第十八撃
少し時間がたったいまでも未だ頬が熱く、痛い。
サンドラがじっとこちらを見ているのが苦しい。キムがこちらにまったく関心を向けていないのはもっと苦しい。
「ちっくしょ……」
熱を持つ頬に手をやる。
スージーに思い切り叩かれたのである。
去り際にちらりと見えたこちらをにらむその瞳は涙をたたえていた。
いったいどうしてこうなったのか。
サンドラがこちらにつかつかと足早に歩み寄ってくる。そのサンドラがスージーにやさしくしてやれというからしたのに、その結果がこれである。
「ユーマ。
スージーにいまから電話でもなんでも連絡をとってフォローしな」
そういうサンドラが言ったことに従ったのに結果が悪かったからいまひとつ信頼できないと思いつつも、それは従うべきかと思ったので、ロッカールームにおもむいた。
ロッカーをあさり、乱雑に置かれた自分の服の中からモバイルをさぐる。服の端がモバイルに引っかかってしまったので、掴んだまま振り回すと、角をロッカーの扉にぶつけて少しばかり破片が飛んだ。焦って画面を見るも、さいわい壊れているようすはなかったのでほっとする。しかし余裕はないはずと思い直して電話アプリを呼び出し、着信履歴を呼び出してスージーの電話番号を探す。スージーのアドレス等は電話帳登録していないので、こちらから連絡を取るにはいちいち探し出さなければならないのである。友達づくりを避ける意味で登録をしなかったのだが、スージーの電話だとわかるにはその番号を暗記していなければならないのでかえって関係に重みがあるような気がしないでもない。
履歴一覧をスクロールし、これでもない、あれでもない、あった、と見つけ、しかしながら微妙に違っていることに気づき、改めて探し、ようやく、
「これか!」
と見つけた番号を選択する。
一つ一つのコール音に苛立つ。
数十回響いたあとになってようやく、
「なに?」
と突き放す調子で出てきた。
「いや、あのな。
なんていうか、その。
サンドラが、電話かけろ、って言うから……」
告げるなり、切られてしまった。
「あっ」
と声を上げる。
「何をやってるんだ。
それじゃあまるで子供じゃないか」
後ろからサンドラが声をかけてきた。
「わかってるよ!」
友麻は振り向かなかった。サンドラに見せられる顔ができているとは思えなかったのである。
サンドラのほかにもう一つ足音が近づいてきた。
「ランニングの時間ですよ」
キムだった。
友麻は小声で、
「わかってるよ……」
とのみ言った。