約束の丘へ
月が満ちる時。
アリシアは軽装に身を包み、ひとり城を抜け出した。
民から見れば、一国の王女が城を出たのであれば、騒ぎは必至だった。
陰から見送る国王、王妃、フリージアは心配そうにその後姿を見つめていた。
「大丈夫かしら…」
不安そうに嘆く王妃に、フリージアはにっこり笑って見せた。
「大丈夫よ。 今までどんな困難も乗り越えてきた姉様に、怖いものなんてないわよ。 ね、父さま。」
「ああ、そうだな、きっと大丈夫だ。 あの娘なら…。」
暗闇の中、月の光を頼りにアリシアは走っていた。
馬よりも、鳥よりも、アリシアは自分の足で向かいたかった。
時間は惜しかったけれど、久しぶりの『外』を体全体で感じたかったのだ。
そして、過去のしがらみを全て振り切った自分を。
生まれ変わった自分を、キホクに見て欲しかった。
着飾ったドレスや、髪型や化粧などで塗り隠された偽りの姿ではなく、本当の…本当の自分を。
「会いたい。」
ただその思いで、彼女は森の中を駆け抜けた。
一方その頃、キホクも歩みを進めていた。
体はもはや傷だらけだった。
深い眠りは、昔から取ることを許されない生活ではあったが、旅の疲れはやはり生易しいものではなかった。 そして『独り』ということ。
そんな厳しさを積み重ね、自身には力がみなぎっていた。
キホクは、もう一度改めて誓うつもりだった。
「必ず守る。 命に代えても、君を。」
それぞれの思いを胸に抱え向かう丘に2人が近づく頃、陽の光が薄明かりを空に届け始めていた。
そして、丘の遥か向こうには、マタイの城が朝陽に焼けて輝きを放っていた。
2人の再会を祝福するかのように。
< 完 >