アリシアの笑顔
ひとり読書をしているアリシアの部屋の扉がノックされた。
「アウトロス? 入って。」
本を置き、扉に近づくと同時に静かに開いた。
向こうにアウトロスの優しい笑顔。 その後ろからヒョコッと懐かしい顔が飛び出した。
「フリージアー!?」
アリシアの笑顔が弾けた。 そして2人が手を取り合って抱き合う姿に、ゆっくりと近づく人影。
「母さまー!!」
ラビリスもまた、とても嬉しそうにアリシアを抱きしめた。
そんな3人の姿を見て、アウトロスは心の底から嬉しく思った。
アリシアの、見たことの無いほど輝く笑顔。
アウトロスは、これが一番の薬だと分かっていた。
すぐに、アリシアは部屋を出て行こうとするアウトロスに気づき呼び止めた。
「アウトロス、どこへ行くの?」
彼はゆっくり振り向き、微笑んだ。
「今日の治療はお休みです。 久しぶりの再会を邪魔する権利はありません。」
「邪魔だなんて!」
アリシアは慌てた。
「そうです、治療は続けてください。 私たちこそ邪魔なんてしませんから。」
ラビリスも慌てて言った。
アウトロスは両手を上げ、食って掛かろうとする3人を抑えた。
「いえいえ。 ちゃんと治療は続けていますよ。 3人でおしゃべりをする事が、ね。」
キョトンとする3人を残し、彼は静かに扉を閉めた。
そして、これからどこで時間をつぶそうかと思案しながら、町の中へと繰り出すのだった。
3人は菓子やお茶を広げ、つもり積もったこの一ヶ月の間の話を、時間も忘れて話し込んだ。
それはそれは、とても幸せな時間だった。
3人の心がフワフワと温かくなり、軽くなり、今まであったモヤモヤが次々と消えていく感じを覚えた。
「この分だと、顔の傷も治りが早い気がするわ。」
笑って話すアリシアの顔半分はまだ包帯が巻かれていたが、そんなことはもはや気にもしていなかった。
フリージアが、ティーカップを片手に言った。
「綺麗になったら、キホクにも早く見せてあげたいわね。 全く、どこを旅しているのやら。」
「キホク…!」
アリシアの心にキホクの姿が返り咲いた。
すさみ切ってこの国を離れ、もう二度と帰らないと誓って闇に生きる覚悟をしていた自分を当ても無く探し、国へ…家族のもとへ帰る気持ちにさせてくれたキホク。
そして、どこへともなく旅立ってしまったキホク。
約束だけを残して…。
別れる間際、アリシアはキホクのもとから消えるように離れた。
そうしないと、前に進めないと思ったからだった。
返事はしていなかった。 だから、あの約束がまだ生きているのか分からなかった。
でも、これだけは感じていた。
「キホクに会いたい。」
キホクと別れてから、半年が経とうとしていた。
「どうでしたか、昨日は。」
翌日、アウトロスはいつもと変わらない様子でアリシアの治療を始めた。
「ええ、とても楽しかったわ。 どっと疲れるくらい、色々と話したわ。」
アウトロスは優しい笑顔で聞いていた。
「そうですか。 良かった。 あれも立派な治療の一環です。 私たち医師は、体の傷は治せても心の傷までは治せないものなんですよ。 それを治せるのは、本人が心許せる人だけです。」
「アウトロス、その為に?」
彼はただ微笑んでいた。
「ありがとう。 本当に心が軽くなったの。 多分2人に会わなかったら、顔の傷が治ったところで、心から素直に再会できなかったわ。 本当に、あなたには感謝してる。」
「言ったでしょう、私の持ち得る全ての知識と技術で、あなたを治してみせると。」
アウトロスの手の中で、アリシアはとても安らかな顔をしていた。
医者にとって、自分の治療の成果が感じられることが、最高に幸せな事だった。
それから度々、ラビリスとフリージアと3人で、精神面での癒しも合わせての治療を続けた。
その後約3ヶ月経ってやっと、アリシアの顔から火傷の痕が消え去った。
それは奇跡的な事で、ついこの間まで陽の下を歩けないほどの傷があったとは思えないほど、すっかり綺麗な顔立ちを取り戻していた。
そして、父に会う時が来た。