夢の中で彼女は微笑んだ
01 彼女は夢で微笑む
この世界には贈物と呼ばれる超能力が溢れている
歴史によれば大昔に魔王と魔物が世界を支配しようと…というありきたりな危機に神様が対抗できるようにと送られた能力
…その名残だ
火やら水やら使ったり
手をハサミに変えれたり
そんな危険な能力から
植物の成長を促進させたり…
と将来の仕事が決まったような能力もある
そんな能力で冒険するなんて過去の話で、人類は能力の恩恵を受けながら今日まで来た
「トキくんまた満点なのー!?」
「すごーい!!」
太陽の差し込む光が眩しい教室
返されたテストをクラスの女子にひったくられてキャーキャーと騒がれる
…彼女の名前はなんだったか
未来を選びとる能力で定位置となった教室の最後尾で名前を思い出そうとする
クールぶってる訳じゃない、シンプルに馬鹿なんだ
◇
未来を選びとる能力
それに気がついたのは小学校の頃だった
テストで親からゲームを餌にいい点を取ろうとした時、丸の書かれた解答とバツのうたれた解答が目の前に思い浮かんだんだ
もとより政府の犬なんて可哀想な呼ばれ方をしている鑑定士からは時間に関わる能力と言われていた
席順のときは欲しいクジが引ける時まで混ぜ続ける
おかげで幸運の能力持ちと言われてるけど
……?
なんだったかな、ちょっと、いやだいぶ忘れていることがある
ノートを見ないと…
あぁ、うん、代償は記憶力の欠如
鑑定士にはっきりと宣言されて親は悲しんだとか
…おかげでアルバムもノートも本棚の大部分を締めているけど
人一人に一ギフト
そんな鑑定士の謳い文句も思い出した
だから能力は朧げに、代償はしっかりと見れる鑑定士は嫌われてるんだよ
選びとる能力は自分がそう呼んでるだけだ、真の能力ははっきりしていない
例えば
炎を使う能力が実はガスがメインで大爆発した事件なんか最近の話だ
鑑定士は炎上してた
…記憶力の欠如は相当に酷い
先程テストで絡んできた女性
彼女には何度かこうやって絡まれている
それも今思い出したのだけれど
彼女とは付き合うことの出来る未来も見える
…しかし付き合わない選択の方が彼女と自分は幸せな人生となるのも見えている
感情のままに動けば幸せな未来は選べないだろう
そうやって未来を見ながら自分が得するようになあなあと生きている
◇
ぼんやりと授業を過ごす
昼下がりの授業
お腹は膨れ、気温もちょうどいい
昼寝には最適だろう
正解の分かる能力持ちも少なくないだろう現代
学校は形だけ、という人もいるだろう
そんなことを考えながらいつものように彼女に見とれていた
教室の真ん中より少し後ろ
前の生徒の背に隠れて眠っている彼女
惺久…シズクさん
いつも眠っている姿からネムリ姫なんて呼ばれている
彼女には高校に上がった時に一目惚れをした
初めて挨拶した時に、良い未来も悪い未来も見えない、今のシズクさんを見た時だった
どうして未来が見えなかったのかは分からない
臆病な自分はそれから話しかけることが出来てないからだ
学校では能力の話題は常だ
自分は幸運の能力と思われているためよく話しかけられる
同時に記憶力の欠如の代償は自分から言ったため広まっている
みんなと話す中で彼女の噂もほんの少し聞いた
…せいぜいメモってあるのは
彼女の代償は「どうしようもない処理を課せられていて眠らないと生活もできない」というものだ
なんだそれ、過去の自分よ、ろくなメモじゃないな?
なんだよどうしようもない処理って
追記で、なんかの演算とか円周率の終わりとかしょうもないことが書かれている
シズクさんと同じクラスになれて良かった
…同じクラスだから一目惚れしたのか?
よく分からない、答えが出てもどうせ忘れるだろう、考えるだけ無駄だ
◇
全ての授業が終わり帰りの時間になる
ホームルーム後直ぐに仲の良い…男友達…
「……ごめん、また忘れた」
「おいおい、もうすぐ夏休みだぞ?俺のことは心を込めて聖徳って呼んでくれ」
「だってそれ本名じゃないじゃん…」
彼は自称聖徳太子、能力は地獄耳?
聴力の異常発達らしい
今もクラスの声全てを聞けるという
ちなみに代償は自称不運
今朝も自転車のチェーンは外れたらしい
自分の周りだと不運が起きないとかでよく絡まれて、仲良くなった、気の良い奴なんだ
…初めしか自己紹介してくれなかったけど
ちなみに不運を回避する未来を選んでるからだが、たまに彼の不運に負けることもある
恐ろしや代償……
「またネムリ姫観察か?」
「なっ、おま、ちがっ!」
「おいおい、キョドるなよ、いつも同じリアクションだぜ?忘れたのか?…あぁ、忘れたのか…」
「憐れむなぁ…何となくそうやって憐れむ姿に既視感はあるんだよ」
「既視感じゃなくて毎日憐れんでるだけどな?
