死闘
どれ位の時間が経っただろうか?
キホクのナイフの切っ先が、レイユの頬をかすめた。
「!!」
レイユが固まった。
「引け!」
キホクの言葉に、レイユは苦しそうに息を吐いた。
「おのれ…見ていろ。必ずまた来る!!」
レイユは兵士を引き上げさせると、自らも船に乗り込んだ。
まだ追おうとするランスを押さえるセンたちを残し、船はカネの塔…そしてスナ国から撤退した。
カネの塔の黒煙が晴れ、飛行船も空の黒点となった頃、息を呑んで遠くから見ていた国民達は、大歓声を上げた。
安堵の表情をいっぱいに。
城から見守っていたジアスもホッと息をついていた。
★★★
無傷ではなかった。 スナ国からは死人こそ出なかったものの、ランスもセンたちもそれぞれに傷を負い、マタイの兵士の屍と血だまりが広がるカネの塔の最上階は惨いものだった。
『フリージア』の薄水色のドレスにもいくつもの飛び血がかかっていた。 彼女はただ、じっとそのさまを見つめていた。
コンコン……ガチャ☆
騒ぎが落ち着き、部屋で休む『フリージア』のもとに、ランス達が訪れた。
「このたびは、姫に傷や怪我を負わすことなく任務をす遂行出来ましたこと、先ほど国王よりお褒めの言葉を受けて参りました。 しかし姫様の護衛はこれで終わったわけではありません。これからも、我が命に代えても姫をお守りすることを誓いに参りました。」
その言葉を発する身体には、あちこちを包帯などで処置されていた。
『フリージア』の表情にも、事件前に比べ少し変化があったようで、冷たい表情にだいぶ赤みが差していた。
「その傷は、私の心にしっかりと刻んでおきましょう。…キホクは居ないのですか?」
ランス達は顔を見合わせた。 そして、センが言った。
「姫様…キホクは…ー」
数分後、『フリージア』は別棟に居た。
キホクの傷はそれほど深くは無いが、『フリージア』に顔を合わせたくないとのセンの言葉に、彼女はキホクに会わずにいられなかった。
『フリージア』は、キホクに言わなくてはならないことがあった。