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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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必要な事はただひとつって素敵やん

毒ガスを放出するお化けマッシュルームを駆除していたら突然巨大なお化けタケノコが発生。

そいつは先端からうねうねするツタのような物を出しこちらの様子を伺っている。


「この状態で穏便にってわけには…」


「ヒュン!!」


巨大タケノコの先端から生えたツタの群れが鞭のようにしなり、俺に向かって一斉に押し寄せて来た。


「いかないよなあ」


俺はゲイルダッシュでツタを避け、同時にエアカッターを連発する。

うねり迫るツタの波は風魔法で発生させた圧縮空気の鎌の連射でズタズタに切り裂かれる。


「んだよ、結構脆いじゃん」


「ゴワッ!」


妙な音を立ててお化けタケノコの開口部にツタが引っ込んで行く。


「なんだなんだ?もう打つ手なしって感じか?だったらそのままどこか行ってくれよ」


俺は言い聞かせるようしながらヤツを見る。

ヤツはツタをすべてのみ込むと先端部を曲げ得物を捕捉する蛇のように俺を捕捉する。


「なんだよ、まだやるってか」


こういう時は先手必勝!俺は風魔法で酸素供給とシールドは維持したまま光魔法を発動、シエンちゃん命名引き裂き光輪を飛ばす。

マンホールサイズの光の輪を五つ、今の俺が出せてそこそこ遠距離まで飛ばせてコントロールできるマックスだ。


「これでも喰らいやがれってんだ」


高速回転する光の輪はこちらを見ているお化けタケノコの頭に向かって飛ぶ。

お化けタケノコは大きく口を開けて光の輪にかぶりつくが、引き裂き光輪はそのまま口内を突き抜けヤツの身体に再突入する。

五つの引き裂き光輪はお化けタケノコの体内を行ったり来たり貫通して攻撃を加える。


「どうだ?流石に効いたんじゃないか?」


これだけ身体を貫かれりゃあちょっとはダメージを受けたろ?

そんな俺の気持ちを知ってか知らずかお化けタケノコは特に痛みを感じるようなそぶりも見せず、再び俺を捕捉し大口を開けた。

背筋がぞわっとし嫌な予感を感じたので俺はゲイルダッシュで後ろに飛び退った。

その瞬間、お化けタケノコのバックリ開いた口からボーリングの玉サイズの石つぶてが沢山飛んできて俺が居た場所に突き刺さった。


「突き刺さった?なんじゃありゃ?」


ヤツが口から飛ばした石つぶてはトゲトゲしていてひとつひとつがモーニングスターの先端部のようだ。


「クソッ!物騒なもん吐き出しやがって!」


俺は続けてヤツが吐き出すトゲトゲ石つぶてをゲイルダッシュで避ける。

ヤツの吐き出したトゲつぶて、どこかで見たような気がするなあと思っているとハタと思い出す。

前世でどこかの駅前で見たトゲトゲのオブジェだ。

ありゃ有名な彫刻家の作品だったはずだが、なぜかネット界隈で痛風の像だの尿路結石の像だの言われていた。

タケノコに含まれるシュウ酸は多く摂取すると尿路結石のリスクを高めるって話だが、ヤツが飛ばしているのは結石ってわけじゃないよな?

なんだかわからないが余計に喰らいたくなくなってきた。

俺は意識を集中してヤツの放つトゲつぶてを避ける。

その間も引き裂き光輪での攻撃は続けるがヤツは苦しむような仕草も見せないし攻撃の手も緩みはしないしで効いている感じがしない。


「ちくしょう、そんじゃあこいつでどうだ!」


俺は引き裂き光輪をひっこめて今度は光魔法の剣フォーカスソードを両手に発生させ切りつけて行く。

接近されるとトゲつぶて攻撃の手が途端に緩む。


「お?ちょっとは効いてるのか?」


お化けタケノコの身体を切りつけながら頭上を見るとヤツは頭部分を盛んに動かし俺を捕捉しようと頑張っているようだった。

どうやら首の可動域が狭いのか胴体にへばりつくようにしている俺を捕捉しきれないでいるようだった。


「デカすぎて胴体が死角になっちまってるのか。よしよし、そんじゃあこっからはやり放題だな」


俺は喜び勇んでヤツの胴体をフォーカスソードで切り刻んでいくが、切り裂いた傷口はすぐにふさがってしまう。


「なんちゅう再生力だよ」


俺は気力が萎えるのを覚える。


「これじゃキリがねーか」


俺が使える攻撃系の最大火力と言ってもいい光魔法が通じないとなるとどうすりゃいいのか。

途方に暮れていると上空からザァーと雨が降るような音が聞えてくる。

何だ?

