雑草焼きバーナーって素敵やん
谷底に近付くにつれキノコの姿がしっかり見えてくる。
そこかしこに生えているキノコは大きな黄色い傘に軸がほとんど見えず、形だけ見ればマッシュルームに似ていた。ただし大きさはマンホール程もあるし色は黄色のお化けマッシュルームだが。
「ブホッブホッ!」
時折、音を立ててお化けマッシュルームが黄土色のガスを放出している。
「ありゃ胞子をバラまいてるのか?」
普通キノコの胞子なてのは目では見えないもんだが、こんな規格外のお化けキノコになると話は別なんだろうな。
お化けマッシュルームの放出したガスはやがて拡散し目視できないレベルに色が薄まっていくが、ガスの毒性が消えているわけではないのは辺りに生き物どころか草木一本生えていない事からもわかる。
どこかで見た事があるような光景だなと感じていたが思い出した、前世で行った観光地にこんな景観の場所があった。日常的に火山性ガスが噴出している場所がこんな感じだった。
赤茶けた岩肌、草木ひとつ生えていない荒涼とした土地。
これで硫黄の匂いがしていればもっと早く思い出せたんだろうけど、周囲の空気を魔法で遮断してるから気付くのが遅れてしまった。
なんだかここに来てから思考が鈍くなってるような気がする。
まあ、元々そんなに頭の回転が速い方じゃないけれども。
「さてと、まずは社を探さないとな。間違って燃やしたら大変だ」
お化けマッシュルームの出すガスを風魔法で吹き飛ばしながら俺は周囲を散策する。
「なんか、奴らの出すガスの頻度が上がってるような…」
俺が風で吹き飛ばしてるのが気に入らないって訳でもあるまいが、明らかにお化けマッシュルームたちの放出するガスの頻度が上がっているようで黄土色のガスが周囲に滞留して視界を遮っている。
そういやキノコってのは土中に広げた菌糸ネットワークを使ってコミュニケーションをとっているなんて話を聞いた事があるぞ。
こいつらにそうした力があっても不思議じゃない。
ちゅーか、突然歩き出しても不思議じゃないよこんなお化けマッシュルーム。
奴らが地中からにょきにょきと姿を現し甘い息を吐いて眠らせてくる可能性も考慮して俺は更に周囲を探る。
「お!あったあった!」
しばらく探していると小さな家のような建築物が見つかった。
近くに言ってよく見ると建築部材は白木で屋根には銅板のような物が張られているというこれまた和風な作りの御社だった。
「これはわかりやすくていいな。間違えようがない」
まさにザ・社と言った佇まいだ。
「そんじゃあ、いっちょ駆除にかかりますかい」
俺は社付近にあるお化けマッシュルームから駆除を始める。
社に燃え移らないように慎重に火力を調整して炎を放っていくがなんだかいつもよりも燃えが悪い。
「どういうこっちゃ?」
俺は頭をひねって考える。
魔法で発生させた火はまるで調子の悪いエンジンのようにガブガブ言って火力が安定しない。
「なんだよ?まるでセッティングが出てないキャブレターみたいだな」
とそこまで言ってはたと気が付く。もしかして、お化けマッシュルームの出すガスで酸素が薄くなってるのか?
キャブレターってのは昔バイクや車についていたもので、ガソリンを霧状にして空気と混ぜエンジンに送り込む装置で気化器とも呼ばれるものだ。
俺がこっちに来る前には電子制御部品に取って代わられ骨董品のようになっていたが、若い頃バイクいじりが好きだった頃はキャブレターが当たり前でマフラーを社外品に交換したりすると調整が必要になり上手くやらないと極端に燃費が悪くなったりアイドリングが安定せずエンストしやすくなったりしたもんだ。
その調整ってのはつまり空気と燃料の供給バランスの調整ってわけで、燃料が濃すぎたり薄すぎたりすると失火が起きるのだ。
今回の火魔法が不安定な原因も恐らく同じような理屈なんだろう。
「となると、風魔法で酸素供給してやる必要があるか」
俺は自分自身に供給しているように放った火魔法にも酸素を供給してやる。
「パシュン!!」
派手な音を立てて火が弾けるように消える。
「っと、空気が濃すぎて失火しちまったか」
俺は風魔法の酸素供給を絞って再トライする。
炎の筋はパツパツ言って安定しなかったが少しずつ調整する事で強い火が安定して放出されるようになってくる。
「まるでアセチレンガスバーナーだな」
高校生の時を思い出す。
あれも酸素と燃焼ガスのバランスが肝だったっけ。
原因がわかり対応策が判明すれば簡単なもんだ、ちゅーかあれだな火魔法で放つ火炎のバリエーションが増やせるなこりゃ。
火炎の長さや強弱もそうだが金属などを切るのにも使えそうだ。
前世だったら技能講習が必要になりそうだな。
俺は社周りのお化けマッシュルームを慎重に焼く。
社の周りのお化けマッシュルームを一掃できたら後は火力を上げて派手にやったろやないかい!
「これでも喰らえ!」
俺はガスを放出するお化けマッシュルームに向かって景気よく炎を放つ。
社からは距離を取ってるし周囲には草木ひとつ生えていないので延焼物はない。
お化けマッシュルームが燃え尽きれば火は消えるからなんの心配もなく駆除作業に没頭できるってなもんだ。
「後は作業ゲーだな」
「ズズズズズズズズズズズズズズ」
ちょいと気を抜いたような事を言ったからか地鳴りのような音がして地面が振動し始めた。
「おいおい、なんだってんだよ?まさかまた山神様の使いか?」
俺は弱気になって火を止める。
またあんなバケモンが出てきたら対処できないんですけど?
「ズウウウウウウンッ!!!」
不安な気持ちになっていると突然地面から巨大なドリルのような物が突き出て来た。
「うおっ!!なんじゃこりゃ!!」
発生した巨大ドリルが弾き飛ばした岩石やお化けマッシュルームの破片を避けながら俺は叫ぶ。
目を凝らしてよく見ると地面から生えたドリルの正体は巨大なタケノコであった。
「なんだってんだよ」
俺は恐る恐る巨大なタケノコに近付いてみる。
「ゴンッ!!」
足元に強い衝撃を受けて俺はゲイルで飛び退る。
「いってぇ!なんだよ!」
俺が居た場所には大きなタケノコが生えていた。
最初に出た巨大サイズよりは小さいがそれでも電柱くらいはありそうだ。
「ズズズズズズズズ」
地面が振動し周囲の岸壁から小石が落ちて来る。
おいおい、何だか知らないが生き埋めはゴメンだぞ?
俺はいつでもゲイルダッシュで飛びたてるように備えながら周囲に気を払う。
「バッヒューーーーーーー」
空気が抜けるような大きな音が周囲に響き渡ると最初に出現した巨大タケノコの先端がガバッと開き、そこから大量の触手のようなツタのような物が発生しうねうねと動き出す。
「うわ、気持ちわるっ!」
俺は思わず声に出してしまうが、こりゃあ気持ち悪いどころの話しじゃあないかも知らんぞ?




