アリシアの寂しさ
皮膚が生まれ変わると言われる約一ヵ月後。
毎日治療してくれるアウトロスのおかげで、沈着していた色素もだいぶ薄れ、アリシアの顔に刻まれていた過去の傷は日増しに治ってきていた。
同時に、アリシアの心も次第に晴れていくのも感じていた。
アウトロスは、顔の傷だけでなくメンタル面でも大いに役に立っていた。
とはいえ大したことはしていないのだが、アリシアにとって、むやみに口外しないアウトロスはとても安心できる存在になっていた。
アウトロスは根掘り葉掘り聞く人ではなく、アリシアが話したいと思えばずっとそれに聞き入り、他には何も立ち入ることは無かった。
だからアリシアは、心に余裕を持つことが出来ていた。
しかしそれと共に、彼女の中には少しずつ何か足りないものがあることを感じていた。
父も母も妹フリージアも、治療中のアリシアの事を思い、治療が終わるまでは顔を見せないと、伝達が届いていたのだ。
アリシアを思っての事だったが、当の本人にとってはあまり嬉しくない選択だった。
もともと1人で居ることは平気なアリシアだったが、やはり家族は別問題だった。
それでも、アリシアにとっても家族に気を使ってしまい、結局言えないままだった。
そんな気持ちを引きずり続けた数日。
「姫様、どうしました?」
少し落ち込んだ風に見えたアウトロス。 いつもの優しい口調で尋ねる彼に、消え入りそうな声で答えた。
「…会いたい…」
「? 誰にです?」
「家族… 父や母や…フリージアに…」
アリシアが必死で口に出した言葉に、アウトロスは突然笑い出した。 アリシアは膨れた。
「何故笑うの?」
「あぁ、失礼しました。 姫様。 誰が会ってはいけないと言いました? 傷も治ってきていますし、何より家族同士、恥ずかしがることはありませんよ。」
「そうじゃないの… そうじゃなくて… 皆私のことを思って、来てくれないのよ。」
アウトロスは少し困った顔をした。
「… それでは、お互いに遠慮しているのですか?」
「私はそんなつもりはないのに。」
アリシアは、包帯の上からそっと顔をなでた。
「私は、本当の自分を見て欲しいのに…。」
今までに無く悲しそうなアリシアを目の前にして、アウトロスも切なくなったのだろうか。
無意識のうちに、アウトロスの手のひらが彼女の頬に触れた。
治療している時とは違った感触を、アリシアも感じた。
不思議と抗う気持ちにはならなかった。 むしろ、嬉しいと感じていた。