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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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アゲアゲ高速飛行って素敵やん

そうして楽しい時間はあっという間に過ぎ、また来ることを約束して俺とキーケちゃんはパヤプサさんの家を後にした。

生まれてからずっと使命としてきた事が消え去り、ずっといた場所を後に村に降りたパヤプサさんはいい笑顔をしていた。

本人が言う通り、幸せな毎日を送っているんだろう。

俺はそれを思い少し嬉しくなるのだった。

そんな俺の思いを知ってか知らずか、キーケちゃんはまたもやラダメブランカ越えコースを選択。

経験して理解しているだろうが山の天気を甘く見る出ないぞ?と楽しそうに言うキーケちゃんに俺はあいすいませんと頭を掻く事しかできなかった。

来る時と違いラダメブランカの天候は穏やかそのものだった。

それはまるで、ひと仕事済ませた俺を労っているようにも感じられた。

レイスニュートさん、どこかで見てますか?またいつか来ますよ。

後方に過ぎ去って行く美しいラダメブランカに向かって俺は心の中でそう言うのだった。

そうしてラダメブランカを無事に越えた俺達は一路ボンパドゥ商会連合の研究施設へと向かった。


「日が暮れる前には到着したいからな、少し急ぐぞ?」


「今でも十分速いペースだと思うんだけど」


ゲイルで飛びながらキーケちゃんに答えるが、まあ、俺としてももう少しペースアップ出来る余裕はある。


「きひひ、その感じじゃあまだまだ余裕があるな。ひっひっひ」


キーケちゃんは怪しい笑みを浮かべながら飛行速度を上げた。


「うわっ!待ってよーー!」


まるでワープでもしたように一瞬で点になったキーケちゃんを俺は情けない声を上げて必死で追いかける。

周囲に人里は無し、俺は高度を下げ酸素供給に回していた魔力を飛行速度アップへと回す。

ゴマ粒のようだったキーケちゃんの姿が少しずつ大きく見えて来る。

シールドも抵抗を減らすようにより鋭角にしていく。

夏みかんサイズにまで見えて来たキーケちゃんだがそれ以上距離を詰める事が出来ない。


「キショーッ!もっと速度出さなきゃかーー!」


今の俺の能力で飛行速度を上げるにゃどうしたらいい?

前世で高速飛行できる物と言えばジェット戦闘機だ。前世では名作傭兵戦記漫画にずっぽりハマった影響で戦闘機にも興味があり、色々と見たり調べたりしたものだった。

飛行性能を上げるためには何と言っても空気抵抗を考えなきゃいけない。

空気抵抗を減らすために適した形状は流線形だ。シールドを流線形にするのは皆が普通にやっている。

俺はそれを更に空気抵抗を減らすべく先端を鋭角にした。

他に何ができる?

そう言えば前世で宇宙航空研究開発機構のある街に住んでいた時、面白いニュースを見た事があったな。

それは環境負荷低減に向けて航空機の燃費向上のために機体表面の摩擦抵抗を低減するって話だった。

それを叶えるための技術として宇宙航空研究開発機構が実用化に向けて研究開発を進めているのがサメの肌からヒントを得た空力技術リブレットだった。

リブレットってのは簡単に言えば機体表面に微細な溝を作る事で摩擦を減らす技術だ。

表面がツルツルしてた方が摩擦を減らせるんじゃないかと思って俺は興味を持ったのだ。

溝のサイズは本当に微細で溝の間隔は0.1ミリ程との事で、その溝の先端部のみで機体表面にできる速い空気の渦を受ける事で摩擦を減らし抵抗を軽減するのだそうだ。

ニュースではそのために最も効果的なリブレットを開発し実用化に向けてメーカと調整中だという話だった。

サメの肌もそれと同じ効果があり、そのおかげでサメは泳ぐときのエネルギー消費を最小限に抑える事が出来ているとも言っていた。

航空機のリブレットみたいな精密なものは無理でも鮫肌なら今の俺でも出来るんじゃねーか?

