完治
ジアスは、久方ぶりとなる我が娘をしっかりと抱きしめた。
「よく、顔を見せてくれ。」
フリージアと瓜二つとはいえ、今この腕の中に居るのは紛れも無くアリシア。
「父さま。 もう、気負いする事は無いのです。 もう一度、初めからやり直しましょう。」
「アリシア、お前は強いな。」
苦笑いする父に、アリシアはからかい混じりに言った。
「父さまのおかげです。」
そして、その胸へと飛び込んでいった。 そして後ろに従っていたアウトロスを見ると、
「そして、彼のおかげです。」
「そうだな。 アウトロス、本当によくやってくれた。 お前は最高の医者だ。 何でも欲しいものを言うが良い。」
アウトロスは一礼した。
「私は一介の医師でございます。 アリシア様がここまで回復されましたのも、私だけの力ではありませぬ。 何より、家族というものの力は素晴らしいと逆に教えられました。 それだけで私は満足なのです。 他に何も求めるものなどありません。」
「アウトロス、では願いがある。」
国王は静かに言った。
「この城の専属医になってはもらえぬか?」
それを聞いて、アリシアも続けた。
「そうよ。 私もあなたになら安心して任せられるもの。」
医者として、権威ある者からそう言葉を掛けられるのは大変名誉な事である。 だがアウトロスは、少し困った顔をした。
「そう言って頂けるのは、身に余る光栄…なのですが、なにぶん私はまだ勉強中の身。 私にはもったいない。」
それでも2人は引き下がらなかった。
アリシアも国王も、この感謝の思いをこれで終わりにはしたくなかった。 返しきれないものを貰ったのだ。
そのうち王妃とフリージアも加わり、部屋は一気に騒がしくなった。
あまりに4人がしつこいので、アウトロスも考えた。
「では、もう少し考える時間を頂けませんか? 今すぐに答えは出せませぬ。 残して来ている弟子の事もありますし、他にも色々とやらなければならぬことがあります。」
そんなこんなで騒ぎはようやく沈着し、アウトロスはひとまず帰路に着くことになった。