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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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扱い方次第でって素敵やん

 「なによ~クルポン、その目は~」


 コラスが少しばかり嬉しそうに俺に言う。


 「いや、別になんでもねーよ。ただ、良かったと思ってさ、アナスホーが宝と言って残した物が人に害を与える物じゃなく、人を心地よくさせるものでさ」


 「ちぇっ、なんか悔しいなあ。もう一度、入り口から入り直してみよっと!」


 言うが早いかコラスは広間から出て行ってしまう。


 「ふぅ、これは素晴らしいものですね」


 ケイトがため息交じりに言う。


 「確かに素晴らしいものですが、人に害を与える可能性も十分あるしろものですよこれは」


 ラインハート部長が言い俺はゴクリとつばを飲み込んだ。

 俺にもその意味は理解できたからだ。


 「仕掛けが作動しなければ逆の効果を及ぼすという事は、精神攻撃兵器としての流用も容易という事か」


 リッツが腕組みをして言う。


 「それも勿論あるが、俺としては最も恐ろしいのは人心を操る手段として用いられる事だな」


 「人心を操る手段?」


 リッツが不思議そうな顔をして俺を見る。


 「ああ、そうだ。俺達が今まであちこちで見て来た妙な団体は多くの人をその団体に取り入れ心酔させる事で大きな力を得て来た。多くの人の財産や労働力、未来を搾取し勢力と影響力を強めていた。そうした団体は人を集める方法について多くの手段を持っていて、その方法こそが彼らの武器であり商売道具だと言える…」


 俺はみんなに話して聞かせる。そうした団体が人を集める方法について。

 例えば、そうした団体に行くと必ずと言っていいほど大勢の人からの熱烈な歓迎を受ける事になるが、これはラブシャワーまたはラブボミングと呼ばれる心理学的手法である。

 過剰なほどの愛情や関心を注がれる事で対象者はその場所こそが自分の居場所であると認識し、自分はここでは重要な存在なのだと思い始めるのだ。

 他にも偽装勧誘なんてやり方も横行していた。

 これは環境問題や差別問題を研究する団体と称してそうした事に関心がある意識が高い人をターゲットにするやり方だ。これはその時々の人々の関心事によって色々と変化するので見分けるのが難しい巧妙なやり方でもある。

 こうした人集めのメソッドは色んな団体によって研究されており、多くの団体はそれを体系化し団体メンバーにそうした技術の教育を定期的に施している。

 まあ、そんな訳なんでそうした団体の人を論破してやろうなんて気は起こさず、入る気が無いなら関心ありませんごめんなさいの一点張りで通した方が無難なのである。

 

 「…つまり、なにが言いたいかってーと、この場所の技術ってのはそうした団体にとって喉から手が出るほど欲しい技術だって事よ。この技術があれば面倒な手段を用いずに多くの人の心を一度に揺さぶる事が出来るんだからね」


 「この場所の仕掛けには郷愁を刺激する効果がありましたが、研究をしていけばきっと別の感情を刺激する効果も生み出せるようになるでしょう」


 「では敬虔な気持ちになるような効果や純真無垢になるようなものも生み出せるかも知れないのですか?」


 俺の言葉に続けたフーカさんにアーチャーが質問する。


 「現状で観察できたのはあくまで精神状態への干渉のみなので、純真無垢な状態になるかと問われるとそれは難しいと言わざるを得ないですね。まあ、純真無垢の定義にもよりますが、アーチャーさんは純真無垢になりたいのですか?」


 「いえ、そう言う意味で言ったわけでは」


 フーカさんの問にアーチャーは顔を赤くする。なんだかこの所アーチャーの人間味があるところっつーのか隙というのか、とにかくそんな感じのものがポツポツ顔を出すようになったなあ。

 俺達に少しは気を許してくれているって事かな?


