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意外と大丈夫異世界生活  作者: 潮路留雄
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祠の掃除って素敵やん

 俺達は追撃に出た女子組とヒューズが戻って来るのを待ってから、一緒に衛兵さんの案内で詰め所へと向かった。

 衛兵さんは基本的に丁寧な対応で俺達は疑われる立場ではない事がわかったが、それにしてもこの騒ぎだ。衛兵さんは困った様子で何事なのか思い当たる事はないか包み隠さず教えて欲しいと俺達に言った。

 俺達は自分たちがファルブリングカレッジの生徒である事、そしてクラブ活動でアナスホーについて調べている事、そしてその過程で大農場の土地に眠る物を巡って漆黒の犬と呼ばれる団体と争う事になった事を説明した。


 「今回、宿を襲撃した連中もその漆黒の犬であると。では農場の件で揉めた際の仕返しで襲って来た可能性が高いと、そういう事でしょうか?」


 衛兵さんは問う。


 「そこまではわかりませんが、それくらいしか思い当たるフシは有りませんね。後は拘束した襲撃者に聞いてみて下さい」


 ラインハート部長は静かにそう答える。


 「ううむ、確かにおっしゃる通りですね。わかりました、皆さんはお帰り頂いて結構です。ああ、宿の方ですが新しく部屋を用意してくれているそうです。くわしくはお戻りになってから宿の方へお尋ねください。それから皆さん、明日、と言うか今日になってしまいましたがすぐに学園へお帰りになられる予定ですか?」


 「いえ、この辺りを散策する予定です」


 「そうですか。では何かありましたらまたお声掛けをするかも知れませんので、その際はご協力をお願いします」


 「わかりました」


 てな具合で俺達はすぐに解放されたのだった。


 「随分と簡単に解放されましたね」


 「これ以上、説明出来る事もないしなあ。まあ、後はプロに任せりゃいいんじゃない?」


 俺はラインハート部長に言う。


 「チャレンジさんやボンパドゥ商会連合の名前を出した事も効いているのかも知れませんね」


 「それもあるだろうな。だが普通に考えれば私達は被害者で一般人の学生だ。いつまでも拘束しても仕方ないだろう」


 「リッツの言う通りですね。我々は一般の学生ですからね」


 アーチャーとリッツの会話にヒューズが答えた。

 どこが普通の学生なんだよ?アルドラッド村で漆黒の犬達をケチョンケチョンにやっつけた癖してからに。

 俺は少しばかり呆れる。


 「どうするクルポン?新しく部屋を用意してくれたって話だったけど?」


 「そうだなあ。もうひと眠りするかと言いたいとこだが」


 俺は空が薄っすらと明るくなってきているのを見る。


 「もうすぐ夜明けですね」


 ラインハート部長が言う。


 「私はもうすっかり目が覚めてしまいましたし、すぐにでも活動できますが皆さんは如何ですか?」


 ケイトが問うと皆、自分も同じであると口々に言った。


 「では、ちょっと早いですが出発しますか」


 「朝食を食べてからにしようよ~。じゃないと力が出ないよ~」


 「それもそうですね。では宿の人に聞いてみます」


 コラスの言葉にラインハート部長は宿へと小走りで向かって行った。

 俺達もラインハート部長の後に続き宿へと戻る。

 

 「大丈夫です。すぐに出るので新しい部屋の用意は結構だと言ったらその代わり食事は特別メニューを出してくれるそうです」


 「やたーー!さすが部長!」


 「いや、それほどでも」


 コラスが喜んで両手を上げるとラインハート部長は少し照れた。

 ふふ、ここはもう少しプッシュしたろ。


 「さすが部長!それ部長!部長!あそれ!部長!」


 俺は手拍子をしてリッツ達を見る。

 リッツはすぐに俺の意図を汲んだようでニヤリと笑って俺に続く。


 「「あそれ!部長!部長!」」


 それを見たコラスは満面の笑みで続き、アーチャー、ヒューズも無表情ながら俺達の真似をする。


 「「「「「部長!部長!あそれ!部長!部長!」」」」」

 

