押さられるようにして外に出るのだった。
「それは本当に飛べるのか?」
「あ、まだ信じてませんね?それでは実際にお見せしましょう!術式オン!ゲイルモード!」
疑うように言うキーケちゃんにフーカさんは嬉しそうにそう答えると、ドレスの羽のようにふんわりと膨らんでいた個所が勢いよく広がり蝶の羽のような形になった。
「お!可変した!」
「見ていて下さいねー!それっ!」
驚く俺に答えるようにフーカさんは気合を入れるとふわりと宙に浮き、そのまま凄い速度で飛んでいった。
「おうおう、なかなかのもんじゃないか」
「こりゃ、うかうかしてらんないや!」
パチンコ玉のようにすっ飛んでいったフーカさんを見てキーケちゃんはのんきに笑ったが、俺はあんなペースでずっといかれたらついていけないぞと焦りを感じすぐに飛んで彼女を追いかけた。
「あ~れ~~~」
頑張ってフーカさんに追いつくと彼女はあられもない声を上げ高速回転をしながら空を突き進んでいた。
「うわっ!なんすかそれ!もしかして直進性を確保するためっすかー?」
凄い勢いで飛ぶフーカさんに俺は声をかける。ボンパドゥの主任研究者が徹夜で開発した新兵器だもんなあ。銃弾のようにジャイロ効果で直進安定性を出しているのか。
「ちちちちちち」
「ち?」
「違いまぁぁぁぁぁすぅぅぅぅぅ~上手く制御できないだけですぅぅぅぅぅ目が回りますうぅぅぅ~」
なんと、狙ってやってる訳じゃあなかったのか。
「どうします?止めますか?」
「とととと止めてぇぇぇぇぇ~」
「了解です」
俺は激しく回転するフーカさんに近付きタイミングを見て肩をつかみ、一緒に回転しながら徐々に回転数を減らしていく。
うひゃあ、こりゃ目が回る。
「ぷひぃ~、助かりました~」
なんとか頑張って回転を止めるとフーカさんは目玉をヒクヒクさせながら俺にそう言うのだった。
「朝から元気いっぱいだのう」
キーケちゃんが笑って言う。
「ひっ、酷い目に遭いましたがこれも研究ですからね。良い経験ができましたよ」
「おうおう、そんな状態でもそう言うか。大したもんだ」
「きっ、気を取り直してペースを上げて行きましょう!」
フーカさんはそう言うとドレスの首元を触る。すると首元が伸び顔全体を覆う仮面のような状態になった。
仮面は目の部分が大きく黄色の光りを放っている。
「うおっ!カッコイイ!」
「環境対応モードオン!高度を上げて行きましょう!」
仮面モードになったフーカさんはそう言うと更に高度を上げるのだった。
「こりゃあ、本格的に気合入れてかないとヤバいな」
「きひひ、そんなに心配せずとも今のおぬしならば大丈夫だろう」
気合を入れる俺にキーケちゃんはそう言ってくれる。
まあ、でも油断は禁物だ。
俺は前回学んだ鮫肌加工シールドで飛行速度を稼ぐ。
そのおかげもあってかいいペースで飛び続ける事が出来た俺達はほどなくしてラダメブランカに到着する。
「この辺だなトモが寝ていたのは」
キーケちゃんの先導で到着したのは一面の雪景色の中。吹雪いてはいないが日が差しているのに小雪がぱらつく不思議な天気だ。
「よくわかるねえ。俺にはどこも同じように見えるけど」
「よく見てみい。あちらの尾根とこちらの尾根の稜線に見覚えはないか?」
「う~ん、やっぱよくわかんない」
キーケちゃんが指さす先を見るが俺にはよくわからなかった。
「仕方ない奴だなあ。もっと注意深くしていないとダメだぞおぬしは」
「大丈夫ですよクルース氏。そんなぼんやりした人のために自分のいる位置を特定できる装置を開発中です!これさえあれば、クルース氏のような注意力散漫で集中力と危機管理に欠けた人でも道に迷う事はないでしょう!こうご期待!」
「うわ、散々な言われようだよ」
俺はしょぼんとなる。
「きっひっひ、まあその辺にしといてやれい。それでフーカよ?これからどうするのだ?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いて下さいました!お次に取り出したります新発明はこれだ!」
キーケちゃんの言葉を受けたフーカさんは不敵に笑うとプロテクトスーツの太もも部分からハンディ扇風機みたいな形状のものを取り出した。
「じゃじゃーん!鉱物探知機~!」
なんだかフーカさんが未来の世界の猫型ロボットみたいになってきたぞ?奇妙奇天烈摩訶不思議?
「記録によれば社の近くにクルース氏の像を設置すると言ってましたよね?」
「別に俺と決まった訳じゃ…」
「そこで社もしくは人型の鉱物を探知するように装置をセッティングすれば…」
「聞いちゃいないよ」
俺の話など全く耳に入っていないように鉱物探知機を弄り周囲に向けてそれをかざすフーカさん。
「こうして辺りに向けるだけで…」
「何も起きないですけど」
「しっ!静かにクルース氏!」
怒られてしまった。
フーカさんは飛んだままゆゆっくりぐるりとその場で一周した。
すると探知機がピコン!ピコン!と音をたてる。
「やった!反応あり!こっちの方向ですね!」
フーカさんは探知機を持ち飛んで移動する。
「どうやら、ここのようですね」
激しくオーバーハングした崖の下にやって来たフーカさんは崖を睨んでそう言った。
「なんか雪崩でも起きそうでおっかないんですけど?」
「…クラックや雪しわは確認されませんね。大丈夫でしょう」
フーカさんは仮面のまま崖を見上げて言った。なんかわかんないけどその仮面、状況判断モードみたいのついとるんすか?なんかカッコイイんすけど?
