レイユ 来城
その日は、程なくして訪れた。
今回の訪問は、地上を通っての来城だった。
マタイ国レイユは馬隊を引き連れ、20人余りの軍隊での来城。重々しい空気に包まれ、レイユは堂々と門を叩いた。
大広間では国王スザクを上座に、ランスを含めた家来を両脇に従え、『フリージア』も国王の傍にヨミと共に居た。
一触即発、臨戦態勢だった。
レイユは部下を城の外に待たせ、ひとり堂々と奥へと歩み入り、ジアスと向かい合った。
ジアスは丁寧にひざまずくレイユを見下ろし、口を開いた。
「マタイ国の使いと聞く。 本日は何用か?」
レイユはうやうやしく一礼をすると答えた。
「私はマタイ国王スザクの側近、レイユと申します。 先日は大変失礼な訪問をし、多大なる迷惑を掛けたことをわびに参りました。」
ランス達は、いかにも余裕を溢れさせているレイユの姿に気が気ではなかった。
「そうか。 先日カネの塔での騒ぎを起こしたのはお前だったか。」
「はい。 本日は改めて、フリージア姫を頂きに参りました。」
「何だと!?」
国王は顔をしかめた。
レイユは薄ら笑いを浮かべて立ち上がった。 部屋の外に何人かを待たせてあるとはいえ、今この大広間にはレイユ1人である。 何故コレほどまでに勝ち誇っていられるのか?
ランス達は剣に手を掛けた。
「理由を聞かせなさい。」
『フリージア』が口を開いた。
「何故それほどまでに、私をマタイへ連れて行きたいのか。王子との婚姻という理由だけではないのでしょう?」
「フリージア姫。あなたがそこまで毅然としていられるのは、やはり姫としての立場であるからでしょうか? それとも、他に何か?」
「どういう意味だ!?」
国王が苛立ちをあらわにした。
「国王。マタイでは…いえ、この国にも伝え聞いているかもしれませんが、ある噂が広まっております。」
「噂だと?」
国王の脳裏に、『秘めた力』の噂がよぎった。
「スナ国には、宝があると。」
「宝?」
「それも、何百年かに1人。気の遠くなるような隔世遺伝とでももうしましょうか…」
「はっきりと申せ、レイユ!」
「父さま!」
『フリージア』が、立ち上がろうとする王をなだめた。
「その者との子は、国をも揺るがす魔の力の使い手となるであろう。」
国王の顔がこわばった。 これを見透かすように、レイユは微笑みながら続けた。
「先日ご覧に成った通り、マタイには飛行の術を備えております。それに加え、武器の開発も進んでおります。それも、広大な土地、資源、技術、それを操る科学者が豊富なゆえ。スナ国は、見たところとてものどかで平和な国。そんな国に魔の力が生まれでもしたら、誰が抑え、国の平和を守る事が出来るでしょう? マタイと提携すれば、その心配もありません。 その代わり、マタイの技術をスナ国にも広め、お互いの平和、そして豊かさも保障されます。」
国王は必死で怒りを抑えるように体を震わせた。
「その自信たっぷりなマタイが、何故地上から来たのだ?」
「それは…」
レイユが腰の短剣に付いた鈴をチリンと鳴らした。
「我らマタイも地上戦が得意であると…」 チリン…
「知らしめるため!!」チリン★
3回目の鈴の音と同時に、マタイの軍隊が扉を破壊して侵入した。
「!! どうしたというのだ! 城内の兵は!?」
国王が戸惑いつつ立ち上がった。 ランス達も一気に身構えた。
城内のスナ国の兵士達は既に、マタイの兵によって床に転がされていた。一気に不意打ちを食らっていたのだ。
「ハハハハハハハ!!!!!!」
レイユの笑い声が天井の高い大広間に響いた。
「どうだ!? この前カネの塔で、おとなしくフリージアを渡せば、ここまでの被害にはならなかったのになぁ!!」
マタイ軍が国王に迫り、ランス達がそれを蹴散らした。
「ワハハ! この前は意外に狭い場所だったゆえに不覚を喫したが、今回はそうはいかん。」
レイユは余裕で、戦う兵士たちの間を縫い『フリージア』へと近づいた。
「レイユ! 兵を静めて!!」
『フリージア』はレイユに命令するように言った。
「どういうことですかね、フリージア姫?」
そう言うレイユの笑みの後ろでは、兵同士の戦いが続いている。
「マタイへ行きます!」
動じず『フリージア』は答えた。
「! だめだ!!」
キホクが驚いて声を上げたが、『フリージア』は無視してレイユをじっと見据えた。 決意は固かった。
「そうですか。」
レイユは口角を上げっぱなしで彼女の腕を掴んだ。
「引くぞ!」
レイユの一声で、マタイの兵士たちは早々と退却し始めた。
追っているランス達。だが、姫が人質となってしまった以上、むやみに手が出せない。
その時、奥の間より姿を現した人影。
「姉さん…」
それは『本物の』フリージア姫だった。 その小さくつぶやいた声を、キホクは聞き逃さなかった。