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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
1023/1111

お久しぶりのキツイやつって素敵やん

 学園に戻ってしばらくは調べた内容をまとめる活動のため研究野郎共も静かにしていた。

 アナスホー探訪については表ざたに出来ない事が多かったので、ボンパドゥ商会連合のフーカ研究主任と連絡を取りどこまで表に出せるか、またどのように言い変えるかを話し合って進められたので時間がかかりそうだった。

 ラインハート部長はわかるが、コラスの奴までがアナスホーについての研究成果をまとめる事に夢中になっているのには驚いた。

 まあ、コラス自身アナスホーの生きざまに共感しているところがあったからなあ。

 とにかく、なにか夢中になれるものが見つかったのはいい事だ。

 そんな中で俺と言えば、基本、暇なのであった。

 

 「どうしたトモよ?気の抜けた顔をして」


 授業が終わり学園内の廊下を歩いていた俺に声をかけて来たのはキーケちゃんだった。


 「ああ、クラブ活動も人心地ついてさ。特にやるべき事もないしでどーしよーかなーなんて思ってたトコでさ」


 「アナスホー研究だったか。あちこちにいって面白い連中と絡んだらしいの」


 キーケちゃんがニィと笑って言う。


 「いやあ、そんなに面白くはなかったよ。ただバックにめんどくさそうなのがいるっぽくてねえ」


 「ジョサイエフか」


 「そうそう。だからあんまり深入りしないでボンパドゥさんに任せちゃったよ」


 俺は肩をすくめる。


 「それがよかろうさ。だがトモよ、それはそれで少しばかり物足りないのではないか?」


 何か面白い事を思いついたようにいたずらっぽい表情で言うキーケちゃん。

 

 「え?なに?どういうこと?」


 キーケちゃんはたまに冗談キツイ事があるから俺はちょっとばかり腰が引けてしまう。


 「きっひっひ、そんなに警戒するな。ちょっとしたおつかいだ、ホフスのところでやっとったようなものさ」


 マスターホフスのとこでやってた事って言えば街の便利屋さんみたいな事だったけど、あれはあれで妙な事に巻き込まれる事も少なくなかったわけであって、あれみたいと言われると益々不安が募るんですが。


 「そう心細い顔をするな。あたしとトモのふたりが揃えばレヴィアタンでもベヘモトでも恐るるに足らぬわ!さあ、気合入れて行くぞ!」

 

 キーケちゃんは俺の背中をバチンと叩いて楽しそうに笑った。

 おいおい勘弁してちょーだいよ、レヴィアタンとベヘモトってのは前世だと旧約聖書のヨブ記に記述されたもので超強力な怪物であるとされている。まあ、旧約聖書中ではその強力な怪物すら唯一神の支配下にあるんだぞと言われている訳だが……。まあ、その怪物も元をたどれば神話に元ネタがあるようで豊穣のシンボルだったり混沌の象徴だったりと、とにかく人知の及ばぬ制御不能の圧倒的存在として伝えられているものだった。

 ベヘモトはベヘモット、ベヒーモスなどとも言われ陸生怪物として描かれる事が多くカバやゾウが下敷きになっているのではないかと言われる。

 対してレヴィアタンはリバイアサンとも言われ海の怪物として描かれる事が多い。こっちは鯨がモチーフになっているのではないかと言われている。

 当然、前世では存在しない想像上の生き物だった訳だが、今俺が生きている世界には前世では想像上の生物とされてきた生き物が多数存在している。

 ミルメコレオ、グリフォン、サハギン、グール、ゴブリン、オーク、極めつけはやっぱり龍か。

 ところがそんな世界なのにレヴィアタンとベヘモトは存在が確認されていないと言うのだ。ありとあらゆる魔獣怪物が居ると言うのに。

 つまりこの世界でもレヴィアタンとベヘモトは伝説の怪物なのだった。

 そんな怪物の名前を引き合いに出されても俺の不安は増すばかりだ。


 「ちょ、ちょっと待ってよ~」


 俺は情けない声を出しながらキーケちゃんを追いかけるのだった。

 キーケちゃんは学園を出ると街や駅とは反対側の開発の進んでいない土地へと向かった。

 

