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新たなる旅立ち


その夜、キホクは村で一番高い時計台から周りを見つめていた。

ここからは、スナ国どころかマタイ城の影も見えない。 ただ、広く暗い森が広がるばかりだった。 黒く広がる夜空には、昼間の騒動を忘れさせるように満天の星が瞬いていた。

「キホク。」

振り向くと、サリィがいた。

「大丈夫なのか?」

「ええ。 ここの医学レベルを舐めないで。」

そう言うと、昨日と同じ明るい笑顔でキホクの横に座った。

「何を見ていたの?」

「見えない所さ。」

「? そういえば、キホクはスナ国から来たんだっけ? 遠いところよね?」

「ああ。 遠いよ。 遠くて…届かない。」

サリィは、キホクの顔をのぞいて表情を読もうとしていた。

「サリィ。」

急に名前を呼ばれて驚いたサリィ。 キホクは少し笑った。

「君は、俺の答えなのかもしれない。」

「? どういうこと?」

「上手く言えないけど…君を見ていると、自分の小ささを感じてさ、嫌気がさしていた。」

サリィはジッとキホクの言葉を聞いていた。 彼女は、その言葉にあるであろう、裏を感じようとしていた。

「今まで俺は国の兵として、国の為に自分を捧げると誓っていた。 死ぬ時も、俺は国の為に命を落とすのだろうと。 でも、それとは違う大切なものを見つけてしまった。 それを守るにはどうしたらいいのか全く分からなくて、その答えを見つける為に旅を続けて来たんだ…」

「答え、見つかったの?」

「…何となくかな。」

サリィはくすっと笑った。

「そうねぇ… 私が言うのは説得力が無いかもしれないけど、男は少し不器用な方が良いと思うの。 だって、女の子はそれを見て強くなれるんだもの。」

それを聞いて、キホクは焦った。

「強くなられたら困るんだよ。 何のために男が居るんだよ?」

「あははっ。 違う違う。 力が強いとかじゃなくて、精神的によ。 女の子は、実は頼って欲しいのよ。 大丈夫よ。 キホクが想うその彼女も、きっと強いわ。」

サリィにはもう分かっていた。

強く想う彼女をどうしたら守れるのか、旅をしてまで答えを探そうとするとは、何と不器用なんでしょう。 それが可愛く思えて、くすくすと笑ってしまった。

キホクは少しふくれた。

「何で笑うんだよ?」

「ううん。 なんでもない。 キホクって…可愛いね。」

2人は並んで、夜空を見つめた。

「離れて1人でもがくより、2人で見つける事が大切なのかもしれない。」

キホクは、サリィの言葉を胸に深く刻んだ。



★★★


キホクが旅立つ朝。

村の人たちが総出で見送りに出ていた。

「旅の人。 あなたの事はずっと忘れないでしょう。 村を救ってくれて、本当に感謝している。 旅が無事に続けられますよう、祈っております。」

長の言葉に見送られ、キホクは村を後にした。


しばらく歩くと、後ろから呼び止める声が聞こえた。 振り向くとサリィだった。

息せき切って駆け寄ってくると、大きく息をして整えた。

「キホクごめんね、遅くなっちゃって…」

一息で言うその手には、小さな包みがあった。

「これは?」

手渡されながら聞くと、サリィはにっこりとした。

「私が調合した薬よ。 疲れがすぐ取れるの。 私の得意なお薬。 効果抜群なんだから!」

そう言って、サリィはそっと抱きしめた。

「よい旅を。 そして、想いが届きますように。」

キホクは少し戸惑ったが、すぐに抱き返した。

「ありがとう、サリィ。」

「いつかきっと、私ももっと勉強して、強くなるわ。」

見送るサリィを背に、キホクは歩き始めた。

この村に来る前にあった胸のモヤモヤは、だいぶ薄れていた。


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