「それで、この崖の中に何かがあるというのか?」
「う~ん、反応はあるんですけど、それも近くに」
キーケちゃんに言われたフーカさんは探知機を持って崖の下を歩き回った。
「ここが一番反応強いですね」
ピコピコ音が強くなった探知機を持ったフーカさんは立ち止まり、崖下に積もった雪を払いだす。
「何か埋まっているようです」
プロテクトスーツの手の部分が広がりシャベルのようになった状態で雪かきをするフーカさんは、突然手を止めて俺達の方を振り返った。
シャベルのようだったスーツの手を元に戻しフーカさんが丁寧に雪をかき分けると大きな柱のような物が見えて来た。
「俺達も手伝おう」
「おうさ」
俺とキーケちゃんは顔を見合わせフーカさんを手伝った。
雪を掘り風魔法で飛ばしながら埋まっていた物を掘りだす。
「おお!これはまさに社です!」
所々変色し朽ちてはいるが、発掘されたのは俺が見たのとよく似た和風の社だった。
「俺が見たのと似てるっちゃ似てるね」
「まったく同じではないか?」
「う~ん、色も形も色々と変わっちゃってるしねえ、まったく同じものだとは言いきれないかなあ」
俺は掘り出した社を触りながらキーケちゃんに言う。
「そうか、それじゃあ人型の像はどうなのだフーカよ?」
「それも近くにあるはずなのですが」
フーカさんは探知機を弄り周辺にかざして歩く。
「やっぱり社の近くで一番強く反応するのですが」
フーカさんは首を振って俺達に言う。
「反応はするが見当たらないと、ならば社の中はどうだ?」
「そうか!中にあるのならこの反応も頷けます!」
「朽ちているからな、慎重にやれよ?」
「心得ました!精密動作モードオン!」
キーケちゃんのアドバイスにフーカさんはそう答えて社に近付いた。なんだか色んなモードに切り替えが可能なのね。おしゃれモードとかパーティーモードとかもあるんかいね?
俺のそんな妄想とは関係なしにフーカさんは社の入り口らしきトビラに手をかけ、ゆっくりとそれをスライドさせていく。
社のトビラはじりじりと開いていく。
「よし!開きましたよ!ライトオン!」
トビラを開いたフーカさんがそう言うと仮面の目から更に強い光が放たれ室内を照らした。
「これは」
「おお、山の神様の像だねきっと」
中にあった物を見て立ち尽くすフーカさんに俺は言う。
「これが山の神か、強そうだのう」
キーケちゃんが思わずこぼすのも無理はない。中にあったのは筋骨隆々で五本の腕に武器らしきものを持ち怒ったような顔をした像であった。
「山の神様ですかあ。クルース氏のは?クルース氏のがないじゃないですか。近くに祀ると言ってたのにー」
フーカさんが不満そうな声を漏らす。
「近くに祀ってあったけど事情があって壊れたか紛失したのかもしれないじゃない?そもそも俺とは限らないし」
「え~、これじゃあ時代を超える力の正体がわからないじゃないですかあ~」
「そもそもそんな事が起きたのかどうかも定かじゃないでしょ?このお社の不思議な力で過去にあった事を夢のように見ただけかもしれないし」
不満そうに言うフーカさんに俺はより現実的な可能性を示す。まあ、どちらにしても現実離れはしてるんだけど。
「それならそれで面白いではないか。この像、もしくは社事体にも記録媒体としての機能があるのかもしれんぞ?」
「あ!なるほど!その可能性もありますね!では早速これを持ち帰って」
「いやいや、これって山の神様の怒りを鎮める社でしょ?移動させちゃうのはどうなんだろう?少なくてもパヤプサさんに聞いてからやったほうが」
キーケちゃんの話しを聞いて息巻くフーカさんだったが俺はそれをなだめる。だって山の神さんが怒ったら噴火が起きるんでしょ?怖いじゃんさあ。
「きっひっひ、なんだトモよ?おぬし結構信心深いんだなあ」
「いやあ、だってさあ、これでもし噴火が起きたらさ、関係なかったとしてもずっともやもやしちゃうじゃん」
俺はキーケちゃんに言う。信じる信じないに関わらず人間ってそうじゃない?少なくとも俺はそうなのよ。
「なるほどクルース氏の言う事もわかります。非魔法学的だとしても万が一の可能性を捨てきれずに心が揺さぶられるのは致し方ない事です。それにこれはパヤプサさんのご先祖様が守っていたものですものね、勝手に動かすのは良くないですよね」
「まあ、そうだな。だったら今からウェノーナの所に言って話を聞いてみるか?どうせ近いし」
「それはいいですねえ!そうしましょ!今から行きましょう!」
キーケちゃんの意見に一も二もなく賛成するフーカさん。タフだなあ、ふたり共。俺はちょっとお疲れモードよ。




