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家族とは…


アウトロスは、7日に1度程、状況を報告に行っていた。

今まで敢えて疑問にも思わなかったことが、今度は何よりも大きな疑問となって重くのしかかった心で今回の報告に行くことになった。

ただ治療の為だけに来城したハズだった。 それが医者としての自分の役目だと。

それが何故か、違う感情が生まれていた。 アウトロスに、アリシアに対する患者とは違う情が生まれていた。


国王ジアスを前に、いつものようにアリシアの傷の状態を報告していった。

そして目の前には表情も変えず静かに聞くジアス。

一通りの報告を終えると、ジアスは冷たく

「ごくろう。 下がってよい。」

と、アウトロスを下げようとした。 しかし今日のアウトロスは少し違っていた。

「国王、ひとつよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「アリシア様は、とても寂しがっておられます。 一度お会いしてみては、いかがかと…。」

「……。」

ジアスは変わらず無表情で少し黙っていた。

「… アリシア様は、皆様が自分の事を案じての事とおっしゃっておりましたが… こう言ってはお気を悪くされるかも知れませんが…」

「言ってみよ。」

「私は深く事情を知っているわけではありませぬが、今の状態、本当の家族の姿とは思えませぬ。 何か… 腫れ物に触るような対応、逃げているようにしか見えませぬ。」

ジアスの表情に変化が見えた。 明らかに何かに気づかされたような驚き…。 アウトロスは続けた。

「口が過ぎました… しかし、これはアリシア様の為でもあるのです。」

「アリシアの為。」

「私は、体の傷は治せても、心の傷は癒すことは出来ません。 それは、家族にしか出来ないことなのです。」

「……」

ジアスは黙っていた。 しばらくの間、沈黙が2人を包んだ。

アウトロスは思うことを全て言った。 もうどんな処分が下ろうとも、覚悟はしていた。

「アウトロス…」

ジアスは静かに口を開いた。

「はい。」

「お前の言うた事、妻とフリージアにも伝えてくれないか。 私には、傷の残るアリシアに会う覚悟がまだ出来ておらんのだ。 国王たるもの、所詮は娘2人を持つ親。 弱いと思われても仕方ない。 かと言って、妻らに同じ事を伝えられる程、器用でもないのでな…。」

アウトロスは心からホッとした。 国王の中にある人間としての心に触れられたからだった。

「国王。 その言葉を待っておりました。 そのお気持ちが大切なのです。 お2人には、私から責任を持って伝えさせて頂きます。」

「うむ。 頼んだぞ。」


その足で、アウトロスは王妃ラビリスとフリージアの待つ部屋へと通された。

あまり接見する機会がなかった為、一目見て姉妹の似過ぎる事に驚いた。

そして、先程国王に言った自分の思いを、2人に話した。

2人はそれを受け、是非今すぐにでも会いたいと口をそろえた。

「父はまだ根に持っています。 あの傷が付いたのは、自分の性だとまだ…悔やんでいるのだと思います。」

フリージアもまた、自分の身代わりになったアリシアに、悔やみきれない程の思いはあった。

しかし、こうして逃げてばかり居ても進展しないことも分かっていた。そしてラビリスも、同じ気持ちだった。

アリシアも同じように戦っているのだ。

「あの子、自分の顔を誰にも見られたくないと思っていると…。」

「年頃の女性ですから、それは当たり前の気持ちです。 ですが、家族まで遠巻きにしていては、彼女はもっと離れていくばかりです。 アリシア様は、本当の自分の姿を見て欲しいとおっしゃっておりました。」

ラビリスは心からホッとした。

「そうね。 会いに行きましょう、フリージア。」

フリージアもにっこりと答えた。

「ええ。すぐにでも。」

アウトロスは心晴れて嬉々としている2人を見ながら思った。

『それは、家族が家族として生まれ変わるチャンスでもあるのです。』



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