まつわる話とそもそもの目的って素敵やん
「ふうむ、面白い話しではあるが実際に起きた話だと考えるのは無理があるな」
キーケちゃんはゲイルで飛びながら腕組みをしそう言った。
「ただの夢とも思えないんだけどなあ」
「うむ、確かにただの夢とも言い切れぬな。これはもしかすると我らの目的とも関係しておるのかも知れん」
「目的?」
俺はキーケちゃんに尋ねる。
「まだボケておるのか?我らの目的だ」
「えーと、確かマウトシュテットにお使い物があるとか言ってたっけ?」
「そうよ」
キーケちゃんはシャンとせいとばかりに眉を寄せて俺を見る。
「そのお使い物ってのはなんなの?」
「その事を話すにはまずこの山の事を話さねばなるまい。この山、ラダメブランカが別名でなんと呼ばれておるのか覚えてるか?」
「えーと、神の住む山だっけ?」
俺はキーケちゃんのしてくれた話しを思い出す。確か現地の人はそう呼んでいるとか。
「そうよ。確かにこれほどの山になると神々しさを感じ畏敬の念を抱くのも自然な事だと思うが、神の山と呼ばれるのには他にも理由があるのよ」
「理由?」
俺は含みのある笑みを浮かべるキーケちゃんの横顔を見て問う。
「昔々まだこの大陸が戦乱の中にあった時代、この土地を治める王が安全と豊穣を祈願しラダメブランカに登ったそうだ。勿論、部下やお付きの者を大勢連れての事よ。そうして王一行が山を登っていると遠くに見える尾根に自分達のように山を登っている一行が見えた。王は驚き『この土地に自分以外に王はいない、お前たちは何者だ』と誰何した。ところが相手もまったく同じ言葉を返してきた。王は怒り部下に攻撃を命ずる。部下は遠くの尾根に見える一行に向かって魔法や弓を放つが相手も同じように魔法や弓を放ち王の攻撃は全て相殺されてしまう。恐れおののいた王たちの元に雷鳴のような音と神々しい光が降り注ぎ、その後に声が聞えて来た。その声はこう言った『我は山の神なり』と。王は直ちに平伏し、祈願のために持参した捧げものを地面に置かせ部下たちの持つ武器と共に全てを山の神に捧げると言った。山の神は喜び『お前の国の安全と豊穣を約束しよう』と王に告げた。それ以来、その王の治める国はどこからも侵略されず不作に見舞われる事もなくなったそうだ。それでこの山は神の住む山とそう呼ばれるようになったのだ」
ううむ、これは前世でも似たような話しを聞いた事があるな。例えばご来迎、高い山の日の出や日の入り時に霧が出ていると阿弥陀如来が光を背負って来迎するような像が見えるっていうあれだ。
これはブロッケン現象の事なのだが、その語源となったブロッケンてのはドイツの山の事であり、その山でよく見られた事からその名がつけられたのだ。
太陽光と雲や霧の粒の関係で虹のような光の輪が現れるこの現象は非常に神々しい物で、そうした現象を知らない昔の人が過酷な登山の最中に見れば、それも何かの祈願に神を訪ねに行く途中だったりした日にはそこに神を見てしまうのも致し方なしだと思うし実際に前世では世界各地で山の神という概念が存在していた。
それは山岳信仰や宗教、神話などでとても多くの人に畏敬の念を抱かれるものだった。
「きひひ、お前ならば前世の知識でこうした現象にも説明がつけられるとそう思っているのだろう?あたしも山に登ると恐ろしいほど美しい光が見える事があるのは知っておるし、気象条件によって幻のような物が見える事も知っておる」
「さすがキーケちゃん、なんでもお見通しだね。まさにそんな事を考えてたとこだよ。てことはキーケちゃんもその昔話にはそうした現象が関わっていると?」
「まあ、そう言う事も関係はしているとは思うがな。他にも人は雪山などで遭難し体温が下がり食料もなく睡眠もとれずという状況が続く事で精神干渉魔法を受けた時のようになるのも関係しているだろうな」
「なるほどね、それも十分にありうる話だね」
前世でも雪山で遭難した者が幻覚幻聴を体験したと言う話は多く聞いた。有名なのは矛盾脱衣という現象で、これは凍死者が裸の状態で発見されるというものだ。これは人間の身体のメカニズムとして体温を維持しようとするのを外気温との差で暑さと錯覚してしまうために起こるのではないかと言われているが、極限状態下で幻覚幻聴を見聞きするほどまでに認知能力が低下してしまう事とも当然関係しているだろう。
俺はこの手の話しは大好きなので思わず前のめりでキーケちゃんの話しに食いついてしまう。
「きひひ、おぬしはこうした話は大好物であろう?だと思って誘ったのよ」
「うんうん大好物!で、そのお使い物ってのはなんなのよ?ねえ?おせーておせーて?」
「そうがっつくなて」
キーケちゃんは俺を見てニヤリと笑った。
「え~、焦らさないでよ~」
「きっひっひっひ、ほれ、もう見えてきとる、あれがマウトシュテット村だ。詳しい話しは依頼人に会ってからにしようではないか。予定よりも時間を食ってしまったからな」
キーケちゃんはそう言うと飛行速度を速める。
「わっ!速いって!」
俺は気を飛行に集中し速度を上げる。
キーケちゃんは笑顔で鼻歌なんか歌いながら飛んでいるが、俺にとっては継続飛行速度としてはトップスピードに近い速度だ。
くぅ~、キーケちゃんって結構もったいぶるってーのか茶目っ気があるというのか、とにかくあれだ。
「待ってよ~」
「きっひっひ、早く来ないと置いて行くぞ」
こういうとこあるよなぁ。
俺はヒーコラ言いながら必死に飛ぶのだった。




