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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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課題に取り組むって素敵やん

こちらの攻撃がまったく効いていないかに思われ心が折れかけたが、ニュートさんのアドバイスでスッキリし自信を取り戻す事が出来た俺はお化けタケノコへの地道な攻撃を繰り返す作業へと戻った。

傷ついた個所が瞬時に再生している様に見えても実は傷ついた表皮を瞬時に風化させていただけ、という聞けば単純だが実際に相対して見ると地味に心にくるトリックと痛みを感じずこちらの攻撃に対して苦しむリアクションを取らないという生態に俺はすっかりやられてしまっていたのだ。

これは俺がずーっと抱える問題をえぐる事でもあった。

自分を信じる、これは前世でもひと時よく言われた陳腐にさえ聞こえる言葉だが実はよく考えると大変な事なのだ。

自分を信じるってのは、自分の選択、自分の価値観、そうしたものも含めて信じるって事だ。

普通に生きていても、それは長い時間をかけた積み重ねによってようやくたどり着ける場所でありとても難しい事だ。

 そこへもってきて俺は長い間その反対の教育を受けてきている。


「まったくタケノコ様様だよ」


俺はヤツの降らすトゲつぶてを避けながらフォーカスソードで胴体を刻んでいく。

ネタばらしされても本当に効いているのか不安になるほどヤツの大きさや行動に変化は見られない。マジで地道な作業だ。

それでも俺は続けて行く。

そんな作業ゲー時間が随分過ぎた頃、ヤツの胴体の色が濃い茶色から黄色っぽく変化してきたのが見えた。


「お?こりゃあいわゆる姫皮ってやつか?」


俺は事態の進展を目視できた事で力が湧いてくるのを覚える。


「スパートかけるぜ!」


俺はゲイルの威力を強め高速で飛行しながらヤツの胴体を切りつけまくってやる。

俺の憶測は当たっていたようで胴体の色が変化してからフォーカスソードの入りが一層良くなった。

姫皮ってのはタケノコ内側にある柔らかい皮で非常に美味な部分でもある。


「風化するってのがもったいないが、まあ、あれか。これだけデカイと味も大味で美味くないか」


攻撃の手を緩めずに俺は独り言ちる。

でも、大ウナギなんかは調理法次第で結構いけるって話しも聞いた事があるけど、どっちにしても風化しちまうんじゃダメか。


「お?トゲつぶての量が減ってきたぞ?」


地道に胴体を切りつけていた効果が出たのかお化けタケノコが吐き出すトゲつぶての量は明らかに減り、動きが遅くなってきた。


「よし、んじゃあ本丸攻めと行きますかい!」


俺は攻撃対象をヤツの頭付近まで広げる。頭ってよりも穂先と言った方が良いのかね?とにかく俺はヤツの開口部付近まで攻撃範囲を広げてやる。

開口部付近まで削り取ってやるとヤツの攻撃回数は目に見えて減り、当初穂先部分を動かして俺を攻撃しようと頑張っていたのも次第に棒立ち状態になり、しまいにはトゲつぶても吐き出さなくなってしまう。


「ここまで来れば後は熱湯を浴びせかければ枯れて消えるでしょう」


ニュートさんの声が頭に響く。


「熱湯ですか。するってーと火と水か。風は停止しないと無理ですね」


俺は地面に降り立ちゲイルを解除する。

周囲を見渡すとお化けタケノコのトゲつぶてによってキノコはズタズタにされており、ガスの放出もなくなり視界が効くようになっていた。


「ガスも晴れたしシールドは解除しても大丈夫かな」


「いいえ、シールドは保ったまま熱湯を浴びせて下さい」


「いや、すいませんがそれは難しいんですよ。自分、地水火風は同時に二元素までしか使えないんで」


俺はニュートさんに言う。


「それでもシールドを解除してはなりません。まだまだそこには毒が残っていますから」


「うーん、そう言われましてもねえ。困ったなあ」


俺は腕組みして考える。

ここに来てからの俺は色々な課題に向き合わされてきた。次は今までできなかった三元素同時発生にチャレンジしろってか。


「物は試しだ、やるだけやってみるか」


俺は風魔法のシールドと酸素供給を維持したまま水魔法で放水を始める。

大量の水がお化けタケノコに向かって放出される。

俺は呼吸を整えらせんを意識して体内を循環させる。

魔力が体内を巡り力が湧いて来る。


「よし、いっけぇぇ!」


気合一発、火魔法による水温上昇をしようとするが火魔法はまったく発動しない。

まるでバッテリーが上がっちまった車のキーを懸命にひねっている、もしくはかかる気配のないバイクのエンジンを必死でキックスタートさせようとしているような徒労感に襲われる。

