荒野を走るって素敵やん
嵐も過ぎ去り村に平穏が戻って来た俺達は、コラス達が倒した魔物の肉でバーベキュー大会をする事になった。
フォイジャーさんが護衛の任についていた馬車の男達やザンザも参加して、俺達は互いに今回の件の労をねぎらうのだった。
「ぶあっはっはっは!楽しいのう!こんなに派手に騒ぐのは久しぶりじゃい!牢の中の奴も呼んでくるか!なあ?」
「爺さん、飲み過ぎだよ」
酒瓶片手に上機嫌のスノグ爺さんをミッチが窘める。
「フォイジャーさんはこれからどうするんだい?護衛の任が終わったら?」
チャレンジさんがフォイジャーさんに尋ねる。
「どこか空気の良い所に小さな家でも見つけて、細々と暮らそうかと思ってます」
「そうなのか。だったら、この近くにいい所を知ってるよ。牧場や大きな公園も近くて空気のキレイさはどこにも負けないぜ?おまけに最高峰のミルクも飲めるしな。どうだい?よかったら紹介するぜ?」
「最高峰ミルクですか、いいですね。お願いしようかしら」
「おう、考えといてくれよ」
チャレンジさんとフォイジャーさんが火を囲んでいい感じで話をしている。
「あのふたり、いい感じだと思いませんか?」
「ええ、お似合いですよね」
こちらはラインハートとケイトだ。
アーチャーとリッツも同意して、最初からあのふたりはくっつくと思ってた、とか、いや、漆黒の犬と戦っている時に芽生えたのでしょう、とか、峠での息の合い方は普通じゃなかった、とか、キャイキャイとガールズトークに花を咲かせ始めている。
うーん、こういう話、好きよねえ。
結局この日は夜が更けるまでバーベキュー大会が行われた。
まるで、すべてのストレスを吹き飛ばそうとするかのように、村の人たちはハッチゃけていた。
半ばやけくそって所もあったんだろうがな。
俺達は彼らのノリについて行くのがだんだん疲れて来たので、早々に宿へ撤退したのだった。
そして翌日。
チャレンジさん達は朝一番でやって来た衛兵本部からの特別移送班と話し合い、牢にぶち込んでいる漆黒の犬の連中を引き渡す手続きをした。
ザンザは新しい場所新たな身分を用意して貰うために特別移送班と共に旅立つことになる。
チャレンジさんは無言でザンザの肩を軽く叩き頷く。
ザンザは無言で頭を下げ、特別移送班と共に去って行ったのだった。
「世話になりました」
俺はチャレンジさんに頭を下げた。
「いや、俺達の方こそ世話になったな。君たちはこれからどうするんだい?」
「私達はリューガンさんとジニアスさんに結果を報告する仕事が残ってますね」
チャレンジさんの問にラインハートが答えた。
「おお、そうか。ご苦労さんだな。これを機にあそこもいがみ合うのをやめてくれたらなあ」
チャレンジさんが苦い顔をする。
「きっと、大丈夫ですよ」
「だといいんだがな。君達も、あまり無茶はしないようにな」
「ええ、ありがとうございます。チャレンジさんも、もうひとりの身体じゃないんですから気を付けて下さいね」
ラインハートはチャレンジさんに寄り添うようにして立っているフォイジャーさんを見ながら言う。
「参ったな。まあ、気を付けるよ。近くに来たら顔を出してくれな、歓迎するからよ」
「歓迎しますよ!」
「今度は最後まで付き合ってもらうぞい」
チャレンジさん、ミッチ、スノグ爺さんが俺たちに言う。
俺達はみんなに頭を下げ、リューガン牧場へと一路向かう。
リューガン牧場に到着すると、大きな魔導飛行船が停泊しており多くの人が忙しそうに出入りしているのが見えた。
「ボンパドゥさんがもう来てるみたいだね」
「でしたら話も早いでしょう」
俺とラインハートは頷き合い、働いているカウボーイにリューガン氏の居場所を聞いた。
リューガン氏は現場でボンパドゥの技術者と話をしていると言うので俺達は教えて貰った場所へ向かう。
「そんなに保証がでるんですか?」
「ええ、この場合でのうちの取り決めではこうなっていますね」
「はあー、驚いた」