 宿の食堂前で早朝から響く部長コール。


 「こらこら、おやめなさい皆さん。朝早くから迷惑ですよ」


 ケイトは冷静に俺達をたしなめる。

 俺達は構わず部長コールを続ける。

 ケイトはヤレヤレと言った感じで肩をすくめる。

 ラインハート部長は恥ずかしいのかうつむいて肩をプルプルと振るわしている。

 

 「あそーれ!はいどーした!」


 コラスが調子に乗って大きな声ではやし立てる。

 ちょっとやりすぎ感が出て来たぞ。

 

 「いい加減にしてくださーーい!!」


 ガバっと顔を上げたラインハート部長は両手を上げて大きな声で俺達に言った。

 おおお!なんと古式ゆかしい正統派ヒロインツッコミ!

 俺は思わず驚いて言葉を止めた。

 

 「ふわぁ~い、すいませ~ん」


 コラスの奴が珍しく素直に謝った。

 ほぉ、さすがの悪ノリ大好きコラスもラインハート部長のマジ怒りには弱いらしい。

 リッツはコラスを指差し俺を見て笑い、アーチャーとヒューズは変わらぬ無表情のまま食堂へ入って行く。

 ケイトはそれを見てヤレヤレと頭を振る。

 

 「あんまりコラス君とラインハートさんの間をややこしくするような事、しないほうが良いと思いますよ?」


 「そりゃ、どういう事だよケイト?」


 「ふぅ~、とにかくあまり悪ノリしないように頼みます」


 ケイトはため息をつきながら俺にそんな事を言うのだった。

 なんだよ、悪ノリしてんのはコラスの奴だっちゅーに。

 まあ、確かに俺のそれが面白くて煽ってるところはあるけども。

 ちょっと納得いかなかったがケイトが言うんだから少しは気に留めておいた方がよかろう。あいつはなんだかんだ言って周りをよく見てるからな。何かしらの意味があっての事だろう。

 特に女子連中の事はケイトの方が良く心得ているからな。

 俺は改めてラインハート部長絡みでコラスを煽るのは自重しようと思うのだった。

 特別に用意して貰った朝食はなんと並べられたものからお好きな物を選んでくださいという、いわゆるバイキング形式のものであった。

 俺は前世でバイキングスタイルが大好きだったのでとても嬉しかった。

 スクランブルエッグにソーセージとジャガイモを炒めたやつ、それにオニオンスープを俺はしこたま食べた。

 妙な奴らのせいで早起きして運動したから腹が減っていたのだ。

 コラスには色んな種類のおかずがあるのに同じものばかり食べるのは変だと言われたが、これが俺のやり方なんだと言ってやった。

 好きな物、美味しかった物で攻めるのが俺のやり方なの。

 前世で回転ずしに行くときもやっぱり好きなものばかり注文するのが俺のやり方だった。ちなみに回転寿司ではシーフード軍艦とオニオンサーモンがお気に入りだった。

 リッツ達からも子供みたいな食べ方だと指摘されたがほっといてくれ。

 そんなこんなで朝食を済ませ、宿には荷物を預け衛兵さんが来たら付近を散策して昼頃には戻ると伝えて欲しいとお願いし魔導通話機を借りてから俺達は目的地であるオイワキ山に向かった。


