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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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お使い物と雪山の夢って素敵やん

「お待たせしちゃったわねえ」


「あっ!!」


パヤプサさんが隣りの部屋から持って来た物を見た俺は思わず声を上げてしまった。


「どうだトモよ?見覚えがあるだろう?」


「うん!こりゃああれだ!シャルドウトーラスのらせんにそっくりだよ」


パヤプサさんが持って来た物、大きめな茶筒サイズのガラスで出来た円筒形オブジェの中に見えたのは回転しつつらせんを描いて動く大量の小花だった。

これはアルロット領難民居留地近くの山中でロジアンホープと共に発見した古代シャルドウ教の秘宝、シャルドウトーラスのらせんをまんまミニチュア化したもののように俺には見えた。


「であろう?あたしはな、茶飲み友達になったウェノーナからこいつの処分を頼まれてなあ」


「え?処分って?」


「これはね、山の神様が怒った時に使うようにって母から受け継いだものなのよ。でも山の神様は長い眠りについてしまわれたでしょ?私もお山を降りた事だしもう必要ないから処分をお願いしたのよ」


俺の問にパヤプサさんはにこやかな笑顔で答えてくれるが。


「でも代々受け継いできた大切なものではないのですか?それを処分って」


「ううん、いいの。母からも言われていたのよ、もし山の神様が長い眠りにつかれてお役目を終えお山を降りる事になったらこれはあなたの好きなようにしなさいってね。自分で捨ててしまおうかとも思ったのだけど、それもなんだか味気ないかなって。それでお友達になってくれたタモちゃんに処分をお願いしたの」


「まあ、そんな訳で頼まれはしたのだが現物を見せて貰えばこれはちょいとばかりあれな品物だろ?」


「うう~ん、そりゃまあ、ねえ」


軽い感じで言うふたりに押されて俺はそんな返答しかできなかった。

パヤプサさんにとってこれはどういう意味を持つ物だったんだろうか?お役目を象徴するもの?だとすれば自分を縛り付けていた呪物のような存在だったのか?それとも先祖代々受け継いできた特別な品物?自分の特別な役割を象徴する物だとすれば、それはパヤプサさんのアイデンティティに関わる存在なのではないか?

人ってのは単純に見えて複雑だったり複雑そうに見えて単純だったり、相反するものがひとりの人間の中に両立していたり、矛盾する物を抱えていたりするものだ。

パヤプサさんの中にもそうした色々なものが渦巻いているのだろう。

その上で自分で捨ててしまうのは味気なかったと言う。

キーケちゃんも勿論そうした人の心の動きや思う事について気が付いているはずだ。

その上で出された物が古代シャルドウ教の秘宝と良く似た代物ときている。

俺ならばどう扱えば良いのかわからず、そんな重責は背負えぬと謝ってしまうな。


「そんな訳でなひとまずこの件は預からせて貰ったわけよ。あたしひとりで判断するにはちょいと大きな事だったのでな、ウェノーナの了承を得た上で然るべき筋に相談する事にしたのさ」


「うふふ、スノードロップの騎士さんの判断ならどうなっても私は構わなかったんですけどねえ」


「また昔の事を言う」


パヤプサさんは品よく笑いキーケちゃんは少し照れ臭そうにした。


「スノードロップの騎士?その二つ名は初めて聞いたねえ。どんな意味があるの?」


「スノードロップって言うのはお花の名前よ。雪解けに咲く花で花言葉は希望と慰め。多くの人に希望と慰めを与える騎士さんって事よ」


「そんな洒落たもんじゃないさ。スノードロップのもうひとつの花言葉を知っとるかトモよ?」


パヤプサさんの言葉を受けたキーケちゃんが俺を見る。


「う~ん、知らない」


俺は正直に答える。


「スノードロップのもうひとつの花言葉はな、『あなたの死を望む』だ。死の象徴ともされる花なのさ」


キーケちゃんは自嘲気味にそう言った。


 「そうなの?だったらやっぱりパヤプサさんのほうの意味で言われてたんだよ」


「でしょう?絶対そうよねえ?」


俺は同意するパヤプサさんと一緒にうんうんと頷く。


「まあ昔の話しだ。それであたしはこの話をボンパドゥに持って行ったのさ。ボンパドゥの返事は是非持って来てくれとの事でな、特にフーカは目の色を変えてなあ。一緒に行くとうるさかったがラダメブランカを越えて行くから連れて行くのは無理だと断ったのさ」


「ああ、フーカさんなら絶対来るって言うよねえ、こういうのに目がないから」


「最新のプロテクトスーツを着て行くから背負って連れてけとしつこくてなあ、ペーターミュラーが説得してくれたから良かったがあのままじゃあ本気でついてきかねなかったわ」


キーケちゃんが笑う。


「今度はその方も連れてきてねタモちゃん」


「ああ、そうさせて貰うよ」


ふたりは楽しそうに笑い合った。

なんか、良かったなあ。

俺はふたりの様子を見てほっこりする。


「そうそう!大事な事を忘れちゃってたわねえ。クルースさんがお山で見た事ね、それってただの夢じゃないと思うのよ。私の家に代々伝わるお話しでね、まだ採掘街ができる前、昔々にお山を守っていた人のお話があってね。その人の名がナーギア・レイスニュートと言うのよ」


「あ!山で会った三人の名前!」


「そうそう。ナギさん、アレイスさん、ニュートさんでしょ?これは関係がないわけないわよねえ」


パヤプサさんは嬉しそうな顔をする。


「ええ!きっと関係があると思います!その方のお話しってどんな話なんですか?」


俺は興奮気味に聞く。


「たったひとりでお山を守っていたレイスニュートさんだったけど、ある日、お山に危機が訪れたの。お山に暗黒の獣が現れ毒の霧を吐き続け生き物が皆死んでしまったの。レイスニュートさんは必死に戦ったけど暗黒の獣は強く、毒霧で弱っていたレイスニュートさんでは倒すことができなかった。レイスニュートさんは山の神様に祈ったの、どうかお助けくださいと。すると毒の霧が晴れ大きな岩の元に光が差した。レイスニュートさんが大岩の元に向かうとそこには背中に羽の生えた小さな女の子がいたのよ。女の子は自分の背より大きな剣を持っていたわ。そして女の子は言いました、お前の願いは届けられた、と。女の子は背中の羽をはばたかせ暗黒の獣の元に飛んで行くと三日三晩戦ってついに獣を倒したましたとさ、めでたしめでたし」


「めでたしめでたしって、その後どうなったんです?レイスニュートさんと女の子は?」


「お話しはそこまでだから後の事はわからないわ。でも、めでたしめでたしって言ってるんだからきっと幸せになったに違いないでしょ?」


最後の決戦の描写がやけにあっさりしてるとかその後どうなったんだとか聞きたい事は沢山あったが、パヤプサさんは温厚な笑顔を見てしまうとそれでいいんだなと妙に納得してしまう。確かにめだたしめでたしって言われちゃ、めでたく終わったんですねとしか言えないわなあ。

それに終わりはやっぱりハッピーなのがいいよなあ。


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