第十五撃
「スージーのことが嫌いなのか?」
脱出したスージーによってジムのドアが閉められるのと同時にサンドラがそう訊いてくるのは当然だった。
いくら重要な会話に夢中だったとしても気づかれないわけがなく、であればプライベートなことに口出しをしたげなサンドラが黙っているはずもなかったのである。
キムのほうに目を向けると、モバイルになにごとかを入力操作していた。先ほどまでのサンドラとの会話の内容を登録しているのだろうか。そのようすからするとサンドラに加勢してくるふうではないのでとりあえずさしあたりその心配はしなくて良さそうだった。
となれば、サンドラに対していかにごまかすかということになるのだが、
「別に嫌ってなんか……」
実のところ驚いていた。確かに周りから見れば嫌っているようにも見えるのかもしれない。
「嫌いだったらジムに出禁にしてるし」
「ならなんで」
右手を腰に当てて重心を右寄りに傾けつつサンドラが少し強めに訊いてきた。
「それは別にその……」
うまく説明しづらい感情があり、また、表に出すべきか迷いを誘う気持ちでもあるので、口に出して表現しかねた。
「スージーと友達になればいいじゃないか。
スージー、別にファンって感じじゃなくって、プライベートな人間関係なんだろ?」
「うまく説明しづらいんだけど……」
追撃につい本音を吐露してしまう。
「友達を作ると、いずれ別れなきゃならないから、それが怖い」
「なら、友達って関係じゃなくっても、やさしくしてやればいい。
なあキム?」
「興味ありませんね」
話を突然に振られたキムは、しかしながら冷静にモバイルへの入力を続けている。
サンドラはそれに対して肩をすくめる仕草を見せた。サンドラのこういう動作を見るたびに、生まれ故郷とは違う文化圏にいることを自覚させられてしまう。
そのためか少し苛立ってしまい、
「やさしくしたい気持ちがないわけじゃねえよ」
と目を逸らしつつも語気を強めに言った。
サンドラはあたたかな目つきをし、
「やさしくしてやりたいと思うだけでもきっと優しい人間なんだろうな。
でも、きっとそれだけじゃ足りないんだよ」
「あたしが足りてないって?」
「そう、だな」
うなずくサンドラは続けて、
「次にスージーに会ったときに、どうやさしく接してやればいいのか考えておくように、な?」
そのような大人らしいことを言われるのを友麻は邪魔くさく感じ、その一方で先日サンドラの部屋にまで赴いてやさしさをねだるように甘えかけたことを思いだし、つい、
「わ、わかったよ……」
と応じてしまったのである。