噂じゃネムリ姫は誰とも付き合ってないし、誰も狙ってないぞ?女王のフェロモン様々だな?」
「よんだ?」
「おや、女王」
タイシが言うならネムリ姫を狙ってるという人はいないのだろう
そして呼んでもない女王と呼ばれた女性がコチラに来た
「ミコさん、呼んでないよ」
「あ、今日は名前を覚えてるんだ!最近覚えてる日が多いね!私の能力効いてきた?」
「う、…うん、そうかもね」
否定すれば更に積極的に詰め寄られる未来、肯定すれば喜ぶ未来
どうして彼女はこんなにも積極的なのだろうか
ミコ、通称女王なんて仰々しい呼ばれ方をしている彼女は人に好かれる能力らしい
代償は嫌われやすい…というか恐れを覚えられる?とかメモってある
タイシ情報だ、さすが
彼女はシズクさんと近所で昔からの仲だとか
「でもシズクの方が好きなんだもんねー…妬いちゃうなー」
膨れるミコは隣の空いた机に腰掛けた
スカートが短くて目のやり場に困る
見えた未来も…どうしようもない、指摘しても無駄、気づかないフリと…
「女王、スカートめくれてんよ?」
「や、タイシへんたーい」
イタズラ成功と言ったような表情になりながらタイシと会話を続ける
そんなやり取りを横目に未だに眠っているシズクさんを見る
バラバラと教室を出ていく人もいれば女王効果か恐れるようにこちらを見ている人もいる
ミコいわく嫌われているわけじゃないから今は気にしてない
…とノートにメモがある
過去の自分は直接聞いたんだろうな、恐れなしか…?
あ、名簿出てきた、タイシの本名は……
「あ、モゾモゾしてる、そろそろ起きるんじゃない?」
ミコがそういうと確かにシズクさんはうねうねし始める
「小中のときはあんなに眠ってなかったんだけどねー…」
そんなこと言いながらミコはシズクさんのところに駆け寄って行った
「…お前も物好きだな」
「シズクさんは可愛い、うん、別に物好きとかじゃない」
何かを見れば未来が思い浮かぶ自分はろくに人の顔を見れなくなってしまった
見たい未来が見える訳でもないし
自分のこの未来視は容易に変えることができる
「ところで今日は寝言が3回だったのだが」
「300円か」
学生服のポケットに用意しておいたゲーセン用のお金を出す
「…やっぱ物好きだかんな?」
ゲーセンにはクレーンゲームで物が取れる日くらいしか行かない
体を起こしたシズクさんがミコに何か言われてコチラを見る
はゆはゆと手を振られ、自分も同じように返した
ワタワタと帰りの準備をし始める
その行動は見ていてのほほんとする
「今日はどうするんだ?」
タイシが今日の予定を聞いてきた
確か…うっすらと覚えている記憶だと
昨日は駅前に買い物
さらに前だと本屋
ゲーセンもうっすら…
頼りない記憶を思い返していると未来が思い浮かんできた
「今日は…寄り道した公園でクレープが美味しそうだ」
「…あぁ、移動クレープ屋か、今日来てるのか、さすがトキだ」
「クレープ?私も着いてっていい?シズクも来るよね?」
「えと、うん、行きたい、かな…」
遠慮がちそうにミコの後ろから言うシズクさん
タイシとはよく帰る、それにミコとシズクさんも加わるかはその日次第だ
今日はいい日だ
◇
噴水のある広い公園で四人で座ってクレープを食べている
「んー、美味し!」
「このクレープ屋は店主が気まぐれだからな…トキ様々だ」
「シズクも美味しーよね!?」
「う、うん、あみゃっ」
生地から逃げ出そうとするイチゴと格闘しているシズクさん
微笑ましい
そんな横を冒険者が通って行った
かつての名残り、魔物の出るダンジョンは施設化されて魔物の素材は異世界から湧き出る資材となった
戦い向けの能力持ちを腐らせない方針もあったらしいけど、丸く治まっていると言える
年齢制限が設けられているため自分たちは入れないが
…自分がダンジョンに入る未来は何度か見ていて、その多くは戦死する
「トキくん」
「…シズクさん?」
冒険者を眺めているとシズクさんが話しかけてきた
彼女とのミコを含めない会話は…
初めてかもしれない
未来視はやはり発生しない
じっと見つめてくる真っ直ぐな目
その表情は真剣で、自然と背筋を伸ばす
「…冒険者、なりたいの?」
質問、質問だ
いつもならここで何かしら見える
最低二つ、多い時は四個も五個も出てくる未来視
探すが…やはり見当たらない
「えと…」
「シズク…どったの?」
ミコがシズクさんに聞く
ミコを見れば未来視が発生し、驚く顔と目を輝かせる未来が見えた
「…トキくん」
「え」
シズクさんが肩を掴んできて、正面にいる
「おお?」
タイシの声も聞こえた
間近にシズクさんの顔がある
それだけで心臓がはねる
「冒険者…なりたいの?」
同じ質問をされて…
やはり未来視は見えなくって
無意識にタイシの方を向こうとして
顎にシズクさんの指が添えられて体が固まる
「…キミはこうするといつも固まるよね」
呟くような声だがしっかりと聞こえた
疑問が浮かび、目の前のシズクさんに顔が熱くなる、今にもキスでもしそうなこの体勢
「冒険者…」
「ない、なろうとは思わない」
未来を選ばずに、今の本心が口に出た
「うん、良かった」
そういうと指が離れ顔が遠ざかる
「…ミコちゃん、ちょっと寝る…」
そう言いながらシズクさんはくたりと眠った
「…へ?」
輝くような目でコチラを見ていたミコの表情が驚きの表情に変わった
…どちらも未来視で見た?
…どちらも?
「シズク!?ほぇーぇ?なになになに??なんでぇ!?」
慌てるミコ、座り直してシズクさんに膝枕をしてあげている
「…いつも?」
タイシがシズクさんの言っただろう言葉に疑問を覚えている
キミはこうするといつも固まるよね
その言葉は何度も何度も繰り返しリピートされていた
その日の夜
夢でシズクさんに微笑まれる夢を見た
何かが変わった
具体的には分からないが
そんな核心の持てる日だった
1話目だけ最初に、続きはありますが設定破錠したのでボツになりました