第十一撃
目が泳いでいる。
このようなジョーの姿を見るのははじめてで、サラは新鮮ささえ覚えた。
ハイスクール卒業の時期が近づくいまになって人目を避けるようにしてジョーから校舎裏に呼び出された。
様子からすると人目を避けたのは間違いないだろう。
なぜか。
それについてはまるで想像がつかなかった。
深呼吸を繰り返している。後頭部を掻き、苛立たしげにさえ見えるように足踏みをしている。
「あのさ……」
ジョーがようやくしぼり出した言葉は、
「どうして、〈ZGA〉の選手になったのに学校を辞めなかったんだ?」
そんなつまらないことを訊くためにわざわざこのような体裁ぶったやりかたをしたのだろうかと疑問に思いつつも、
「ハイスクールをきちんと卒業するのが、うちの両親が出した、選手になるための条件だったんだよ」
考えるまでもなく〈ZGA〉は若いうちにしかできないスポーツである。引退後のことを考えると、ハイスクールを中退するのは得策ではなかった。
かならずしもサミュエラでは学歴が重視されているわけではないが、将来的に基礎となる学力が求められることが訪れないとは断言できなかった以上、両親の出した条件を突っぱねることはし難かったのである。
だが、
「そんなことが訊きたかったの?」
とてもそうとは思えない。あの妙な自信にあふれたジョーが、いまはそのおもかげすら見いだせず、別人になってしまったかのようである。
「違う。
そうじゃないんだ。
俺が言いたかったのは……」
そこまで言って再び黙り込んでしまう。さすがに苛立ちを覚え、立ち去りかけたところに、
「俺は、卒業したら資源採掘船の技師の見習いとして働くことになったんだ」
「そう……!
それは、良かった。おめでとう!
でも、そんなこと、こんなところで言う必要ある? みんなのいるところで言えばいいじゃない」
そうは思ったが、将来の進路決定に失敗した者もクラスにはいるやもしれず、それをおもんぱかってこうしたのかもしれない。それにしたところでジョーの緊張ぶりに説明はつかないが。
「そうじゃない。
これからがほんとうに言いたいことなんだ。
つまりその……」
再び深呼吸をはじめるジョーにさすがに苛立ちを隠しきれなくなってきて、身体を背けかけたところ、
「サラのことが、好きなんだ」