 「日が昇ると一気に暖かくなるねえ」


 オイワキ山を登りながらコラスが言う。


 「ほんとだな。ちょっと汗ばんできたぜ」


 俺は首に下げたタオルで額を拭い言う。


 「ジミーさんの言った通りタオルを首に巻いてきて正解でしたね」


 「そうだろ?ちょっと寒ければ襟巻き代わりになるし、暑くなれば汗を拭くのに使える。タオル万能説を俺は提唱したいね」


 俺はケイトに言ってやった。


 「ちぇ、クルポンの言う事聞けば良かったよ」


 「まったく子供みたいに意地を張るからですよ」


 口を尖らせるコラスにラインハート部長が自分のタオルを渡してやる。


 「わーい、ありがとー」


 コラスは子供のような笑顔を浮かべてタオルを受け取り汗を拭った。

 まったくこいつは、宿に荷物を預ける時に俺がタオルの有用性を説いたら、クルポンおばちゃんみたいだねーなんて笑いおった癖に。

 そんでもって他の連中がなるほど確かにと言って荷物からタオルを取り出した時も、え~みんなおばちゃんスタイルなの~?なんて言って自分はタオルを出す事はしなかった癖に。

 俺はジトっとした目でコラスを見つめる。

 

 「なにクルポン?何か言いたい事でもあるの?」


 「いや、別に。何もないよなあ?ケイト?」


 「なんで私に振るんですか。自分で対処して下さい」


 コラスの言葉に返す刀でケイトに振ってやったが軽くいなされちまった。

 オイワキ山はいわゆる低山で標高自体はそれほど高くないが、人があまり出入りしないのか山道があまり整備されておらず道は段々と獣道めいたものへとなって行った。

 それでもここに居るメンツはどいつもこいつも強者ばかりだ、話をしながら息を切らす事もなく険しい道を歩いて行く。

 先頭を歩くラインハート部長なんて通行の邪魔になる枝なんか手刀でスパッと刈っているもんね。

 それでも以前は整備されていたんだなと思わせる痕跡が所々目に入り、自分達が山中をさまよっているのではなく定められたルートを歩いているって事がわかり俺は安心する。


 「見て下さい、あれが例の祠ではないでしょうか?」


 先頭を歩くラインハート部長が声を発する。

 俺達は歩みを早めラインハート部長の近くに集まる。


 「うわー、なんか荒れ果ててるねえ」


 コラスが言うように石造りの祠は苔むしツタが蔓延り周囲には草が生え放題であり、山に同化し始めているような状態だった。


 「これは、さすがにちょっと放っておけませんね」


 ラインハート部長の一言で俺達は祠の整備をする事になった。

 ツタを剥がし水魔法で苔を掃除し、周囲に野放図に生えている草木を刈ってやるのに子の人数ならそれほど時間はかからなかった。

 特にケイトの風魔法による草刈りは精度が高く前世の刈払機よりも全然効率が良かった。

 ブッシュマスターケイトってトコだな。


 「ふいぃ~、キレイになったねえ~」


 「何を人仕事終えたみたいにいい顔してるんです。エドはほとんど遊んでいたみたいなものではありませんか」


 額の汗を拭うふりをするコラスにラインハート部長がツッコむ。


 「そうだな。エドさんは水魔法で苔を落として絵を描いてたからな」


 「あの絵は上手でしたね」


 「ジミーさんの顔、似てましたね」


 リッツ、ヒューズ、アーチャーがそれに続く。


 「だよね~?なのにクルポンったら消しちゃうんだもの」


 「お前なあ?祠つったら神さんを祀る場所だろ?そんなとこにいたずら書きはいかんだろうが」


 俺はコラスをたしなめる。


 「なーによー、クルポンたらここの祠が祀ってる神様を信奉してるの?」


 「いや、俺は特に特定の神様を信奉しちゃいないけどだからと言って多くの人が信じてる神様を軽んじたりもしない。自分と違う主義や思想だからと言ってそれだけで排除しようとか無くていい物だとかそういった判断は下したくないし、それによって他者を傷つけたり尊厳を踏みじたっりしない限り尊重したいと思ってるよ」


 「ふ~ん、クルポンって前もそんな事、言ってたよね?アルスさんに聞いたけど、冒険者として怪しい団体と戦って解散に追い込んだ事もあるんでしょ?その時とは考えが変わったの?」


