正気を失うって素敵やん
アナスホーとレリック合同の暗号を解き無事にお宝が隠された地下通路の入り口を見つけた俺達は、なんのかんのと言いながらも俺を先頭に地下へと歩みを進める事となった。
地下へと潜る階段はすぐに終わり人がふたりすれ違えるほどの幅がある通路となった。
コラス達ヴァンピール組は明かりがなくても良く見えるみたいだが俺とケイトはそうも行かないため、先頭の俺としんがりのケイトはライトの魔法で明かりをつけている。
俺はライトの魔法は結構得意なんでさほど意識せずともかなりの光量を確保できるが、驚きはケイトで彼女のライトも俺に負けず劣らずかなりの光量だった。
「ケイト、もっと光量落としても大丈夫だぞ?」
「これでもかなり落としてるんですよ」
ケイトは俺に言う。
「マジでか?俺もライトは得意なほうだったけどケイトも得意なほうだったか」
「私の国は地下洞窟が多く、そこからの恵みも大切な資源でしたからね。父に連れられて良く行ったものですよ」
ケイトが懐かしそうに言う。
なるほどね、モスマン族の国は鉱物資源が豊富だと言ってたな。
「そうか、モスマン族はダンジョンに慣れてるって訳だな。だったらケイトに先頭をして貰った方が良いんじゃないか?」
「後ろからでも危険は察知できます。副部長はここでいいとこを見せて下さい」
「ちぇ、そう来たか」
ケイトに言われて俺は口を尖らせる。
あわよくばポジション交代して貰おうと思ったのだが駄目だったか。
まあ仕方ない、俺は気を取り直して進む先へ意識を集中し気配を探る。
小さな生き物の気配が複数感じられる。
地面に近い位置はネズミ、天井付近のはコウモリか。
気配察知はよく使うし練習も欠かさないので集中すれば小動物の気配くらいはかなり具体的に察知できるようになった。
ライトを灯して歩いて行くと気配は明かりが届く前にサッと逃げて目に留まる事はない。
一本道なのに小動物が目に留まらないのはあちこちに隙間や小さな抜け穴があってそこに入り込んでいるからだろうな。
そうして進んでいると前方に木製のトビラが見えて来た。
「かなり古いトビラだけど、開けたら壊れちまうかも知れないな」
俺はドアノブに手をやってみんなに言う。
「仕方ないですね。なるべくあったままにしておきたいところですが、多少の破損は経年劣化という事で許して貰いましょう」
ラインハート部長の言葉に俺は頷きドアノブをひねり慎重に引いた。
トビラは盛大に埃をまき散らしながらゆっくりと開いて行く。
ノブがグラグラするので無理に引く事はできない。
途中、幾度かトビラが引っ掛かったが俺はノブを持つ反対の手でトビラ全体を支えて浮かし気味にして引っ張ることでトビラの破損は最小限に抑えて開き切ってやった。
「ふぅ~、気を使ったなあ」
「クルポンお疲れ!んじゃあ早速中に入りましょ!」
そう気軽に言って俺の肩を叩くコラス。
「ったく」
俺はそう言いながらトビラの向こうに身を滑らせる。
向こう側はなにも置かれていない広い空間になっていた。
「ありゃ?何もないの?」
「ちょっと待ってくれよ。何もないって事はないだろうよ」
キョトンとするコラスに俺は答えて壁に目を凝らす。
「なにしろあの暗号を開発したふたりだ、きっと何か仕掛けがあるに違いない」
俺はそう言って壁を入念に調べていく。
「なるほどね。よーし!だったら今度はクルポンより先にその仕掛けを見抜いてやるぞ!」
コラスが元気良く言い壁を調べ出し他の連中もそれに続いた。
壁は土をそのまま削ったもので所々テラテラと光っているのは薄っすらと水が出ているのだろうか?とにかくジメジメしていて長居はしたくない場所だ。
やけに足の長いゲジやカマドウマみたいなバッタが時折光を避けるようにサッと逃げているのが目に入るのも気持ちが悪くて気分が沈む。
なんか嫌な場所だなここ。
なんだってアナスホーとレリックはこんな所にお宝を隠したんだ?