 「この辺で良かろう。それじゃあ飛ぶぞ」


 言うが早いかキーケちゃんはゲイルを使って宙に浮く。

 どうやらキーケちゃんは移動に飛行魔法を使用するために人のいないここまで来たようだ。

 街での移動は地上移動が基本であり、空中移動は許可が必要になっているのだ。

 なぜかと言えばそれは安全のためだ。

 基本的に街なかで空中移動するのは国など定められた機関が緊急時に行うものとなっており、一般人がやたら滅多飛び回るとその妨げになったり事故の原因になるからなのだ。

 規制が緩かったころは空中浮遊の魔道具を用いて飛行する人達同士の事故が後を絶たなかったようだ。

 自力で飛べず魔道具に頼っていると事故の衝撃等で魔道具が破損した場合、墜落するしかなくなってしまう。

 人の多い場所に墜落すれば被害にあう人の数も増えてしまう。

 そんな訳で緊急時を除いて街での空中移動は規制される事になったようだ。

 前世でも電動キックボードなどの新しい移動手段やドローンが普及し始めた時、同じような事が起きていたのでまあそりゃそうだよなとは思うがこうしてわざわざ人里離れたところまで来ないといけないのは些か面倒ではある。

 

 「それで、どこに行くのよ?」


 俺はキーケちゃんの横に並んで飛び尋ねる。


 「マウトシュテットさ」


 キーケちゃんは短く答えて速度を上げた。


 「マウトシュテットってどこ?」


 「なんだトモよ、地理の授業さぼっておったな?」


 「え?いやー、面目ない」


 図星を突かれて俺は一瞬慌て、即座に謝った。


 「きひひ、あたしはここじゃ教師ではないから謝らずとも良い。マウトシュテットとはホルシュヴィッヒ領北西部の村だ」


 「ホルシュヴィッヒ領?なによーもしかして山越えするの~?」


 ホルシュヴィッヒ領は隣領だが学園都市から行こうとするとフィルバーグ山脈という帝国有数の高山地帯が横たわっており、魔導列車など地上ルートだと大きく迂回して行かざるを得ず近くても遠い場所となっているのだ。


 「そう言う事だ。火魔法による体温調節法は会得しておるな?」


 「うん、前にアルスちゃんから習ってるから使えるけども」


 「よし、ならば最短ルートでいいな?」


 キーケちゃんはニヤリと笑って俺を見る。


 「いいなって言われても、どんなルートなのよ?」


 嫌な予感がして俺は聞き返す。


 「ラダメブランカ越えルートだ」


 短く答えるキーケちゃん。

 ラダメブランカって言えば帝国で二番目に高い山として知られる山で、山頂部は厚い氷で覆われており気候によって高さが大きく変化すると言われるような山だ。

 

 「うっそ?そんなとこ越えるの?」


 「きっひっひ、そんなところ越えるのよ」


 キーケちゃんは楽しそうに笑いながらそう言った。

 マジかよ。人里が近くにない事や厳しい気候条件、急峻な山容などからラダメブランカは帝国で、いや大陸でもっとも登る事が難しい山って言われたはずだ。

 確か冬季の単独登山での成功例はないとか聞いたぞ?

 

 「大丈夫なの?確か危険な山なんじゃなかったっけ?」


 俺は不安になってくる。


 「大丈夫だ、我らは何も歩いて登ろうってんじゃあないんだ。飛んで超えるのならわけはない」


 「マジで?」


 「なんだ心配性だのう?おぬしの身体強化術なら高山病の心配もないし、体温調節術も使えるなら今こうして飛んでいるのと大差ないわ」


 「ホントかいな」


 「ただちょっと空気が薄いから風魔法で空気を纏わなきゃ息苦しくなるけどな。きっひっひっひ」


 「ほらー!やっぱ危ないじゃーん!」


 笑うキーケちゃんに俺はツッコむ。

 そうなってくると、風魔法で飛行と酸素供給を同時にやりながら更に火魔法で体温調節もこなさなきゃダメじゃんか。

 こりゃ結構、ややこしいぞ?俺にできるか?ちょっと練習しないと自信ないぞ?

 俺は風魔法の酸素供給と火魔法の体温調節を実際に発動させてみる。

 酸素供給は割と簡単だけど同時に体温調節をやるとなると微調整がムズイ!

 

 「かっかっか!どうしたトモよ?体温調節の練習か?汗だくになりおってからに。早く乾かさんと体温を持ってかれて風邪を引くぞい?」


 「ふひぃー、忙しい!」


 俺は風魔法と火魔法を駆使して自分と服を乾燥させる。飛行と酸素供給、それに体温調節も継続しながらだととてもじゃないが処理が追い付かない。一端、体温調節をキャンセルする。


 「コラ、体温調節をさぼるなよ?山頂付近じゃもっと高度な調整が必要になってくる、到着するまで継続して練習せい」


 「ひじょーにキビシィーー」


 俺は往年の名コメディアンのネタを真似て弱音を吐いた。つーか、マジで厳しい!


 「なーに、すぐに慣れる。速度を上げるぞい」


 「ふひゃぁぁぁマジっすかー」


 「きっひっひマジっすだ」


 キーケちゃんは笑いながら速度を上げる。

 久しぶりのキーケちゃんの修行は厳しかった。

 俺はヒーコラ言いながら飛行速度を上げるのだった。


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