 コラスが不思議そうな顔をして俺に尋ねる。

 そうか、アルスちゃんがそんな事も話したか。アルスちゃんとコラス達の関係はノーライフキングとヴァンピールという関係、つまり不死者の王と不死者って関係だもんなあ。

 俺とは違った強い関係性があるもんねえ。

 そんな話もするか。

 まあ、されて困る類の話しでもないのだがこの辺の話しってのはなかなかややこしくもあるんだよな。

 

 「いや変わっちゃいないよ。さっきも言ったように他者を傷つけたり尊厳を踏みにじったりする団体は話が別って話しさ」


 「他者を傷つけるとか尊厳を踏みにじるって具体的にはどんな事なの?」


 「例えば多額の寄付を要求するなどの経済的搾取な。それによって本来送れるような生活が送れなくなってしまうのは傷つけていると言えるな。他にも団体以外の人とは付き合いを絶つように要求し社会から孤立化させるなんてのも同じだ。これらは良くない団体の特徴とも言えるな」


 「ふ~ん。なるほどねえ。他には?」


 「後は子供についてだな。子供が望んでいないのに強制される事で本来子供が送れたはずの生活が送れなくなってしまう。これは俺個人としては一番問題なんじゃないかと思ってる。子供にとって将来とか夢ってのは大切な物だからな。それを持つ事さえ禁じられ可能性を潰されるなんてのは俺としては許容できないね」


 「子供の尊厳を踏みにじるって事か。なるほどねえ、クルポンらしいねえ」


 「なんだか少し副部長の事がわかったように思えますね」


 俺の言葉にコラスが頷きラインハート部長が続いた。


 「ジミーは困ってる子供を見ると放っておけないもんなあ」


 「アルロット領での事もそうだったみたいですし、ジミーさんのポリシーなんですね」


 「ふうむ、それで商会も上手くいっている訳ですからねえ。この世界も捨てたものではないとそう言う事でしょうか」


 リッツ、アーチャー、ヒューズがそれぞれそんな事を言う。


 「いやまあ、そんなたいしたこっちゃないんだけどさ。つまり言いたいのはそうした団体は許容できないけど、だからと言って他者が信仰してるもん全部を否定し軽んじるようなことはしないって事よ。もっと言えば、そういう団体に属しているからって全員よろしくない人ってわけじゃあないしね。そこら辺は国や種族と一緒でさ、多く見られる傾向ってのはあるけど、その中の個人を見ればそれはまた違ってきたりもするじゃない?」


 「あ~、それわかる~。バッグゼッド人ってプライド高くて個人主義で皮肉屋で食には興味がない人が多いって聞いてたけど、学園に来てみたらそうでもなかったしねえ~」


 「そんな見方されてんのバッグゼッド人って?」


 俺は思わずコラスに尋ねてしまう。


 「まあ一般的にそのような言われ方をしていますね。そしてそのような人は少なくないですよ実際。学園などは新しい価値観を持つ若い人が多いのであまり感じないかもしれませんが」


 ケイトが涼しい顔で言う。ケイトの奴はモスマン族近衛兵団団長さんの娘だからなあ、ちょっとした国賓みたいな側面もあるだろう。だもんでパーティーだのなんだのとちょくちょく大人の集まる場にも顔を出してるみたいだからなあ。う~む、お疲れさんです。

 

 「なるほどねえ、面白いねえ。やっぱクルポンって面白いねえ」


 「よせやい、照れるぜ」


 怪しい目つきで俺を見て言うコラスに俺は冗談交じりで答える。

 

 「ジミーさんが誰にも偏見を持たない理由が少しだけ見えてきましたね」


 「そうだな。やはりジミーは私と付き合うべきだな」


 「なんでそうなるんじゃい」


 アーチャーに続いてそんな事を言うリッツに俺は大きめにツッコんでおくのだった。


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