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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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捨てる神あれば拾う神ありって素敵やん

バケモノサイズのヘラジカをひと飲みしたのは高層ビルサイズのサンドワームだった。

いや雪の中に居るんだからスノーワームか?

ヤツの胴体は鱗のようなものに覆われ青光りし更に細かな毛がビッシリと生えていた。

ワームってよりもスネークか?いや、毛が生えてるってのはどういう事だ?鱗と毛が両方生えてるってのは鳥の仲間か?確かセンザンコウもそうだったような。

なんてどうでもいい事を考えてる余裕はない。

上空から首を下げて俺の事を見ている?のかなんなのかとにかく俺の存在を察知してるデカワームは何かを考えこんでいる様に動きを止めている。

こんなバカでかい奴、とてもじゃないが俺の魔法攻撃なんて通用しそうにないぞ。

しかも吹雪の中で体温維持や雪中移動にゲイルも発動しなきゃならんとなれば、こりゃあ三十六計逃げるに如かずだ。

俺はヤツが動きを止めている事を幸いにゲイルダッシュで吹雪の中を飛んだ。

直後にブァァァァァと言う音がして背後からすさまじい勢いで雪がぶつかって来る。


「ぶはっ!!」


俺は凄い圧でぶつかってきた雪に文字通りきりきり舞いしてしまう。

まるで雪で出来た荒波に巻き込まれたかのようだ。雪崩に巻き込まれるってのはこんな感じなのだろうか。

俺は空中で雪にもまれ回転する身体を何とか立て直し、その勢いを利用し更に速度を増してゲイルダッシュする。

背後でブァァァァァァという奇妙な音がするのが聞える。

この雪が襲ってきたときにも聞えた音だ。これはもしかするとヤツの攻撃か?ヤツがあの凄まじい雪塊をぶつけてきたのか?

俺はふとウスバカゲロウの幼虫を思い出す。アリジゴクとも呼ばれるあの昆虫はすり鉢状の巣を作りそこにハマった得物に向かって砂を浴びせかけくぼみの底まで落とすのだ。

ヤツも捕食する際に同じような行動をするのか?

そう考えると恐ろしい。

俺は恐怖に駆られてとにかく飛んだ。


「クソッ、やみくもに飛んでも迷うだけだって言われたけどこの状況じゃそんな事言ってらんねーわ」


叩きつけるように降る雪に視界は効かず、あのデカブツからどれほど距離が取れたのかヤツは俺の事を追って来てるのか否かもまったくわからない。

自分がどのあたりにいるのか、元の位置に戻って来ているのかも全く分からない。

ガチのホワイトアウトだ。


「ズズズズズズズズズズズズズズ」


地鳴りのような音が遠くから聞えてくる。

風魔法のサウンドコレクションを使って周囲の音に気を配ると、その地鳴りのような音はこちらに近付いている様に感じた。


「まさか、俺を追ってるのか?」


ゾッとして俺は独り言ちる。

なんで追いかけて来る?俺を餌と認識してんのか?やめてくれよ、お前に比べりゃ俺なんて蚊みたいなもんだろ?こんなの食べても腹の足しにもなりゃしないぞ?

俺は焦ってゲイルでさらに移動する。

ヤツにおわれて俺は山の上へ上へと移動する。

地鳴りのような音はまだ聞こえてくる。


「なんだってんだよ、なんで俺の位置がわかるんだよ?それに、まさか……」


急になってくる斜面、俺ってもしかして…。


「山頂に追い詰められちゃってる感じ?」


その事に思い至って俺は更にゾッとする。


「もしもし、もしもし」


身震いしていると耳元にささやくような小さな声が届いてくる。


「誰っすか?誰かいるんすか?」


俺は驚いて周囲を見まわすが何も見えない。


「山神様の使いが怒っています。早く身を隠さないと危ないですよ」


ささやくような声はそう続けた。


「身を隠すって言ったって」


俺は周囲を見渡してまごついてしまう。


「熱源ですよ。熱源を消さないといつまでも追ってきますよ」


「熱源?そうか、だからこっちの位置を把握できたのか。ありがとうございます!」


俺は体温調整の力を制御し少し肌寒いかくらいまで温度を下げた。


「このくらいならどっすか?」


俺は姿の見えない声に尋ねる。


「そのくらいならば大丈夫でしょう」


俺はサウンドコレクションで地鳴りのような音に意識を集中する。

音はだんだん遠ざかりやがて聞こえないようになった。

俺は暑いのは結構大丈夫なのだが寒いのが苦手なもんで無意識のうちに体温調整を高めに発動していたのが仇になったようだ。


「いやあ、助かりました!本当にありがとうございます!」


俺は見えない声に感謝を述べる。


「あなたは術式使用がだいぶお上手のようですね」


「いやあ、自分、術式はあまり得意ではなくて」


「では術式を使わずに複数の魔法を使っているのですか?」


見えない声が驚く。


「いや、複数と言っても同時に使えるのは二元素まででして」


「なんと!それは凄い!……あなた、お名前は?」


「クルースと申します」


「クルースさん、お願いがあります」


ささやくような声は改まったような様子で言う。


「お願いですか?助けて貰った恩もありますし自分に出来る事ならなんでもやりますよ」


俺は助かった安堵から気が大きくなったのもあってつい安請け合いしてしまう。


「おお、でしたら是非我らの村にお越しください」


「はい、構いませんがどうやって行けばよろしいですか?」


俺は姿の見えない相手にそう問いかける。案内して貰わないことにはこの吹雪の中では迷うばかりだ。


「私の声に従ってついて来て下さい」


「え?声に従ってですか?出来れば出てきて案内して貰った方が」


「申し訳ないですが私がいるのはその近くではないのですよ。私が居るところまで誘導しますのでついて来て下さい」


「え?あ?はい」


どういう事なのか理解できぬまま俺は声にのみ従って移動する事となった。


「そのまま真っ直ぐお進みください。少し右に逸れています。そのまま直進です」


うーむ、画面の見えないナビゲーションシステムのようだ。目的地まで早く着けるルートがあります、利用しますか?なんて言わないよな?できれば有料道路は使わない設定でお願いしたい所だよ。


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