俺は発生させているシールドの表面を鮫肌のようにしていく。

鮫肌、サメの鱗は(じゅん)(りん)と呼ばれ顕微鏡で見ると小さな歯が一定の方向に並んでいる様に見える。

俺はそいつを意識してシールドを練り上げていく。


「お!調子いいかも」


夏みかんサイズだったキーケちゃんが少しずつ近づいて来る。

もっと魔力を練って丁寧に練っていく。

しっかりと呼吸を意識して行い体内を循環させる。

体内の魔力は充実しているのだが速度のアップにはあまり繋がっていないようで、先を行くキーケちゃんの影は大きくならない。


「と、あれ?俺の速度はそれほど上がっていないはずなのに?」


突然先を行くキーケちゃんの影がグングンと迫って来る。


「おい、どうしたそんなに気合を入れて」


すぐ近くまで迫って来たキーケちゃんが俺を見て言う。


「いや、キーケちゃんに追い付こうと必死で頑張ってるんだよ」


「はは~ん、さてはおぬし空気供給をカットしてその分飛行速度に回そうとして高度を下げたな?」


キーケちゃんがニヤリと笑う。


「その通りですけど」


ズバリ当てられて俺はちょっと悔しくなる。


「かっかっか、それじゃあいつまでたっても追い付かんわい」


キーケちゃんは楽しそうに笑って言う。


「え~?なんで~?」


「なんでって、お前なあ?自分で飛んでいて気づかんか?」


「気づくって、何を?」


「まったく、魔力が多いのも考え物だな。普通はな飛んでいれば気付くもんだぞ?高く飛んだ方が飛びやすいってな」


高く飛んだ方が飛びやすい?


 「あ!!!そうかーー!!!」


 キーケちゃんに言われてハタと気づいた。航空機の空気抵抗について見ていた時にそんな話も出ていたぞ!確か、高度が高いほど空気の密度が低くなるから空気抵抗は小さくなるとかなんとか。

ジェット機が高高度を飛ぶのは燃費効率が良いからだって言ってたっけっか。


 「普通は体感で気づくものだがなあ。まあ、良い。高度を上げて行くぞ」


 「イエスマム!アゲアゲでいきやっしょい!」


 「まったく、調子の良い奴だ」


 キーケちゃんは嬉しそうに笑い高度を上げた。

 俺もそれに続いて高度を上げて行く。

 今度はキーケちゃんのペースについて行けるぞ。

 まあ、キーケちゃんが俺の事を気遣ってペース落としてくれてる可能性も高いけどね。

 そうしてしばらく飛んでいるといるとキーケちゃんは高度を落とし始める。

 眼下に見えるのは見渡す限りの森林地帯カミデンランドだ。

 湖が見えたら小屋のある島を目指し着陸。


 「もう!遅いですって!」


 小屋の中から出て来たフーカさんはちょっと怒り気味だ。


 「スンマセン、俺のペースに合わせて貰っちゃったばっかりに」


 「きっひっひ、そう怒るなフーカよ。面白い土産話もあるでなあ」


 俺の事をフォローしてくれるキーケちゃん。ありがたいっす。


 「え?なんですなんです?聞かせて下さい!」


 「きっひっひ、まずは中に入ってお茶でも飲みながらでいいだろ?少しばかり喉が渇いた」


 「も~、もったいぶらないで教えてくださいよ~」


 「きひひひ、トモが体験した事なんでなトモに聞けい」


 「教えて下さいよ~クルースさ~ん」


 矛先が俺に変わってキーケちゃんが笑っている。


 「っと、ひとまず中に入りましょ、ね?」


 「もーっ!すぐにお茶を用意しますからとっとと聞かせて下さいよ!」


 フーカさんはセカセカと早歩きで小屋の中に入って行く。

 まったくせっかちな人だよ。


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