 「ヤッホー!もう三回も往復してるけど、な~んも変わんないんだけど~。アッハッ!おっかし~!」


 気を許しっぱなしの奴が来たぞ。

 

 「お前、少しテンションがおかしくなってるぞ?効果が出始めてんじゃないのか?」


 俺はコラスに言ってやる。


 「そうなのかな~?そう言われればなんか少し楽しくなってきたかも。よ~し!あと三往復してみよー!」


 コラスはそう言って走り去っていく。完全に効果が出てるだろありゃあ。


 「さてと、この場所の始末について考えないといけませんね」


 ラインハート部長が眼鏡をクイっと上げて言う。


 「それならば、皆さんがよければですがうちの預かりにさせて貰ってもよろしいですか?」


 「いいんですか?ボンパドゥさんの扱うものとはズレてしまうんじゃ?」


 これはボンパドゥがいつも扱っているロストテクノロジーや別世界からやってきた漂流物といった物品、彼ら言う所の『この世界の理を外れた物』には該当しないのではないだろうか?


 「厳密に言えば我々が保護対象ではありませんが、現在知られていない技術という点では研究対象として非常に興味がありますし、危険度から考えて我々の保護技術が役に立つ案件でもあると思います。うまく活用すれば我々が日頃扱う物品によって精神的ダメージを受けた人の回復施設としても有効利用できそうですし、我々としても任せて貰えればありがたいですよ」


 「ボンパドゥさんにお任せするのが一番良いと思いますがみんなはどう思いますか?」


 フーカさんの説明にラインハート部長が皆を見て言う。

 俺達は勿論、全員肯定だ。


 「なになになになに?なにな~に?なんの相談してる~に?」


 更に妙なテンションになっているコラスが走り寄って来て俺の肩に顔を乗せて言う。


 「お前っ、効きまくってるじゃねーか!どんな光景が見えてんだよ!」


 俺はコラスの顔を押しのけて言う。


 「え~、影に変化はないけどさ~。な~んか楽しくなってきちゃって~」


 「ここの効果なのか単にはしゃいで気分が高揚しているのか難しいところですね」


 ホクホク顔で言うコラスを観察してラインハート部長が言う。眼鏡をクイっとやって言うほどの事か?


 「そんでそんで、なに話してたのよ~」


 「この場所の扱いについてだよ」


 「そんなのボンパドゥさんに任せちゃえばいいじゃない。そこらに転がってる連中も任せちゃってるしさ」


 コラスの言葉に広間を見て見ると転がっていた黒服連中の姿が見当たらなくなっている。


 「ありゃ?いつの間に?」


 「外でボンパドゥの人が回収してたからさ、往復するついでに出しといたよ」


 コラスが俺に答える。ついでに出しといたって燃えるゴミじゃないんだから。


 「黒服連中も任せちゃっていいんですか?」


 俺はフーカさんを見る。


 「ええ。と言っても最寄りの衛兵隊に突き出すだけですけどね」


 フーカさんは笑って答える。


 「最寄りですか?」


 俺は聞き返した。と言うのも衛兵隊の中にも奴らの関係者がいる可能性が高いからだ。


 「最寄りと言っても村のシェリフではなく一番近いマーシャルのある衛兵隊にですので安心して下さい」


 フーカさんが補足説明をしてくれる。

 シェリフってのはいわゆる保安官のことで、国王からその場所に派遣された代官みたいなもんだ。マーシャルってのは法廷管理者の事で、つまり司法権を有する国家機関のある場所の衛兵に引き渡すとフーカさんは言ってくれているのだ。

 

 「すいませんねえ、色々と」


 「何を言ってるんですか、こちらこそ有益な情報とご協力に感謝してますよ」


 頭を掻きながら言う俺にフーカさんはにこやかに答えてくれるのだった。

 

 「僕だって協力したもんねー!でしょ?だしょ?」


 元気いっぱいに言うコラス。

 う~む、この場所の効果じゃないのならちょっと怖いぞ、そのテンション。


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