早く外に出たい。
そう考えると居ても立っても居られない。
「ワリー、俺、ここ我慢できない。外へ出るわ」
「私もちょっと限界です」
俺の言葉にケイトも同意した。
「え?ちょっと待って」
「ワリー、無理だわ」
俺とケイトは足早にトビラへと向かう。
一刻も早くここを出たいと言う気持ちが膨らんで収まりがつかない。
「おっと、ここを出るのはお宝を発見してからにしてもらおうか」
俺とケイトがトビラに近付くと、黒服の男達がなだれ込んで来て魔導武具らしき筒をこちらに向けた。
「ふざけんな!そこをどけ!」
「あんた達の相手なんてしてられないのよ!」
どこの誰だか知らないが、この嫌な空間から出る邪魔をするなら容赦はしない。
ケイトもそれは同じようだった。
俺とケイトはゲイルダッシュで男達の懐に飛び込み体当たりでぶっ飛ばすと、一目散にトビラの向こう側の通路へ飛び出た。
「うわっ!こんな狭いとこにわんさか集まんなっちゅーんじゃ!」
「ほんっと息苦しい!どきなさい!」
俺とケイトは通路にひしめく黒服共にノータイムで突っ込んだ。
ゲイルダッシュと身体強化の力押しでゴンゴンと通路に居並ぶ奴らを押していく。
早く外に出させろ!息苦しいんじゃ!
俺とケイトはまるでラッセル車のように男共を蹴散らしていく。
「おごっ!」
「むぎゅう!」
「あががががが」
「早く外へ!ああ!」
「たすけ」
俺とケイトの勢いに押されパニックになったのか俺達の後ろからも男達が出口へ押し寄せ、俺達が蹴散らした男共を踏みつけ転がり阿鼻叫喚状態になっていった。
「邪魔じゃっちゅーとんねん!!」
「邪魔なのよ!!」
俺とケイトは逃げ惑う奴らと押し寄せる奴らを蹴散らしながら同時に身を滑りこませるようにして地下通路の外に出た。
「ふひぃー、やっと新鮮な空気が吸えた」
俺は外に出た開放感に気が少し軽くなり深呼吸をする。
ありゃ?なんで俺はあんなに精神的に追い詰められてたんだ?
深呼吸をするにつれ頭の中を圧迫していた感覚が薄れ冷静になってくる。
「まだまだよっ!こいつらがいる限り新鮮な空気は望めないわっ!!」
ケイトは叫ぶようにそう言うと外にいた黒服共を蹴散らし始めた。
「新鮮な空気を返せ!キレイな山を返せ!」
叫びながら暴れまわるケイトの姿はさながら魔神であった。
さすがは世界的にも恐れられる種族、本気で暴れると凄まじいもんだ。
ぶっ飛ばされた黒服共は宙を舞い木をなぎ倒し地面に倒れこむ。
ううむ、まさに一騎当千三国無双なり!
「なんて感心してる場合じゃねーや。このままじゃ山がはげ山になっちまう、いや、更地になりかねんな」
ケイトの暴れっぷりに感銘を受けてしまったがあのままにしておくわけにもいかないだろう。
俺は深呼吸して体内の魔力を循環させる事で正気に戻った。
そうだ、正気に戻ったんだ。
ちゅー事はだよ?今のケイトはなんらかの混乱状態に置かれているっちゅーこった。
「おーい!ケイトさーん!ケイトさんやーい!」
俺はゲイルで飛んでケイトに近付く。
「うっ、近くで見ると迫力が増すなっ」
いかんいかん、ここで怖気づいちゃダメだ。
「ケイトさーん!深呼吸!深呼吸して!」
俺はデカい声でケイトに言う。
「グルルルル!ガァァァァァァ!!」
「うひゃ!完全に猛獣になっとる!」
目をランランと光らせて唸り声を上げるケイト。
こりゃマズいぞ。
高回転するベーゴマみたいに周囲の黒服共を手あたり次第弾き飛ばしているケイトだが、正気を失いリミッターが外れているように見える。
このままにしてると反動が来るだろ。
「えーい!ままよ!」
俺は半分やけになってケイトにツッコんだ。
暴れ馬のように動き回るケイトに抱き着き声をかけながら接触部分から循環した魔力を流し込む。
「ほーらよしよしよしよし。落ち着いて落ち着いて。暴れない暴れない。もう大丈夫だよー、安心してー」
俺は暴れまわるケイトに振り回されながらもロデオのカウボーイよろしく必死でしがみつく。
「どうどうどうどう。よーしよしよし」
ケイトの目の輝きが収まり動きがゆっくりになってくる。
「ふぅーーーーーーっ」
やがてケイトは動きを止め深く深く息を吐いた。
「よう、お目覚めか?」
俺はケイトに回していた手を放し声をかける。
「はい。一体全体なんだったんでしょうか?」
「わからんけど、先にこっちをかたずけちゃおうぜ」
正気に戻ったケイトの問に俺は周囲で俺達を囲むように動いている残りの黒服共を見ながら答えた。
かなりの数がバーサーカー状態のケイトによって戦闘不能になっているが、それでもまだそこそこの人数が残っているようだ。
あんだけボッコボコにされてんのに、こいつらもこりないねえ。