見上げるとそこに見えたのは無数のトゲつぶてがこちらに向かって降り注ぐ所だった。

お化けタケノコのヤツは真っ直ぐ天を向きその口からトゲつぶてを吐き出し続けている。


「なんちゅう手を使いやがるんだよ!」


ヤツの身体も傷つけながら降り注ぐトゲつぶてをゲイルダッシュで避けながら俺は叫んだ。

ガツガツとシールドに当たるトゲつぶて。

ヤツの身体もトゲつぶてによって削れていくが瞬時に再生しているのが見える。


「クソッ、これじゃあどうにもならねえじゃねーか」


トゲつぶてを避けて地面に近付くと地下からタケノコが槍のように突き出てくるしでどうすりゃいいんだよ?

俺ごときの力じゃ対処できない相手にぶつかっちまったのか?

一旦引くか?


「…諦めないで……」


むっ、この声は?

雪山をさまよっていた時に聞えて来たのと同じタイプの聞こえ方だが声が違う。

あの時の声はナギさんだったがこの声は。


「…ニュートです、聞こえますか?クルースさん?聞こえますか?」


「ええ、聞こえます」


「良かった繋がりましたね。そちらの状況はわかっています、今、クルースさんが相対しているのは攻撃を受けたキノコが呼び出したものです。それを倒さなければキノコの完全除去はできません」


「しかし、こちらの攻撃がまったく通用しないのですよ」


俺はトゲつぶてを避けながらニュートさんに言う。


「諦めてはいけません。攻撃が効いていない訳ではありません」


ニュートさんはきっぱりとそう言った。


「効いているんですか?」


俺は思わず聞き返す。あれだけ攻撃を加えてもヤツは一切動じず、傷がついた個所もあっという間に再生していたのだ。あれで攻撃が通用していたと見るのはなかなか難しいぞ?


「確かに効いています。一瞬で再生している様に見えますがそれは傷ついた薄皮を瞬時に風化させているからに過ぎません。その証拠に貫通している個所の傷は残っているはずです」


ニュートさんの言葉によく目を凝らすと確かに引き裂き光輪でつけた貫通傷は確かに残っている。


「更に相手は痛覚がないため攻撃に対して苦しむような仕草を見せません。そうした事も併せてまるでこちらの攻撃がなにもダメージを与えていないかのように思ってしまうのです。自分を信じるのですクルースさん」


ニュートさんの声が頭に響く。

そうか、そうだったのか。

一瞬で再生するように見えたのも効いてないように見えたのもどちらもインチキだったって訳か。

俺はすっかり相手のペースに巻き込まれちまって自分の攻撃に自信を持てなくなっていた。

それはある意味、俺の長年の課題でもあるのだ。

前世での俺は物心つく前から親の信心するカルト団体の影響を強く受けて育った。

その団体では集まりでの教育活動で信者同士の雑談でありとあらゆる場面で繰り返し繰り返しこう教えた。

自分を信じてはいけない、自分の考えで行動してはいけない、信じるのは神の言葉の代弁者たる組織の教えのみである、と。

結局俺はそこから脱出する事が出来たわけだが、幼少期から受け続けたそうした教育は心の奥底に淀みシミとなって消えずに残り何かにつけて俺を縛るのだ。

自分を信じてはいけない、自分など無力で信じるに足らぬ存在なのだ、将来に夢を持ってはいけない、何をしてもそれはむなしく上手くはいかず自分の苦しみになるだけなのだ、そう心の奥底で今だに俺に語りかけるものが残っている。

前世での俺はそれに抗い続けては躓き痛い目に合い心の奥底にこびりつく声に、やっぱりそうだろ?と勝ち誇られる事が多かった。その度に俺は俺が積み上げたものの結果であり俺の力不足に過ぎないんだと自分を納得させてきたんだ。心の奥底から聞こえるその声に耳を塞ぐように。

こいつとの戦いでこちらに来てからはあまり聞こえることは無かったその声がまた聞えて来たところだった。

ニュートさんの声がなければ、またその声に勝ち誇られるところだった。

危なかったぜ。

これは最初から俺自身との戦いだったのか。

俺は気を取り直してお化けタケノコを見る。

ヤツの繰り出すあの激しい攻撃は、こちらを危険な相手と捉えての事だったのか。


「今回は俺の勝ちで行かせて貰うぞ?」


俺は心の奥底の声に語りかけるように声に出して言うとフォーカスソードを両手に発生させ再びお化けタケノコの元に飛んでいくのだった。


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