白衣を着たボンパドゥの技術者さんらしき男性に渡された紙を見てリューガンさんは深くため息をついている所だった。
「どうも、お忙しい所を失礼します」
ラインハートが声をかける。
「おお!君達か!大変だったようだね!まさかうちの牧場の地下に古代の遺物が眠っているなんて思いもしなかったよ!しかも、それを狙って聞いた事もない連中が暗躍してたなんてな!驚く事ばかりだよ!しかもしかもだね、得体の知れない物にボンパドゥさんは大金を出してくれると言うし、更に採掘している間の保証金まで支払ってくれるってんだからね!」
リューガンさんはホクホク顔で俺達に言った。
いわゆる焼け太りってやつですか。
まあ、懐が暖かくなれば少しは大人しくなるかね?金持ち喧嘩せずって言うし。
「いや、リューガンさん、あまり油断されませんように。漆黒の犬とは我々は何度も事を構えていますが本当に面倒な連中ですからね。有力者との繋がりも深いですしチンピラのような暴力団を幾つも従えてもいます。その上での専門的な武装集団ですからね。我らが入って全て攫っていったとわかれば、もうここにちょっかいを出す事もないでしょうが、欲を出してありもしない宝を探すような事はやめて下さいよ?そんな事をすれば寝ている犬を起こす事になりますよ?」
「わ、わかってるとも。あまり脅かさんでくれ」
「脅しではありません。事実を述べているだけですからね」
「うっ、わかった。肝に銘じるよ」
ボンパドゥの技術者さんに念を押されてリューガンさんもタジタジになっているようだ。
「ここは、大丈夫そうですね。急ぎジニアスさんの所に向かいましょうか」
「ああ、そうするか」
ラインハートの言葉に俺は答える。
俺達はリューガン牧場を後にすると一路ジニアスアクト農場へ急ぐ。
みんな元々馬の扱いが上手かったが、ここ二日で更に板について来た感じがする。
コラス達を先に走らせて後方から見ていると、かなり様になっていると俺なんかは思っちまうね。
まるで西部劇のカウボーイ達だよ。
ケイト、コラス、ラインハート、リッツ、アーチャー、ヒューズ、そして俺を合わせりゃ人数は七人!
いいねえ!燃えるねえ!
山賊に困ってる貧しい村を損得抜きで助けたりしたいところだ。
頭の中で軽快なテーマ曲が流れる。
たまにはこういうのもいいね。
俺は西部のガンファイター気分で馬を走らせる。
そうして到着したジニアスアクト農場だったが、こちらもリューガン牧場同様、ボンパドゥ商会連合の魔導飛行船が到着しており、多くの人が忙しそうに仕事をしていた。
俺達はリューガン牧場の時と同様に従業員さんにジニアスさんの居場所を尋ねる。
ジニアス氏はボンパドゥの責任者と応接室にいるという事で我々はそこへ向かう。
「あ!ども!」
「ああ、話は聞かせて貰ったよ。ご苦労様だったねえ」
応接室に入ると俺達の姿を確認したボンパドゥの責任者さんとジニアス氏がそう言って声をかけて来た。
ボンパドゥの責任者さん、やけにノリが軽いなと思ったらボンパドゥの研究主任フウ・フーカさんだった。
「丁度良かった。今、ジニアス氏に説明をしていた所なのですが、クルース氏達はその後、漆黒の犬と事を構える事になりましたか?」
「ええ、なりましたよ」
フーカさんの言葉に俺は答えた。
「でしたら、どんな連中なのかジニアス氏に今一度説明してあげて下さいませんか?こういう事は実際の経験者の話しを聞くのが一番ですから」
フーカさんが言い、ジニアス氏は微妙な顔でこちらを見ている。
ふうむ、リューガンさんもそうだったが農場や牧場を経営し、ライバルや自然、魔物と日々戦っているような人だからなあ、やっぱりちょっとやそっとの事ではビビらないと言うのか、まあ、わかりやすく言えば危機感が足りないって訳か。
「わかりました。それでしたら私が詳しくお話ししましょう」
ラインハートがメモ帳を出して前に出た。
彼女なら微に入り細に入り説明できる事だろう。
俺達はひとまず応接室のソファーに座るのだった。




