ブラウン管と乙女心
「初めまして、僕、あなたの孫の孫の孫のまあその先の結構先な孫くらいに考えておいてください。おおおおおおおおおばあさまにお願いがあって、未来からコンタクトを取っています」
突然、真夜中にテレビ画面にドアップで映った男性がそんなことを言った。
「え? なにこれ? テレビ壊れた? なんかの番組?」
「これ、今のテレビっていうの? の技術を解明して画面に映し出してるの。
デジタルなんてアナログな映像機を使ってるなんて、すごいねえ!」
うわ! 答えた! なんだ、これ!?
「おお(略)おばあさまにお願いがあるんだ。ブラウン管テレビっていうの? あれを僕、探しているんです。時間がないので、手短に用件だけ伝えます」
え? ナニコレ、新しいドラマ? 視聴者参加型?
「おお(略)おばあさまに語り掛けてるの。今の時代は人の気持ちも翻訳できるようになっているんだ。おばあさまの使う古語も自動翻訳。
で、僕、今、電子ビームと偏向ヨークを利用した“うんたらかんたらのなんたらかんたら”システムの研究をしていて、今の時代には完全に失われてしまったブラウン博士の技術を必要としているんだ。その最たるものがブラウン管、あれなんだよ!
あれがないと、人類が滅びる」
え? ちょ、ま。話壮大過ぎない? しかも話の半分以上がよくわからない。
「ああ、そうだよね。ごめんね、でもこのシステムをおお(略)おばあさまにわかってもらうように説明するには、ちょっと長くなり過ぎちゃうから割愛するね。
とりあえず人類が滅びないためには、ブラウン博士が発明したブラウン管の実物を探してるんだ。僕の直系のご先祖で、一番年代が近い人を探したの。だから、探してきてもらえないかな? お願い!」
はあ!?
「お願いします! じゃないと3×××年に人類は、銀河外生命体の襲撃を防げなくて滅びてしまうんだよ!」
「ふざけてるのか、本当かは知らないわ。――だけど、20代の私におお(略)おばあさまとは失礼ね! 他を当たって!」
「え!? おばあ様! ちょ――!!」
画面の向こうで吠えていたけど、テレビを消した。
全く、女性に向かっておばあさまなんて失礼な。デリカシーのかけらもないわね。頼み方ってもんがあるんじゃないの?
それに3×××年? そんな先の話、知ったこっちゃない。滅びようがまったくもって関係ないわね。ふん!
人類は銀河外生命体への抵抗を試みたが、対抗できる武器の発明に失敗し、3×××年に滅びた。