大きく呼吸をし体内に魔力を取り入れ丁寧に体内を循環させてみなぎらせてから何度も挑戦するがやはり火魔法は発動しない。


「ふひぃー、やっぱ簡単にはいかないかー」


俺は額の汗を袖で拭う


「諦めないでクルースさん」


ニュートさんの声が頭に響く。そうだ諦めちゃだめだ、考えろ。何か手があるはずだ。今の俺に出来るのは地水火風では同時二元素発生がやっとだが光魔法ならばその二元素に重ねて放つ事ができる。

光エネルギーは熱エネルギーにもなるはずだ。

前世で太陽光で熱せられた車のボンネットで肉を焼くなんて動画を見た事があるし、屋根に設置して太陽光でお湯を作る太陽熱温水器なんてものもあった。


「とりあえず、やってみっか!」


俺は放っている水に光魔法の力を加えて行く。

水が明るく輝き光を放つ。


「いけるか?」


なんだか行けそうな気がするんだが、水の温度はぬるま湯程度だ。

なぜだ?光魔法で力不足って事はないと思うのだが。

光魔法の光と太陽光じゃそのまんま比べる訳にゃいかないが、フォーカスレーザーの威力を考えれば威力不足ってこたぁないと思うのだが?

ううむ、考えろ考えろ。

太陽光、熱……そうだ!虫眼鏡!

光を集めて熱を集中させりゃあいいじゃんか!

俺は放水の根本に水魔法で氷の凸レンズを発生させる。


「これでどうじゃ!」


凸レンズ越しに水中に光魔法の力を加えていくとみるみるうちに水温が上がり周囲が蒸気で満ちて来る。

俺の放つ熱湯を浴びたお化けタケノコは黄色かった姫皮が一気に茶色くなり溶ける様に痩せ細っていった。


「ふぅー、これで決着か?」


まるで消しゴムで消すようにすっかり消えてしまったお化けタケノコ。

俺は熱湯の放出を辞めて周囲を今一度見渡す。

ガスを吐くお化けマッシュルームの姿も見当たらない。


「ありがとうございますクルースさん」


「いや、こちらこそ色々と勉強になりました」


俺は頭の中に響くニュートさんの声に返事をする。

実際、今回は学ぶ事ばかりだった。


「そう言っていただけると我々もお呼びした甲斐があると言うものです。本来でしたらこの後、お礼をしてからお別れとなるのですがどうやら現実世界での迎えが来ているようです。なんのお礼もできずにお別れするのは心苦しいのですが、もしもご縁があればまたお会いする事もあるでしょう。その時までお礼は取っておくこととしましょうか」


「え?どういう事ですか?」


色々と理解が追い付かないニュートさんの言葉に俺は説明を求める。


「もう時間がありません。ありがとうクルースさん」

「ありがとうな」

「ありがとうございました」


ニュートさんの声に続きアレイスさんとナギさんの声が聞えると周囲に乳白色の霧が立ち込めて来る。

残っていた毒ガスか?と慌てたがどうもそう言うたぐいのものではなさそうである。

これは、もっと、こう、身体を包み込むような温かい何か。


「……覚ませ!トモよ!おい!」


聞き覚えのある声に意識がクリアーになる。


「あ!ニュートさんは?」


「何を寝ぼけておるのだ」


思わず口走った俺の言葉に呆れたようにそう言うのはキーケちゃんだった。

しばしばする目を瞬きで凝らしながら周囲を見ると晴れ渡る青空と一面の雪景色が目に入る。


「ありゃ?どこ?ここ?」


「何を言っとるんだ、ここはラダメブランカでぬしははぐれて遭難しとったのだぞ?シールド張ったまま眠るなど器用な事をしおってからに」


キーケちゃんはニヤリと笑った。


「じゃあ、あれは夢だったの?」


「なんの話しだ?」


立ち上がりながら俺はキーケちゃんに体験した事を話すのだった。


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