竜のひげ
息子は、生まれたときに、ほとんど髪の毛がなかった。
明らかに、毛がない。
乳児検診で、「剃ってるんですか?」と聞かれることが、そりゃあ何度もあった。
一歳を過ぎてなお、薄い髪の毛は、なかなかの目立ちっぷりだった。
そんな息子も二歳になる頃にはようやく人並みにふさふさし始め、ひと安心…。
と思いきや。
まあ、色が薄くて薄くて。
薄茶色の髪が、また目立つこと目立つこと。
今度は、「脱色してるんですか」と来たもんだ。
さらに。
白髪が、生えてきた。
明らかに白い…いや、金髪?
ほっそい毛に混じって、一本、太い、金髪とも白髪ともいえない、怪しげな毛が生えてきたのである。
耳の上あたりに、一本。
ご丁寧に、右も左も生えている。
「ねえ!何コレ!!」
「ただの色の違う毛だよ!!」
娘がいつも触るので、いささか息子の機嫌が悪い。
言葉が遅い息子は、文句も言わずに逃げていたけれど。
おかしな毛は、普段は茶色い髪に紛れているのだけれど、風が吹くとちらりと見えるのだった。
その様子がなんだかおかしくて、ついつい見てしまう。
いつしか金髪は、竜のひげと呼ばれるようになった。
たまに腕に生えてくる長い毛を、宝毛とか言う事もあるんでね。
縁起がいいかもと思って、勝手に命名してみたのですよ。
そんな息子も三歳になる頃に、ようやく初めて髪の毛を切りに行くことになった。
長めの髪が、バリカンで刈り上げられて、一気にかっこいいスポーツ刈りのちびっ子になった。
「うおお!!可愛いのが一気にかっこよくなった!!」
「かっこいい。」
ちょりちょりの髪の毛の手触りを大喜びで触りまくる。
これはたまらん!!
・・・ん?
耳の上に金髪!!
短くなってめっちゃ目立つようになってる!!
「なにこれ!!めっちゃ・・・・」
「めっちゃかっこいいよね!!」
「…かっこいい。」
娘がまた騒ぎ出したので、息子が気にする前に封じ込める。
こういうのはね、騒ぐからいかんのですよ。
かくして目立ちまくった竜のひげ。
若白髪のサラブレットの息子は、小学生にして白髪のある子供になってしまい、竜のひげは紛れるようになった。
「なんか白髪多くて、目立つ…。」
「いいじゃん、今銀髪はやってるし。」
「流行の最先端だ、やったー!」
よーく見ると、見分けつくかな?…いや、よくわかんないや。
すっかり人に紛れてしまったということかね。
…ああ、ただの人だった。
白髪交じりの小学生は、今日もニコニコしながら卵を割るので、あった。